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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部3章 スイレン編

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1758/1772

第1758話 隠れ家的猫の喫茶店

 そうしてハルたちの、無人の街への飾り付けが始まった。

 なにせこの一国まるまるを、広大な地方都市レベルの面積全てを飾り付けるのだ、あまり悠長ゆうちょうにはやっていられない。


 ハルはある程度の画一性コピペは許容し、とにかく数をこなすことを重視した。

 同じような装飾をとにかく大量に生産し、次々とこの地に運び入れる。


「ありがとうメタちゃんたち。直接<転移>でこの場に持ってこれれば良かったんだけどね」

「にゃう! ふにゃーにゃ」

「問題ない? 頼もしいね」

「にゃうにゃう♪ なーごっ♪」


 同じ座標を表裏で共有している関係か、この世界は<転移>の指定がどうにも難しい。

 空間は二つあるのにそこに満ちる魔力はひとつの物を共有している。なので念のため表世界に装飾を一度下ろしてから、そこからメタの群れによりこちらに運び込んで来てもらっているのだ。


 四匹一よんひきいっセットで荷物を背負しょって来る働き者の猫たちは、眺めているととても癒された。


「私も、こちらに人足にんそくを送りますよハル様」

「いや。アルベルトはそれよりも飾りの生産に全力を出してくれ。なにせこの広さだ、作っても作っても足りやしない」

「はっ!」

「ん? てことはあっちでは、ベルベルが大量に集まってみんなで内職してんの? 愉快な光景こーけーだね」

「ははは。いいえユキ様。さすがに手作業ではございませんよ。とはいえ<物質化>で用立てる訳にもいきませんから、そこそこ労力はかかりますが」

「<物質化>してしまうと、“えぬぴーしー”さんには認識できませんものね!」

「そいや、結局それって何でなん?」


 確かに、ハルもそれは未だに気がかりだ。今気にしている場合ではないのだろうが。


 最初は、ハル対策というか、ハルたちにだけゲームを有利にさせない対策かと思ったが、明らかになった情報を踏まえて考えるとそれだけではない気がしてくる。

 そこにも何か、運営の神々の目的に関わるような理由が含まれている気がするのだった。


翡翠ひすい!」

「はいっ! お呼びでしょうか、ハルさんっ」

「うん。<物質化>による生成物がシステムに認識されない理由は結局なんなんだ? 不便だろ、お前たちにとっても」

「は、はいっ。まあ時々は面倒に思いますねっ……」


 呼べばその大きな胸を揺らしながらやって来る翡翠に、ダメ元で問いかけるハル。

 ……別に、揺らすために呼んだわけではない。本当だ。ただ目が行ってしまうのは仕方がない。


 そんな翡翠はしばらくおろおろしていたが、急に何かに気付いたかのように目を見開いて言葉を続けた。


「すみませんが理由については……、って、あれ? 話せますね? スイレンがこっち来たからでしょうか?」

「んっ? てことは、スラグ関係なのか?」

「レンくんってことは、そーだよねぇ」

「はいっ、その通りですっ。『ヘルメス・スラグ』が、エリクシルネットから意識をインストールするという目的があるのは、既にスイレンから聞いたと思いますっ」

「ですね! スイレン様は、依代よりしろの人形だと、言っておられたのです!」

「はいっ。その通りでしてっ、そしてそのために必要な“何か”が、<物質化>で作った物質には足りていないらしいのですっ」


 そのために、現状のようにスラグをばら撒くことを前提としたこの地には、<物質化>による生成物を蔓延はびこらせる訳にはいかなかったのか。

 まあ、ある意味で『栄養不足』の物質を次々投棄されるも同然ということか。


「……ということは、またダークマター関連だな? <物質化>の際に指定している構造は、あくまで僕らが認識できている範囲に過ぎない。けど本来の物質から見たら、まだまだそれは『未完成』だったって事なのか」


 認識できないのだから、当然作りようがない。まだまだこの宇宙は底の見えない偉大な存在のようだ。


「ただ、理由が分かっても今はどうしようもないか」

「ですね! 結局<物質化>に頼れない以上、地道にがんばるしかないのです!」

「NPC入れなきゃよくね? うちらだけで楽しめば」

「だめだよユキお姉さん! 人が迷い込んでこない猫王国なんて、意味ないんだから!」

「へいへーい」


 まあ確かに、身内でハロウィンパーティーするだけならこの場で行う必要もない。

 ハルたちは地道に、しかし可能な限り迅速に、あらゆる手段を駆使して無人の街の飾りつけを進めていくのであった。





「うーん。ここは、猫のマスターがお出迎えしてくれる隠れ家のカフェなおうちにしよう!」

「それはとっても、素敵ですねヨイヤミちゃん! まるで、おとぎ話の世界ですー……」

「でしょでしょ! アイリお姉ちゃんは分かってるねー」


 表ではとある民家である一室を、ヨイヤミはカフェに改造することにしたようだ。こちらで何をしても本来の所有者には影響が出ないので安心。


 彼女の指示により内装のイメージが決まり、ハルがそのために必要な装飾を生み出す指示を伝えていく。

 そうして作り出された装飾が施されたその部屋は、彩度のとぼしい暗く沈んだ世界から、華やかな色彩で彩られた世界に変身していった。


「うんっ! ここは、このくらいに押さえておこう! 外みたいに派手派手だと、落ち着けないもんね!」

「うなぁー。ごろ、ごろ♪」

「うんうん。メタちゃんもリラックスだ。こちょこちょー」

「なんなん♪」


 華やかなお祭りの通りに疲れた客人が、その色と光の洪水から逃れて一息つくための避難所。そうした役割も持つ、ほっと一息つける空間だ。


「しかしっ、ヨイヤミさんっ。『猫のマスター』は、どうするのでしょうかっ?」

「た、確かに! 肝心のねこさんが居なければ、カフェの経営はできないのです……!」

「ふにゃー?」

「メタに出来る訳ないでしょう? そんなことっ」

「ふなっ!? なうなう! ふかーっ!」

「まあまあ。確かにメタちゃんは、お菓子作りだって出来ちゃう器用さんだもんね。けど、さすがにカフェの経営を常に任せるのは負担だしね」

「うにゃーお……」


 その小さな前足で、人間のお客さんの注文をさばいてもらうのはさすがに酷だ。

 まあ、そんなに忙しくなるほど来客はないだろうが、逆にいうと仕事の無い場所に常にメタのリソースを割かせるのもしのびない。


「えっ、大丈夫だよ。猫のマスターも作ればいいじゃん」

「なんと!」

「でかいねこー。おいでー」

「《ぶみゃっ、ぶみゃっ……》」

「あはははは! つっかっかってる、つっかっかってる!」

「《ぶみゃーご……》」


 一匹で道幅を埋めてしまいそうなケットシーは、当然人間用の家の中には入れない。

 仕方なくその顔を玄関に突きつけるような形で、猫の妖精はしょんぼりと室内を覗き込んでいた。


「よーしねこ! マスター出してー。落ち着いて、仕事出来そうなやつー」

「《ぶみゃーん》」

「わっ、こんな自在にスラグの増殖と分裂をっ……」


 翡翠すら驚く自然な仕草で、ヨイヤミはケットシーから新たなスラグ生物を分割させてゆく。

 そうしてその大きな手の中から生まれた不定形のパン生地のようなペーストは、ねて丸めて形を作るように、人間より少し小さなサイズにまとまっていった。


「はい完成! こいつが、隠れ家的な猫のカフェのマスターだよ。お客さんが来たら、こいつに任せとけばいいの」

「《ぶみゃぁ……》」


 本体のケットシーと似た二足歩行のマスター猫は、既に自分の成すべきことを全て分かっているようにテーブルを準備し始める。

 あとは、メタがお茶やお菓子を外から運び込んで来てくれればすぐにでも店が開けるだろう。


「あはははは! これが本当の猫喫茶だね! よーし、この感じで、次々にお店とか作っちゃおー!」

「まさか全てのおうちを、何かしらの施設に改装する気なのでしょうかヨイヤミちゃん!?」

「んーん? それは、時間が足んないよアイリお姉ちゃん」

「ほっ……」

「それに、ぜんぶのおうちを改造しちゃったら、猫王国の住民が落ち着けないからね。暗くて静かな、安心できる場所として残しておかないと」

「にゃーん。なごなご」


 猫王国の住人というのは、当然普通の猫の事だ。ヨイヤミの計画では、この裏世界はメタや、今後増えるであろう本物の猫の秘密基地にする気らしい。


 そんな猫にとって、明るく派手な通りにずっと居続けるのもストレスが溜まる。そんな時は、適当な空き家に入ってのんびりとくつろげば良いとのことだった。


「……ふむ? それに迷い人にとっても、廃墟探索気分で良いかも知れないね。きっと、何かから逃げてこの世界に迷い込む人間もいるだろう」

「世間から離れて、落ち着けるということですね!」

「今はNPCしかおらんけどねー」


 だが、そんな状況を空想するだけでも面白い。もしかするといずれ、本当にこの地に生きた人間たちが移住してくるようになったら、そんな出来事もあるのかも知れなかった。


「うーん、いいねいいね。どんどんアイデアが湧いて来た! よし行くよーお兄さん。そのためには、メリハリが必要だ。通りはもっと、派手派手な感じにしちゃおうか」

「で、ではっ、私のお花もこっちに持ってきていいでしょうかっ」

「いいねいいね! 光るお花でライトアップだ!」

「そんな適当に決めて、世話できるのか翡翠?」

「はいっ! お任せくださいっ! それに、もしこうした階層レイヤー世界が無数に作れるなら、敷地の制約に縛られずに大量のお花を植え付け可能かも……」

「……まーだ諦めてなかったんかい。ヨイヤミちゃん? こいつが妙なこと言い出したら、まずは僕に相談するように」

「ほーいっ」


 やはり油断も隙もない神様の習性は今更のこととして、一時のイベントのみでなくこの地に常設するというなら実際、維持の方法と活用法も考慮しておいた方がいいのかも知れない。


 ヨイヤミを乗せて歩くのんきな顔をしたケットシーや、その眷属けんぞくたる店員猫はスラグなので、動力はダークマターだ。それは気にする必要がない気がする。


 しかし、それ以外の物は有限だ、丈夫に作ったとしても、いずれはちてしまうだろう。

 この華やかな飾り付けをされた通りもいずれ、ボロボロの廃墟の一部となってしまうのだろうか? まあその方が、不思議な猫の国としてはそれらしいのかも知れないが。


「よーし、あとはどうしようかなー。ハロウィン終わったら、普通の街に出来るように考えた方がいいのかな? それとも、永遠のハロウィンの街にするのかな? まあ、それは終わってから考えようか! あははは!」


 そんなハルの心配とは真逆に、ヨイヤミはあくまでポジティブに楽しく、この猫王国の飾り付け指示を進めて行く。

 ハルも、少し彼女を見習ってポジティブに考えた方が良いのかも知れなかった。


「……ああそうだヨイヤミちゃん」

「ん~~?」

「こいつの家も、決めた方がいいんじゃない? 僕らの不在時も、この国を守る責任者でしょ」

「そうですね! 大きな猫さんが住む、立派なおうちが必要なのです! お客さんが最後に辿り着く、観光スポットにもなります!」

「えっ? こいつはその辺の道で寝ればいいんじゃないの?」

「《ぶみゃおっ!?》」

「う、うにゃぁ……」


 ……どうやら、ポジティブなだけでもダメなようである。

 ハルはヨイヤミにその辺りも教えつつ、その後も皆で楽しく祭りの準備を進めていったのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
運営を獲得すると情報が解禁されるシステムですかー。トゥルーエンドのためには運営をコンプしてラスボスを倒す必要があるわけですねー。地獄のような戦いを切り抜け、感動のエンディングの後、真の地獄、出場苦喪得…
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