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第1746話 変幻自在の依代人形

「やぁおかえりハルくん。勝利おめでとう、大変だったみたいだね」

他人事ひとごとのように……、誰のせいだと思ってる……」

「少なくとも、ボクのせいではないさ」

「……そうか? あと、僕の勝利を祝っていいのかい? 中立のはずの運営が」

「いいんだよ。別に、ボクが直接キミの勝利のために何か力を貸した訳でもないんだから」


 まあ、スイレンが良いと言っているのだから、そうなのだろう。

 あと別にハルとしては、むしろ露骨に力を貸してくれたっていいのだ。


「それより、今後はあんなのが各地でポコポコ生まれてくる訳か」

「そのようですわね。まったくもって、趣味の悪い世界になりそうですこと」

「お前が言うなアメジスト」


 ハルが天空城、銀の城へと戻ると、そこにはスイレンに加えてアメジストの存在もしれっと追加されていた。

 スイレンと接触させては何かよからぬ化学反応が起こってしまう事を危惧きぐしていたハルなのだが、一応とはいえ今は仲間になってしまったので、まあ時間の問題か。


 王子様然としたスイレンに加え、ゴスロリ姿で優雅に振る舞う彼女が追加されたことで室内のオーラがずいぶん華やかな方向に傾いている。

 一般人お断りだ。ハルとしても少々居心地が悪い。エメでも追加するべきか。


「しかしハル様。初戦を撃退で終えたからといって、喜んでばかりいてはいけませんわ? その力の全容は、まだまだこんなものではないはずですもの」

「だね。今回はあくまで小手調べ。手に入れた力を、試してみたくなっただけだろうから」

「なに、そこは安心していいよハルくん。例え全ての力を出して挑んで来たとて、キミの敵ではないだろうから」

「当然ですわ? いちいちそんな確認をすることが、ハル様には失礼にあたりましてよスイレン?」

「アメジストはまず自分の発言を省みようか。というかスイレンも、そもそもお前のいた種だろう。他人事みたいに言うなと……」

「いや、ボク個人の意思で推し進めた計画という訳でもないからね、これは」


 まあ確かに、運営全体の意向として、更にいうならばセフィの方針として、今回のことは決定されたのだろう。スイレン一人の意見で逆らえるものではないか。

 ……とはいえ、彼が真っ向から異を唱えて逆らったかといえば、どうもそんな事はないような気がしているハルなのだった。むしろノリノリで賛同していたのではなかろうか?


「……まあいいさ。ある意味これで、あの土地にも『モンスター』がようやく配置されたことになる」

「確かに、なにか足りていませんでしたものね?」


 ファンタジー世界につきものの存在、人間に敵対し襲い来るモンスター。

 現実ベースの舞台であるフィールドには当然存在していなかったそれが、遅れながらもようやく広く実装されたといった所。


 この天空城がある七色の国には、神々の自作自演マッチポンプではあるが最初からモンスターが存在している。


 それらはプレイヤーのみでなく異世界人にまで牙をき、彼らの生活範囲を制限していた。

 今ならハルも理解できるが、それはマッチポンプで神の威光を示すだけでなく、文明の方向性や範囲を制限するのに一役買っている。その被害も最小限だ。


 しかし、今回のモンスター達、『ヘルメス・スラグ』は逆に文明と深く結びついている。


 多彩なフィールドスキルを覚醒かくせいさせ、それにより領地を個性豊かに発展させる。

 被害についても、領主に使役されその力が他国へ直接向けられるぶん、こちらとは比較にならぬ損害を出す。


 ……まあ、今の所その被害を受けるのも命なきNPCなので、そちらも被害ゼロともいえるのだが。


「しかし、各プレイヤーのフィールドスキル。あれとスラグは、密接な関係にあると見ていいんだよね?」

「というより、セット運用に見えますわ。ティティーさんの『海』だけは、少々毛色が違ったようにも思いますが……」

「ああ、あの子は少々特別だよ。ボクたちにとっても想定外、いや想定以上と言うべきか」

「人間ガチャ、いえ能力者ガチャのSSRだったのですわね?」

「URとかLRかも」

「ガチャ扱いやめい……」


 あの圧倒的な破壊力、応用力。まだ全てのプレイヤーの能力を見た訳ではないが、ティティーの海は明らかに頭一つ抜けていた。


 そんなティティーは例外として、他のプレイヤーの多くは、スラグの配布に合わせてその力を目覚めさせていったように思う。

 そこには何か関連性があるものと考えるのが自然であり、スラグはフィールドスキルの増幅器であると見るのも自然。


「とはいえ、イマイチ関連性が見えてこないんだよね。スラグは、優秀な発明品ではあるけど超能力とは特に関係ないだろ?」

「ですわね? わたくしもイマイチ、納得いっていないのですが」

「まあ、確かに。このヘルメス・スラグは、運営神うんえいじんの多数の思惑おもわくが合わさって作られたものだから、そこが分かりにくくなってはいるね。特に、今の生物擬態をする目立つ在りようは翡翠の要求が反映されたものだ」

「やっぱり」

「でしょうね」

「ただ、ボクの設計した原初の性質はそことは違う。じゃあ直々に、設計者であるこのボクが、そこを解説してあげるとしようかな?」





「まず、ボクが定めたスラグの本質は『溶媒ようばい』としてのものになる。まあ、今は今で、形態変化の性質が本質ではない、なんてことは言わないけれど」


 手の中に不定形の疑似細胞スラグを生み出しながら、スイレンは語る。

 その姿は次々に様々な小動物へと姿を変え、そして最後には、彼自身が飲み干したティーカップの中に収まった。


 スラグは最後にカップの中で自身を透明な水の姿へと擬態して、その状態で静かに変身の連鎖を停止した。


「うわぁ……、よく自分の口をつけるカップでやりますわね……」

「食べたって平気だよ、こいつは」

「気分の問題です。わたくしのカップには、近づけないでくださいね」

「気持ちは分かるが、やはりお前が言うな。お前、自分では平気で似たようなことやるだろアメジスト」


 同族嫌悪というやつだろうか? いや違う。

 これは、神同士では相手を批判する隙を見つけたら、自分の事を完全に棚に上げてひたすら相手を攻撃するアレである。


「……話を戻そう。『溶媒』、といったね。つまり何かを、このスラグに溶かす事が目的だと」

「その通り。“それ”は単体ではこの世界に安定して留まる事ができず、なにか容れ物が必要となるんだ」

「スラグにレモン絞るの止めていただけません?」

「アメジスト、話が進まないから。気持ちは分かるけど……」


 スイレンは透明な液体に偽装したスラグの中に近くのレモンを絞り入れ、黄色く色を付けていく。


 このレモン液がつまり、彼の言っている『留まらせたい存在』という事なのだろう。


「それってダークマターですの?」

「ある意味でそうでもあり、違うともいえる」

「ハル様、こいつ殴ってもよろしいでしょうか? まどろっこしい話し方が、イライラしますわ?」

「うん。その後に僕が、君を殴ることになるだろうけど、それでも良ければ」

「あーん。悩ましい提案ですわ……」

「続けるよ? 今のは、ボクのせいじゃないよね?」

「……すまない。続けて」


 やはりどうにも、スイレンとアメジストは引き合わせるべきではなかったようだ。

 ……いや、別にこんな理由を想定していた訳ではないハルなのだが。


「ダークマターはこいつの動力として、非常に素晴らしい働きをしてくれている。だがそれは、ボクの想定していた反応ではなかったんだ。思わぬ副産物、といったところかな」

「へえ」

「ですが、あなたの目的と無関係ではないのですね?」

「ああ。ボクの発想が引き金となって、ダークマターを活用するすべを獲得した訳だが、残念ながらそれに関しては詳しくは語れない」

「他の連中の技術って事ですわね」

「残念だ」


 スラグの最初の発明者であるスイレンだが、その全ての権利を彼が有しているという訳ではないらしい。

 その動力となる謎のエネルギー、ダークマターについて判明するかと思われたが、残念ながらそれはまた別の機会へとお預けとなった。


「しかしまあ、君の話を聞いていけば何か見えてくるのかもね。そういう意味では希望がもてる」

「ギリギリを攻めましたわね、スイレン」

「どうかな? 絶対に分からないからこそ、言ったのかも」


 それを判断するためにも、続きを早く話してもらおう。

 ハルたちはもう余計な茶々を入れず、彼の話が本題へ入るのを待った。


「さて、そのボクの目的だけれど、ここまでくればキミらもそろそろ感付いているんじゃないかと思う」

「まあ多少は」

「ダークマターでないとすれば、後に残るものは限られますものね」

「そうだね。他に、今回の騒動で重要となり、キミたちもその本質へとまだ辿り着いていない存在。つまりは、エリクシルネットに渦巻くという人々の意識、それを誘導し現世に留め置くための器。ある種の『依代よりしろ』として、このスラグは生み出されたんだ。超能力の増幅器としての役目を果たす理由も、そこにある」

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― 新着の感想 ―
一般神のふりして他神事は神様の得意技ですからねー。多重神格も吃驚な他神事で批評を入れるのは得意技ですよー。スイレンやアメジストならここに胡散臭さボーナスも乗ってもはや純粋に祝っているのかお道化てみせて…
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