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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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第1729話 猛攻と猛攻

 もはや見る角度を変えれば地面のような、そびえ立つ怪樹のみきの上を滑るように、ルシファーは滑空かっくうする。

 上下に、垂直に移動しているはずなのだが、コックピット内からの主観では地面すれすれをっているようだ。


 白い天使の身体に三つの黒い追加武装を施したルシファーは、そうしてギリギリを這いながらその邪悪な見た目の剣で怪樹を切り刻む。


 だがそんな『地面』から、ルシファーの移動を邪魔するように突如として新たな枝が突き出て来る。

 幹に黒い剣を突き立てつつ高速移動しているルシファーの身は、速度的にも姿勢的にもその不意打ちの枝に対処できない。しかし。


「この程度、障害にすらならないよ」

「光輪の方は任せて?」


 ハルが操作する無数のワイヤーが、進行方向に生えてきた枝へと突き刺さる。

 そうして枝をからめ取り拘束すると同時に、横方向へも伸ばされ幹に引っかかったワイヤーによって、ルシファーは強引に進路を変え衝突を免れた。


 その新たな進路の先に負けじと出現しようとした新たな枝も、ルシファーの頭上に輝く黒い光輪により封殺ふうさつされる。

 幹から枝を生やす際、つまりは細胞が変形する際に使用されるダークマターの消費を、漆黒の輝きが邪魔ジャミングしていく。


 そうして中途半端に溶けた細胞は新たな形状の成形に失敗し、重力に負けてあえなくグニャリと垂れ下がってしまった。


「ナイスフォロー! ルナちーもやるよーになったじゃん!」

「おだてないでちょうだい……、今なにか言われたら手元が狂いそうよ……」

「照れるな照れるな」

「わたくしも、魔法でお手伝いするのです!」

「カナちゃんは?」

「私は、みなさんの活躍を見てますー」

「君はハッキングの手伝いをしようね……」

「はーい」


 こうして新たに生まれてくる枝を含め、触手のむちのような激しすぎる攻撃の雨は絶えることなくルシファーを追い回し続けている。

 そのあまりに速すぎる打撃の数々は第三者視点で見れば、ルシファーの現在地に影だけを落として、鉛筆でぐちゃぐちゃに塗りつぶしたラクガキの線にでも見えるかも知れない。


 そんな常人では捉えることの不可能な枝の鞭を、常人ではないパイロットたちはひとつも直撃を受けることなくかわし続ける。


 ユキは樹皮に向けてこちらは白い一本筋の落書きを描きつつ、枝の影が織りなす黒い落書きを華麗に回避し続け、その軌跡を複雑なアート表現に落とし込む。

 悪く言えば『ミミズののたくったような』筆跡が幹に刻まれ、再生能力を過剰に暴走させられたその傷は背後で次々と爆発を起こしていた。


 ハルの方も、全てをユキ任せにしている訳ではない。

 羽から射出されるワイヤーを、逆にこちらも鞭のように枝にぶつけて防御に回す。


 と同時に、ちゃっかりと先端をその枝に直接突き刺して、そこからこの樹の内部ネットワークへと有線接続で侵入を試みていた。


「んー。ハルさんー、さっきからプスプス突き刺してはいますがー、合間合間に切れ目がありますよー。安定して侵入を実行するなら、少なくともどのケーブルかは必ず一本、刺さってる状態が望ましいですー」

「分かってはいるんだけどね……」


 しかし、この敵の猛攻の中では、そしてユキが決して止まることなく高速移動をし続ける中では、ケーブルを常に接続したままに留めるというのは思った以上に難しい。

 必ず、どこかの瞬間で接続が外れ、通信が解除されてしまうという事態が頻発ひんぱつしていた。


「ハルさんが接続に集中できるように、わたくしが頑張りませんと!」

「枝も、ある程度は止められるのだけれど……」


 アイリの放つ魔法の弾幕が、枝による鞭の雨を次々と弾き飛ばす。

 そしてルナが制御する頭上の黒い輪から発せられる輝きが、襲い来る枝の細胞を硬直させその勢いを落とした。


「でも強引に打ち付けて来る! 筋肉が固まってる時に強引に動いたら、ケガするぞ君たち!」

「怪我しても、問題ないからやってくるんでしょうねー。再生力おばけですからー」

「先端は止められても、根元までは効力が届かないわ!」

「《むぅ……、これ以上の出力は、今はちょっとむりー……》」


 指先の筋肉が痙攣けいれんし固まっても、無事な腕の付け根や腰のひねりで、強引にパンチを撃って来るようなものか。

 もちろん狙いも威力も数段下がるが、その元々のスピードによりそれでも十分に脅威の威力だ。


「わわわ! わたくしの魔法も、何やら邪魔をされているのです!」


 アイリの発射する魔法の弾幕も、再びまき散らされた美しい花びらの吹雪により妨害される。

 花びらに近づき触れた魔法が暴発するというのは勿論のこと、それどころか今度は、逆に遠く離れた花びらが積極的に魔法を引き付け始めた。


「重力操作でしょうか! お花の発動した魔法の方へと、こちらの魔法がれてしまいます!」

「デコイって訳か」

「フレアにチャフにデコイ。この樹は実は戦闘機かなんかだったんか!?」


 はらはらと舞い散る花は独自に、その内部に秘められた魔法を発動しハルたちの邪魔をする。

 その内容は神様らしく神力、つまりは重力制御か。

 この怪樹のエネルギー源でもあるダークマターも重力に関わる力であるらしいこともあり、やはりそちらが得意なのだろう。


 まるで重力機雷じゅうりょくきらいのようになったその花は、当然ルシファーの進行も邪魔をしていく。

 不意に思わぬ方向にて発動した高重力に、移動中の機体はつんのめるように引っ張られてしまう。


「ええい鬱陶うっとーしい! だがこんなもの! おのれの傷口をより複雑な落書きにするだけだと知れー!」


 だがユキの言う通り、そんな追い回され袋叩きにあい続けている中でも、ルシファーが握る黒く禍々しい大剣による幹への攻撃は止まらない。


 逃げ回ろうと魔法が逸れようとケーブル接続が解除されようと、彼女は常にその場を切り刻み続けている。


「はっはー! 結局、どの位置を刻むかの違いなだけってね! そのうち全身が傷だらけになって、枝だって攻撃してくりゃ逆にそこがターゲットになるさね!」

「じゃあ、いっそ幹を上に駆け抜けて、枝の集中した頂上付近を叩きに行くかしら?」

「……それは、ちょと、やめとこ。ムチの本拠地に乗り込んで、全方位からしばき倒されるのは、さすがに」

「流石のユキさんでも、ふるぼっこなのです……!」


 まずは幹を削りながら、少しずつ、防御と合わせ一本一本、枝の戦力をいでいくのが妥当だろうか。


「あっ、いいこと考えた。逆に、枝の届かない根っこ付近を切り取ってやればいいんじゃね?」

「今度は根が鞭を飛ばして来るだけなのではないの……?」

「対策は、している気がするのです!」

「しかしまー、根元から切り倒せればラッキーですねー。一発で、切り株にしてやれますよー」

「そーだろそーだろ。という訳で行こう!」


 即断で方針転換したユキは、ある意味鞭と花の雨から逃げるかのように、地表に向け落下ダイブするよう進路を変える。

 それでも枝の鞭は追って来るが、どうしても位置の関係上、確かに少しだけその攻勢は和らいだ。


「行ける! このまま根っこを切り刻んで、っておおおおお!?」

「えっ、なに? なにがあったのユキ!?」

「攻撃だ! 突然魔法で攻撃受けた!」


 突如としてきりもみ回転するルシファーのモニター。それは、ハルたちの乗る機体が唐突に吹き飛ばされた事を意味する。

 地面に向かって直進していたはずが、一瞬で今は回転する空を見ている。

 しかしそこは熟練の対応力で、ユキはすぐさま姿勢制御を取り戻し元の位置に向き直って見据えてみせた。


「幹が大きく、吹き飛んでいるのです!」

「相打ちかしら?」

「いいえルナさん。あれは、きっと自爆なのです!」

「自爆……」

「まあ、確かに僕らは言うなればずっと、敵の身体と密着して、取っ組み合いの戦闘をしていたに等しいからね」

「自滅覚悟の魔法を、掴んだ腕から直接発射するようなものですねー」


 見れば、剣が当たっていないにも関わらず根元の樹皮が大きく削れてしまっている。もちろん既に再生を始めているが。

 これは、自傷覚悟の高威力魔法を、至近距離にて直接発動したという証拠だった。


「しかし、なぜに今更?」

「確かにそうね? 同様のことは、今までだって出来たでしょうに」

「きっと、最終手段なのでしょー。剣で切られる方がまだマシって感じでー」

「つまり、そうせざるを得ない何かが、根元にあると!」

「そうだなアイリちゃん! 弱点って訳だ! 叩くか!」


 この過剰な反応に、どうみても敵の弱点を見つけたと色めき立つユキたち。

 しかしハルは逆に、この位置を攻めるには気が進まなかった。


 たしかに弱点は弱点に違いないのだろうが、この反応から感じられてくるのは、翡翠がこの場の何かを『どうしても守りたい』という感情。

 それはなんとなく、今までの『敗北を防ぎたい』という戦い方から感じる意思とは、まるで異なる感情に思えたのだ。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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