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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1726/1771

第1726話 花粉症の方はご注意ください

 当たれば一撃必殺のはずの反物質砲。それを数え切れないほどみきに直撃させているにも関わらず、巨大化した怪樹は健全な姿を維持している。


 計算上は、既にその体積の半分は消失させたはずなのだが、少なくとも見かけの大きさに変化はない。

 要するに、敵はどこからかそれだけの質量を補給しているということに他ならない。


「それだけここの地面を吸ってるって事なのかしら?」

「いいえー。さすがに、そこまで減ってるようには見えませんー。ルシファーのセンサーではそう出てますー」

「んじゃ、残りの力はどっから取ってきたんだろ!」

「ん-。恐らくはですねー、吹き飛ばした際のダメージが、こちらの想定通りには入っていないといいますかー」

「どゆこと?」

「つまりは、爆散する際の破片、というかほぼ蒸発した粒子だね。それを吸って再び構築し直し、ある程度元の形状を取り戻しているんだ」

「す、すごいです……!」

「血しぶきを回収するハル君みたいだな」

「僕もここまでは出来ないよ」

「飛び散った血を回収するだけでも十分に異常よ……」


 ハルも、腕を飛ばされた際にその傷を治すとともに、噴出した血液まで全てしっかり回収して再生したことがある。

 まあそれは、リソース回収というより自分だけが生身である事がバレないためだ。ここまでの事は出来はしない。


「つまり奴ら、空気を吸って回復してるってこと?」

「まあ、極論……」

「空気だって物質ですからねー」

「大変なのです! 一帯の空気が、全て吸い取られて樹に代わってしまいます!」

「悪夢でしかないわね……」

「いや、かなり効率は悪いはずだから、それやるなら根から土を食らうはずだけど……」


 とはいえ、敵はやろうと思えばそういう事も出来るということだ。

 このサイズで全力で大気を吸気されたら、普通に星全体の大気の密度や組成そせいに影響が出かねない。


 よもや、最悪の事態として想定していた『灰の泥(グレイグー)』シナリオ。その影響は大地のみではなく大気にまで及ぶというのだろうか。


「まあ、とはいえ今のところそんなに空気を吸っている兆候ちょうこうは見られない。計算の合わないぶんはさっき言った回収率の高さと、あとはやはりダークマターの力だろう」

「思ったより地上でも生産力が高いですねー。どれだけ降って来てんでしょー?」

「こちらからは全く観測できないというのが厄介ね……」

「なら、まずはアンテナをふっ飛ばしてやれ! とうっ!」


 一声叫ぶと、ユキは天使を高速で上空まで飛翔させる。

 次々としなるむちのように襲い来る枝の数々をかいくぐり、それひとつで森のようになった満開の花のカーテンを抜けて怪樹の頭上へ。


 あり得ない巨大さを誇る大樹となったとはいえ、単独で大気圏突破可能なルシファーの速度をもってすればその程度の高さは一瞬だ。

 遥か天空より睥睨へいげいする傲慢ごうまんの化身には、怪樹の触手も届きはしない。


「はっはー! 卑怯とは言うまいな! この手出しできない高度から、そのナマイキなアンテナを一方的にへし折ってやる!」

「高所を取る事は、いつの時代だって最高の戦略なのです!」

「そうともアイリちゃん! 地に根を下ろしてなきゃ生きていけないこいつには、決して到達できない高みなのよ!」

「……そんなこと言って。どうするの、また宇宙に届くまで伸びてきたりしたら?」

「『樹道きどうエレベーター』再びですねー」

「さすがに、そこまでの強度は出せないと信じたい……」


 ……いや、出せるのだろうか? 敵の体組織は変幻自在の万能細胞だ。軌道エレベーターを建設可能な構造にだって変異してしまいそうである。


「とにかく! そうならないうちに食らえ!」

「ここで必殺の、『地天使殲滅爆撃ウリエルブレイカー』なのです!!」

「なぜかウリエルはやられる側なのね……?」


 不憫ふびんであった。まあ、アイリのネーミングの事は今はいいだろう。


 大地に根を張り、こちらを見上げるしか出来ない怪樹に対し、ルシファーは真上からの一方的な爆撃を敢行する。

 その十二枚の翼から次々と光弾が彗星のように降り注ぎ、大地へ恵まぬ雨を降らせてゆく。


 当然、一発一発が一撃必殺の威力が込められた破滅の光。無効化フィールドの無い敵には、防ぎようのない威力だ。


「!! 敵が、お花を散らしてきたのです!」

「あら」

「『あら』言ってる場合かルナちー! 絶対なんかある!」

「チャフとかフレアのつもりですかねー?」

「ルシファーの攻撃に、そんな物は通じはしないが……」


 当然、そんな無駄な事をする相手ではない。この敵の裏に居るのは翡翠ひすい、神なのだから、何かやってきたならば必ずそこには効果が期待されている。


 その予測の通り、花弁は彗星の雨に触れた途端、あり得ないはずの効力を発揮させた。

 本来のターゲットである枝へと直弾するよりずっと前に、弾丸は花に触れた時点で誘爆させられてしまったのだ。


 何をしたかは分からないが、それを誘発する効果を付与された花をそれこそ『誘導防御フレア』のように散布したに違いない。

 ターゲットよりもずっと手前で起爆してしまった以上、当然その効果も大幅減だ。


「ふむ。やるなっ……!」

「やりますね! ですが……!」

「そうともアイリちゃん! 防御してくるというなら、面白い! その防御を突破するほどの弾幕を、徹底的に撃ち込めばいいだけのこと!」

「これが歴史に名高い、『ゴリ押し』という名の戦略なのです!」

「……それは、もうどちらかといえば戦略の放棄よね?」

飽和攻撃ほうわこうげきと言うとかっこいいですよー?」

「流石はカナリー様!」

「《ストップストップ! やめてよね姉ちゃんたち! 高高度で発生した爆発の影響が、こっちまで来てる! このまま続けられたら、オレのフィールド内まで影響出ちまうって!》」


 ユキたちが懲りずに更なる爆撃を加えようとしたところで、付近のゲームエリアを預かるアレキからストップがかかった。


 高空で起こった衝撃というのは、思った以上に遠方にまで波及する。

 それこそ、酷いものだと惑星を一周するレベルのものになるのだ。


「……まあ確かに、そうなると今度は他の神からも苦情がこっちに来かねない」

「といいますかー、我々の七色の国にも被害が来ますねー。味方から苦情が飛んで来かねませんー。特にシャルトとかー」

「接近戦するしかないってことか!」


 ユキは悔しそうに、再びルシファーを地上に向ける。さすがにゼロ距離ならば、回避のしようがない。

 しかしそうなると、自分への爆風も考慮しなくてはならなくなる。一方的に、完全消滅させる火力は出しにくい。


 やはりここは、ゴリ押しだけではなく、何か根本的に相手の再生を抑え込む戦略が必要となりそうだった。





「《てかさ、前も似たようなの倒してるだろ? そんときゃどうやって倒したんだっけ?》」

「おやー? 身をもってよく知ってるはずですがぁ~~? アレキはー」

「《いいから! そっち方面で攻めるのがいいんじゃねーのか? 知らねーけどさぁ》」

「知ってますよねー」

「まあ、当のアレキが言うなら、従ってみた方がいいのかも知れない」


 遠回しに、いやもはやほぼ直接的にだが、ヒントを与えてくれているのかも知れない。

 それに従って攻略すれば、効率よく運ぶ可能性は高かった。なにせ元は翡翠と同様にあのドラゴンを操っていた相手だ。


 そんなアレキはどう倒されたかといえば、こうした疑似細胞生物のコントロールをハッキングされ、逆探知の末に遠隔から支配されてしまったのだ。

 今回も同様の手法を取れば、確かに同じように翡翠も捕らえる事が出来るかも知れない。


「しかし、そう上手く行くかしら?」

「確かに! 既に、対策されている可能性大です!」

「でもまー、やってみる価値はありますねー」

「そだね。今はルシファーも元気いっぱいなんでしょ?」

「はい! 今ならナノさん、作り放題です!」


 アイリは再びルシファーの体内にてエーテルを過剰生産し始めると、翼から一気に放出する。

 まるで鱗粉りんぷんを撒くように、怪樹に向けてエーテルの粒子が飛散して行った。


 このナノマシンの群れであるエーテルのきりが、同じくタイプの違うナノマシン群体ぐんたいである怪樹に取り付き、ハッキングを行う。

 そうしてその『コントローラー』である翡翠へとハルが直接接続し、彼女の神としての体を支配してしまおうというのだ。


 ただし、これは一度見せた手なので、ルナたちの言う通り対策されている可能性大だ。


「うわ! さっそくなんかきた!」


 ユキに遅れ、ルシファーに搭乗する皆もその異変に気付く。

 早速、ハッキングのために飛ばされた大量のエーテルに対抗すべく、先ほどの花びら同様にまた怪樹から対抗策が放たれる。


 今度は花その物ではなく、その中から放たれる花粉。

 その黄色い粒子があちらも霧のようになり、目に見える濃度で、ある意味恐ろしい光景としてエーテルの霧と衝突していくのであった。

※誤字修正を行いました。色々ミスしてしまいすみません。誤字報告、ありがとうございました。

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連続殺パン生地事件が起ころうとも現場には痕跡を一切残さない被害者の鑑ですかー。完全犯罪成立でどんな事件も迷宮入りですねー。そもそも事件なんてなかった扱いになるから警察も探偵もお呼びでない? 残念ながら…
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