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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1707/1770

第1707話 種を蒔く蝶

 大量の蝶が運んでいたという『種』。それは恐らく、翡翠ひすいが研究していた例の特殊な花の種だろう。

 それらは遺伝的に特殊なコードを埋め込まれており、それにより記述された特定の魔法を発動する性質を持つ。


 魔法といっても、『弱い光を放つ』といったごく簡易的なものだが、本来人間以外には発動できないはずの魔法を行使するという点で、非常に画期的な『発明』といえた。


「……あの花を使った実験を、ついに本格的に始動し始めたか。しかし、なぜ今?」

「海が無くなったから、やりやすくなったんでしょうかー?」

「なるほど。いや、それなら翡翠の方で海をなんとかしてくれよ……」

「私に言われましてもー」


 確かに平地の面積が増えた今ならば、花を植えるにはやりやすかろう。

 しかし本当にそうなら、ハルは翡翠の手伝いの為に働かされていたようで何だかしゃくだ。


「あれじゃね? 魔法を使うんだから、魔力消費するんでしょ? だからその花を大量に配置すれば、自動的にコスト消費オブジェクト大量配置で、維持コスト爆上がりよ!」

「しかしユキさん。あのゲームフィールドは、アレキ様の土地で、魔力もアレキ様の物ですが……」

「そーそー。だから、これはレッキーに対する攻撃なのだ! すわ仲間割れか、それとも報復ほうふくか!」

「血で血を洗う抗争こうそうってやつだね! 燃えてくるね!」

「なんと! こちらに寝返ったアレキ様を、成敗せいばいしに来たのです!」

「ないと思いますよー?」


 そもそもアレキはハル側に寝返った訳ではなく、強制的に従わされているだけだ。

 それに翡翠たちもゲーム内で発生する成果が必要だからこそ同盟を組み運営している訳で、そのゲームその物を台無しにする真似はするまい。


「そもそも、その花を僕は実際に見せてもらっている訳だけどね。アレをどれだけ植えたところで、エリア中の魔力を吸い尽くす程の消費にはきっとならないよ」

「なーんだ。燃費がいいのなー」

「一安心、ですね!」

「……しかし、だとすればやっぱり気になるわ? どうしてこのタイミングで?」

「そうですね……、単純に、ちょうど研究が終わったから、とか……」

「まー、神なんてみんな自分勝手なものですからねー。そういう理由でもおかしくないですよー?」

「うーん。カナりんが言うと説得力あるー」

「そのお花ってさ、ピカピカ光るんでしょ? じゃあさじゃあさ! 舞台をもっとファンタジーらしく装飾しようって事なんじゃないの!」

「あー、それはいいですねヨイヤミちゃん。この世界って、夜景の方はちょっと物足りないですからねぇ」

「でしょでしょ!」

「まだバカンス気分なのかしら、このイシスさんは……」


 まあ、確かに夜の光量は日本と比べてそれは物足りないが、そんな事を気にしての行動とも思えない。


 ファンタジーらしい見た目にするという点では、確かに最近の流れとしてあり得そうとも思いはするが、それも正直疑問は残る。

 そうした世界にしたいのならば、なにも唐突に今ではなく、花は最初から配置しておけばよかったのだ。

 そうすれば、最初に招いた匣船はこぶねの者にもこの地の特別性をもっとアピールできただろう。


 まあ、それについてもやはり『当時は未完成だった』と言われたら、納得するしかないのだが。


「うん。僕らが憶測で語っていても仕方がない。ここは手っ取り早く、当事者に聞いてみようか。……アレキ!」

「《なんだよハル兄ちゃん。急に呼びつけんなよな! っつても、呼ばれた理由は分かってっけどさぁ》」

「それなら話が早い。今のこの状況について、教えてもらおうか」

「《気持ちは分かっけど、アイツの研究内容については話せないぜ? オレら互いに、それぞれの力に関しては公開にロックが掛けられてるから》」

「それは理解してる。あと毎度の『攻略情報に関してはお答えできません』もね」

「《だったら……》」

「でも、もしかしたらこれは答えられるんじゃないの? “この現象は、ゲームのイベントとして盛り込まれた物?”」

「《“いいや兄ちゃん。少なくとも、従来の予定には無いね”》」

「なるほどありがとう。つまり翡翠の、独断って訳ね」

「じゃあついでにレッキー! 今後どんなイベントが予定されてるか、それも答えてもらおうか!」

「《それこそ『お答えできません』ってねー。もー、姉ちゃんもさぁ、分かってて聞いてんだろ》」

「だってさだってさ。やっぱ生で聞いてみたいじゃん? 『攻略情報に関してはお答えできません』って奴をさぁ!」

「《わっかんねぇー……》」


 分からないで問題ない。ただのゲーマーあるあるというやつだ。


 しかしどうやら、何となくハルが直感した通りこれは運営陣としてのゲーム進行のための行動ではなく、翡翠個人としての独断での行動らしい。

 ゲームイベントならば、アレキが断言できるはずがないからだ。


 もちろん、徹底的に漏洩ろうえいを防ぎたいならば、『イベントではない』とも言ってはならないはずなのは確か。

 しかし、そこまで強力な縛りを設けてしまったら個人として、運営以外として活動する事も厳しくなる。


 それこそ、今のような暴走じみた行いも勝手に出来なくなるのだ。その為の緩い縛りに救われた。


「まあ、アレキが喋るかどうかは、禁止されていなくても彼の判断に任せる賭けではあったけど。喋ってくれたって事はアレキもまた頭に来てるって事なんだろう」

「翡翠様の暴走を、迷惑に感じているという事なのでしょうか!」

「そりゃ、まあそうよねぇ。土地はアレキの庭なのだもの。無断で種をばら撒かれたら、訴訟そしょうものよね?」

「こっわぁ~~。ルナお姉さんをキレさせたら、法務部が黙ってないんだねぇ」

「そうだよ! 迷惑なファンの人たちは、いつの間にか闇に葬られちゃうんだよ!」

「ソフィーちゃんも安心だね!」

「ウチに法務部は無いわよ……」


 あったら外部に対する訴訟などよりも、内部の違法行為の摘発てきはつが主な業務になりそうである。


「でも、ハルお兄さん? そんな賭けなんてしなくても、命令しちゃえばよかったじゃん! アレキちゃんは今、お兄さんがなんでも命令できるんでしょ?」

「そこはほら、ヨイヤミちゃん。あえて自由意志に任せることで、こうして彼の感情も引き出せたという事じゃないですか。単純な情報以上の、価値があったんですよきっと」

「おー。さっすがイシスお姉さん!」

「いや単純にあまり命令したくないだけなんだけど……」


 ……あまり人を冷血のように言わないで欲しい。支配したのは仕方なくであり、確かに命令できる立場ではあるが、なんでもそれで済ませたくはないハルであった。


「にゃにゃっ!? にゃうにゃう! なーご!」

「おや、どうしたんだいメタちゃん?」

「みゃっ! なうなう、なうん!」

「ほうほう。進展があったと」

「ふみゃっ!」


 ハルたちが翡翠の目的について頭をひねっていると、現地では新たな動きがあったようだ。

 監視を続けるメタ型ロボットを通じて、その様子が送られて来る。


 ハルたちは雑談を中断し、一斉にモニターへと視線を釘付けにしていくのであった。





「わっ! ちょうちょが種植えてる! 器用だねー。あははっ! そこら中どこでも、おかまいなしだ!」

「本当ですねぇ。街の中でも、所かまわず植えてますよ? いいんですか、これ」

「うん。良い訳ないよイシスさん」


 まあ、その辺の公園や花壇に新たな華を添える程度なら可愛いものだが、所かまわずは問題である。

 土はあっても、何も無い事が求められる場所であったり、街中まちなかから離れ田畑に行かれてはもっとまずい。


 水も栄養も翡翠の花を育てる為のものではないのだ。収穫に影響が出てしまう。


「メタ助! ちょっと田んぼの様子を見てくるのだ!」

「みゃっ!」

「今は台風! だったのですね!」

「たいへんだね! 側溝そっこうバトル、開始だ!」

「なによ側溝バトルって……」


 ソフィーの田舎では、何やら物騒な争いがあったようである。

 ……いや、彼女の田舎は見た目が田舎なだけで、確か水道などは完璧に近代的な整備が整えられていたはずだが。

 まあ、住んでいるのが彼女の祖父のような変わり者ばかりなので、きっと妙な風習でもあったのだろう。偏見だろうか?


「みゃみゃっ! ……みゃ~~?」

「おや。田んぼには蝶が来とらんな? どこもか、メタ助?」

「ふみゃーご」


 メタが次々と、各地の猫の視点に切り替えを行うが、映し出される画面にはそのどれにも蝶による被害は出ていない。

 どうやら蝶は、田畑は的確に避けて種まき作業を行っているようだった。


「おりこうさんのちょうちょだね! でもなんでだろ? お兄さん分かる?」

「恐らくはねヨイヤミちゃん。この田畑もきっと、翡翠が準備した物だからだ。彼女が作物を<転移>で送って来てるからね。それを台無しにするような行為は、避けたって事なんだろう」

「あははは! じぶんかって~~」

「本当にね」


 それならば、街中も避けて欲しかったところだ。

 ……まあ、一応、街の景観が明るく華やかになることは、歓迎できるので文句を言いにくい所ではあるのだが。


 そんな蝶に植えられた種はといえば、なんと即座に芽を出し、メタが観察しているその場ですぐに背を伸ばし始めた。


「うにゃっ!?」

「うおっ! 蝶が溶けた! ど、どうなっている、メタ助!?」

「ふなっ、ふなーお……」

「だめよユキ? メタちゃんをゆすっても、答えは出てこないわよ?」


 ユキの蛮行ばんこうからルナがメタを救い出し優しく撫でて落ち着かせる。


 その間にも、蝶はその身を融解ゆうかいさせて灰色の細胞へと戻ると、自らが植えた種の栄養と、いやそれどころか芽を出すはずの花その物となり、見かけ上一瞬で成長を完了させていったのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ここまでイシすんにとっては前座、余興に過ぎなかったのでしょー。夜景にディナーに露天風呂、イシすん先生のバカンスはこれからですねー。……打ち切り漫画の幕引き言葉みたい? 何を仰るのやらー。イシすんがバカ…
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