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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1697/1771

第1697話 彼の聖域としての存在

 セフィ。今も神に混じって活動する、しかし本質的には神とは異なる存在。

 彼の出自はハルとそのルーツを同じくし、あの研究所でエーテルネットの管理者として養成されていた者である。


 とはいえハルとは違い既に肉体は喪失しており、そのあり方は魔力体である神々に近い。


 神の活動に協力しつつも、彼らとの交流からは一歩引いた立場を貫いており、似て非なる存在として、ハルとも神々とも違う完全に独自の立ち位置を保っていた。


「確かに今まで、なにかあった時でも、僕がセフィを疑いのテーブルに上げたことはあまりなかった気がする。唯一の同僚として、贔屓ひいきが入っていたのかも知れない」

「いえー。普段は、それで構わないとは思いますー。基本的に彼は、こちらの活動には不干渉を貫いていますしねー」

「今まで、どこかの派閥に肩入れするようなことは一度もなかったのかしら?」

「はいー。なかったですよー。私たちも手伝ってはもらってましたが、それは別に我々だけ特別扱いではなかったですしねー」

「それこそ最初は、セフィこそ裏で全ての糸を引いている存在かと勘違いしたものだったね」

「時々、ハルさんはお呼ばれしていたのです!」


 懐かしい話だ。もう何年も前になるのか。

 その超然ちょうぜんとした雰囲気や、システムの根幹を司っていそうな上位者としての振る舞い。そのせいもありまだ何も知らぬ頃ハルは、セフィこそゲームの全てを設計した大元の『開発者』かと疑ったものだ。


 ハルがゲームの仕様を逸脱いつだつした行動を取ろうとした際、彼の居る空間に強制的に『お呼ばれ』を受けていた。それがGMによる呼び出しと似ていたのも、勘違いの原因だろう。


 しかし全てを知った後は、むしろ誰よりも黒幕から遠い存在と判明。その後に何か事件が起こっても、セフィに疑いの目が向く事はなくなっていた。


「ですがー。今回だけはちょーっと、毛色がちがいますー」

「事件の規模がおっきいからかな?」

「それもありますよー、ユキさんー。前触れもなしにいきなりぶち上った計画のくせに、使ってる技術が未知の物すぎますからねー」

「アレキらが地道に研究していたと思うには、カナリーから見ても不自然なのね?」

「ですよー? ゲームじゃないんですから、ポイント振れば技術ツリーがいきなり生えてきたりはしないんですよー?」

「積み重ねによる地道な研究の痕跡こんせきがどこかに残るはずなのですね!」

「ですよー?」


 であるならば、その生えてきた新技術のツリーは外部から与えられたものと思うのが妥当。

 それを与えたのが、与える事が可能そうな存在は、セフィくらいしか居ないということか。


「とはいえ、少し根拠が弱くないかしら? 何か他のルートから、ひらめきを得たという事もあるでしょうし、セフィならダークマター技術に辿り着いていて当然という論調ろんちょうせないわ?」

「そうですねー。そこは、推測というかむしろ後付けですー。私たちが彼に疑いの目を向けたのは、他にきちんと理由があるんですねー」

「そうなのね?」

「私たち、ということは、カナリー様以外の神々も同意見なのでしょうか?」


 ハルも、アイリと同様にそこが気になった。これはカナリーの個人的な推理ではなく、他の仲間たちも同意見なのか。

 とすれば、ある意味こじつけのような今の推測よりも、もっとれっきとした証拠のような物があるに違いなかった。


「今回の事件ゲーム、エネルギー源はともかく、システムは多くの部分を我々の物から流用して運用されているのは知ってますねー?」

「たしか、あれでしょカナちゃん? こっちからプレイヤーがログインに使う、入り口のシステム」

「そうですよー、ユキさんー」

「それに、そもそもの発覚も、『エーテルの夢』のゲーム内からプレイヤーを集団で連れ去った事がきっかけだったわね?」

「はいー。まったく失態でしたー」

匣船はこぶねの皆様が“わーぷ”で、消えてしまったのです!」


 その後は彼らのキャラクターボディと、それに関連付けられたシステムメニューを改造され、新たな力を植え付けられて今に至るという訳だ。


 言ってしまえば簡単そうだが、確かにそうそう簡単に行える話ではない。

 今はハルも運営陣の一部として、システムの構造をそこそこ理解する立場となっているが、一朝一夕いっちょういっせきで乗っ取れるとは確かに思えない。


「あのハッキングを受けて、私やマリー、それにアメジストも加えて原因を調査しましたー。まあ、アメジストは途中で使い物にならなくなっちゃいましたがー」

「うん。使い物にならなくしたのはカナリーちゃんたちね?」


 ログインのためのシステム、一度インしてきたプレイヤーを集め一括管理する『メニュー空間』を担当するのはマリーゴールド。

 そしてプレイヤーに搭載された『スキルシステム』の開発者アメジスト。


 どちらもお騒がせの問題児だが、双方その実力は確かであり天才といって差し支えない。


 確かに、その天才たちを差し置いてそう簡単にハッキングを許す程、甘いセキュリティとは思えなかった。


「マリーの結論ですが、いかに天才的なハッキング技術を持った神であったとしても、ここまで痕跡なしなのは考えられないとのことですー。これは、『正式な手順で』侵入されたとしか思えないとー」

「内部犯、ということね?」

「ルナさんの言う通りですよー? そしてアクセス権を持つ神は、当たり前ですが関与を完全に否定してますー」

「……セフィ以外は、ってことだね?」

「そういうことなんですねー」


 神は、嘘をつかない。つくことが出来ない。こっそり内通している可能性は限りなく低い。

 出来たとしてもアレキのように、『言えない』という正直な反応が返ってくるはずだ。


 しかし、セフィだけは別。セフィは神、元AIではなく、元はハルと同じように人間だ。

 ……ハルと同じ、というのがポイントでもある。嘘つきであると言われても、否定の根拠にはまったくならなかった。


「そんなセフィ君も、システムへのアクセス権を持っちゃってるんだね。運営のお手伝いで。たしか、称号システムとか担当してたよね」

「おお! そうでした! 時々ハルさんが称号で、遊ばれていたのです!」

「そんなこともあったかしらねぇ」

「……称号に短文メッセージ乗せて、連絡手段代わりにされたりもしたっけな」


 これもまた懐かしい話だ。セフィのエピソードはどれも破天荒はてんこうではあるが、それでいてどれも無害でこうして思い出として語るには暖かいものばかり。


 しかしながら実際、こうして論理的に考えれば、容疑者として一番怪しいのも事実だった。


 さて、動機の面で怪しい神々と、手段の面で怪しいセフィ。

 ハルたち探偵組は、この中から犯人を導き出せるのか。それとも、真犯人はもっと予期せぬ何者かとして、予想外のトリックを用いて犯行を行っているのだろうか?





「まあー。証拠もなにも無いんですけどねー。今のところ、お手上げですよー?」

「そうね? もし正規の手段でシステムを利用されていたとするなら、証拠なんて残さないでしょうね?」

「セフィ君に、直接聞いてはみないのハル君?」

「まあ、無意味だし。気が乗らないし……」

怠慢たいまんねぇ。でも、確かにあなたには辛いかもね? いらぬ警戒をさせてもなんだし、構わないと思うわ?」

「セフィさんは嘘が付けるので、犯人さんでも容疑を否認してしまうのです……!」


 そう、素直に喋る訳がないのであった。尋問し情報を引き出すにも、セフィが相手では分が悪い。

 一応『元人間』とはいうものの、通常の人間の枠に収まらぬ彼相手では、ハルの洞察も形無しだ。月乃といい、厄介な人たちである。


「一応、セフィが完全に敵対した場合でも、異世界の人々には影響が出ないように備えだけはしておくか……」

「はい。わたくしからも、よろしくお願いするのです」

「セフィ君のお仕事って、具体的になんなのかな? 称号割り振るだけじゃないよね?」

「それも含めて、裏方の情報処理全般ですねー。それこそ分かりやすく『システム管理者』でしょうかー。プレイヤー魔法が正常に動作するか。逆にいざという時にきちんと制限をかけられるか。その辺も管理してくれてますー」

「僕も、最初にあったのは刀の薄さ制限だったねえ……」

「……わたくしたちの安全を、セフィさんが守ってくださっていたのですね」


 そういうことになるのか。カナリーたちのゲーム、『エーテルの夢』ではプレイヤーによるNPCへの加害行為は一切禁止である。

 あまりに厳しすぎるその制限の裏には、『実は異世界に実在する人間』をゲーム気分で知らずに傷つけてしまわぬようにとの配慮が隠れている。


 街中まちなかでの魔法発動などは不発と終わり、当然その為のチェック体制は多岐に渡る。

 その複雑極まりない判断と処理の軽減にも、セフィは一役買ってくれていた。


 そんなセフィを疑わなくてはいけない事には、確かに少し気が引ける。ある意味彼は、異世界の人々の直接の守護神ということになるのだから。

 ハルが今までセフィをあらゆる事件の容疑者から無意識に除外していたのも、同類であるという以外にそうした圧倒的な献身けんしんへの感謝もあったのかも知れない。


「……ただ、それだけ恩恵の大きいセフィだからこそ、敵に回る、とはいかないまでも居なくなった際の混乱は大きい」

「ですよー。バックアップは必要ですー」

「た、確かに……! 安心して備えを怠れば、もしもの時に大変なのです……!」

「まあ、今は通常のネットゲームと同じで、エーテルネットによる処理で負荷軽減は可能だわ? 事前にシステムを組んでおけば、問題はないはず」

「それに幸いー、今はハルさんが居ますからー。そうした負荷を肩代わりしてくれるのは、お手の物ですもんねー?」

「……まあ、やるけどさ、勿論。……それを言うなら、カナリーちゃんもやるんだよ? 今は、君も僕やセフィと同じ存在なんだからね?」

「ばれましたー」


 なんだか、にわかに事態が大きく、深刻になってきたような気がするハルだ。いや、最初から星全体を巻き込んだ異常に大きな事態であったが。


 ある意味、今までは『聖域』であったセフィの存在。そんな彼が、本当にこの事件に、関わっているというのだろうか?

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。


 追加の修正を行いました。「無意識に」の連続していた箇所を修正しました。作者も無意識に重複させてました。どれだけ無意識だったんでしょう。誤字報告、ありがとうございました。(2025/9/1)

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― 新着の感想 ―
なるほろー? いきなりパン生地を渡されただけの神類が突如異能に目覚めたことを悟り扱うことができるのかと言われれば、それができるならハル様陣営の神々が解析に苦労なんてしていないということになりますかー。…
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