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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1675/1772

第1675話 現代に蘇る地下放水路大神殿

 さて、重力を遮断しゃだんしただけで水の流入を全て防げる訳ではない。この状態でもきちんと水圧があり、それにより海水は押し出されてくる。

 更には見て分かるように、この海の水はティティーの意のままに自由に、生き物のように操作できる。その力によって、手動で無重力エリアを越えられれば終わりだ。


「ふむ。ならばこちらも、手動でそのつど反物質を起爆し押し返してもいいんだけど、それじゃあわざわざ重力操作で止めた意味がないからね」

「そうよ? もうあんなに騒々しいのはごめんだわ?」

「地上で、しかも物体を破壊しながらだと、あんなやかましくなるんだねぇ」

「どっかんどっかん! たいへんなのです!」

「ご近所さん迷惑だぞーハル君ー」

「ごめんね?」


 そんなに轟音と地震でもあったかのような振動を響かせていては、ゲームフィールド全体からプレイヤーが何ごとかと一堂に会してしまうだろう。

 ……いや、この海があるので、異変は今さらか。むしろ触らぬ神にたたりなしと、より遠ざかり隠れ潜んでしまうかも知れない。


「といっても、どうするのかしら?」

「うん。要は流れこんでくる海水を、処理するスペースがあればいいんだ」

「なるほど。放水路だ、巨大地下施設だ!」

「わたくし、知ってます! 日本の地下には、巨大神殿のような施設があって、そこで大雨を凌ぐのです!」

「残念。今はそんなに大規模な設備はないよアイリ」

「がーん! なんと!」

「それに、アイリちゃんのその言い方だと、まるで大雨の時は地下に避難するみたいだわ?」

「逃げ込んだ先で溺れちまうね? アリの巣に水流し込むみたいに!」


 もちろん放水路は現代でも存在しているが、規模はそこそこ縮小している。あまり大きいと、現代の主要交通機関である地下鉄の邪魔にもなる。


 ただ、これからハルがやろうとしている事のイメージは、アイリの言うような巨大放水路に近いだろう。

 大量の水を受け止めきれる広大な貯水池プールを用意して、そこで一時的に水難を封じ込めるのだ。


「そうだね、せっかくだ、アイリ。魔法で立派な、大神殿を作り出してもらおうかな。見た目だけでいいからさ」

「幻影のようなもの、ということでしょうか?」

「そうだね。いけそう?」

「はい! お任せください! おひとり様時間で鍛えに鍛えたわたくしの空想力を、お見せするのです……!」


 アイリのたくましい想像力は、ロマンス方面に発揮されるだけではない。そう証明するかのような実に精緻せいちで立派な幻想の神殿が、削り飛ばされた大地の底に出現した。


 大地全てが根こそぎ吹き飛んでいるので実感はないが、これはまさに大地下神殿。

 用途もまた、荒れ狂う水を内部に蓄え難を逃れるという、地下放水路の機能そのものだ。


「……しかしハルさん? かっこつけたのはいいのですが、別にこの神殿に、海を閉じ込める機能はないのです!」

「そうね? あくまで、同量の水を貯めておく空間というだけだわ? それでも大層な量だけれど、あの海を相手にすると、さすがにね?」

「それは、僕がこれからなんとかするさ」


 さすがの放水路も、まさか海そのものが流れ込んでくることは想定していないだろう。しかし、今はそのまさかが求められている。

 ならば、どうすればいいか? 簡単だ。それに対応できるレベルに、貯水エリアを広げてやればいい。


 勿論、さらなる掘削くっさく工事を行うという意味ではない。それでは海に自然に浸食を許す事と大差ない。

 これ以上の掘削は行わず、しかしそれでいてそれと同等レベルの海水を収容する。そんなトンチのような成果が、ハルには求められているのだ。


「簡単だ。空間を拡張してやればいい」

「うわ出た」

「出た言うなユキ。うちの本当の貯水池にも使われている、由緒正しい対策だよ」

「でもさでもさ、だってさ? 空間拡張っていうとジスちゃんじゃん?」

「そう、だね……」

「でも……、その……! アメジストちゃんの他にも様々な方に使われている、技術ですから……!」

「……それもあまり良い思い出がないわねぇ?」


 まあ、能力の性質上これが使われる時は大抵が敵を罠に嵌めるか認識を誤魔化す時だ。そもそもあまり真っ当な使われ方はしないだろう。ハルもよく悪用している。

 しかし、広く活用されているということは、それだけ能力が有用であるという証。神々によりその力は保証済みだ。


 ハルはその便利な空間拡張の力によって、アイリの生み出した幻想の神殿の内部を見た目の何倍もの大きさへと拡張しその容量を増していった。


「……しかし、ハルさん? これはつまり、わたくしたちの“うちゅうふく”、空間固定装置と同じということでは? 体の周囲だけでも大変なのに、魔力は、大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、そこは問題ないよアイリ。もちろん、かなり消費は大きいんだけどね。『装置』と違ってそこまで無敵性も快適性も求められてないし、何より一度発動させればその後は動かない」

「なるほどね? 初期費用は掛かるけれど、維持費はそこまで気にせず済むのね?」

「ちょろちょろ動き回る対象に、リアルタイムで追随ついずいするのって大変だからなぁー」


 ユキの言うとおりである。いや、そう見えてこれは、彼女の脳内では高速移動するターゲットに銃口の照準を合わせている光景が広がっている。そんなオチだろうか?


 ともかく、それにより見かけ以上の膨大な容積を手にした地下神殿は、都市を襲う暴風雨の被害と、ついでになんか押し寄せて来た海そのものをきっちりと収容し、人々の生活の安寧あんねいを守ってみせた。


「……あら。しかし、どこまで持つでしょう。きっと、無限の空間ではないのですよね?」

「どうかな? 仮に無限じゃなかったとしても、君の海全ての容量を超えていたら、それは無限と変わらないだろう?」

「確かに。ですが、本当にそこまでの収納スペースを作り出せるのならば、貴方は最初からそうしているはず」

「これは一本取られたか。冷静だね……」


 明らかに未知の超技術を前にしても、ティティーはあくまで余裕の態度と自らの『海』への自負じふを崩さない。

 何が出て来ようと、自分のこの海が負けるはずがないのだ。そんな絶対の自信が透けて見える。


 そんな彼女の自負の通りに、ハルが今生み出したこの拡張空間の容積では、彼女の海を抑えきれない。

 かといって海を丸ごと抱え込むような空間拡張は、少々魔力を使いすぎてしまう。

 そんな無駄遣いがバレたら、節約の鬼であるシャルトが鬼の形相ですっ飛んで来ること請け合い。


 そんな中途半端な放水路の内部に次々と雨水海水が浸透する。

 それはじきに許容値を超えパンクして、ハルの必死の時間稼ぎもあわやこれまで。そうなる事を、きっとティティーも確信していただろう。


「だがそうはいかない」

「うむ。そうはいかん!」

「おや。何が起こるか予想が付いてるのかいユキ?」

「とーぜんよ! どんだけハル君と遊んでると思っちょる! こうやって敵に突破を期待させておいて、ついにその瞬間! って時に更なる嫌がらせが発動して台無しにするのが、ハル君のやり口だもんね?」

「人を嫌がらせ大好きの性格悪い奴みたいに言わないで?」

「褒めてるんだが。ゲーマーとして」


 まるでゲーマーというのが、一般的に見たら最悪の性悪しょうわるでしかないような風評被害は止めていただきたい。

 ……まあ、その辺、否定はしにくいハルなのだが。


 ともかく、ハルの策は当然一時的に海水を貯水してそれで終わりな訳ではない。

 この空間拡張を利用して、もう一段階時間稼ぎをする。その想定が既に準備されていた。


「この神殿の中は今、見た目以上の海水でパンパンになっているという訳だ。まあ、このままだと溢れる。しかし溢れる前に、空間拡張を解除してやったとしたら? さてその時は、どうなるかな?」

「まさか。一気にその分の圧力が解放されるような、そんな状態に?」

「流石、賢いね」


 ティティーはハルの意地悪な言い方で、この後に起こる事態に思い至ったようだ。

 この拡張空間を元に戻せば、当然、元の空間内には入りきらない水が一気に解放されることになる。


 その水は行き場を求めて、一気に流れ込んで来ることになるのだが、それは何も、ハル側にだけ来る訳ではない。

 ティティーの方向へも同様に、いやハルの仕込みより、むしろティティーの方へと逆流するように、一気に高圧で流れて行くのだ。


「さて、そんなウォーターハンマー不可避の逆流、君の海は耐えられるかな?」


 ハルはティティーに対処の暇を与えることなく、虚構きょこうの神殿を解除する。

 一気に解き放たれた海水は、すぐに境界線上の海と衝突し、まるで先ほどの反物質反応の再現かのような莫大な衝撃と、この世の終わりのような轟音を再び響かせたのだった。


 さすがのティティーとその海も、その爆縮、水版バックドラフトかのような勢いには、その身を初めて後方へと向けて大きく後退させるよう押し流されて行った。


「……すまない。うるさくしないと言ったばかりだが、全然そんなことなかった」

「きーこーえなーいー!!」


 そんな大戦果の中、ハルは忘れていた一つの事実に今さら思い当たる。

 あの海の内部には、今も虎視眈眈こしたんたんとティティーの首を狙うソフィーが潜んでいたはずだが、彼女は無事であろうか?


 まあ、ソフィーのことだ。きっとこの中でも五体満足に違いないと、そう勝手に納得し、責任逃れしようとするハルなのだった。

※誤字修正を行いました。「忌」→「意味」。やってしまいました。直したつもりだったのですが複数あったようで……。使い慣れぬ言葉を使うとこうなりますね。大変失礼をいたしました。

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