第1666話 飛来する第二の空間使い!
本日短めで失礼します。皆さまも、この猛暑にはどうかお気をつけください……!
ソフィー一人が剣のみで相手するにはあまりに敵は強大、いや膨大。ここは意地を張らせずハルたち全員で事に当たろうか、そう考えていた時だった。
この場に集合したメンバー以外の闖入者の存在を感知する。それは、異変を察知して駆けつけた神様ではないようだ。
「お前達。何をしている」
「おや。ソウシ君。いらっしゃい」
「ソウ氏じゃん。なにしに来たんー?」
「ここは貴方の領地ではないわよ?」
「やかましい! お前達の領地でもないだろう! そもそも俺の領地の方がこちらに近いんだよっ!」
「ソウシさんの領地ではなく、私たちの領地ですけどね……」
「ナマイキだぞー、ソウシー」
この場に姿を現したのは、騒ぎを聞きつけてやって来たであろう、ソラたちの協力者であるソウシだった。
彼は眼前に広がるこの『海』と、そこで激闘を繰り広げるモササウルスとソフィー、そしてその海と陸地を隔てるように建てられた黒光りする堤防を順に見て、実に渋い顔を浮かべているようだ。
「爆発音を聞きつけて来てみれば、またどういう状況なんだこれは……」
「ぜんぶこの海がわるい」
「俺からしてみればお前達も大概なんだよっ!」
ユキの簡潔が過ぎる説明は、残念ながらソウシには受け入れてもらえなかったようだ。
とはいえこの海の脅威はソウシも認識しているようで、これを抑えなければ自国も危ういという事に関しては、共通認識として理解はしてくれているようである。
「はぁ……、厄介ごとを増やさないでもらいたいのだがな……」
「そんな事を言って、貴方が原因だったりしないのかしら? サコンの森の方には、ちょっかいを出していたようだけれど?」
「はんっ! 藤宮らしい傲慢さだ。自らに責任は無いと言い張るか」
「それは貴方も同じでしょうに」
「そうだぞーソウ氏ー。あとゲーム内で、ルナちーのことリアルの名前で呼ぶなー」
「だったらお前もその妙なイントネーションを止めるんだよっ!」
相変わらずの面白い男である。いや、本人はいたって真面目なのだとは思うが。
「ちょっかいも何もな。ここの領主とはまだ会ったこともない。きちんとログインしているのか? やる気が無いのでは?」
「そうだね。ログイン頻度はどうやら低い、というか、海の拡大のアリバイ作りだろうか、あえてログインしていないようだ」
「ふん。肝の小さいことだ」
「……それってログインしていたら干渉しようとしていた、ということじゃないの?」
「ふっ……」
ルナのもっともな指摘には、適当に笑ってごまかすのみのソウシなのだった。
そんなソウシは、せっかちな事に状況に介入したくて仕方のないようである。
海と壁、そして暴れるモンスターについて一通り聞くと、怪物と戦うソフィーの方へと、すぐに高度を落として行った。
「おいお前。倒せないならば俺と替われ。空間使いとして、どちらが格上かここではっきりさせてやろう」
「むっ!? あっ! 学園で私に負けた人だ!」
「負けてなどいない! いや、負けはしたが、お前に能力で劣った訳ではないぞ!」
「ふっふん! 負け惜しみだよね!」
同じ空間系能力者として、ソウシはソフィーにライバル意識のようなものを感じているようである。
空間ごと切断する、という攻撃方法をソウシもかつて可能としていたが、実は細かい原理まで見て行くと意外と異なるこの二人。
ソフィーが見たままの『切断』である一方、ソウシの方はどちらかといえば丁寧に『押し広げて』断裂を作るようなものとハルは認識してる。
その原理においては実はソウシ側の方が理解しやすく、ハルもやろうと思えば魔法や科学技術を使っての再現も恐らく可能。
一方でソフィーの<次元斬撃>はというと、正直なにをどうしてああなっているのか、まるで理解が出来ないのだった。
「いいからどいていろ。巻き込まれても知らんからな」
「わっと。どれどれ、そのお手並みを、見ていてあげよっかな!」
「ちっ。上から目線で言っているんじゃないぞ……!」
ソフィーは海から出て“岸辺”へ上がり、ソウシの実力を確かめんと見学に回る。ハルもまた、彼の力には興味があった。
色々とからかったが、ゲーム開始直後からその能力の片鱗を見せていたソウシ。学園の時もそうだったが、彼の超能力への適正は非常に高いようである。
その力が、このしばらくの開拓期間を経てどのようにレベルアップしたのか。ソフィーではないが、まさに『お手並み拝見』といったところ。
「以前にも言わなかったか? 相手によっては切断一辺倒では非効率だ。特にこうしたチマチマとした相手には、振動の方が効果的だっ!」
ソウシがまるで徐々に気でも練り上げるように、ポージングも交えてテンションを上げていく。
そうして迫りくる巨大なモンスターへと向けて、いや、この海全体へと向けて放たれた攻撃は、荒れ狂う波の動きを一瞬で奇妙に停止させる。
「消え去るがいい、ゴミ共が!」
動きを止めた水面はその直後、一気にその姿と動きを変える。
ランダムに波となって飛び散っていた水面は一転、非常に規則正しい波紋の連続模様を絨毯のように配置した。
そして次の瞬間、海全体が水蒸気爆発でも起こしたかのように、その周囲一帯の空間内部がまるごと、超振動によって完全に粉砕されていく。
その範囲攻撃に囚われた存在は、例え一粒一粒を対象に捉えるのが厳しい疑似細胞の粒子であろうと、一切の関係なく破壊し尽くしてしまったのだった。
「フハハハハハッ! 細かければ攻撃を逃れられると思ったか、馬鹿めっ! 万能細胞だか何だか知らないが、俺の力の前では羽虫に劣る!」
「おお! すごいすごい! まっけないぞ!」
「いやお前は入って来るな! 俺がやると言っているんだ!」
「えーっ! だってほら、まだまだいっぱい居るし!」
「お前の力は能力を乱すんだよ! 手を出すんじゃあない!!」
続けざまに空間振動により攻撃しようとしたソウシの技に、ソフィーの<次元斬撃>が割り込んでいく。
するとソウシの技の予兆ごと切り裂いて、<次元斬撃>は空間干渉そのものを真っ二つにしてしまう。
せっかく設定した攻撃範囲はキャンセルされ、そのソウシの放った力は霧散してしまった。
後に残ったのはソフィーの放った超烈断裂の空間爆発のみ。ソウシは技のキャンセルによる反動と、その爆発の衝撃をモロに受けて派手に背後へと吹っ飛んでしまっていた。
「だから止めろと言っただろうが! このマヌケめが!」
「ごめん! でも邪魔だったんでつい!」
「謝る気ないだろお前ぇ!!」
「うん! やっぱり私の方が強かったよね!」
「この……っ! クソがっ! ……まあいい。ともかく、後から後からキリがない相手というのは本当のようだな」
「うん。どれだけ『在庫』があるのか見当もつかないよ。ソウシ君の超能力でも、難しそう?」
「はっ! 無理な訳がないだろう! だが無理ではないが、俺がそこまで必死に働いてやる義理もまた、特にないのでな」
「いや自国の方が近いからどうとか、さっき言っていたじゃないか……」
つまり無理なようである。いくら範囲攻撃がソフィーよりも得意といっても、やはりこの海全体を対象には出来ない。
技を撃つ為のエネルギー消費も、どうやら無制限にとはいかないと見た。
「だから、次善の策として障壁を張ってやる。俺がそうしてとどめている間に、お前達は根本的な解決策を考えるんだな!」
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。




