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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1650/1771

第1650話 完成に向かう街に最後のひと筆を

 まるでゲーム内でワンボタンのアップグレードを行うように、ハルたちの国にある全ての住宅が、一斉に建て替えを完了した。


 それに際して、都市の家々その全てを吸収し同一化した例の苗木もその取り込んだ数に対応し、今やすっかり巨大化してしまっていた。


「うわー、でっかくなったねぇ」

「はい、すごいですー……」

「……結局こうなる運命なのね? まあ、今回は『世界樹』レベルにまでは到達していないけれども」

「十分デカいわ! 日照権に関しては、後日正式に抗議させてもらうからな!」

「えー。そんなこと言われてもねえソウシ君。だってこの大樹は、“ずっと以前からここにあった存在”なんだし」

「くっ、屁理屈……、でもないのか……! ややこしい……!」


 そう、ゲーム的な歴史は今この瞬間に書き換えられ、この国は以前から大樹と共にあったという歴史へ改変されたことだろう。

 その影響を受けるのは隣国たるソウシたちの国も同じ。

 彼らは、“元々大樹の日陰となる地に家を建てていた”と強引に決めつけられ、日照権に対しての文句を言う、『先住者』としての立場も無慈悲むじひに奪われたのだ。


「……まあいい。元々、距離を取ろうとは思っていた」

「すまないが、そうしてくれると助かる」

「ただし! これ以上巨大化はさせるなよ! 退いても退いても影に追われてはたまらないからな!」

「ま、まあ、努力はするよ……」


 正直、完全に制御できると約束はできないハルだった。


 そんな不安は今は脇に置き、ハルは改めて生まれ変わった自国の様子をその目で見渡す。


 現代日本風から木造のファンタジー建築に置き換えられた街並みは、見た目に関しては今のこちらが世界観に適しているといえるだろう。

 ハルもいずれは、こうして見た目を重視した再開発を行おうとは思っていたので、渡りに船であったのは確かだ。


「ただ、ねえ……、この作業はNPC達本人に、しっかり仕事として割り振って行おうと思ってたんだが……」

「それの、何が問題なんだ。マンパワーが浮いて良いではないか」


 ソウシが、『何を懸念けねんしているか分からない』とでも言いたげにハルへと疑問を投げかける。

 まあ、気持ちは分かる。ハルも通常のシミュレーションゲームであれば、『儲けものだ』くらいにしか思わなかったろう。


「だってさ、彼らが自分で建て直しを行えないと、ずっと僕が面倒見るはめになるでしょ?」

「やればいいじゃあないか」

「そう言うなって。自動化したいの。僕は」

「ハンッ! 知った事ではないな!」


 まあ、それもそうだ。これはあくまで、ハルの都合である。


 ただ、ハルの予測ではこの都市は恐らく短期のゲームキャンペーンとして終了と共に消滅はしない。

 ゲームそのものが長期化するか、あるいは陣取り遊びが終了したのちに街だけ残るかは不明だが、とにかく今後もずっと残り続けると予想している。


 なぜならば、運営達の大目的はゲームではなく惑星開拓であるのだから。

 荒れ果てた惑星の正常化を目指すのであれば、お役御免やくごめんとなったフィールドがゲームと共に消滅しては意味ないからだ。


「……嫌だよ僕は。未来永劫みらいえいごうこの街の整備を担当するのは」

「またハルさんが、『管理者』にされてしまうのです!」

「確かに、あんま嬉しくないタイプの王様だねぇ」

「ユキの言う嬉しいタイプの王様ってどんなものかしら?」

「領民ぜんぶオレのもの! 美少女は好き放題にさらってくるやつ!」

「反乱不可避ね?」

「それも弾圧しちゃる!」


 まあ、それはそれで、反乱を抑えるために常に気を配らないとならないだろう。メリットに対して、支払う労力が大きすぎるとハルは思う。


 ハルが求めるのは完全放置であり、その代わり、そこから得られるリターンも特に無くていい。

 あくまで、ここの運営の計画を手助けしつつ、その一方で常に後方からにらみをきかせておく為のこの都市なのだから。


 そんなハルの懸念に対し、会話の裏で国のステータスを色々と確認してくれていたアルベルトから報告が入る。どうやら、良い知らせがあるようだった。


「ハル様。その件に関してですが、どうやらある程度の不安は解消できるようです。ただ、多少の都市計画の見直しはやはり必要となりそうですが……」

「ほう。どんな感じだ?」

「はい。まずこの周囲、大樹となったこの樹の直近の土地ですね。この場に住まう者達は、どうやら代々大樹の世話を行う重要な地位に就いていることになりました」

「代々」

「はい。何代も以前からです。歴史的にそうなっています」

「まあ今さら何も言うまい」


 やりたい放題の歴史改変だが、これが無かったら無かったで整合性せいごうせいをとるのが面倒すぎる。

 こちらの都市計画に合わせて、勝手に歴史背景を捏造ねつぞうしてくれるシステムは思ったより楽だ。これはこのままでいいだろう。


「それに加えて中央の権力者の中にも、どうやらこの大樹の力にアクセス出来る役職が割り振られたようですね。大樹の一部と化した住宅も、恐らくはその者の担当になるかと」

「よし。今後は全てそいつに丸投げしよう!」

「急に嬉しそうねぇ……」

「肩の荷が、下りたのです!」


 それは嬉しくもなるだろう。進んで苦労を引き受けるべく、手を挙げてくれた者が出たのである。

 まあ、彼らからしてみれば、勝手に割り振られただけかも知れないが。


 ともかくハルが一軒一軒を管理する必要はなくなり、何かあった時にはその者にだけアクセスを取れば済むようになった。

 全てを自分の思い通りに設計する自由は失われたかも知れないが、既に都市のデザインは完成間近。あとは微調整だけを任せればいいだけだ。問題はない。


「これでようやく、この国の全体像がハッキリと見えるようになったって感じかな」

「そだねー。他の国よか、一歩リードだな! まだまだみんな発展途上っしょ」

「小さく纏まっただけとも言えるな。そのまま見ているといい。発展性を失ったお前達の都市を、俺が凌駕りょうがしていく様を」

「おや、帰るのかいソウシ君?」

「ああ。見るべきものは見ただろう」


 ハルたちの国の変化を目の当たりにして、何かインスピレーションでも得たか、ソウシはハルたちと大樹に背を向けて自国へと帰って行ってしまった。

 彼も彼で、なんだかんだこのゲームを楽しんでいるようである。それとも、既になにかしらの実利を見出しているのか。


 そんなソウシの言ったように、確かにこの国は今の状態であまりに完結した構造だ。

 ここから国面積を拡げようとすれば、その完成したバランスが崩れ苦労することになるだろう。


 ただ、今はそれでいい。ハルたちの目的は、あくまで他の国々をこの先に南進させない事なのだから。


 とはいえ、それには相応しい戦力も必要だ。今後はその他国の侵略を押し返せるだけの戦力を、サコンの操る力のような特殊能力にも負けぬ独自のスキルを、求めていくことになる。







「……さて、思いがけず、国の文化改革がどうにかなってしまった訳だが」

「いいえ! まだです! 国作りはまだ、完了していないのです!」

「そだねー。アイリちゃんの大好きな、あれが足りてないもんねぇ」

「はい! 今こそ国の中枢に、ハルさんのための立派なお城を建てるのです!」

「いや僕のは要らないって」

「ではハルさんを讃える、壮大なお城を建てるのです!」

「讃えなくてもいいというに。まあ、確かにまだ中央が空白のままだ。政治の中心となる政庁せいちょうも不在のままだし、最後の仕上げが必要だね」

「はい!」


 ハルの家はあくまで天空城にあるアイリのお屋敷なので、この地の城に住むつもりはない。

 ただ、やはり国家としては必要だろう。なんなら王も、NPCの中から選出しその者に任せればいい。


「あるいは城を作れば勝手に王も生えてくるかも知れない」

「人間に使う言葉ではないわね……」

「細かいことは気にすんなルナちー。なんせ家が生えてくる国なのだ」

「それもそうねぇ……」


 家を作れば、それに対応した住民が誕生する。なら城を作れば? 対応した王も付属してくる可能性も十分あった。


「それで? どうやって建築するのかしら? やっぱり今まで通り、土を溶かしてエーテル工法?」

「それでいいんじゃね? なんか適当にガワだけ仕立てればさ、それに樹の根をぶっこめば、あとは勝手に仕上げてくれるっしょ」

「木のお城に、なるのですね! わたくしどうなるか、想像もつかないのです!」

「巨大建築も、問題なく可能となっております。さすがに『城』そのものはデータにありませんが、庁舎ちょうしゃとして使える大型建築はいくつか再現可能ですし、それを利用すれば良いかと」


 最終的には、樹との融合によりファンタジー風に変質し、街に合った雰囲気を持つ城へと勝手に調整してくれることだろう。

 その結果がどうなるのかは、正直ハルも見てみたい。非常に興味をそそられる内容だ。


 しかし、その興味を上回る懸念点がハルには存在する。そこを、無視して進めることは出来ないだろう。


「ただね、気になることがある」

「なになに? どしたんハル君?」

「やはりお城は、ダメでしょうか!」

「いや、お城自体はいいんだ。でも、このまま住宅と同じように大樹と合成してしまったら、こいつに対するカウンターが一切存在しなくなると思ってさ」

「なるほどね? 仮に大樹が、あの疑似細胞そのものがまた敵対したとしても、対応できる何かを中央に残しておこうという訳ね?」

「そういうこと」


 まさにルナの言う通り。ゲームとしては非常に大きな進展で間違いない今回の国の変質だが、その奥に居る翡翠ひすいたちとの競い合いという意味ではプラスとも限らない。

 むしろ、この状態は常に喉元にやいばを突きつけられているといっても過言ではないのだ。


 だからこそ、大樹からは分離し独立した勢力が、改めて必要になる。それを中央に準備したいと思うハルだった。


「それに、ここで僕らだけで決めずに、今居ないメンバーの意見も聞いておこう。イシスさんにヨイヤミちゃん。アメジストを拷問中のカナリーたちもね。まあ、そのアメジストの意見も、一応聞いてやるか……」

「どんなお城になるのか、楽しみなのです!」


 ……また、過剰戦力を詰め込むような提案ばかりが出ないだろうか? 楽しみな反面、不安も多いハルなのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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太古の昔から立っていた巨大樹の影に家を建てておいて日照権の抗議をするとは、そんなにソウ氏はハル様に構って欲しいのでしょうかー。仕方ありませんねー。もっと気軽に来られるようにソウ氏の国の周りに貯水池を建…
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