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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第5章 オーキッド編

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第165話 彼女の答え合わせ

 セリスを撃破した後の対抗戦は、お祭り騒ぎの内にも平和に幕を閉じた。

 ユーザーは皆、復活による強化に夢中になり、結果、ハルへ流れるポイント数も加速した。そうして再び、全土を黄色チームが支配することで試合は終了した。


 しかし今回は、お祭り騒ぎこそが目的となったため、そこを気にする者は少ない。

 あの後の流れは、増幅された力を試すため互いにぶつかる者や、ハルへと挑み思う存分それを発揮する者が多く活発だったが、ハルを倒そう、という雰囲気は霧散むさんしていた。

 一部、また神の強化を進めてそれをぶつけようという運動も見られたが、今回は開催期間が短く、また目的が分散していた為それは成らなかった。

 セリスを倒すため、団結して皆が復活を繰り返したのも大きい。それにより黄色の侵食も加速し、神につぎ込むためのコスト、自陣の魔力が無くなってしまったのだ。


「これでまたカナリーちゃんの魔力が増えたね。最初はどうなる事かと思ったけど」

「私は最初からハルさんが勝つと思ってましたよー」

「……思ってたというより、勝つようにルール設定してたんじゃない? 僕に都合よく展開しすぎてちょっと怖かったよ」

「なんのことやらー」


 一夜明け、ハル達は屋敷で昨日の対抗戦を振り返る。

 結果的に見れば、巧妙にハル不利に見せかけたハル有利イベントだった。掲示板では、ハルがその頭脳でもって策略勝ちしたと語られているが、ハルはそう思わない。

 ルール設定の段階で、他プレイヤーには厳しく作られていた。恐らくはカナリーの努力によるものだろう。


 確かに限界まで、あのセリスのレベルにまで強化された者が複数人で組んで挑んできたら、ハルといえど苦戦は必死だったであろう。

 だが、そこまでの強化を達成するには時間が足りなさ過ぎた。

 ハルのアシストにより、かなり効率的に死亡と復活を繰り返していても、さほどの強さまでは至れていなかった。それ以上、セリス並を求めるには他者からの協力が不可欠だ。


 最後のぽてとのように、一人に対して全力でポイントを集める。

 そうして限界まで強化されたドリームチームを編成して初めて、ハルに勝つ目が生まれる。そんな、実際に達成するには厳しすぎる道のりだ。


「セリスもあれでカリスマはあったみたいだから、そのルートで来るべきだったね。まあ、後からでは何とでも言えるけど」

「しかし、その場合は前日のパーティーでの失態が枷になります。その芽は、自ら摘んでしまっていたと言えるでしょう」

「アイリちゃんの言う通りね。その手を講じるには、パーティーに来るべきではなかったわ? 最低でも、<簒奪>は見せるべきではなかった」

「もしくはあの模擬戦でハル君に勝つか、だねぇ。ありえないけど」

「戦略段階からミスですよねー。オーキッドの奴も、協力的ではなかったみたいですしー」


 前哨戦のつもりで挑んだ宴の席でのハルとの模擬戦、これが完全に裏目に出てしまった。あれが無ければ、他プレイヤーの協力を得るのもまだ可能だっただろう。


「後はセリスと同程度の人が三、四人居ればなんとか」

「きついんじゃないのー? 攻略に積極的な奴らは、人望無いし」

「ひどいなユキ」

「事実だもん。人望無いってか、広く他人と関わろうとしないから、一般人はあいつらとどう接していいか分かんないってトコかな」

「誰にポイントを集めれば良いかでも、割れるでしょうね」

「そうそう」

提督ていとく多くして船アステロイドベルトですね!」


 順調にアイリに悪い教育が進んでいる事にルナにじっとりと睨まれるが、今は流す。

 どうしても深く攻略を進めていると、同じく攻略に携わっている者としか関わらなくなってしまう事がある。

 『弱い連中とは群れない』、という者も居るには居るが、多くの者はそんな事は無い。コミュニケーション能力も高い。

 だが、時間が無いのだ。攻略に集中するあまり、他者と関わる時間が無い。ソフィーのような、両方を難なくこなすのは異例である。


「ソフィーさんは確定だろうね。ステが乗ればセリスよりも手ごわそうだ」

「後はー、シルフィーちゃんかな? 面倒見が良いからあの子。自然と人が集まる」

「……あの子は、無理でしょう。完全にハル寄りよ? 敵には回ることは無いでしょうね」

「ありゃ、罠か」

「集めたポイント、無駄になってしまいます!」


 後はぽてとも人気は高いが、彼女もまたハルやアイリに懐いている。ただ、ぽてとは気分次第でハルの敵もやってくれるだろう。

 ……気分次第で、ハルの味方にもなってしまうというリスク付きだが。


「まあでも、一番厳しいのはユキが敵に回った時かなやっぱり」

「……んー、いつかは高めた力でハル君に挑みたい気持ちはあるけど。でも今は、ハル君の味方で居たいかな。あはは」

「そっか……」

「ん……」

「……付き合い始めのカップルかしら、あなた達は?」

「初々しいのです!」


 と、こんな感じの作戦を事前に決めて掛からなければ、勝負に持ち込む事すら難しい。

 加えて、あの城にはカナリーも居たのだ。


「決戦の場所の選定も重要ですねー。律儀に玉座の間に攻め込めば、私も居ますからー」

「カナリーちゃん、出るまでも無かったね」

「なんとかハルさんをおびき出さないといけないのです!」


 考えれば考えるほど無理ゲー感が強くなってくる。ハルも攻撃側でこれに挑戦したくはない。

 そんな試合形式をセッティングしたカナリーに感謝し、また一方で呆れつつも、ハル達は祝勝のお茶会を楽しむのであった。





「そいえばハル君、トドメの魔道具ってどんなだったん? なんかパパッと作っちゃってたけど」

「ああ、あれは中身はすごく単純だよ。使い手の攻撃力が高まれば、その分威力も増す。セリスの魔道具化した刀が教材だね」

「自らの力によって、滅びたのです!」

「因果応報ですねーアイリちゃんー。悲劇ですねー?」

「そこの主従? 少し違うわよ?」


 今回プレイヤーの武器は、復活を繰り返す度に徐々に魔道具化して行った。それを段階ごとに<神眼>で観察する事で、どのコードがどんな働きをしているか、非常に参考になった。

 この試合でハルの魔道具に関する知識が、一気に増えたと言える。思わぬ収穫だ。


 特にセリスは警戒していたため常時監視対象で、その武器の構造も丸裸だ。後はそれに見合うまで、ぽてとを強化するだけだった。


「じゃあさじゃあさ、もうひとつの方は? アリアンロッド出す奴。あっちは単純じゃないべさ?」

「あっちこそ単純なんだよ。あれ、魔法部分は、普通に僕の魔法込めただけ。魔道具は、その発動スイッチを入れてるだけ」

「うわっ! 見掛け倒しだった!」

「だからシルフィードからは回収していたのね……」

「『危険ですものね、これは』、って、彼女納得しちゃってました!」

「詐欺師ですねー。ハルさんの言うことを何でも信じる彼女側にも問題はありますがー」

「ですってよハル? あの子、えっちなお願いも騙されて聞いてくれるのではなくて?」

「たまに、ルナの中の僕が分からなくなる」


 魔王の演技を好んでいたり、ハルに悪い男になって欲しい願望でもあるのかもしれない。


「暗殺じゃなくて、ハルウェポンを装備した軍隊でもって、お姫ちんを制圧するのも面白かったかもね!」

「面白そうだねユキ。あまり簡単に量産出来るって知られたくはないけど」

「ハル君ならもう何やったってスルーして受け入れてくれるって」


 まるでレイドボスに挑むプレイヤー連合ユニオンだ。それならば参加人数も増え、更に盛り上がっただろう。

 たった五分で人数分の魔道具を揃えて持ってくるのは、あまりに不自然すぎるので現実的ではないだろうけれど。


「そのお姫さんだけど、どうやらここに来るみたいだね」

「あら? お礼参りかしら?」

「どこ情報よハル君」

「さっき、首都の神殿に転移してくるのが<神眼>に映った」

「まさかの目視」


 今やこの神域の魔力は、首都をすっぽりと覆い尽くすに至っている。どこでも自由に視点移動が可能だ。対抗戦の勝利により、報酬で更に魔力は増えた。都市へ向かう馬車の追跡すら可能になっている。

 その<神眼>に、セリスが引っかかった。彼女は都市内にある神殿を出ると、特に何処にも寄ること無く壁外へ。そのまま<飛行>でこちらへ向かって来る。最初から目的を定めている動きだ。


「ハル君がここに住んでるって知れてたっけ? 王宮住みって噂じゃなかったっけ」

「セリスは紫の国の王子と関わりがあるわ? アイリちゃんの事も、他よりは詳しかったりする可能性はあるわね」

「です! わたくしが此処に住んでいるのは、他国でも周知ですので!」

「まあ、メイドさんセンサーに引っかかる所までプレイヤーが来ると……、やっぱり止まった」


 神域への侵入は、法により禁じられている。この法、所詮は人の法ではあるが、使徒プレイヤーにとってはそれは神の法となる。『バレなければ犯罪ではない』、は通用しない。

 神域の境界で、まるで見えない壁に阻まれるようにセリスは移動停止を余儀なくされていた。


「通行許可を求めていますねー。どうしますー?」

「……入れたくないなあ」

「目的は、何なのでしょうか!? また勝負、でしょうか……?」

「懲りてないとすればバカが過ぎるよねぇ」

「何かしらの策略、と見るのが自然よね。彼女、そういった協力者が居るのよね?」


 自分でも口を滑らせていた。優秀な頭脳担当ブレーンが居ると。

 その者の策略なのは間違いない。なのでハルとしては、このまま無視を決め込みたかった。


「無視する、訳にもいかないんだろうね。……家には入れないけど」

「ハル君が飛んで行って、境界線上で立ち話する?」

「マヌケすぎるわ……」


 まあ、これも一応ゲームなので、フィールドで会話する事など珍しくもないのだが、一応貴族である立場だと考えると推奨される行動ではないだろう。

 かといって、進入を許可してこの屋敷に招く気にもなれない。


「それならー、私の神殿に飛ばしますかー? あそこなら控え室なんかありますしー」

「その辺りが無難なのかねえ……」

「皆、お茶の準備をなさい。お客様用ですよ」

「かしこまりました、アイリ様」


 そうして、招かれざるお客様は、カナリーの神殿でもてなす事になった。

 この屋敷ともほど近く、不安は完全に払拭できないが、この家や、立ち話を除けば落とし所なのだろう。

 ハルは本体を屋敷に残し、分身を神殿内に生成して、それで対応を行う事にするのだった。





「お招きありがとう……、じゃないか。よく来たわねハル! 昨日はどうも!」

「あー、うん、こっちの台詞かな。よく来たね? まあ、今メイドさんがお茶を出してくれるから、座ってよ」

「頂くわ!」


 なんだかぎこちない様子の、それでも無駄にテンションの高いセリスが、控え室のソファーへと座る。

 ぎこちない理由はハルには良く理解できるが、それならば何故こんな風にして来訪したのかが理解できない。正直、早く突っ込みを入れたくて仕方なかった。


「ありがとう!」


 メイドさんの給仕を受け、セリスは優雅にお茶を口につける。非常に慣れた様子だ。

 それは、お姫さまなのだから慣れているのは当然なのかも知れないが、彼女の所作しょさには年季を感じる。例えるなら、ルナの対応を見ているようだ。


「……それで、急にどうしたのさ、今日は」

「急ではないわ。学校が終わるまで待ったし!」

「お前も天然か! ……いや、何しに来たん? 昨日のお礼参りかな?」

「そうね。昨日の試合、見事だったわ! まずはそれを褒めてあげたくてね」

「セリスはそこで褒めないよなあ……」

「あら?」


 指摘してしまっていいのだろうか? それとも決定的なボロが出るまで茶番に付き合った方がいいか。

 そう、ハルが少しばかり悩んでいると、その答えは彼女の方から提示された。


「……噂通り、勘が良いのね! ……どこで気付いたのかしら? “セリスの変装は完璧だった”筈だけど! 貴方、普段からIDをチェックする癖でもあって?」

「体質的に、双子の入れ替わりトリックは効かない体なんだ」

「便利な体ね! ……もうセリスはいいわね。ちょっと待っていて下さる?」

「うん」


 対面に座る彼女が、お化粧直し(キャラエディット)で姿を変える。

 ゆったりとウェーブのかかった薄紫のロングヘアに、レースをふんだんに使った、これぞお姫様といった豪華なドレス。極め付けに、頭上にティアラを装着した。

 AR表示のプレイヤーネームも、『セリス』から『ミレイユ』へと変わる。


「では改めまして、ワタクシ、ミレイユと申しますわ。先日は、うちのセリスがお世話になりました」

「ハルだよ。よろしく」


 茶番は終わり、本来の彼女が戻ってくる。ただ、顔かたちは変わることは無かった。ここは自前らしい。

 先ほどハルは適当に言ったが、本当に双子なのかも知れない。


「なんでこんな悪戯を?」

「イタズラ、という訳ではありませんわ? ワタクシ達、普段からこうして暗躍していますの。二人で一人の『セリス』、というキャラクターだと思ってくださいまし」

「なるほど。君が頭脳担当で」

「セリスは戦闘担当ですわ」


 なるほど、合点が行った。どうりで彼女の称号も、セリスと同じ<紫のお姫さん>であるわけだ。恐らく、二人同時に付与されたのだろう。

 彼女のしゃべり方にも、そういえば聞き覚えがあった。最初の対抗戦の時に、特使として来たぽてとが口調を真似ていたものだ。

 『テンプレお嬢様口調だな、なるほどそれでお姫さんか』、と思ったものである。すっかり忘れていた。ぽてとの前では、気を抜いて地が出てしまったのだろう。

 考えてみれば、セリスの喋り方とはまるで違うものだった。……ここで気付くべきだっただろうか?


「同じユニーク称号が便利でしたので、大抵の方はこれで騙されますわ。セリスの真似も、まだまだでしたのね」

「いや、キミの場合それ以前に、ARにフレンドマーク付いて無いし……」

「って、あの子! いつの間に貴方とフレンド登録してましたの!?」

「やはり天然か……」


 そこが茶番であった。IDを覗くまでもない。


「……恥ずかしいですわ。バレバレでしたのね」

「うん。まあ、元気だしなよ?」


 相方に足元を掬われた形になったミレイユが、真っ赤になって恥ずかしがる。少し不憫だ。

 とはいえ、それがなくともここまでキャラクターの違う他人を演じる以上、ハルが見逃すはずは無い。余計な手間が省けたと考えよう。


 どうやら今回の対抗戦、いやその前のパーティーからの裏話、ことの顛末を語ってくれるようだ。二人で一人の彼女らが何を考え行動していたのか、そこはハルも少し興味があるのだった。

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