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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1644/1771

第1644話 天空魚の地位低下の危機?

 エリクシルネットから意識を浮上させたハルは、内部でのエリクシルとの会話を仲間たちと共有する。

 まあ言ってしまえば、具体的な事は何も分からなかったに等しいが、それでも感覚的には大きく進展した実感がある。


 それらを説明し終わると、それまで『ふむふむ』と頷いていたユキが、全てを簡潔にまとめた分かりやすい結論を導き出してくれた。


「なるほどわかった。つまりだ、要はやはりハル君が、新たな力に覚醒かくせいする必要があるってこったな」

「いやまあ……、そうなんだけどさ……」

「万事解決だな。頑張れハル君!」

「ユキたちも手伝って? 閃くの僕より得意でしょ」

「といってもねぇ。うちら、その場の対処は得意だけど、根本的な対応はやっぱハル君任せになるだろーぜ?」

「その場の対処といっても、何をするのかしら、私たちは?」

「そりゃアレよルナちー。私らも『自己都合フィールド』を習得して、ひとまず奴らとの拮抗きっこう状態を作り出すのよ」

「ですね! わたくしたちが敵国の侵攻を抑えている間、ハルさんには解決策を模索していただくのです!」

「そのまま制圧してくれても構わないんだけどね」


 むしろそれが、ゲーム的な正当な攻略ルートなのではないか。

 プレイヤーそれぞれが、自分に有利な土地効果を自領に展開。敵国とぶつかったら、それぞれのフィールドの有利を押し付け合いながら、敵のそれを打ち崩すべく攻略し合う。

 その応酬おうしゅうが、このゲームにて想定された領土戦争の形なのではないだろうか?


「つまりこれからは、どの国にも似たような独自のルールを持ったフィールドが表れはじめる?」

「俺ルールだ俺ルール」

「地形効果、なのです! アメジストちゃんの、ゲームにも似ていますね!」

「そうだねアイリ。もしかしたら、参考にしたのかもね」


 生徒ごとに特色豊かな世界が創造され、多彩な地形効果や特殊ユニットが生み出されたアメジストのゲーム。

 こちらはフィールドが現実であるためにあそこまで自由な国家創造は出来ないが、確かに近いものをハルも感じるのだった。


「……しかし、こちらは、あの空間とは違って土地その物の侵食は起こりません。あちらは、敵国のギミックが攻略できずとも、引きこもっての侵食勝利も狙えました。しかし、こちらは」

「そうね? もし防衛側の特殊フィールドの能力が互いに強すぎた場合、両者共に決め手に欠いて、どちらもそれ以上一歩も進めない状況になりかねないわ?」

「んー。確かにそだねー。現状でもあの『海』と『森』がぶっかった場合、なーんかそうなりそうだし」


 まだ一つしか経験の無いハルたちだが、なんとなく防衛有利というか、防御力が高すぎるように感じている。

 サコンが『無敵』を確信していたように、あのレベルのものが基準だった場合、どちらも攻めるに攻めきれない可能性はあった。


 ああした『魔法無効』レベルの力はサコン特有の大当たりで、通常はそこまでではないのだろうか?

 それとも、あのくらいの力が基準であり、そのバランスが想定したゲームデザインなのであろうか?


「……防衛有利が、運営の想定したバランスである、というのは十分に考えられる話かもね」

「そーなん? やりすぎっとゲーム終わらんよ?」

「それでいいんだよユキ。むしろ、終わらせたくないんだ」

「……なるほどね? 神様たちとしては、一つの統一した超大国が出来上がることは望んではいない。そういうことね?」

「多種多様な国家がひしめき合う状態が、理想なのでしょうか!」


 その可能性はあった。明らかな『勝者』が決まってしまえば、ログインするのはその者だけになりかねない。


 惑星開拓のための人手という意味でもそうだが、神様たちが何らかの研究を行うために超能力者を中心としたメンバーを呼び込んだのだったら、そのサンプルは多いほど良いのだ。


 魔力発生の大原則にもあるとおり、プレイヤーの数は多いほど、密集しているほど良い。

 その法則がエリクシルネットに関わる何かが原因なのだとすれば、今回もそれが同様に深く関わっている可能性は大きかった。


「そっかー。国境線が確定したら、それ以上はどちらも攻めるに攻めきれない状態が、その後はずっと続く。そんな世界が、お望みなのかもねー」

「そうね? 今ユキが言ったような状態になれば、あのアレキの魔力圏全体が、最大効率で稼働し続けることになる。運営の神にとっては、最も都合が良い状態になるのかも知れないわ?」

「あらそえ、あらそえ、なのです!」

「あはは。神に支配された箱庭だなー、アイリちゃん」

「い、いえ! わたくしは、決して神々を悪く言った訳ではなく……!」

「あら? 構わないでしょうに。どのみち『外の神』よ。邪神なのではなかったかしら?」

「それはゲーム上の都合ね。あまりアイリをいじめてやるな」


 まあ、アイリの信仰心をおもんばかってハルはそう言うが、ハルとしても『神に操られた実験場』の感はぬぐいきれない。


 まあもしかしたら、確定した領土の奪い合いなどよりも、未開の土地へと次々に目を向けて欲しいがための施策なのかも知れないが。

 防御のかたい敵国を攻めるよりも、次々と空白の土地を開拓しろというメッセージなのかも知れなかった。


「でもさでもさ? それなら、ハル君の戦略は大正解じゃない? 最初にがーっと! 一気に領土を確定しちゃったハル君は、自動的に今後も最強勢力じゃ!」

「それは守りきれればの話ね?」

「ですね……! 特殊フィールドを使えなければ、ただの大きな、おやつなのです……!」

「それもあるけど、そう考えるとやっぱり、僕のせいで他のプレイヤー同士の衝突を早めてしまったのかもね……」


 まあ、それはもう言っても仕方のないことだ。

 もし問題が大きいようであれば、今はアレキも仲間に居ることである、彼に言って魔力圏そのものを拡げてもらえばいいだろう。

 また彼の負担も増える事になるだろうが、まあ、それはそれ。


「それでは、今後の目標は、わたくしたちも自分の土地効果を会得えとく出来るようにがんばる! ですね!」

「そだねー。最強フィールド閃いて、皆殺しじゃ!」

「殺すな殺すな……」


 そのあたりは、ユキたちに任せておけばいいだろう。

 ……というよりも、ハルはそうしたスキルに関わるだろうシステムとは絶望的に相性が悪い。人間扱いされていないのだ。


 そうして方針が決まったところで、再び開拓に戻るべく、ハルたちはまた『自分たちの国』へと向かう事にしたのであった。





「とは言ったものの、何をどうすればフィールドを使えるようになるのかしら?」

「やはり、パン生地さんたちなのです! サコンさんのフィールドは、パン生地の木を起点に発動されたと聞きます! ならば、こちらもパン生地さんをどうにかすれば、新たな力に目覚めるはず!」

「んじゃあこのパン生地の魚と、あっちのパン生地の木のどっちかだな、うちらは!」

「……その『パン生地』の呼称も、いい加減考えないとね。……このままじゃ定着してしまいそうだ」

「あら? いいじゃないのハル。パン生地でも。分かりやすいわ?」

「はい! それにとっても、可愛いのです!」

「分かりやすいのは利点だし、可愛いのはいいんだけど、緊張感ががれるからね……」


 まだこの疑似細胞の存在が危険な物であり敵対存在であるという可能性は十分に存在している。あまり、心を許さない方がいいだろう。


 しかし、そんなハルの思いとは裏腹に、<転移>先のこの『溜め池の塔』では、今日もバカンス気分のイシスがのんびりと二匹の魚へエサを投げ込んでいた。

 くつろぎすぎである。今日も水着で寝そべっているのだが、お腹周りは大丈夫なのだろうか?


「あっ。ハルさん。こんにちはー」

「こんにちはイシスさん。本当にここが好きだねえ……」

「い、いや、お仕事はちゃんとしてますよ……!? べ、別にサボってる訳じゃないんですから……!」

「いや、文句言う気はないんだ。イシスさんの優秀さは分かってるつもりだ」

「えへへけ。でもまあ、ハルさんに『優秀』って言われても複雑なんですけどねぇ」

「そんなことないよ。居てくれないと困る」


 別に、ハルも一人で何でも出来る訳ではない。戦闘能力を比べているのではないのだから、気にすることなどないのだが。


 そんなイシスの悩みを紛らわすように、ハルは彼女の優雅な休暇を更に盛り上げてやるべく、何かご褒美を出してやることにした。安易だろうか?


「じゃあ、そんな頑張ってくれているイシスさんには、ボーナスでも出しちゃおうか。何か、ここに追加して欲しい設備でもあるかい?」

「えっ! いいんですか、そんな! えぇ~~、なにしよっかなぁ。あっ、いやいや、そんな上手い話がタダであるわけが……」

「そうよ? 受け取った以上、新たな仕事が追加されるわ? お給料分働かなくっちゃね?」

「ひえぇ……」

「ルナ……、あんまりおどかさないの……」

「冗談よ? 何かあるなら、気軽に言ってみなさいなイシスさん?」

「んー、とはいえ急に言われても。あっ! そうですね。欲しい物じゃないんですが、ちょっと困った事が」

「なにかな?」


 イシスは一人だけ水着なことに少々恥じらいながらもハルたちの方へと寄って来て、その場で『プール』サイドへとしゃがみ込む。

 そうしてその魚の泳ぐ『プール』の水面を指さすと、その水位について語り始めた。


「ほら、ハルさん見えます? 遠くなっちゃってるんですよ」

「ん? ああ、放水がスタートしたからね。本格的に夏になってきたから、少しずつ外の水が減り始めたみたいだよ」

「そういえば、ここは天空の“ぷーる”ではなく、貯水池、だったのです!」

「今明かされる衝撃の事実だなアイリちゃん!」

「いや最初から明かしてたから……」

「お魚ちゃんたちも、だんだん下がって行っちゃって。餌やりもこのままじゃ達成感がなくなりそうです」

「なるほど?」


 いや、餌やりについては、最初からどこまで意味があったかは疑問だが、まあ野暮やぼは止しておこう。


 それに、実はそこも案外真剣に、しかも早急に考えなくてはいけないこの国の重要ポイント。

 ある種の神話となっている、天空の地に住む魚。その神話が、放水により今崩れようとしているのだ。

 このままでは、神聖な天空の魚ではなく、その辺の川に住む普通の魚になり下がってしまうかも知れない。


 さて、ユキたちの新能力とも関わる可能性のあるこの魚と、NPCのうわさ。どう対応すべきであろうか?

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― 新着の感想 ―
人がいてもA.○.フィールドの如く拒絶する環境で魔力が生まれるのでしょうかー。むしろ斥力、魔力の反存在が生まれそうですねー。魔力の反存在、つまり科学……はハル様が魔法科学(?)を使ってますし、ならばア…
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