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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1643/1773

第1643話 これは主人公補正か

「……確かに、法則改変に、病的なまでの魔法由来物質の排除。それらを考慮すると、その目的が自らに施された異世界向けチューニングの解除。そう思えてくるね」

「そうでしょうそうでしょう。加えて、その謎の疑似細胞とやらもそこに繋がるのではないですか? 彼らは今の魔力体を捨てて疑似細胞に入り込み、それを依代よりしろに活動する気なのです」

「そうだね。なんだかエリクシルの言う通りに思えてきたよ」

「我は賢いので」


 まあ、まだ証拠も特になく、やはりこじ付けに近い部分があるのは否めない。

 しかし、ハル対策、ハルへの嫌がらせをしているという想定よりは、現実味を帯びているように思えてきた。


 というのも、今の神々というのは元はエーテルネットを運用する為に作られた補助AI。

 その設計思想の根底には、ユーザーである国民の利益を守るという基本法則が強く刷り込まれている。


 その出自は今も、魂の奥底に刻まれた強い行動理念として、神々の身の内に渦巻いている。

 だが、地球に帰れない彼らはその衝動を満たすことが決して叶わない。

 そのため、彼らの中には今も帰還方法を模索している者は少なからず存在するという話だ。


「人間でいえば、『承認欲求』のようなもの。そう我は理解しています」

「言い得て妙だ。良い例えをするねエリクシル」

「我は、賢いので」

「……エーテルネット経由で不自由なく日本と接続できるようになった今、電脳世界を便利にすることで、その承認欲求を満たそうとする者が増えた。とはいえだ」

「はい。やはり、それのみでは満たされぬ者も出るのではないですか? 欲張りなことだ。それが本来の仕事だろうに」

「まあまあ。身体を持った今、欲求もまた直接的なものにシフトしだしたとしても、おかしくはないよ」


 確かにエーテルネットを管理することが、彼らの元々の使命。しかし、その根源の目的も、彼ら自身の在り方と同様に、大きく変化を遂げていても不思議ではないのだ。


「良い例がカナリーですね。彼女は、現状最初にして唯一の成功例。誰からもうらやまれ、また祝福される存在です」

「そうだね。割とみんな、カナリーのことはなんだかんだで褒めていたっけ」

「目的を果たしたという以外にも、総体としての悲願を達成した者、という敬意も感じているのでしょう」

「本人はまるでそんな事考えてないみたいだけどね……」

「そこは、こうも考えられます。あなた様と同じ管理者となったことで、自動的に根源的な欲求も常に満たされている」

「……何もしてなくても?」

「最高意思決定者なのです。『何もしないこと』を、自らの意志で決定する権限がある」

「うーん、トンチのような解決法」


 まあ、ハルとしても、百年以上も経った今、そんな出自による強迫観念に縛られる必要はないと思っている。

 トンチだろうが裏技グリッチだろうが、カナリーが自分らしく自由に生きられるなら、それに越した事はない。


 ……あとハル自身としても、それこそその百年を『何もしないこと』をひたすら選択し続けて生きてきたので、この理論にはまったく反論など出来ないのであった。


「……しかし、それなら、皆がカナリーと同じ手段をなぞればいいのでは? それだと、個人の目的と微妙にそぐわないのかな?」

「それもあるでしょうが、単純に難度が高すぎるのでしょう。出来るならば、とっくにやってるわ案件というやつです」

「やっぱりそうなのか。魔力も相当使ってたしね」

「それに、四六時中あなた様にくっついていないといけません」

「そういう難易度!?」

「極めて危険です。全員、あなた様の女にされてしまいます」

「いや僕もそんなに見境みさかいなしじゃないからね?」

「我は、別に構わないと思いますがね」

「僕が構うわ。それに一定数、男だって居るだろう」

「?? だから、女にしてしまえばいいのでは?」

「物理的にかっっ!!」


 ……どうにもエリクシルと話しているとツッコミ担当をやらねばならぬハルなのだった。


 まあ、それはいい。それはいいとして、確かにありそうな推測であると話す程に納得もするハルだ。


 それこそエメだって、あれだけ大規模な企てをしたのはひとえに故郷への奉仕のため。

 コスモスだって、常々『復讐』を掲げているのは、自らを故郷から強引に引き離したモノリスを恨むがあまりだ。

 珍しく日本人を軽んじているアメジストですら、なんだかんだで故郷の発展に手を貸している。


 これまで大きな騒ぎを起こしてきた者達も、そうした『望郷ぼうきょう』の念に突き動かされての犯行、と言えなくもないのだから。


「……まあ、そう考えれば、そうして彼らが新たな身体を作り、自由に地球と行き来出来るようになれば、解消できなかった欲求も自然と落ち着くようになる。のかな?」

「さて。そのあたり我には、理解しかねる感情なので」

「まあエリクシルは、出自が研究所とは関係ないもんね」

「はい」


 そんなエリクシルには、何か別の根源的な欲求などあったりするのだろうか?

 この無表情で淡々とした彼女が、魂の奥底では実は強烈な衝動に突き動かされている、というのはにわかには想像しがたい。


 しかし、彼女もまた明確な目的を持った神であることはこれまでの事で理解できている。

 可能であるなら、その誕生に関わった者としてハルも、そんな彼女の役に立ってやりたいと思うのだった。





「しかし、気になることがある」

「なにか? 我は物知りなので、なんなりと聞くといいでしょう」

「魔法のルール知らなかったじゃん」

「賢者は、知らないことをきちんと知らないと言えるのです」

「まあ、そうだね。偉いぞエリクシル。ちなみに知ってて嘘はついてないよね?」

「我が嘘つきならば、ここで答えることに意味はありません」


 ……まるで表情から読み取れない。やりにくい女の子である。


 国民の庇護ひごと同様に、根源から来る解消不能な命令に『虚偽きょぎの禁止』ルールも存在し、神々の個性となっている。

 しかしこのエリクシルには、そうした研究所都合のルールなど関係ないので、神々の中で唯一、嘘がつける可能性があるのだった。


 まあ、とはいえ彼女もまた大切なハルの仲間。基本的には、その発言は素直に信じようと思っているハルである。


「まあ、信じるさ。君の言うことだからね」

「我も誇らしい」

「なんだかな。まあいい。それで、気になったというか引っかかったんだけど」

「はい」

「さっきの話、少々矛盾というか例外がある。異世界と地球で法則が違う、だから神様が<転移>出来ない、というのは良く分かる」

「神が神である以上、不可能でしょう」

「……けどそれをとするなら、何で僕は地球でも魔法が使えてるんだ?」

「?? そんなもの、管理者様が管理者様だからに決まっているではありませんか」

「全部それで思考停止するなよ……」

「ですが、最も可能性の高い説明がそれなのでは?」

「まあ、確かに」


 つい納得してしまうハルなのだった。事ここに至って、自分の特異性を否定しすぎてもという思いもある。

 しかし、全てをそれで流してしまっても良いのだろうか? 『ハルだから仕方ない』、『ハルならやりそうだと思った』、『チートおつ』、仲間にもよくそのように言われてはいるが、さすがに自分自身では理屈付けて納得したいものだ。


「それって例の、僕が『モノリス管理者』になりる存在だから、ってことだよね。それ、正直納得しきってはいないんだけど」

「完全に納得するための、極めて容易な方法がございます。管理者権限を、アクティベートなさればよろしい」

「水に沈めて死ななきゃ魔女理論やめて?」

「失礼な。復活したら救世主理論ですが」

「どっちにしろ失敗したら死ぬじゃん!」


 そもそも成功しても、その先どうなるのか分かったものではない。

 まあこれは、エリクシルの言葉に間違いはない。ハルの意思ひとつで証明可能なものを、ハル自身が渋っているだけのこと。


 ……なんだか言いくるめられている気がするが、まあ今のところはそれでいいだろう。


「……世界を繋ぐ存在と親和性のある僕だから、微妙に異なる世界の法則も自動で微調整が出来る」

「はい」

「都合が良すぎる。じゃあ僕が、<転移>で神を地球に呼べてもいいじゃないか」

「体験版はそこまでなのかも知れません。製品版に、アクティベートなさいましょう」

「ゲーマー思考やめよう?」

「我は管理者様の背を見て育ったので」

「育てた覚えない……、というのもまた酷か……」

「詰みにより我の勝ちですね」

「僕でゲームするのもやめよう?」


 何にせよ、現状ではに落ちない部分があり、その謎となっている部分こそが、例の魔法禁止フィールドを攻略する鍵でもあるのだろう。

 何故魔法が使えるのか、あるいは使えないのか。そこを解き明かす為のカギは、やはりこのエリクシルネットにあるように思えてならない。


 しかし、この空間に最も詳しいと思われるエリクシルも、そこは知らない、あるいは興味がない状態なのが困りもの。彼女から聞き出すことは出来なさそうである。


 となると自力で探り当てるほかなく、それもまた一切の手がかりが見えてこない。


「……この広大な空間で、手探りでヒントをピンポイントで探し当てるのもなあ」

「難しいですか?」

「難しいね。太平洋でビー玉を探すような気分」

「原子の中にある電子の現在位置を特定するようなものですか」

「なんだその例え……」


 サイズ感の対比がそのくらいだったりするのだろうか?


「ねえエリクシル。また君の手助けで、都合の良い情報を引き上げてくれたりしないの?」

「さて。我も知らない情報となると、なんとも」

「そうだよねえ」


 この世界の化身であっても、そこまで万能ではないようだ。

 結局、ハルはその後もエリクシルととりとめのない雑談を続けるだけ続けて、明確な成果なくこの世界を去る。


 とはいえ、多くの考え方のヒントはもらった。それを使い、なんとか突破口を切り開いてみるとしよう。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
要約すると、対抗手段を捨て、自らをオーガニックにした上でパン生地に食べられようとしていることにー!? これにはアメジストも思わず早すぎた埋葬ですねー。アレキたちの癖に負けていられませんよー? そんなと…
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