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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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第1642話 彼女の知る事しらぬこと

「お待ちしておりました管理者様。もう約束の時間でしたか」

「いや違うけど……、やっぱ時間感覚ないのね……」

「はあ」

「君を見ていると、なんだか昔の自分自身を見ているようだよ」

「光栄です。我も誇らしい」

「いやいやあまり褒めてない褒めてない」

「はあ」


 相変わらずマイペースな、のんびりとした、というよりもぼんやりとした雰囲気を貫くエリクシルの元へと、ハルは辿り着いた。


 どろりと身体にまとわりつくような、深く暗い闇の層を抜けると、そこには一転して真っ白に照らされた一面の空白の地が広がっている。

 地平の先は無限に続いているようで、この未定義のフィールドがどこまでも、どこまでも単調に繰り返されているように見えた。


 不思議なのは、ハルが降り立つその空白の地平は毎回異なる地点であろうと思われるのに、どんな時でもエリクシルは変わらずハルの元に現れる。

 この無限のフィールド、無限でありつつも『距離』や『場所』は意味を持たず、どれだけ離れた位置に行こうとも、そこは実質同じ場所であるのかも知れなかった。


 あるいは、この場においてエリクシルの存在が特別なだけ、であろうか?


「では、本日もわれが昔話を語り聞かせてさしあげましょう」

「待てまてっ。今日は約束の日じゃないと言ったろう。織結透華おりゆいとうかのお話じゃなくて、別の話を聞きに来た」

「おや。我にご質問ですか?」

「ああ」


 ハルは彼女に、今回この地に調査に来た目的とその経緯を説明していく。


 織結透華の話も気にはなるが、エリクシルの語るその物語は非常に長く、そして正直謎の解明には繋がっていない。

 これはなんとなく、彼女がハルと定期的に会うための言い訳に使われているような気さえしているのだが、今のところそこの指摘をするつもりもハルにはない。

 ハルとしてもこの世界に一人きりの彼女に、出来るだけ会いには来てやりたいと思っているのだから。


「なるほど。なかなか面白そうな試みです。管理者様の国造り、そちらも詳細に、語り聞かせていただきたいですね」

「それもまたの機会にね。今はこの課題を解決しないと、国づくりどころじゃなくなっちゃうかも知れないから」

「そうでしょうか? 我には、そこまで危機的状況には思えませんが」

「そんなことないよ。結構な脅威だ」

「ですが、あくまでそれは敵陣に限定された事象じしょう。自国では、制限もなくやりたい放題なのでしょう? であるならば、ハル様お得意の入念な準備によって、対応可能な武装を構築すればよい。そうでしょう?」

「うん。まあ。それはそうなんだけどね……」


 まあ実際、やろうと思えば現状のままでも、ゴリ押しで魔法禁止フィールドを攻略することは可能だろう。

 理解が出来ない手札は捨てて、理解の出来る手段を徹底的に鍛えて蹂躙じゅうりんすればいいのだ。


 それこそ、再び電気を中心とした科学王国を建国するとか。アルベルトやメタも大喜びだ。

 エネルギー問題については、また電源ケーブルをずるずると引っ張って来てもいいし、今度は内燃機関を搭載して独立稼働する兵器を生み出してもいい。

 何かとびきりエネルギー密度の高い燃料を開発してしまえば、もう魔法などなくともフィールド内へ単独突入し暴れられるだろう。


 もちろん、そんな近代兵器であろうと、プレイヤー達は未知の力で撃破してくるかも知れない。

 しかし、そこは逆に、撃破されても問題ないのだ。

 無法に量産された兵器の群れは、尽きることなく侵攻をし続ける。一体や二体、倒されたところで文字通り痛くも痒くもないのだから。


「管理者様?」

「ああ、すまない。鋼鉄の兵団が平和な森を焼き払う姿をイメージしていた」

「左様ですか。我の助言が役に立ったようで何よりです」

「しかし敵には、海を操るプレイヤーもいるようだしなあ」

「そこは、管理者様の設計力の見せどころですね。水陸両用、いえここは思い切って、水中専用の兵器を開発いたしましょう」

「なるほど。特化型もロマンがあるね」

「ええ。しかしそうなると、やはり電源ケーブルから脱却する必要があるようですね。水中では、からまってしまいます」

「……新型エンジンの設計は必須か」


 ここはいっそ核動力を、いや、以前に黒曜が提案していた、『対消滅ついしょうめつエンジン』の開発を実現に移すというのはどうだろう。

 反物質の生成がネックとなるが、そこはあらかじめ魔法で生成しておいて、あとはストックする機構さえ確立してしまえばいい。


 燃料がそのまま弾丸にもなる優れもの。その運用バランスに、パイロットのセンスが問われる事となるだろう。


「しかしだエリクシル。敵はどうやら、物理法則を歪めてくるらしい」

「たいへんですね」

「うん。大変だ。もしエンジンの燃焼反応を阻害するようなルールが制定された空間だったら……?」

「そうですね。我ならば、その空間になどそもそも立ち入らず、完全に外部から狙い撃つでしょう」

「確かにね。外ならば、魔法も普通に練り放題だ」

「はい」


 魔法禁止フィールドになど立ち入らず、あくまで遠距離から砲火を放てばいい。

 現代戦は遠距離戦。わざわざ白兵戦を挑みに突撃するなど、時代遅れの手段をとる必要などないのである。


 それこそ、同じ地上から、ゲームエリア内から攻撃する必要すらない。

 ハルたちの手は宇宙まで、衛星軌道上にまで伸びている。


 宇宙戦艦である『天之星あめのほし』から、あまりに一方的な天の裁きを降り注がせる。

 それこそ、宇宙空間に放たれる地上とは比較にならぬ太陽光。それをかき集めたレーザー光線は、サコンの物の何万倍、何億倍の出力を発揮することだって可能だろう。


「……光線兵器ならば、大抵のプレイヤーのフィールドを、その法則改変を貫通するだろう」

「我も同意見です。プレイヤーが人間である以上、最も重要な視覚、光に関する法則は変更しない可能性が高いと推測します」

「だよね。反撃も受ける気がしない。じゃあこれで、問題ないか……」

「管理者様を悩ます問題が減り、我も喜ばしい」


 優秀なエリクシルの助言により、なんと一気に問題は解決してしまった。のだろうか?

 あとは宇宙の膨大な太陽エネルギーをかき集める方法と、新たな砲台を建設するだけだ。これは、難なく終わるだろう。

 これにて、めでたくハルの勝利が確定した。ということでいいのだろうか?





「……いやそうじゃなくてね?」

「おや」

「衛星爆撃で解決するなら、僕も最初からそうしてるっての」

「それは嘘でしょう。我には分かります。管理者様は、仮にそれで解決するとしても、そのような乱暴な手は取らないお方」

「分かってるならそんな提案するなっての……」

小粋こいきなジョークで管理者様を楽しませるのも、我の役目だと思われますので」

「だったらもっと楽しそうにしろ……、目がマジだったが……?」

「難しいですね」


 あくまで無表情でぼんやりと語り続けるエリクシル。さて、どこまで本気であったのか。


 まあ、そんな彼女との会話がハルにとって楽しいものなのも事実ではある。

 やっていることはコントであり、その際ハルが確実にツッコミに回るはめになる、という事だけが少々不満だが。


「さて、では真面目に回答いたしますが、正直なところ、管理者様のご質問に対して、我は回答を持ち合わせておりません」

「エリクシルでも分からないか」

「我とて全知全能ではありませんゆえ。仮に全能であるなら、アメジストにより仕掛けられた『爆弾』の被害が、ここまで尾を引いてなどいなかったでしょう」

「ああ……、あれ、まだ完全復旧できてなかったのね……」


 エリクシルの夢世界に現れた、世界そのものを飲み込む虚無きょむの大穴。

 アメジストの最後のあがきにより、彼女自身は敗北したものの夢世界にそれは大きな爪痕つめあとを刻んでいた。


 まあ、可哀そうではあるが、ハルとしてもエリクシルに完全に自由に行動されても困るので、こっそりとアメジストを評価している部分があったりする。


「そもそも我は、異世界の事情に興味はありません。ですので、魔法の原理についてなど、我が知っているはずもないのです」

「ああ、確かに。しかし、いずれは他の世界の力だって手中に収めるのが君の目的だろう? じゃあ魔法についてもしっかりと、勉強しておくべきじゃないのかいエリクシル」

「確かに。今後は、そちらにも興味を持つとしましょうか」

「……いや、言っておいてなんだけど、本当にやられても困るんだけどね」

「ハル様はいつもお優しい」


 世界全体の事を思えば、エリクシルの思い通りになられても困るのだろうが、この孤独な神様のことを思うと、つい世話を焼きたくなってしまうハルなのだった。


「とはいえ、丸きり心当たりがない訳でもありません。我がスキルシステムを流用していた際、それを通して魔法についても多少の知識は得ています」

「ほう。何か分かると?」

「結論から言えば、『魔法のルール』の参照元がこの空間に存在する可能性は、極めて高い。加えて語るなら、かつての異世界人がその経路を参照して、地球への道を作ろうとした可能性もです」

「なるほど……、そう言われれば、納得の話ではある……」


 かつて壊滅的な被害を引き起こす引き金となった、異世界の人々による『神の夢』、すなわち地球への侵攻作戦。

 それもまた、エリクシルネットという互いに共通した領域が存在したが故の結果と思えば、納得しそうな話ではある。


 ただ、これもまた証拠の無い仮説であるということは、胸に刻んでおかねばなるまい。どれだけそれっぽく聞こえても、これも現状はただの妄想と変わりないのだから。


「まあ、反論もあるけどね。そんなに共通した経路となるなら、彼らは何で失敗したんだろう。そして、神様たちは何で次元の壁を越えられないんだい?」

「それは、それこそ『存在する法則』が違うのではないでしょうか? 異世界の法則に定着した神であるが故に、彼らはそこから出られない」

「むっ。また納得する返答だ……」

「我も考えていますので」


 あまり考えていなさそうな顔で、エリクシルはそう語る。


 しかしそうなると、今回の法則改変、もしかしたら神様たちが次元を渡るためのもの、だったりするのだろうか?

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― 新着の感想 ―
もしかしたらエリクシルネット深層(?)において、メタちゃんも真っ白なレベルでエリクシルが増殖している可能性はあるかもしれませんねー。魔法をさほど把握していないとなると、それこそ種も仕掛けもなく、無限に…
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