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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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第1638話 物理現象の一部としての魔法

「まあ、なにはともあれ、神剣を振り回せたのは楽しかったよ」

「わたくしは不満ですわ? どうせなら、スキルを使って無双むそうするハル様が見たかったですのに」

「盾にされたのが不満なんじゃないんだ……」


 天空城のお屋敷に<転移>し戻ってきたハルたちは、仲間たちの元へと帰還し合流を果たす。

 久々のピンチに、久々の地上での大技連発となるのは予想外の展開だった。無事の合流に、皆も『心配した』とばかりに駆け寄って来てくれた。


「おかえりなさいー、ハルさんー。大変でしたねー?」

「ただいまカナリーちゃん。さすがにちょっと驚いたね。敵の成長スピードは、思ったよりも早いみたいだ」

「このままだとー、地上で怪獣大決戦になりますねー。まあ、まだー? 敵の攻撃力はそれほど高くないようですがー」

「分からないよ? あの力の正体が本当に物理法則の改変ならば、方向性によってはすぐに大変なことになる」


 ちょっと力のバランスを崩してやるだけで、一気に反応が起きやすくなってしまい今の世界が成り立たない。あるいはまるで反応が起こらなくなる。

 そんな奇跡的な力の均衡きんこうの上に成り立っているのが今の宇宙だ。


 そのバランスを都合よく弄ってやれば、もしかしたら腕を軽く振っただけで、周囲の空気が核融合を始めるかも知れない。気軽に最強攻撃の連発だ。

 ……いや、その場合は術者が真っ先に吹っ飛ぶので、さすがにちょっと使いづらいか。


 そんな馬鹿なことを考えつつ、ハルは女の子たちの待つ席に着く。

 アメジストは一緒には座らず、ゴスロリメイドさんとなってメイドさんたちと共に給仕に回るようである。タフなものだ。


「しかし、とっても大変でしたね! まさか魔法が、封じられてしまうなんて! そうなったらわたくし、完全に役立たずなのです……!」

「大丈夫だよアイリ。その時は必ず、アイリのことは守るから」

「ふおおお……、し、しかし嬉しいですが、守られてばかりではいられません……!」

「だいじょぶだいじょぶアイリちゃん。魔力体のうちらよか、アイリちゃんの方がずっと動けるから」

「そうね? かといって、あえて肉体でプレイするという選択も、それはそれで『ナシ』ですものねぇ……」

「そしたら私が役立たずだ」

「身体のユキは大人しいものね?」

「もうこの際ー、常にパワードスーツ着て遊びましょうかー」

「それなら安心です! たあ! ってするのです!」


 まあ、それはそれで、パワードスーツの動力源をどうするか、という問題もあるのだが。

 エネルギー問題のほとんどを魔力に頼ったハルたちの技術は、その根幹を封じられる今回のフィールドと相性が悪い。


 あからさまなハル対策としてそうしているのか、それとも翡翠ヒスイたちには、何か魔力文化を否定するような深い理由があるのだろうか?


「以前アメジストの世界でやったように、『電源ケーブル』引っ張って行くのがいいのかなあ……」

「私もあんときのユキちゃんロボ使うか」

「あれはあれで、わたくしの空間特有の設備あってこその事、という部分がありますからね。完全再現は、難しいかも知れませんわ?」

「だったらそのギャップをあなたが何とかしなさいアメジストー。なんですかー、今回の不甲斐なさはー。あなたそれでも神ですかー」

「それはその、わたくし力を封じられているので、し、仕方なかったのですわ?」

「嘘おっしゃいー。叩かれたかったから、わざとやったのでしょうー。なんですかー、ストーカーの上に、ドマゾさんだったのですかー? これ以上変態属性を重ねて、あなたどうする気なんですかー」

「わたくし嘘はつけないんですけれど!? あなたと違って!」


 きゃいきゃいと何時ものように言い合いをする、微笑ましい女神様たちだった。


 そんな食いしん坊さんとドマゾさんはさておき、真面目に今回の件は対策が必須となる。

 パワードスーツはじめ以前のように科学装備で固めるのもいいが、それよりも根本的な現象解明の方が求められるだろう。


「……なぜ魔法が発動しなくなったのか。そこはきちんと明らかにしておいた方がいい」

「スキルの魔法以外にも、ハル君が手動で発動した魔法も使えなかったんだよね?」

「うん。だから、スキルのショートカットだけを封じている、っていう訳じゃないね」

「私は、苦手ね。どうしてもスキルに頼ってしまうわ?」

「安心せいルナちー。私も苦手じゃ。たまに、アイリちゃんに教わってはいるんだけどねー」

「それは、仕方がないのです。わたくしもエーテルさんの扱いは、ぜんぜんだめだめですもの!」

「生まれた世界が違いますからねー。その辺はどーしても、慣れの問題ですー」

「カナリーはそろそろ、また魔法を覚え直した方がよろしいのではありません?」

「また生意気なことを言うアメジストですねー。いいんですよー。私はこれからはエーテル技術のエキスパートでー」


 ユキが指摘したように、サコンは『スキルを封じた』と語ったが、その本質はスキル封じとはまた別だ。

 これは、別に彼が嘘を言っている訳ではない。結果的にスキルが封じられているのは間違いないのだから。その奥の、現象の理解度に関する問題だ。


 ただ、本当にスキルだけを封じたいのであれば、神はもっと別の手法を取るだろう。

 何らかの手段でメニュー内のスキルを選択不能にしてしまえば、その方がずっとコストパフォーマンスが良いからだ。

 ハルが今語った、『ショートカット封鎖』はそういうこと。


「だからその部分において、発動者であるサコンの思惑と、実際の効果をデザインした者の思惑は微妙にズレていそうだね」

「魔法そのものを、封じたいのですね!」

「ハル君対策だね。それとも、魔法が嫌いなんかな?」

「魔法が嫌いな神様なんて居るのかしら?」

「さー? 少なくともー、翡翠は違いそうなんですよねー。あの子は魔力増やす新たな方法を模索もさくしてましたしー」

「あとさ、あとさ? ジスちゃんは物理法則の改変って言ってたけど、それで魔法が禁止できるの? だって物理っしょ?」

「それはですわねユキさん。この世界では、魔法もまたれっきとした物理法則の一部、ということですわ? 『魔法』という名前だから分かりにくいだけで、科学技術と大差ありません」

「ほえー?」


 まあ、この辺はユキがゲーマーであるという点も大きく認識を邪魔しているかも知れない。

 ゲームではよく、『物理攻撃』と『魔法攻撃』で明確に分かれているものだ。


 実際、物質的な存在と基本的には相互干渉しないという点で、魔法は物理とはある意味切り離された存在。

 しかしもっと大きな視点で見てみると、魔法もまたこの宇宙を構成する隠れた物理法則の一つと言った方が正確なのだ。


 まあ、簡単に言えばそうでなければ、魔法で肉体にダメージを与えることが不可能になってしまう。

 恥ずかしながらハルも、このあたりはきちんと飲み込むまで時間を要した。


 そうした意味ではある種、魔力もまた観測不能な物質、『ダークマター』のような物、と言えるかも知れない。


「まあとはいえ普段は、物理現象と切り離して考えた方が理解しやすいのは確かです。ただ、物理法則への干渉によって、魔法の行使が影響を受けることもある。公式のようにそう憶えていただければ、それでよいかと」

「丸暗記ですよー?」

「ふーん? まあ、分かったー」

「それで、何をどう弄れば、魔法が成立しなくなるのかしら?」

「それはその、わたくしにもまだ……」

「分からないんかーいっ」

「仕方がないでしょう! わたくしも、あんなの初めて見たのですから!」


 まあ、仕方がない。それが分かっていたら、あの場で本人が対策可能であったかも知れない。

 それを解き明かすことこそが、ここからの神様たちの腕の見せどころである。


「……こほん。ですが、なにもわたくしも、まるで無策な訳ではございません。特に、この家には心強い専門家が、揃っていることですし?」

「他力本願ですかー」

「お黙りなさいカナリー。無知を認めて他者を頼る。これが出来る者が、一流なのですわ?」

「そうなんだろうけど……、君がそれ言う、アメジスト……?」


 他者を一切頼らず、今までずっとたった一人で暗躍を続けた彼女だ。完全に『どの口が言ってる』状態であった。


 そんな彼女の紹介に合わせ姿を現したのは、当然のようにいつもお役立ちのエメ。解析といえば毎度おなじみだ。

 そして、今日はその横にもう一人。そんな魔法に詳しいという神の名は。





「それじゃここからは、コスモスが説明するよぉ」

「はい! よろしくお願いします、コスモス様!」

「んー。くるしゅうない」

「あれ? もすもす? てっきり専門家のウィスト教授かと思っちった」

「ユキ、くるしゅう! アイリを見習う! 魔法研究は、奴の専売特許じゃないもんー」

「く、『苦しゅう』って何だ……? とりあえずごめん……」


 くるしゅうなくないのである。つまり苦しいのである。

 苦しいので、決して他の神様の下位互換扱いなどしてはいけないのである。


「そもそも、魔法の発動に使う『式』、あれってどっから来たのか、知ってるー?」

「それは、神々がわたくしたちにもたらして下さったもので……、いえ、しかし、神々は実は、地球からいらした存在で……?」

「ん。そー。そのとーり。魔法は元々、この世界にあった」

「わたしたちはそれを、後から学んで使ってるだけっすね。まあ、とはいっても、実際に人間よりも数段魔法に対する適正は上で、我々が作り上げた魔法の方が今では多いくらいっすけど」

「ん。洗練した」

「それでも、それは改良であり、いちから魔法を発明した訳ではございません。そして改良という名の魔改造はしまくりましたが、それでも変わらず残っている部分がございます」

「それが、発動の為の式ということね?」

「そっすよルナ様!」


 その辺は、ハルもあまり気にしたことはなかったが、どうやらそういう事らしい。

 そして、その式をかつての異世界人たちが、どのように『発明』したのか。それも、この場に招かれた『専門家』がコスモスであることから、なんとなくハルも予想は付いた。


「どーにも、その式は、モノリスの解析によって得られた。コスモスは、そう思ってる」

「……やっぱり」

「まー。こっちのモノリスはバラバラだから分かんないっすけどね。ただ、わたしもその可能性は高いと思ってるっすよ。決して、コスモスちゃんの妄想やこじつけじゃないと、弁護しとくっす」

「エメ。妄想じゃない。私は、自分の研究ふくしゅうのために真実を捻じ曲げたりなんてしないー」

「それはちょっと怪しいですわ……?」


 まあ、モノリスが関わるとちょっと暴走しがちではあるが、今回は善意で協力してくれているのだ。あまり、水は差さずにおこう。


 そんなコスモスが、『どうやって魔法の発動を阻害してきたのか』についての、予想をハルたちに話してくれる。


「んっ。実は魔法を全て封じる方法は、意外と単純。さっきハル様が言っていたような、『ショートカット封じ』と、案外似ている」

「魔法にも、スキルみたいなショートカットがあんの、もすもす?」

「あるよー。じゃあユキにも分かるように、これから魔法の物理的な原理を、説明してしんぜよう~~」

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― 新着の感想 ―
地上で怪獣大決戦ですかー。文明の破壊者ウルトラ○ンが超能力を使って大暴れですねー? お前ら人間じゃねぇ! 案件ですよー。……元々ドワーフだからセーフ? どのみちハル様に叩き出されてアウト(大気圏外)で…
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