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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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第1637話 否定できない基本法則

 明日くらいからはなんとか平常レベルに戻せそうです!

「輝け、神剣」


 ハルが降りぬいたその刀。それは本来ならば、<飛行>し遠ざかるサコンのその身にかすりもせず終わる、そのはずだった。


 しかし、その鋭い軌跡は軌道を延長するかのように、深い『黒』に輝く斬撃のやいばとなって飛翔する。

 ハルの『神剣』。空間そのものから連鎖的、爆発的にエネルギーを取り出して、その連なりがあたかも光の剣が飛んでいるように見える必殺の一撃だ。


「ぬおおあぁぁあぁ!? バカなッ! スキルは封じられているハズだぞおい!」

「ああ、封じられているね。でもこれ、技能スキルじゃなくて技術スキルだから」

「意味がわかんねぇぞ! 分かるように説明しろ分かるように!」

「どちらかといえば、固有能力アビリティ寄りなのではないでしょうか……?」


 アメジストの指摘には、ハルは今は答えない。

 ハルも内心、この結果にはハルの技術どうこうよりも、付与されたエリクシルによる支援の効果こそが大きく反映されている疑念を抱いている。

 もしかするとこの技も、本来この変異空間では正しく機能しないはずのところ、エリクシルの力で『幸運にも』成立してしまったという可能性があった。


 ただ、エリクシルの存在についてはまだサコン達に聞かせるつもりはない。

 神々の存在については解禁しても、彼女の存在とその居場所については、またもう一段階の極秘事項と認識しているハルだった。


「さて、どうだろうか? なかなか良いサプライズだっただろう」


 ハルはアメジストを“持った”まま、空中でくるりと身をひるがえし、サコンの代わりに神樹の頂上に着地する。

 サコンはといえば、片足を切り飛ばされて、ショックもさめやらぬといった表情で慎重に<飛行>し距離を取っている。


「しかしハル様。カナリア無しでもいけたんですね、神剣」

「まあね。もともと刃が薄ければ発動可能な技だから。ただ、『神剣カナリア』があったらそれに越したことはないんだけど」


 腕の中のアメジストが振り返り、ハルの武器について率直な疑問をこぼす。

 ハルが今日腰から下げていたのは、飾り気のない普段使いの普通の刀、に見えるがその実これも特注品だ。

 いざという時に神剣の光が発動可能なように、また単純に切れ味のために、刃先が分子レベルの驚異の薄さを維持している恐るべき逸品だ。


 それでも勿論、神剣カナリアの方が適しているのは間違いないが、今は謎のジャミングによって、神剣の呼び出しもまた封じられているので仕方がない。


「クッソぉ! なんなんだよ、そりゃあよ……!」

「さて、なんだろう? じっさい『こういう技術』としか、僕も言いようがない」

「ふざけたヤローだ! いいぜ、構わねぇ! 技術だかなんだか知らねぇが、その力も封じてやる!」

「止めておいた方がいいと思いますわよ? この力、この世界の空間の特性、そのものを利用した、ある種世界の法則ですわ。それを封じるということは、空間の在り方そのものを書き換えるということ。下手をすれば、貴方の存在すら危うくなりますわ?」

「ごちゃごちゃウルセぇ! やってみなきゃ分かんねぇだろぉ!?」

「うーん蛮族ばんぞく……」


 一見彼は粗暴そぼうなように見えて、実は思ったよりもしたたかに見えて、それでもやはり蛮族か。

 ハルたちを飽きさせないのは良いのだが、そう考えなしに次々やられても困ってしまう。


「ねえアメジスト?」

「なんでしょうハル様」

「……これが原因で、連鎖的に宇宙崩壊、とかないよねえ?」

「まあ、さすがにそこまでは……、運営連中がセーフティーを敷いていると思いますし……」

「どぉしたどおしたぁ! 急にビビってんのか!? 止めれるもんなら止めてみるんだな!」

「止めると言われても、アメジスト、彼って何してんの?」

「さぁ? 恐らく『気合い』を溜めているのだと思われますが。『はぁぁぁぁぁ!』と気張りさえすれば、大抵の技は出ると信じる、小学生特有のアレですわ?」

「誰の頭が小学生レベルだ!」


 このフィールドに新たなルールを追加しようとしているのか、サコンはその身の周囲に何かしらの力を溜め始める。

 実際それはただの妄想やポーズではなく、元々歪んでいた周囲の大気は、彼を中心に更なる渦を巻き始めた。


 本当に、そうして気合を入れるだけで新たな力が発生するとでもいうのだろうか?

 本来ならば一笑いっしょうすハルであるが、人の意識そのものをトリガーとするエリクシルネットの存在を知ってしまっているために、頭から否定しきれないのも困りものだ。


「止めますの? 今なら隙だらけの所に、神剣を叩き込めそうですが」

「いいや、止めない。むしろこちらが、そろそろ回避をしないと。あれは誘いだねアメジスト。ここで焦って僕が攻勢に移れば、そこに隙ありとサコンはレーザーを叩き込んでくるだろう」

「…………」

「やっぱりか」

「あら。蛮族にしては意外と冷静」

「チッ」


 やはり、ただの蛮族ではなくしたたかな蛮族であった。

 全力で気合をチャージしていると見せかけて、実はそれは単なるポーズ。ハルの攻撃を誘うための偽装ブラフ


 それが暴かれた途端、ハルの足元から、そして取り巻く木々の全てから、再びレーザーの乱射が始まった。


「ハッ! 避けやがったか! その戦闘センスは認めざるを得ねぇ! だが、テッペンまで登ってきちまったがゆえに、もはや飛び回る足場なし! 飛べないテメーでは、空中に逃げ場なし!」

「いいや。こうして跳んでしまえば、この空中でも逃げ場が出来る。正しくは、死角が出来る」

「あのー、ハル様……? わたくし少々、また嫌な予感がするんですがぁ……」

「そう、当然、このアメジストの盾によって。いや、『アメジストボード』によって」

「わたくしを『足場』にぃ! あーん……、ハル様に足蹴あしげにされるわたくし……」

「だんだんオレも同情してきたぜ……」


 ハルは空中で横たえたアメジストに“乗る”ように、その身を盾にし下からのレーザー照射に耐える。

 ここでゲームなら、ダメージの反動で浮き上がれそうなものだが、現実ベースのここではそう上手くは行かないようだ。光にそこまでの力はない。


「そのまま落ちて来な! 狙い撃ちだ!」

「ハル様! その前にあの樹を伐採ばっさいしてしまいましょう!」

「無駄だ無駄無駄! <惑わしの森>展開中の神樹は無敵よ! どうやったって攻撃は止めらんねぇぞっ!」

「これはまた、すいぶんと念入りに優位を確保している……」


 ハルは念のため試しに数発、神剣の光を大樹へと叩き込んでみるが、サコンの言葉の通り、その樹皮じゅひには傷の一つも付かなかった。

 それどころか、葉っぱの一枚すら散っていない。これは、『無敵』は誇張でもなんでもなく、本当にただの事実であるらしい。


 そんな無敵の神樹の森に、ハルとアメジストはあえなく落下していく。

 そうして、<飛行>も封じられ足場もない。空中をただ落ちるしかない二人は、レーザーの雨に丸焼きにされる他に道はない、はずだった。


「まあ実は飛べるんだけどね」

「はぁっ!?」


 ハルはその神剣を、今度は自らの後方へと構え、振りかぶった状態でそのまま発動する。

 大樹には無効、サコンにも向いていない。破れかぶれに放つにしても意味不明な状況。その様子に疑念を抱いたサコンの表情は、一瞬後には驚愕きょうがくに見開かれることになる。


 ハルは神剣の輝きをジェット噴射のようにして、光の尾を引きながら高速でその身を『射出』したのであった。


「意味わかんねぇぞテメェッ!! 本気でッ!」

「おぼぼぼぼぼ! いい反応ですわ、ばばばば蛮族。ハル様の素晴らしさを、そうしてその目に焼き付けおぼあぁっ!?」

「だからなぜお前はその状態で無理に喋ろうとする……」


 空中でアメジストを振り回しながら、縦横無尽じゅうおうむじんに、そして恐ろしく鋭角えいかくに方向転換を繰り返し、ハルは空中を跳び回る。

 そう、自由に飛ぶというよりは、高速で強引に跳ね回っているといった方が近い。


 攻撃のための神剣を逆に推進力として、ハルは超高速で空に光のアートを描き続けた。

 それはもう人間の目と反応速度で追えるスピードではなく、サコンの放つレーザーはまるで狙いを定められなくなっていた。


「このままトドメを刺してしまうのがよろしいですわ、ハル様」

「……んー、別に、彼を倒すためにここに来た訳じゃないしなあ僕。それに、まだ何か手札を隠しているのも事実だろうし」

「では、この勢いで一気に離脱をしてしまいましょう?」

「それも無駄なことだ。『迷いの森』からは出らんねぇ。そういうもんだろ? フィールドを発動したら、中からは脱出できねーよ」

「そうらしいね」


 実際、先ほどからハルは強引にこの場を突破しようと試みてはいるが、謎の力にそれを阻まれている感覚がある。

 どうやら、彼を倒すか、彼に倒されるかしか、この地での選択肢はないようだった。そして、それは必ず後者になるようセッティングされている。


「いいぜ、来なハル! オレの切り札、特別にテメーに見せてやるぜぇ!」

「あ、いや、それは結構。今回はここでおいとまするからさ」

「は?」


 ハルはその勢いのまま一気に地上へ急降下、サコンとの正面衝突のルートへ突撃する、ように見えた。

 しかし直前でまた一気に鋭角の方向転換。アメジストを振り回しながら、あるポイントへと飛び込んでいく。


 そこは、戦闘開始直前にアメジストが引き抜いた神樹の一本。今もそれが倒れたままの『穴』。

 規則正しい配列の唯一の綻びとなったその場を、ハルは見逃していなかった。


 その空中に空いた一部の隙間、そこだけが通常の法則を維持している。その隙間に二人が飛び込んだ瞬間、ハルはすかさず、その身を<転移>させこのフィールドから脱出し帰還するのであった。

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― 新着の感想 ―
アーツ:ハル様ならいいですが、纏:エリクシルの可能性が高いあたり悩ましいですねー。使えば使うほど憑依段階が進んでいき、最後には憑神になってしまうかもしれませんー。響きだけだと覚醒しても長い演出のあとペ…
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