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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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第1636話 絶望的な射程差

「ハル様、現状ではなんとか出来ないのですか? その溢れるエーテルパワーでなんとかしてくださいまし」

「だからここじゃ溢れるほど用意できないんだよ。そもそも、エーテル技術は破壊に向かないからね」


 とはいえ、人類の科学の結晶だ。規模が大きく出来さえすれば、兵器転用も可能なのは確か。しかし今の状態ではないものねだりだ。


「その身体能力で変な樹を駆け上がってあの高い所にいる馬鹿を殴りつけるとかぁ」

「誰が馬鹿と煙だバカみてーな格好した女が!」

「猿の遠吠えなど響きませんわ? どうでしょう? やりませんかハル様。わたくし頑張って盾をやりますので」

「うん。盾としての自覚が芽生えてきたようで何よりだよ」

「やっぱバカでヘンタイじゃねーか……」

「んあっつぅ! ……ですが、この程度でわたくしを倒せるなどと思わないことですわね。ハル様をお守りしている限り、わたくしが消えることなどございませんの」

「……なんだその耐久。……本気できもちわりぃ。どんだけレベル上げればそーなるんだよ」


 話している間にもアメジストの体に次々とレーザーが突き刺さる。

 今までの侵入者であれば、もう既にじゅうぶん撃破出来るだけの光線を叩き込んだのだろう。痛がっていながらも平然としているアメジストに、サコンは首を傾げていた。


 まあ、そこは仕方ない。仮にも神であるアメジストの身体だ。その強度が通常プレイヤーと比較にならない特注品なのは、当然のこと。


 ちなみに、熱い熱いと叫んではいるが、通常神は温度変化を受け付けない。つまり彼女はあえてその『熱さ』を感じているということになるが、やはり変体なのだろうか?


「君の献身けんしんは嬉しいが、」

「いや献身もなにもテメーが後ろに隠れてんだろぉが!」

「そこ、ツッコミは嬉しいがもっとタイミングを読んで行ってくれ」

「ツッコミじゃねぇ!」

「アメジストの献身は嬉しいが、身体機能だけで奴を倒すのは、まあ現実的じゃなさそうだね」

「何故ですの? やはり威力不足でしょうか?」

「いや、そもそも届かない。相手は<飛行>を使える以上、飛んで逃げられて終わりだ」

「それプラス、もう一個理由を追加だ。この神樹を登ってこようとすれば、当然、全方向から葉に囲まれる状態になる! そうなりゃ女の尻に隠れようが、どうあがいてもテメー自身も黒焦げよ」

「だろうね」


 一応ハルも、殺人レーザーが多少直撃したところで一撃死するほどヤワではない。

 神樹とやらも世界樹と比べてしまえばそう大した高さではなく、曲がりくねったその形状ゆえ足場も確保し放題だ。


 恐らくは手動発射であろうレーザーを、そんな高速で跳ね回るハルにサコンが照準出来るかどうかも怪しい。

 案外、ノーダメージで彼の元にまで辿り着けるかも知れなかった。


 ただ、やはりこぶしや剣を叩き込めたとしても一発が限度。それ以降は、<飛行>でしっかり距離を取られてしまう。

 そうなれば枝を踏み台にしても届くか怪しい。いやはや、やはり最近は魔法に頼りきりになっていた事をまた実感するというものだろう。


「しかし、楽しいね、こういうのも。縛りプレイみたいで燃えてくるよ」

「縛られてんのも燃えてんのも、その女じゃねぇか……」

「それはプレイじゃないから」


 現状、互いに決定打がなく膠着こうちゃく状態。とはいえ、明らかに不利なのはハルの方だ。

 敵の方は手札がこれだけと決まった訳ではない。いやむしろ、今は温存しているだけという可能性は非常に高い。

 その新たな手札を切られる前に、なんとかして打開策を見つけなければならなかった。


「ではハル様、いつもの見せ場ですわ、こんな時こそ。絶体絶命のピンチ! その時、新たな力に目覚めるハル様! 敵は驚愕きょうがくに目を見開いてノックアウト! これですわ!」

「いや『これですわ』と言われても……」

「いつもやっていたではありませんか。さあ、今回は特等席で、わたくしにその瞬間を見せてくださいまし」

「いや今回は『覚醒かくせいする予定』なかったしさ」

「んだその都合の良い予定はよォ……」


 たびたび、新たなスキルを閃いて敵を下してきたハル。しかし今回は、さすがにその閃きのとっかかりも得られていない状況だ。

 アメジストの言う通り、これが『局所的な物理法則の変異』をもたらすものならば、まずはその法則を知らねばどうにもならない。


 もちろん、ハルもアメジストも、裏でしれっと解析は行っている。明らかな遅延ちえんのための茶番にアメジストが付き合ってくれている理由も、その時間稼ぎだろう。

 ……決して、自身が盾となりハルを守るこの状況に、気持ちよくなってしまっている訳ではないと思いたい。


 ただ、そんな解析結果も、すぐに出てくれるほど甘くはなかった。アメジストの献身むなしく、パズルは一向に進まない。

 当然だ。新たな宇宙を一から、解き明かしていくようなものなのだから。


「ここはやはり、イチかバチかに賭けるしかないか……」

「そうですわハル様。お得意の忍者技能、見せてくださいまし」

「あぁん? 結局ヤケになって突っ込んでくんのか? 拍子抜けだな、もっとナンか見せてくれると思ったのによ。いや、当然だな。この<惑わしの森>のフィールドの中で、何が出来るはずもねぇ!」

「どうかな?」


 ハルの事をしっかり調べたらしいサコンも、またその覚醒の事例の数々も目にしていたはずだ。

 そんなハルであるなら、この状況でもまた、都合よくなにか突破口を開くスキルを閃くのではないか。そう警戒をしていたらしい。


 そんなある種の期待に添えなくて申し訳ないが、先に語った通り今はそんな予定はまるで立っていない。


 いや、正しくは、“新たに技を閃くほどの必要性を感じない”。

 アメジストを盾にしての、冷静な周囲の状況観察。それにより、現状あるピースのみでこの空間の攻略方法が整った。

 さすがに全てを支配下に置く完全攻略には程遠いが、この窮地を脱する程度は、造作ぞうさもない。


「じゃあ行くよ、アメジスト」

「ええ。どうぞわたくしを、『装備』してくださいまし、ぐえっ……! は、ハル様ぁ、出来れば装備の仕方は、もっと優しくぅ……」

「こう持たないと僕の持ち手が危険だろう?」


 ハルは腰から刀を抜くと、右手に剣を、左手に『盾』の構えをとり立ち上がる。

 もちろんアメジストの『装備』は、首の鎖を掴んでの雑な構えだ。放っておくと調子に乗るので、たまにはこうして自分が罪人なのだと思い出してもらいたい。


 装備を整えるとハルはすぐさまその場を飛びのき、叩き込まれるレーザーの予感から距離を取る。

 その予測通り、一瞬後には元居た位置を回避不能の“光速”攻撃が貫いて、その判断の正確性を裏付けていた。


「あっ、あっ、あっ、あっ、あっハル様ぁ、そう全てを回避せずとも、あっ、わたくしを盾にぃ」

「回避した方が早い。それに、君にばかりそんな頼れないよアメジスト」

「そう思うのであれば、わたくしに当たる分の光線も回避して、くださいませぇ。結構当たってる、わたくしには当たってますわぁ……!」

「まあ、そこは避けてないからね」

「テメェ、最初に思ったよりヤベェ奴だったんだな……」

鬼畜きちく、ですわぁ。でもそこが魅力……」

「こら、風評被害を振りまくな」


 最初はどう思われていたのだろうか? まあ、あまり甘ちゃんと舐められるよりは、鬼畜と思われた方が良いかも知れない。


 それはともかく、ハルはアメジストの盾を振り回しながら、早くも一本の神樹の根元に接敵。そのまま間を置かずに駆け上がりはじめた。


 曲がりくねったその樹は予想通りに、足場となる枝が非常に多い。

 ハルはニンスパで鍛えた三次元的な空間軌道、ハイスピードのパルクール動作にて枝と枝の間を反射するように登りつめて行く。


「オイオイオイオイ! 生で見るとスゲーなこりゃあよ!」

「ででで、ですっわあ! しかしかしかし、わたくしはもっと、密着して、間近で堪能たんのう出来ているので、わたくしの、勝ちですわぁ……!」

「……それ、ホントに見えてんのか?」


 振り回されるアメジストは、レーザーの乱射を弾きながらハルのその反射に付いてくる。

 ……正直、邪魔になっているようにしか見えない。置いて来た方が、身軽になって良かったのではないか。そうサコンも言いたそうだ。


「だが! 登り切ったからといってどぉする!? テメーが自分で言ったように、オレは飛んでここから逃げればそれでいい!」


 ハルが頂上に辿り着くより早く、サコンは既に<飛行>で回避を始めていた。もう、その距離は拳も剣も届かない。

 だが、それでいい。その程度の距離など、何ら問題にはなり得ない。


 ハルは構わずその鋭く研ぎ澄まされた刀を降りぬくと、サコンに向けて“攻撃”を放つのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
い、一応まだ、美容のためにサウナに入り、そのまま温感センサを切り忘れたとか、そういう可能性もありますしー……? 切り忘れたなら切ればいいだけなのだから、敢えて受けているのは変態の所業? やはりアメジス…
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