第1629話 動き出した各地のつわもの
ハルたちが国の再構成でてんやわんやとしている間にも、他国も当然ただそれを待ってくれるはずもない。
ゲーム開始からしばらくの時間が経ち、最初は圧倒的だったハルたちとの国力差も、徐々に詰まってきているようだ。
特に国の成長の要となるらしい文化面での優勢が大きく、彼らはスキルとも絡めて、その部分でハルたちよりも突出した成長をみせていた。
とはいえ、国土の広さはまだまだハルたちが大きくリード、その優位を保っている。
初動の差はやはり大きく、更にはシステム外の行動によりゲームフィールドを『外付け』し追加してしまったこともあるのでこれは仕方ない。
そうして想定外に狭まってしまった残りのフィールドには多数の国家が窮屈にひしめき合い、限りの見えてきた残りの土地を求めて、一触即発の構えを多くの国家が見せていたのであった。
「私たちの国も、他人事ではありませんね。というよりも、実は最も目をつけられていると言っても過言ではないでしょう」
「へえ。そうなんだ、大変だね?」
「ハルさんがそれ言う~~?」
ハルたちの国の直近、真北の位置に横付けする形で入植したソラとミレ。ソウシを含むこの同盟国もまた、開戦の危機にさらされている。
それは、ハル国と距離を取るためにソウシが立案した北進計画が原因、と、いうだけではかった。
「まあね。この土地は一応、僕を除外して考えれば『南端』ではあるが、元々がマップの中央だ。そこに陣を構えれば、周囲の人間の目を最も引きやすい」
「はい。しかも、私たちはデフォルトの都市をその内部に取り込む形で成長を行ってきました」
「今はもー、あたしたちの国を通らずに初期都市とアクセスはできないよ」
「そりゃ反感を買うね」
「とはいえ、最初と比べれば、あの街の優位性も相当薄れはしましたが。別に、あれがないと生活が成立しないという国はもうないはずです」
最初のうちは、働き口を求めるのも不足物資を買い求めるのも、初期配置の城塞都市が無ければ話にならない状態だった。
しかし今は、そこまでの依存度は存在しない。自国内で産業を完結させたり、周辺国家とのやりとりだけで間に合っている。そんな国が増えてきた。特に遠いほどそれが顕著。
「しかし、明確に我々が有利なのも事実。利便性の他にも、それを『ズルい』と快く思わない者が出るのも当然でしょう」
「それならそっちも、最初からこの辺に来ればよかったのに。自分たちがハルさんを怖がって、離れていったのに勝手なやつらー」
「まぁまぁミレ」
「まあ、自然な感情ではあるね」
正体不明な謎の大国と接するという特大のリスクを取る勇気を見せたソラたちが、デフォルト都市を独占するというリターンを得た。
まあ、いってみればそれだけの話。ただ、傍から見ればリスクなしで美味しい思いをしていると、そう見えてしまっても仕方がない。
「あとは僕が、防壁を解除してしまったのも大きいかな」
建国予定地に他のプレイヤーが入って来ないように、長城のように大地を盛り上げて作った魔法の壁。
今はそれも、元通りの地面として埋め戻し、解除しているハルだった。
これは他のプレイヤーがあらかた自分の領地を設定し終えた事に加え、ハルたちの方も予定地に家を埋めていく作業がそこそこ進んできたこともある。
今は街そのものが国境線となったことにより、わざわざ防壁でラインを制定する必要がなくなったのだ。
……あとは、空き地がなくなるにつれ、単純に防壁のエリアが邪魔になってきた、という理由もあった。まことに自分勝手で申し訳ないことである。
「確かに防壁解除で、脅威度が低く見積もられてしまった、ということはあるでしょう。とはいえ、主原因はやはり私たちの行動によるものですね」
「あたしたち、後ろ盾もないもんねぇ。他の派閥からすると、やりやすい相手のはず」
「なるほど? 僕はてっきり、ソウシ君がところかまわず挑発して回ったのかと思ったよ」
「それも……」
「なくはなーいっ」
まあ、それも予想通りだ。大人しくしていられるソウシではないだろう。野心を胸に、覇道を掲げて国土拡大に邁進する。
ただそんなソウシの意志の輝きが、国力を押し上げる勢いとなっているのも確かなのだろう。ソラたちも、苦言をこぼしていいのか否か、どうにも判断が微妙そうなのだった。
「……それで、確認しておきたいのですが、我々が他国と戦争状態になった時、ハルさんは」
「助けてくれるー?」
「いや、助けられないけど」
「で、ですよね……」
「けちぃ」
「こら。ミレ。ハルさんの立場では、仕方のないことでしょう」
「いやまあ国際的な立場がどうこうというよりは、単純に助けるための戦力がない。兵士がいないからね、うちの国」
「えっ」
「えー」
「兵役がないんだ。効率悪いしね」
「そ、それじゃあ、他国に攻め込まれたらどうするんです?」
「家にこもる」
「た、確かに……、ハルさんたちの建てた家は、無敵でしたね……」
「がんじょう……」
ミサイルすら弾き返す強度を備えた最新鋭の近代建築だ。もちろん人間の兵士の攻撃などで、びくともしない。
脅威となるだろう存在は、国主であるプレイヤーのみ。とはいえ対プレイヤー戦においても、そこはハルたち自身が出張ればいい。
こちらも、最初の会敵から比べればスキルが大きく成長してはいるだろうが、それこそ誇張抜きで宇宙怪獣を相手にできるハルたちの敵ではないだろう。
ハルたちに制限を掛けずにゲームに招くと、こうなるのである。
まあ、相手も招いたつもりはないかも知れないが。
「まあ、そんな僕らの国も、いずれは家の防御力だけを頼りにはやっていけなくなるだろうしね。対策は何か、考えておいた方がいいのかも知れない」
「それが良いと思います」
「防衛はだいじ」
いつの間にか、各国は発展と共にNPCの兵士化にも力を入れていたようだ。
ハルたちはそこを内政に全振りすることで、強引に国力強化しているために隙が多い。
いずれ、ハルたちの存在抜きにしてこの国を存続させていくつもりであるので、落ち着いたらその部分も、何とか考えていかねばならないのだった。
*
「なるほど? どこもかしこも、小競り合いが起きそうなのね?」
「目が合ったら、ではなく国境が隣り合ったら、すぐさまバトルなのです!」
「そこまで野蛮じゃない、と言いたいけど、まあ基本そうなるかもね? この手のゲーム」
「それで、直近の国と戦端が開きそうなのかしら?」
「いや、そうとも言えないらしい。もちろん、危ないことは危なそうなんだけど、一番距離が近いのは大きな派閥の一味らしいんだ」
「終わったじゃない」
「おおぜいで、総攻撃なのです……!」
「けど、その派閥もまた、別の派閥と睨み合っているようでね。後ろを気にして、こちらには来ないんじゃないか、ってソラは考えているみたいだよ」
「ふーん? 楽観的が過ぎる、とも言えないのかしらね?」
「日本の方でも、そうして生き抜いて来た方々ですしね! そうした直感は、鋭いのかも知れません!」
二正面作戦などというものは、どんな国だろうと避けたいもの。
それを嫌って攻めるのを躊躇するというソラの予測は、あながち的外れともいえないだろう。派閥間の微妙な力関係については、彼の方が詳しい。
あとは当然、大国であるハルたちを警戒しているという事もあるだろう。謎の同盟国の存在は、無視するにはいささか不気味が過ぎた。
「となると、ソラさんたちが警戒しているのは、どの国なのでしょうか!」
「それはねアイリ、まずは当然あの『海』だ」
「気になりますよね!」
「当然ね?」
「けど海に関しては、最優先警戒対象でもないらしい」
「なんと! それは、遠いから、というだけでなく?」
「うん。もちろん距離が離れているということもあるんだろうけど、その海の主が、どうやら派閥の中では発言力の低い立場でいるから、ということらしい」
「……なるほどね? 強力なスキルに目覚めはしたけれど、その強大な力を、自由に振るえる権限がない。だからこそ、あの海の範囲は大して成長していないのかしら?」
「だろうね」
「納得できる話なのです!」
貴族社会で重要なのは、能力などより家柄ということか。アイリやルナがすんなり納得してしまっている事からも、よくある話なのだろうとハルにも伝わってきた。
むしろあの海には、同盟国も対処に困っているのかも知れない。
そうなると現実の派閥をベースに同盟を組むのも、どんなスキルを内に秘めているか分からぬ者でチームを組むようで、少々博打の感が強いのだろうか。
「となると、天羽さんが危ないでしょうか!」
「まあ、あの人もなにを考えているか分からない人だったけれど、このゲームに招いてくれたホストに、いきなり恩を仇で返すこともしないのではなくて?」
「だね。それに、天羽の工業国家も、僕らと同様にまだ内政に力を入れている段階だ。こっちにまで侵略に打って出る可能性は低い」
「ということは、森の国、なのです!」
「そうだねアイリ。あのサコンが、性格的にも一番怪しい」
「好戦的だったものねぇ……」
一度、ハルたちの国にも単身乗り込んで来た無謀なチャレンジャー。その時の敗北以降は顔を見せないが、依然として他所では暴れているらしい。
彼が居を構えた森は、資源として伐採を続けているにも関わらず、何故かその深さと、面積を増しているらしい。
恐らくは翡翠が適宜補充をしているのだろうが、何となくそこに、あの灰色の細胞の影がないか気になってしまうのが最近のハルたちだった。
さて、海だの森だの、文明というよりは大自然が侵食してきた気のするこのゲームだが、その行く末はいったいどうなって行くのだろうか?
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2025/6/24)




