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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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第1624話 民間伝承が生えてくる

 ダイヤモンド内蔵の家から派生し、魔法使いの家系が誕生することになったハルたちの国。

 その影響は徐々に国中に伝播でんぱしてゆき、日を追うごとに自分も魔法使いとして活動するNPCたちが増えてきた。


 彼らはまるで、最初からそうであったかのように、いやそれどころか、先祖代々そうであったかのように、素知そしらぬ顔でそれまでの生活を捨て活動している。

 こう頻繁に、コロコロと歴史が変わっては文化どころではないと思うのだが、ゲームに突っ込んでも仕方のない部分はある。

 それよりも、それを利用して進行を有利に進めるべく使い倒す方法を見つけるのが、ハルの役目というのもだろう。


「ただいまーっ」

「ただいま戻りました!」

「おかえりヨイヤミちゃん。アイリも、おかえり。どうだった?」

「はい! たっぷりと情報収集を、してきたのです!」

「でもまだつまんないねー。もっともっと、こう『魔法の国ーっ!』って感じにならないと、おもしろくなーい。ねーお兄さんー。もっとガンガン変異を進めちゃおうー? 街のあちこちで、常に魔法バトルが起こってるような国とかに!」

「嫌だよそんな国……、管理する方の胃が死んじゃうよヨイヤミちゃん……」

「管理もNPCに押し付けちゃえばいーのっ! あはははは!」


 笑顔で恐ろしい提案をするヨイヤミであった。

 管理うんぬんもそうだが、そんな人的被害、物的被害のかさみそうな国は経営面からも御免こうむりたいハルである。


 そんな話を嬉々として語る、小さなヨイヤミと、そしてアイリ。

 彼女らは街の内部に二人で飛び込み探検を行い、NPCたちの生の声を聞いて来てくれたのだ。


 しかしまあ、確かにアニメに出てくるような、なんでも魔法バトルで解決しそうな国は見ている分には面白そうだ。

 きっと高飛車たかびしゃな女の子に、いわれのない理由で決闘を申し込まれて、それに勝利してしまいなし崩し的に仲良くなるのだろう。


「……でも冷静に考えると決闘で何でも解決するとしたらさ、力こそ全ての山賊さんぞく国家になりそうだよね」

「だからこそ、決闘は神聖なものであり、みだりに行ってはならないのです……!」

「お兄さんもアイリお姉ちゃんも何の話してるの?」


 決闘のトリガーは神様が管理しており、人間の意思だけでは行えないイベントだ、という話だ。ハルと勝負したアベル王子は元気にしているだろうか?


「まあ今回は、争いが起きるとしたら国家間でのことになるのかな? やはり国内でいがみ合っている余裕はないね」

「いやいやお兄さん、日々ぶつかり合うことで、切磋琢磨せっさたくまし強くなるんだよ! 来たるべき、戦いにそなえて!」

修羅しゅらの国、なのです!」


 そんな戦闘民族のような国もどうなのだろうか。

 まあ、もし戦争になるとしても、戦闘の矢面に立つのはハルたち自身ということにはなりそうだ。

 住人たちの戦闘力を、そこまで気にする必要はないだろう。


「で、街で情報収集してきた様子はどうだったかな?」

「はい! みなさま、とても親切にしてくださいました!」

「子ども扱いすんなって感じだったけどねー。あと、やっぱりまだまだ田舎くさいよー。ハルお兄さんさ、やっぱり田んぼがいけないと思うんだ。あれをどうにかしないと、湧き上がる芋感いもかんぬぐえないってー」

「とは言ってもねえ。あれをどうにかしてしまうと、この国の人口を維持できない訳で……」


 まあ確かに、徐々に文化が形成されてきたとはいえ、今のこの国は見た目の面で少々問題を抱えているのは事実だろう。


 別に、水田がそこまで悪いとはハルは思わない。むしろ景観のつまらなさを演出してしまっているのは、ハルたちが用意した量産型の家屋のはずだ。

 現代日本のデザインをそのまま持ってきてしまった関係上、ファンタジー世界としては実に強い違和感を発してしまっている。


 かつては王道のファンタジー国家を形成し、今も着々とファンタジー建築に勤しみ国を広げているお隣さんのソウシも、この国を見学した際には非常に形容しがたい深みのある表情をしていたものだ。

 例えるならば、味は抜群にいいが見た目が絶望的に悪く、食に携わるものとしては認めがたい料理を食べた時の顔、といったところであった。


「そろそろ家のデザイン面にも、手を入れていかないといけないのかなあ……」

「作り直しとなると、とっても大変そうなのです!」

「でもやんなきゃだよねー? アプグレはいつだって、必要だもん!」

「そうだね。それに、現状この国の家は、僕らにしか弄れない。滅多なことで壊れる心配はないとはいえ、頑丈すぎるせいで、NPCには解体も建て替えも出来ないんだから」

「究極の建売たてうり住宅国家だね! この国では、家すらも配給制! 勝手に家たてることは、まかりならん! あはは!」

「共産主義にするつもりはないんだけどなあ……」

「いいえ! むしろ住宅を建てることは神の御業みわざ! 人に手出しできぬ領域なのです! いわば王権神授おうけんしんじゅならぬ、住宅神授!」

「おっもしろーい!」

「嫌だよそんな国……」


 そうして神より与えられた神聖な家が、量産型の建売住宅では有難さもへったくれもないだろう。

 別に信仰などどうでもいいが、また変な文化が芽生えてしまわぬうちに、なんとか対策を考えるべきだ。


「あっ、そういえば、信仰ってほどじゃないけど、街の人たちがそんなうわさしてたよハルお兄さん」

「噂? 住宅について?」

「んーん。だから信仰の話。信仰っていうより、言い伝えとかおとぎ話って感じかな? 神話、ってほどじゃないやつ。ねー、アイリお姉ちゃん」

「はい! あの貯水池について、噂になっていました!」

「ほう」


 この街からは、立ち昇るきりに隠されその姿を隠蔽いんぺいしている真っ黒な塔。

 今ここの街中まちなかからでも、南にぼんやりと常に霧がかっている状態として確認できた。


 本来は高すぎる塔が長い影を落とすはずだが、その霧、正確にはアレキによる光の捻じ曲げによって、ほぼ通常時と遜色そんしょくのないレベルの光量が確保されている。


 そんな隠された塔だが、やはり完璧に透明になっている訳ではないため、NPCたちの口に上ることは避けられなかったらしい。

 さて、その存在は、彼らの文化にいったいどういった影響を与えたというのだろうか。





「みんなねー、『あの霧には近寄っちゃダメ』って口酸っぱくして言うんだよ。もちろん、私はそんなの聞いてあげないんだけどねー!」

「わたくしも、こうして入って来てしまうのです! いえ、霧には入らず、飛んで上から来たのでセーフ……、なのです……!」

「そんなトンチみたいな……」


 まあ、そもそもの塔の開発者がハルたちなのだ。そこに踏み入るのに、住人の許可など得る必要なし。


 そんな問題の現場たる貯水塔の上に、ハルたちは今やってきていた。


「とはいえ、そうした言い伝えみたいのが生えてきてくれるのは有り難いね。興味を持ったNPCが、勝手に次々入って来てしまっても困るし」

「ですね!」

「もしかしたらさー。もう入った人がいたのかもよ? そしたら、霧の中はまっくらでなんか真っ黒な壁がある! 『こりゃたたりじゃ!』って、なったのかも! かも!」

「まあ、無いとはいえないか。しかし、祟りってことは、その言い伝えってのは、そっち方面なの?」

「うん。入ると神様の怒りを買うから、絶対入っちゃダメってさー」

「民間伝承、というやつですね!」

「変なところ日本ベースだね。田んぼや住宅の影響か?」

「さー?」

「あとは他にも、色々と伝説はありましたね」

「そーそー。霧のてっぺんには神様が住んでいるとか、神様が三日三晩雨を降らせて、あの霧の土地を作ったとか。三日もかけてないのにねぇ」


 まあ、細かいところはともかく、そこは実情に即している。シャルトが開いたゲートから、大量の水が休みなく、滝のように流れ落ちる様は街の中からも確認できたことだろう。

 それが変な伝わり方をして、『文化』の一部に組みこまれてしまったようだ。


 こうなると、巨大ダイヤをカットするソフィーの曲芸のような剣さばきも、どう解釈されるか分かったものではない。

 今後は、ハルたちが何かやらかすたびに新たな伝承が生まれてしまうのだろうか? 妙な厄介さも生まれてしまったものである。


「……まあいいや。細かいことを気にしすぎていても進めやしない」

「そうして行くとこまでいって、最後に頭抱えるやーつ。私も最近、お兄さんが分かってきたもんねー」

「そこが、ハルさんの良いところなのです!」

「本当に良いところなのかい、それは……?」


 アイリはハルの事なら何でも肯定してくれるので、たまに逆に不安になるハルだった。

 まあ、あとでルナあたりに聞いてみるのがいいだろう。きっと、忌憚きたんのない意見というものを聞かせてくれるはずだ。少々脚色が混じっている可能性には注意しないといけない。


「しかし、塔の頂上に神様ねえ。それって、よくこのプールサイドでくつろいでる、イシスさんの事かな?」

「あはははは! イシスお姉さんが聞いたら、しぶーい顔しそー!」

「イシスさんはとっても素敵な女性なので、女神様のように思っても不思議ではないのです!」

「まーでも、下からじゃお姉さんの水着姿は覗き見できないよねー」

「あっ! わかりました! では、そのイシスさんがいつもえさをあげて可愛がっている、この子たちのことなのです!」

「……確かに。最近、妙な成長を見せてるよね、こいつら」


 アイリの指さす『この子たち』は、呼ばれたのを察したのかどうかは分からないが、その白い姿をゆっくりと浮上させ、すぐ傍にまでやってきた。


 それは、例の『海』からソフィーが捕獲してきた二匹の魚。

 その姿は以前とはうってかわり巨大化し、色も灰色から白へと変化している。なんとなく、神聖さを感じないこともない。


 そんな、正体不明の細胞の集合体であるこの魚。これらも、まさか国の『文化』の影響を受けて変化を起こしているのだろうか?

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― 新着の感想 ―
どこぞのゲームで全てが決まる世界でも、アッ○ェンテと宣言しルールに則った決闘を行うことを神に誓って、好き放題に暴れまわっていたわけですし、ハル様たちの国でもゲームで全て決定することにして、NPCどもを…
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