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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1621/1772

第1621話 頭のいい馬鹿たちの遊び

 さて、他国の事情を気にするのもいいのだが、自国の発展をおろそかにしてはいけない。

 大規模な水田整備の計画が軌道に乗ったことにより、ハルたちの国も安定して人口が伸び続ける段階フェイズに入ってきた。


 しかしながら、それでもまだまだ課題は多く、ハルも今まさに、都市計画担当のアルベルトからその相談を受けているところだった。


「国の発展が停滞ていたいしておりますハル様。人口面ではなく、文化レベルが」

「まあ確かに。街は広くなってはいるけど、今のところまだまだ原始的な暮らしから脱却できてはいないよね」

「これは、住居のレベル的にもう限界であり、それがボトルネックとなっているのかと」

「そうだね。今まではひたすら数を増やすために、地面をそのまま加工してその場に家を建てていた。そろそろ、次の段階に行った方がいいのかも知れない」

「ですね」


 ハルたちの作り出す住居は非常に堅牢けんろうで、建築様式も現代日本のそれを踏襲とうしゅうした先進的なものだ。

 エーテル技術により作り出されるそれは、工期の面でも品質の面でも、非常に高いレベルでまとまっている。


 しかし、それはあくまで人間としての視点。問題なのはその住居を評価するのは、人間ではなくNPCの住人たちであるということだ。


 彼らにとってはこの立派な家も、システム的に最下層ランクの『土造りの家』でしかない。その辺の土を固めて作ったので、当然だ。

 家の完成度の高さからそこそこの評価を受けてはいるが、どうしても素材部分が足を引っ張り頭打ちになる。


 言うなればハルたちの国は今やアンバランスに発展した『超巨大な村』。

 そこを脱却するには、そろそろ建築素材の部分にも目を向けなくてはならないのだった。


「しかし、どうする? なにをすれば、彼らの評価は上がるんだ?」

「我々では、正式なプレイヤーの方々が使う建築コマンドは使えませんからね。それを経た建築でなければ高い評価が得られないとしたら、厄介です」

「一応、試験的に鉄骨を仕込んだ家を並べた地域はお金持ちが住むエリアになっているけど、そこまで劇的な違いはない」

「はい。もっと大幅に格差が出ると思ったのですが」

「だよね」


 となると素材以外にも、考えなければいけない要素ファクターがまだ存在するということだ。

 事実、周囲に点在する他の国では、人口こそハルたちに及ばないものの、文明レベルでは一歩先を行く国家が、ちらほらと誕生し始めていた。


 例のハルたちに蛮族ばんぞく扱いされていた、森に拠点を構えた粗野そやな男性、サコン。

 彼の国家も、建築素材それ自体はほぼ木造にも関わらず、どんどん立派な街へと成長してきている。少々悔しい。


「このままでは、僕らの国こそただ広いだけの蛮族、ではないが、田舎者の集まりに思われてしまう! それは、あまりよくない」

「ええ。全くその通りです。広くハル様の威光を世に知らしめるためには、文化的にも最先端でありませんと」

「……いや威光は別にいいが。ただ、文化か。ふむ」

「何か気になる事がおありですか?」

「ああ。僕らと彼ら、違う部分はその『文化』だったりしないかなと。サコンの国はそれこそ、『森の民』という非常に特徴的な要素を備えている」

「なるほど。つまり、我々の国家は」

「うん。面白みのない平地に同じような家が連なる『つまらない国だから』、成長しない可能性がある。言ってて悲しくなってきた……」

「大丈夫ですハル様! あの一面に広がる立派な水田! あれを評価しない者がおりましょうか!」


 ひとり勝手に落ち込むハルを、なんとか元気づけようとアルベルトが焦りまくしたてる。

 まあ、別段そこまで気にしている訳でもないので、心配をかけるのは止めておくとしよう。気を取り直し、その水田地帯へと視線を向けるハル。


「とはいえ、水田を整備しただけでは『文化』としてはイマイチの判定、ってことかな。いや、文化要因説はまだ仮説だけど」

「もし正解であっても、いきなり文化を作り出すのは容易ではありません。やはりここは、素材要因から攻めてみるべきですか」

「だね」


 そうしてハルたちは、国力向上のための実験に乗り出す。

 まずは、現状で可能な手段にて、住人をどこまで強化できるのかの、そのテストからである。





「ここが?」

「はい。この国の中心部、そこから少し外れた位置にある、最上の一等地を設定しようとしている土地の、予定地となっています」

「何で完全な中心じゃないのさ?」

「それはもちろん、中心にはハル様の居城たる、専用の一大建築を予定しているためですとも」

「だと思った。でも、僕はここには住まないよ?」


 よく『ハルの国』とは言っているものの、出来ればこの地は完全委任して自動運用したいハルだ。

 この国の役割は、ここから南に他のプレイヤーを決して通さないことなのだから。


「まあ、お金持ちエリアってことだよね。なるべく金持ちが誕生するように、全力で作ると」

「そうなりますね」

「……ただ、お金持ちといっても何を素材にすればいいのか。鉄材を使っても、そこまでアッパーにはならなかった事から考えて、生半可なまはんかな素材じゃ結果は変わらない気がする」

「出来れば、いわゆる『貴族』レベルの住人を誕生させたいところ。大規模国家の運営を担える、そんな人材が欲しいですね」

「それならレア人材が生まれるまで、家を建てては壊してを繰り返すという手もある」

「『ガチャ』ですね。効率は、悪いかと」

「まあ、排出率0%かも知れないしねえ」


 ハルとアルベルトはそんなバカな話をしながら、周囲を歩き回り将来的な区画整理を脳内に思い浮かべていく。

 そんなヴァーチャル貴族街の一角、とある区画の前で足を止めると、まずはそこを最初の実験ポイントと見定めた。


 ハルはその場に豪邸の完成予定イメージを描きながら、手持ちのアイテム、もとい所有している実際の資源のリストと、しばし睨めっこを始めるのだった。


「さて、どうしよう。一応、御兜みかぶと家との提携もあるから、日本から高価な資材を取り寄せられる。合法的に」

「<物質化>したコピー品とすり替えることを罰する法律がないだけ、とも言えますがね」

「まあ細かいことを言うなアルベルト。それで、どうする? 壁から屋根まで全て黄金で出来た家でも作ってみるか?」

「……さすがにそれは、趣味が悪いのではないかと。そこまでやれば、確実に金持ちは出てくるとは思いますが」

「まあ、脂ぎった成金に出られても困るか」


 求めるのはただのお金持ちではなく、国を率いる優秀な人材。どんなNPCが生まれるかは、完成まで分からないというのも困ったものだ。

 まあ、幸いハルたちの場合は、家を作るのも一瞬なのでやり直しにそこまで手間はかからないのだが。


「それが理由ではないですが、金はやめておきましょう。御兜様に借りを作りたくない、という理由もありますが、可能であれば、他の用途に使用したく思います」

「例の、防災施設とかか」

「はい。現状、金は合成に手間がかかりますので」


 もし黄金の豪邸が有用であっても、再現性が低いならば意味がない。

 お金持ちは一人居ればいいだけでなく、ある程度の集団として必要なのだから。その分の素材が確保できないならば、効果は薄い。


 ついでに、やはり見た目が少々ギラギラしすぎている事が気になるし、そもそも柔らかすぎて建材として向いていないだろう。防御力も低い。


「となるとダイヤか。安直すぎかな」

「安直ではありますが、悪くはないかと。再現性の面でも、優秀です」


 結局のところただの炭素だからだ。もちろん、その規則正しい配列を再現するには、そこそこの労力がかかるが、それでも金を核融合、または核分裂により合成するよりは楽にすむ。

 何処にでもある素材を『悪魔の玉手箱』に放り込めば、簡単に量産が出来るだろう。


 一方、気がかりというかデメリットになりかねないのが、ダイヤモンドの価値はそれ故に現代ではさほど高く見積もられていないことがある。

 そうした現代人の求める価値基準により、素材評価が成されている疑惑があるこのゲーム。そこまで高級な家にならない可能性もあった。


「しかし、素材が用意できたとして、どうやって家にする? 日本でやったガラスの城みたいに、透明な家にでもするか?」

「七色にプリズムで輝く、レインボー豪邸もよろしいかと」

「黄金の家とはまた別のギラギラ感があるなあ……」

「まあ、それは冗談として、見た目は普通の家にすればよろしいでしょう。通常のエーテル建築に用いるペーストの中に、ダイヤの粒を混ぜ込みます」

「わー贅沢。住人は、それで満足するのか……?」

「住人が満足する必要などありません。システムが満足すればいいのです。『大半がダイヤで出来た家』だと判定されれば、それで問題ありません」

脳筋のうきんすぎるね」


 そんな頭の良さそうで頭の悪い話をしながら出来上がったのが、この計画。

 そうして頭のいい馬鹿二人の手によって、ドロドロに溶けた地面に大量のダイヤの粒がばら撒かれていく。

 そのペーストがひとりでに持ち上がり、広大な敷地の中に立つ豪邸としての姿を形作っていくのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
そんな、ハル様の国の文明水準が石器時代だなんて、由々しき事態ですねー。何でもかんでも叩けば解決するなんて認識で収穫した稲を米粉になるまで叩き続ける文明になってしまってはパン生地文明と同類にされかねない…
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