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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1618/1772

第1618話 迫る海開きに備えよ

 投稿遅くなり申し訳ありません!

「海だと?」

「うん。海」

「馬鹿げた話だ……」

「でも事実っぽいから仕方ない」


 後日、ハルたちは自領で“農作業中”のソウシの元へと赴き、例の『海』についてを共有していた。

 ソウシにとっても初耳であり、また非常識な話として受け止められたことから、彼らはまだそのレベルの極端な超能力には目覚めていないと伝わってきた。


 探査能力がハルたちに及ばぬこともあって、ソウシたちはまだ、海に関しての情報自体が初耳であったらしい。


「ハッ! なんともふざけた力だな! だが悪くない。つまりは俺も、遠からぬうちにそうした力を手に入れられるということなのだからなっ!」

「大した自信だ」

「でもソウ氏、今は地道にトウモロコシ農家さんやってるじゃん。大丈夫だいじょぶそ? そんなんで?」

「ええい、余計なお世話だ! 農業に必死なのはお前たちだって同じだろうが! あとその変なアクセントを止めろと言っているだろうが……」

「尊敬をこめてソウ氏と呼んでるんだけどなぁ」

「どう聞いても皮肉がこもっているだろうがっ!」


 一面に茎を高く伸ばすトウモロコシの畑の中から、ひょっこりと顔を出したユキがソウシをからかってゆく。

 これから夏に向けてこれらは更に成長し、ハルたちのお米よりも先に、収穫の時期を迎えるだろう。


「でもめっちゃ育ってんじゃん。ジャングルみたい」

「フッ。俺にかかればこの程度、造作ぞうさもないというもの」

「迷い込んだら、出て来られなくなってしまいそうなのです!」

「そうだねアイリ。気をつけよう。万一迷い込んだらその時は、まず太陽を見てね、それから……」

「ふんふん!」

「……いや、確かに通常ならば危険だが。飛べばいいだろうが。俺たちの場合は」

「確かにそうだ」

「確かにそうです!」


 大きめの麦わら帽子が可愛らしいアイリとのそんな一幕に、ため息交じりのツッコミを入れられてしまうハル。

 しかしそんな遭難を心配せねばならぬほど、ソウシのトウモロコシ畑は、広く立派に育っていた。


「ソウシ君はトウモロコシを作ることにしたんだ」

「ね。うちらに穀物勧めてたから、てっきりソウ氏は麦にするんかと」

「フンッ。こいつもれっきとした穀物だぞ?」

「にゃんだと!」

「知らんのか。まあ、近年の品種や食べ方しか知らなければ、無理もないな」

「流石は食品メーカーの御曹司おんぞうしだね」

「だね。てっきりお飾りのボンボンかと」

「素直に褒める事が出来ないのかお前たちはっ!」


 ともあれ、ソウシの言うように現代日本で生活していると馴染みが薄いが、事実トウモロコシも米や麦に比肩ひけんする立派な主要穀類だ。

 特に土地によってはこちらの方に軍配ぐんばいが上がる事も稀ではなく、特に米や麦の生産には向かない土地でも、問題なく生産できるという例は多々あるのだった。


「お前たちに二択を提示すれば、必ずそのどちらかを選ぶと、そう思っていたぞ。その間に俺は悠々と、手間なく安価に、大量生産できるこいつらを使って、天下を取る」

「がんばえー、ソウ氏ー」

「僕らが水田を作って水が足りなそうだから仕方なく、じゃなくて?」

「そうだよ! 分かっているなら少しは加減を考えろ、馬鹿が!」


 まあ、そうした仕方なしの事情を差し引いても、ソウシの語ったトウモロコシ評は間違いではない。

 ある種奇跡的なレベルで人類に都合のよく出来ているこの植物は、実際に米や麦を上回る利点を数多く備えている。

 食品に詳しいソウシならば、消去法ではなくとも、これを選択した可能性は十分にあった。


「まあいい。トウモロコシは神からのたまわり物、などという伝承もあったと聞く。畑を作れば天から降って来るこいつには、ぴったりだろう?」

「確かに! 翡翠ヒスイ様が、お作りになられているのです!」

「地球の方の、最初のトウモロコシの出現も、神が遺伝子変異させたものだったりしてね」

「笑えん」


 あまりに他の植物とは異なるために、色々と謎が多いらしいトウモロコシの話であった。ハルとしては、美味しければなんでもいいが。


 そんな丈夫で環境変化にも強いトウモロコシも、さすがに海水に浸かるのはまずかろう。

 例の『海』の出現は、ソウシたちも含め全ての農家の敵である。


 ここは両国で協調して、被害を最小限に抑えるべく事に当たりたかった。





「結局、海がこちらに来るかどうかが問題よね? 相手にその意思があるのかしら?」

「意志の有無は、その海を作った術者次第だね。該当者がどんな人物なのか、後でソラやミレに聞いてみようと思う」

「そうね? 野心的な人間ならば、来て当然と備えておくべきでしょうし」


 自国に戻ったハルたちは、今度は自分たちの水田の様子を眺めつつ、今は遠い『海』について思いをせる。

 こちらは踏み込んでも遭難の心配がないので、安心。代わりに足が確実に泥だらけになるが。


 一面の水面も、それこそまるで海のようになみなみと水をたたえているが、本物の海に飲まれればそれどころでは済まない。

 簡単に農業を壊滅させられるのはもちろん、他国の家も人も、街そのものも飲み込んで制圧できてしまうチートじみた能力といえよう。


「来るかどうかは別として、来た場合が終わるから、対策は必須っしょ」

「ユキさんの言う通りなのです! 備えは、しておくべきかと!」

「そうね? ソウシはなんと言っていたのかしら?」

「渋々だけど、同盟としての協調を約束してくれたよ。彼も、自慢のトウモロコシ農園が海中に沈むのは耐えがたいだろう」

「似合わないわねぇ、彼には。ふふっ」


 農場主として水からせっせと農作業に励む、農園王ソウシ。その様子を想像して、一人ツボに入っているルナだ。


 まあ、実際は彼の仕事は大枠を整える所までであり、細かい部分はNPCと翡翠がやっているのだろうが。


「それで、対策としてはどうするべきなのかしらね? ハルの作った長城のようなもので、水の侵入を防げばなんとかなるのかしら?」

「まー、普通フツーに考えれば、だね? ルナちーの<近く変動>も大活躍じゃ!」

「そうね? 頑張るわ?」

「わたくしも魔法で、お手伝いするのです!」

「まあ、それで済めば一応の難は逃れられるといえる。けど、根本的な解決にはなりはしないからね」

「防いでも水が消えるわけでは、ないですからね!」

防波堤ぼうはていを乗り越えるレベルに増えるとか?」

「そうだね。あと、それどころか、接触した物質を『海』に組み換える能力、とかいうインチキの可能性だってある」

「うひゃー」

「防壁も食べられてしまうのです!」


 あまりに異常なその懸念けねんも、決して無いとはいえないのが困ったところだ。

 なぜならば、突如として出現した海の突拍子とっぴょうしのなさが、『そこにあった地面を組み換えて現れた』と考えた方がしっくりくるからである。


 本当にそんな能力であった場合、物理的な防壁は無意味。こちらも何らかの能力により、海の浸食しんしょく侵食しんしょくを防がねばならない。


「蒸発させちゃえば?」

「却下。温度が凄いことになるよユキ」

「ゲーム全体が、サウナでしょうか!」

「じゃあ分解は、どかな?」

「出来なくはないね。別に今回は、魔法使っちゃいけないってルールはない。海を丸ごと<魔力化>していいなら、僕も魔力が手に入って一石二鳥だ」

「ただその結果、残るのはごっそりとえぐれた土地だけ、ってことにならないかしら?」

「……そうなんだよねえ。再建しようと得た魔力で<物質化>しても、そっちは今度、ゲーム側に正当な物質として認識されないし」

「難しい、です……!」


 まったく、何故そのような面倒な仕様になっているのか。

 まあ、十中八九ハルに好き放題にさせないためだろうが。


 そんな中で根本的な部分で『海』に対策をしようと思うと、やはりこちらも、同質の能力により対処を行う必要性が感じられるのだった。

 つまるところは、同じ超能力によってである。


「ルナちーの<近く変動>じゃあどーにかならない?」

「難しいわ? まずその海そのものにスキルが作用するか分からないし、出来たとしても、それってただ水の形を変えるってだけにならないかしら?」

「そう、ですね。ルナさんのスキルは、物質の組成それ自体は弄っていませんから……」

「それに、私の体力的に、どうしてもね? ハルやユキみたいに、長時間ずっと海に向かって対処してはいられないわ?」

「いや僕も、別にルナ一人に海を抑えさせようなんて思わないよ」

「そもそもまず先にMPが尽きちゃうっしょ」

「相手の方は、どのくらいMPを使うのでしょうね?」

「そら、ダークマターが補助してくれっから、実質無限よ、無限」


 本当にそうかどうかはともかく、その可能性が否定しきれないのが厄介なところだ。

 実質消費ゼロで能力を発動し続けられるなら、長期戦ではどう考えても不利。


「ここはやはり、あれしかないのでは!」

「そうだねアイリ。防壁を作るよりも、あれを敷き詰める方が対策になりそうだ。ただ、コストがどうしてもねえ……」

「あれって?」

「例の防災施設かしら?」

「ああ、あれ」


 その通りである。『海』の接近も明らかに災害であるので、防災施設で無効化できる可能性が高い。

 しかし、例の施設はMPどころではない燃費の悪さ。それが、ネックとなっているのであった。


 果たして、その燃費を無視できるような都合の良い能力、または新施設のようなものが、まだ見ぬシステムとして隠れているのか?

 実用化に耐えるか否かは、それ次第。そこに賭けるしかないのであった。

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― 新着の感想 ―
ソウ氏はハル様一行が素直に褒めたところで不気味がりそうなので、KAWARIGARIも大変ですねー。そんなソウ氏をからかーーKAWAIGARUためにもちょっと婉曲的表現になってしまうのは致し方なしですね…
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