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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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第1616話 遊びたい盛りの、夕焼け小焼け

 水底みなそこから渦を巻きながら上昇してきたアイリと、その渦に翻弄ほんろうされるように流れに身を任せるカナリー。

 そんな彼女らの奥には、大小さまざまな石が巻き上げられて、凄まじい勢いで水面へと向って来ている。


「うわ! なんだ攻撃か!?」

「無差別範囲攻撃だ! マルチターゲットだ、ミキサーだ!」

「『水』『地』複合魔法だなソフィーちゃん!」

「あれかも! 研磨けんまする機械かも! かどとって、つるつるにするやつ!」

「良く知ってるねソフィーちゃん、そんなの」


 流石は元サイボーグの身体を持っていただけはある。などと、言っている場合ではない。


「二人とも、危ないからさ。一度ルナたちの方へ避難して」

「ほーいっ」

「しゃーねーなー?」


 まあユキとソフィーなら直撃を受けてもまるで問題はないだろうが、二人にはそれよりもルナたちを守ってもらいたい。


 身を乗り出して渦を覗き込もうとするヨイヤミをユキがつまみ上げると、抱えて強引に壁面にまでその身を下げた。


「ぶ~~。もっとよく見たい~~」

「いかんぞヤミ子よ。もし足を滑らせて中に突っ込んだら、水着がボロボロにされてしまう」

「わーお。それはちょっと、えっちでダメだね!」

「だろう?」

「でも私はユキお姉さんみたいにおっぱい大きくないから、スマートに回避できるかも!」

「ひゃんっ! ……ヤーミー子よー、おいたがすぎるぞー。ハル君、おしおきしてやってー」

「そこで僕に振られてもなあ」


 ゲームキャラとしてログイン中で、体が敏感になっているユキだ。抱えたヨイヤミに不意打ちで胸を触られ、つい可愛い悲鳴を上げてしまう。

 そんな接触を苦手とするユキからヨイヤミを預かると、彼女をあやして大人しくさせつつハルも壁面部にまで身を引いた。


「到着です! 小石をたくさん、お届けなのです!」

「目が回りましたー……」


 アイリとカナリーも自ら上がって来ると、引き連れてきた渦の魔法の仕上げにかかる。

 水しぶきごと派手に水上へと打ち上げられた無数の石は、そのまま壁を転がり落ちるように、遥か下方の大地へと落ちていくのであった。


「お届けしました!」

「なかなかいい仕事が出来たんじゃないでしょうかー。それにー、きっととってもいい運動になりましたよー?」

「カナリー様……、流れに身を任せているだけでは、あまり運動にはならないのです……!」

「そんなー」


 カナリーの運動はともかく、アイリの魔法によって底に溜まっていた石の大半が、水と共に一気に排出された。

 水も混じっていたとはいえ、まるで遠心分離機にでもかけるように、アイリは効率的にほぼ石だけをはじき出した。その技術の高さは見事という他ない。


 しかしそんなアイリの手法に、物言いをつける二人の少女のシルエットが一歩前に踏み出した。両者とも、ずずいと胸を大きく主張している。


「待たれよアイリちゃん!」

「そうだよアイリちゃん! 魔法は、ルール違反かも!」

「残念ですが、そんなルールは、ないのです……! お二人のおかげで、大きな岩がなくて、とってもやりやすかったのでありがとう……、なのです……!」


 対するアイリも一歩も退かず、むしろ煽りを交えて胸を張る。

 こちらは一転してつつましやかな膨らみだが、それもまた可愛らしい。


 そんな大小の対立に我関せずなカナリーは、ぱちゃぱちゃと両者の間を横切ると、一直線にイシスの隣へと腰かけて休憩のジュースを頂いていた。


「減点じゃ減点! アイリちゃんは大事な水こぼしちゃったから、減点……!」

「そうだそうだ! あとは、大切な魔力をいっぱい使っちゃったから、減点!」

「魔力を消費しているのは、お二人も同じだと思うのですが……」

「そこー。不毛な争いしている間にもまた石は落ちてくるんだから、ゲームセットならもうネット張っちゃうよー?」

「ネットってなに!!?」

「わたくしたちの、苦労は!?」

「なんだったのー!」


 まあ、ゲーム仕立てにして楽しみはしたが、根本的な解決を考えれば、最初から岩石が混入しないようにしておくのが一番だ。

 ハルがここより上空に落石避けのネットを設置すると、それ以降、プールに石が飛び込んでくることはなくなったのだった。





「じゃあ、今回の勝者はアイリだね」

「やりました! ……しかし確かに、ちょっとズルをしてしまった気持ちは、わたくしにも、あるのです」

「まーまー。アイリちゃんがごっそりやってくれなかったら、うちらじゃいつまで掛かってたか分からんしね」

「だね! 下が、おろそかになっちゃってたし。んー、私も、両手に刀持ってグルグル回転すれば、おんなじ事が出来たかなー?」

「出来る訳ないだろーい、と、言いたいが、ソフィーちゃんならやっちゃいそうで怖いんだよなぁ……」

「ですね……! ソフィーさんには、常識は通用しないのです……!」


 水中をプロペラのように、水と小石を巻き上げて、回転しながら浮上するソフィー。

 そんな姿を想像すると可笑しくなるが、一方で確かに真面目にそんな技を獲得してしまいそうなのもソフィーである。


 いや別に覚えてもいいのだが、そんな必殺技を使うシーンがこの先どう考えても無さそうだ。


「さすがにこのプール以外に、水中ステージはこのゲームでは出ないだろうしね。水中技は、必要ないよソフィーちゃん」

「そうかなぁー。海中帝国とか、この先誰か作るんじゃないかなぁ?」

「現実的とは思えませんねー。超能力があるとはいえ、物理法則に則って運営されたゲームなんですしー」

「ですね! 魔法があっても水中は、人間には大変なのです!」


 空気を読まない落石防止ネットの設置により、今は全体的にのんびりした空気がハルたちの間にも流れ始めている。

 ユキたちも含め、水から上がって休憩の構え。ハルはといえば、アイリの優勝景品として『くっつく権利』と膝上を彼女に提供していた。


 夕暮れも近づき、プール遊びを切り上げるにもいい時間だろう。


 今は水溜りに絶えず降り注ぐ雨音のような上空よりの注水音と、その中に混じって時おり響いて来る、ネットを通り抜けた細かな小石の刻むリズムに皆静かに、プールサイドで耳を傾けていた。


「そういえば、この取り除いた石はどうするのかしら? 既に、結構な量があったように見えたけれど?」

「ああ、大丈夫だよルナ。こっちも立派な資源だしね。石をそのまま使う以外にも、意外と貴重な鉱石なんかも混じっていそうだ」

「そうなのね?」

「すごいですー。天からの、贈り物ですね!」

「まあ元は地獄からの混入品だけどねーアイリちゃんー。呪われてるかもだぞー?」

「ゆ、ユキさん。そんな恐ろしいことを、言ってはいけないのです……」


 まあ、確かに地獄のような環境より引き込んで来た岩石ではあるが、特にそうした呪いのたぐいはもちろん、汚染や放射性物質などの心配もなさそうだ。

 こちらのNPCにも使える資源も入っているので、こうして一か所に集まっているのは彼らに収集させるにも効率がいいだろう。


「じゃあ、あれですねーハルさん。もしかしたら、いまこうしてパラパラ降って来ている中にも、砂金とか貴金属が含まれてる可能性があるんですかねぇ。そう考えるとロマンで、お酒も進みますねぇ」

「この子はまーたすぐ飲んでるんだから……」

「えー、だってー、夕暮れのプールサイド、暮れて行く大自然の絶景、このシチュを前にして、飲まないのは失礼ですよぉ」

「その絶景に、やたら田んぼが混じってるのは大丈夫そう?」

「めっちゃ田舎っぽいよね! 私の実家みたい!」

「……し、知らないんですか? 今は田舎で自然を感じるのも、と、トレンドなんですよ?」


 必死に風景に混じる水田の数々に言い訳を試みるも、イシスも心のどこかで感じていたようである。田舎らしさを。


 しかし、こうして眺める雄大ゆうだいな田園風景がになることはなんら否定のしようもない。

 膝の間のアイリも、すっかりその光景のとりこになり、大きく目と口を開きっぱなしだ。

 異世界人の彼女にも、いや異世界人だからこそだろうか、何か感じるものがあるらしい。


「そ、それで、田舎はともかくですね! 降って来るカケラに高級品は含まれてるんでしょうか! それをさかなに、飲ませていただきます!」

「いい趣味してる、んでしょうかー?」

「……まあ、なんでもいいけど。でも冗談じゃなく、降って来てるよ。さっきからけっこう砂金とか、混じってる」

「おー、」

「まじかハル君!?」

「ハルさんホント!?」

「おおっ、びっくりしましたぁ」

「君らがそこに食いつくんだ……」


 金が降って来ている、というハルの発言に食いついたのはこれまたユキとソフィー。どうやらこれは、無視できぬ情報だったらしい。


 別に彼女らはお金にがめつい訳でも、金製品のアクセサリーが趣味な訳でもない。

 これは恐らく、『貴金属』ではなく『ゴールド』に、ゲーム的なアイテム収集に心惹かれるゲーマーの習性であるのだろう。


「よっしゃ。次のアトラクションは決まったなソフィーちゃん」

「うん! 砂金掘りだよ! 水の底に飛び込んで、どっちが多く金を集められるか、勝負!」

「君たち、もっと遊びたいのは分かるけど、そろそろお開きだよ。日が暮れたプールは、ってもう居ないし……」

「まだまだ元気いっぱいなのです!」

「まあ、いいか。あの二人なら、暗かろうがどうだろうが、特にデバフにはならないだろうし」

「ふにゃー?」

「そうだねメタちゃん。いつまでも遊んでるようなら、最後に溜まった土砂ごと、二人もドジャーっと排出しちゃってよ」

「みゃっ! どみゃ~~」


 そうして元気娘二人を残し、ハルたちは日暮れと共に、この『プールサイド』を後にしたのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
時間切れで進入禁止の蓋をされるタイプのアトラクションでしたかー。アイリが事前に退避を促す動きをしてくれていて助かりましたねー。もし中にユキやソフィーちゃんがいる状態で蓋をしていたら、貯水池の塔が噴水し…
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