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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部2章 翡翠編

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1609/1772

第1609話 日照権を侵害する巨大構造物

「そもそもハル? こんな巨大なオベリスクのようなもの、建てたら目だってしょうがないわよ?」

「そーだけど、目立つのは今さらじゃねルナちー? 最初から、南側を切り取る巨大な壁とか建ててんだしハル君は」

「それはそうだけど、限度があるでしょうに。やりすぎよ、さすがに」

「こんな塔が見えたら、みなさん『何ごとか!』と見に来てしまいますね!」

「集まっちゃいますよー?」

「ただの給水塔なんだけどなあ」

「にゃあ」

「メタ助、お前も共犯か」

「にゃ、にゃあっ!? ぺろ♪ ぺろ♪」

「毛づくろいして誤魔化ごまかしてもダメよメタちゃん?」


 もちろん共犯である。こんな面白そうな事を、メタやアルベルトが放っておくはずもなし。


 ただまあ、ハルもそんな止める者の居ない悪ノリの過ぎる設計段階にて、羽目を外しすぎた自覚はある。

 どうやら女性陣には不評のようなので、実際に建造する際は彼女らの意見も参考にして調整し、皆の納得する良い街にしていく必要があるだろう。


 幸い、まだまだ計画段階であり、何も着手はしていない。修正はいくらでも可能。


「アイリは何か、気になるところはある?」

「わたくしですか? うーん。わたくしは、そこまで見た目に反対という訳ではないのですが」

「流石はアイリちゃん。ハル君に甘い」

「だめよアイリちゃん? あまりハルを甘やかしちゃあ」

「しかしわたくし、奥さん、ですから……!」

「夫の蛮行ばんこういさめるのも妻のつとめよ?」

「蛮行呼ばわり……」

「まあー、黒光りする巨大なオベリスクを街のそばにぶち建てるのは、ぎりぎり蛮行かもですねー?」

「そだねえ」


 そう言われると、返す言葉もないかもしれない。

 これが日本で、突如街の真ん中につるりとした黒一色の謎の高層ビルが建った時のことを考えれば、というものである。非難轟轟ひなんごうごうやむなし。


「まあアイリちゃんは、こっちの世界の人ですからー。宗教施設と思えば、受け入れる下地がありますしー」

「でもこれ給水塔だよ。ただの」

「そうねユキ。『聖水補給機』とでも名付けるかしら? 余計に胡散臭くなるけれど」

「うんまあ、僕が悪かったよ。アイリも、何か問題点が思いついたら、何でもいいから言ってみてよ」

「むむむむむ……! そうですね、わたくしとしては、日陰になっちゃう部分が、気になるかも、です」

「あー。日照権ですかー」

「そこは公共の福祉で押し通ればよくね?」

「そうね? 水不足よりはマシですし?」

「なんでそこは一気に住民に厳しくなるかな君らは……」

「まあー、NPCですしねー」


 とはいえ今回のゲームは、そうした不満もきっちりと溜まるシステムになっている。日照権もたしかに、気にした方がいいかも知れない。


「そのへんどーすん? ハル君? 解決法はあるん?」

光学迷彩こうがくめいさいで、透明にするとか、出来るのではなくて?」

「おお! こうがくめいさい! 潜入捜査の、定番なのです!」

「それはゲームの中だけよアイリちゃん?」

「鳥がばたばた死にそうですねー」

「確かに!」

「そういう問題もあるけど、それ以前にね。これだけ巨大になると、映像投射型の迷彩では、日照権の問題は解決できないんだ」

「そーなん?」

「……言われてみれば確かに。太陽光を、出している訳ではないものね?」


 奥の景色と同じ映像を塔の壁面に映し出しても、太陽光が遮られている事には違いはない。

 その場合『空が見えているけれど影が落ちている』といった、世にも奇妙な状況が誕生するのではなかろうか。脳が混乱しそうである。


「不思議で楽しそうだけどね」

「ギリギリ神秘的、でしょうか……!?」

「毎日のこととなると、ギリギリ迷惑の方が勝ちそうね?」

「ですよー?」


 さすがに何も問題が解決していないので、この案も却下となった。


 なお、全く同じだけの太陽光を壁から照射することも出来なくはないが、構造が複雑化する上に消費エネルギーも馬鹿にならないので口には出さないハルだった。


「そんならさ、いっそ、透明な素材で壁を作っちゃえばいいんでないかね?」

「確かに! 中身はお水ですもんね! それなら光も、素通りです!」

「そうね? 見た目もきらきらと輝いて、それこ神秘的かも知れないわ?」

「……いや、それはできない。それは日照権の問題以上に、深刻な事態を引き起こしそうだ」

「そうなのかしら?」

「うん。集光レンズ問題でね。ルナは知らない? ペットボトルで火がつくやつ」

「そもそもペットボトル、って何だったかしら……?」

「知らんのかルナちー! これが、生粋きっすいのお嬢様……!」

「お育ちが、よろしいのです!」

「育ちというよりも時代ですかねー。むしろ、アイリちゃんはなーんで知ってるんですかー?」


 英才教育のレトロゲーマーだからである。当時のゲームには当然、時代背景を反映した透明なプラスチックボトルがたびたび登場した。


「まあ、そんなペットボトルを巨大化した物を置いておくようなものでね。太陽光がいい感じに集まって、街に火がつく可能性が捨てきれない」

「なるほどね? これだけ大きいと、ほとんど兵器ということね?」

「うん。特に、塔の内部は空間圧縮でかなりの水を凝縮して詰め込む予定だからね。どんな効果が生じるか読めない部分がある」


 だからこそ、光を通さぬ一面の黒い壁面でデザインしたのだ、とさもそれっぽくハルは説明する。

 女の子たちは『おおー』、と口を揃えて納得してくれたが、残念ながらまったくそんな事実はない。

 ハルは神様ではないので、平気で嘘をつく生き物なのだ。


「……こうして考えてみると、意外と難しいものなのね?」

「はい! 本当にそうなのです!」

「影部分だけに焦点が当たってますけどー、実際は逆側も問題ですからねー」

「そかそか。照り返しで反射して、灼熱地獄になっちゃうんだ」

「……やはり黒い壁面は、向かないのでは? ハル?」

「おっと」


 早くもハルの出まかせがボロを出し始めてしまったようである。口先で女の子を誤魔化そうとする、軽薄男の末路はこんなもの。


 そこから話題をらそうという訳ではないが、そろそろ真面目に、ハルも解決策を提示していくのであった。





「まあ、この問題解決の方法は既にあるんだ。ちなみにそこには、わざわざ壁面の素材やら何やらで複雑な手間をかける必要はない」

「ほえー」

「すごいですー! それは、もうわたくしたちでも分かる方法、なのでしょうか!?」

「うん。既にアイリたちも知ってるよ。よく思い出せば、正解できるかもね」

「むむむむむ……! これは、なんとしても正解しなくては……!」

「正解者には一億ハルさんポイントですよー?」

「いきなり雑な最終クイズね……」

「そもそも僕ポイントって何……?」

「早押しだ早押し! 間違えたら一回休みね!」


 ハルさんポイントはともかく、よくよく考えてみれば何ということはない回答だ。

 思いついてみれば気分が良いので、ハルはあえて正解は語らず、彼女らに考えてもらうことにした。


「はい! 更に空間を圧縮しまくって、影が気にならないくらいもっとほっそい塔にする!」

「ぶぶー。ユキ不正解。一回お休みね」

「くっそぅ!」

「……そうね? それなら、そもそも塔という形をやめて、背を低く圧縮するとか、かしら?」

「ルナも不正解。空間圧縮は、これ以上行えないと思って欲しい。まあ実際は不可能でもないんだけど、消費エネルギーの兼ね合いもあってね」

「むっ! 分かりました! それなら地下をいっぱい掘って、そこに溜め込むのです! 地底神殿、というやつです!」

「それも不正解。あくまで、この形で塔を建てた状態で解決する策があると思ってもらいたい」

「……塔にこだわる必要あるん? 地下でよくない? アイリちゃんの言ったようにさ」

「……地下は掘削くっさくの手間と、水の吸い上げポンプの問題があるからねユキ」

「大した手間かな……?」

「まあー、空きスペースにポンと置ければそれに越したことはないですからー」


 そういうことなのである。決して、ロマンを優先した訳ではないのである。


 まあそれを抜きにしても、実際上から下へとただ水を流せば済む構造である方が手間がない。

 その単純明快な構造を維持したまま、なおかつ日照権の問題を解決する手段を、考えて欲しいのだ。


「そもそも貯水タンクは神界にでも置けばよくなくて?」

「そかそか。水だけ<転移>させてくればいいのか」

「……根底から覆すのはやめいと言うておるのに。<転移>に魔力もかかるし、いつ何かの影響で注水が途切れるか分からないでしょー」

「あっ! わたくし、閃きました! ヴァーミリオンの北端に置かせてもらって、転送ゲートを通して水を流せばいいのです!」

「クライス皇帝の悩みの種を増やしてあげないでねアイリ? 僕らも通りにくくなるし」


 とはいえ割と良い案なのが悔しい。ハルが否定している理屈も別にこじつけではないのだが、だんだん自分が意地になっているだけなのではないかと、錯覚しはじめてきたハルだった。


 そうしてクイズ大会は続いていくが、中々正解には辿り着かない。

 気付いてしまえば一瞬なのだが、それまでが大変なのは普通のクイズと同じ。特に魔法は、応用の幅が広すぎて答えるにも困るだろう。


 特に意地の悪いのが、その解法がとれるようになったのは、ついここ最近だということ。

 まだ彼女らの中では、その解決策を無意識に除外したままであってもおかしくなかった。


「んー。いや待てよ? 空間を頑張って曲げたりしなくても、塔の周囲の光だけをぐるっと迂回うかいさせりゃよくね? 低コストの<光魔法>かなんか、使ってさ」

「おお、惜しいよユキ。でもまだ足りないかな。発想はすごく近いけど、そんな少しの追加コストすら使いたくないからね」

「むー?」

「でもコストを使わないで、光を操作なんて出来ないのではなくて?」

「……!! あっ! 分かった、分かりましたわたくし! そこは全部、アレキ様に押し付け、やっていただくのです!」

「はい、アイリ正解」

「そんなんありかー!!」

「……さすがにトンチなのではなくて? コスト、かかっているでしょうに」

「確かにコストはかかるけど、“追加”コストは不要だよ。アレキが、このフィールド内の設定を少し弄るだけだからね」


 そもそもの話として、既にこのゲームフィールドはアレキの能力で、この星のめちゃくちゃな太陽の動きを調整して内部は照らされている。

 そんな彼に頼めば、追加の再調整など訳もない。そんな、トンチといえばトンチのような、ズルいクイズの答えなのだった。

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― 新着の感想 ―
常時照射状態ではさすがに眩しいですからねー。有事にはフィルターを剥がして太陽光を集束させ、アレキ城を焼き払うという役目もありますし、普段は漆黒のカーテンに包まれし魔水の領域として隔離されるのも致し方な…
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