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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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1603/1783

第1603話 反則を制すのはまた反則

 一口に『ハッキングをする』などとは言っても、そう簡単にいくのならばハルも苦労しない。

 それが出来るのならば、こんな戦闘自体が起こっていないのだから。


 現状の問題を前時代のコンピュータで例えるとすれば、相手は未知のプログラムによって動くサーバーで、ハルはそこに接続するためのケーブルも持っていない。

 その状態で出来ることなど、外から鈍器でサーバーラックを叩き壊すくらいしかないだろう。


「……馬鹿なことを考えている場合じゃあない。なんにせよまず、あのドラゴン内部のネットワークに接続しないとね。通信ケーブルが必要だ」

「本来、そのために使われている通信方式も、またあの謎エネルギーなのだろうね」

「ああ」


 セレステの推測は正しいだろう。アレキたちは謎の力を電波のように使い、エネルギー源として使うと同時に通信規格も兼ねている。

 その力の活用方法を持たぬハルたちには、ハッキング以前にネットワークへのアクセスすらおぼつかない状態だ。


「だが対象はそこにあるんだ。触ってしまえば侵入は出来る」

「うむっ。ネットワークそのものが攻撃兵器であることが裏目に出たね」

「そのための手法は二種類ある。魔力エーテルか、ナノマシン(エーテル)だ」

「口に出して言うと実にややこしい」


 なので最近は魔力の方は『魔力まりょく』で統一しがちなハルだった。


「《どっちに、するの、ハル?》」

「ナノマシンの方だ」

「まあ、君といえばそちらだからね」

「《魔力なら、ぼくらも、サポートできるのに》」

「そうだね。けど、相手も対策が取りやすいのも魔力だ。それと、今回は特別相性が悪い」


 敵は今も再生を行いつつ、周辺を短距離ワープで逃げ回っている。それを、魔力弾の残滓ざんしを目標に<転移>したユキとソフィーが追い回し、追撃の手を強めていっていた。


 その様子からも見えるように、魔力によるハッキングは敵のワープに対応できない。接続に成功してもワープされれば途切れて、最初からやり直しになってしまう。


 その点、物理的にナノマシンであるエーテルを接触させれば、それを巻き込んだ状態のワープは致命的にはなりはしない。

 もともと空間を越えた通信を可能とするエーテルネットの性質上、その状態でも通信は保たれるのだから。


「しかし、それはそれでどう接続するね、ハル? 宙域全体にエーテルを増殖させ拡散するかい?」

「いいや。それはそれで非現実的だ。最初は、直接接触させる」

「《わたくしの、でばんですね!》」

「ああ、よろしくねアイリ」

「《はい! お任せなのです!》」


 今まで、モノと共にブリッジで観戦していたアイリたちが、満を持しての登場だ。

 ただし、その出撃はユキのように生身での突撃ではない。きちんと宇宙での戦いに相応ふさわしい、専用の装備を伴っての出陣だ。


「《ルシファー、発艦する、よ》」


 この母艦から出撃する艦載機かんさいきのように、輝ける十二の翼を纏った天使が飛び出して来る。

 この船や敵の更に巨大な竜の翼から比べれば小さめにも見えるが、人間と比較すればしっかりと巨人サイズ。


 その船上に降り立った巨人の胴体に開いたコックピットへと、招き入れるようにルシファーはハルの身を収容していった。


「来たわねハル。さあ、行きましょうか」

「私の出番ですよー? 待ちくたびれましたー。最初からルシファーで出れば良かったのではー?」

「真打ち登場、ですよカナリー様! ここからが、大将戦なのです!」

「ですかー。ならいいですかー」

「そうそう! やっちゃえやっちゃえ! あはははは! ロボットすごーい。かっくいいぃ~~」

「……うん。なんでヨイヤミちゃんも乗ってるのかなみんな?」

「その、断り切れなくて……!」

「『絶対乗る』って駄々をこねるんだもの、この子」

「連れて来ちゃいましたー」

「……まあ、内部の安全は保障するけどさ」


 とはいえ、どんどん深みに巻き込んでいることに間違いはない。あまり、わがままを聞き入れてばかりではいけないかも知れない。そう感じてきたハルだ。


 だが今さら降ろす気も起きないハルも結局同罪か。揃って甘やかしすぎである。


「でもハッキングするとか言ってなかったお兄さん? 結局、決戦兵器でぼっこぼこにするの?」

「いや、予定は変わってないよ。このルシファーはねヨイヤミちゃん。ハッキングツールにもなるのさ」

「これは巨大な、エーテル増殖炉でもあるんですよー?」

「ほえぇ~」


 ルシファーの動力は、過剰増殖したエーテル粒子。本来大きな物体を動かすことに向かぬエーテルだが、限界を超え凝縮したそれを、全身に詰め込む事で強引に出力を確保している。


 そしてその起動キーとパイロットを兼ねるのがハル、そしてアイリの存在なのである。


無尽増殖エンゲージ」「無尽増殖エンゲージ! です!」


 宣言を受け瞬く間に増殖し天使の全身に回ったエーテルは、すぐさま贅沢に使い捨てられて羽から放出されてゆく。

 それは漆黒のそらきらめく白い輝きとなって、ルシファーの機体を派手に彩った。


「この放出に、通常のエーテルを混ぜあのドラゴンに『感染』させる」

「おお! なーるほど!」


 そのためのルシファー、それゆえの接続機器としての活用だ。


 母艦を離れふわりと浮き上がった天使の躯体くたいは、すぐさま加速し粒子の尾を引きながら大翼のドラゴンへと迫る。

 今もユキたちが取り付き押さえ込んでいるその身に向けて、衝突するような突進でルシファーは強引に接触を果たした。


「第一段階はクリアね? エーテルの放出は正常に完了。敵表面への付着を成功したわ?」

「むー、ただー、無効化が思ったよりも早いですねー? 付着と同時に、これは内部に取り込まれているのでしょうかー?」

「食べられて、しまっているのです!」

「こいつもそもそも、無数の細胞の集合体みたいなものだったね。ある意味ルシファーの親戚か」


 その総数は比較になるはずもなく、いってみれば太陽に隕石でも放り込んだようなもの。取り込まれ、溶かされてしまうのも無理はないか。


「まいったね。ハッキング以前に、エーテルの保護をどうにかしないとか? これは」

「それとも、食べきれないほどのエーテルさんを増殖してやりましょうか! わたくしたちの本気を、見せる時なのです……!」

「そしたら逆に取り込んでやりますよー?」

「あっはは! カナリーちゃん、やっぱり食いしん坊だぁ」


 表面からの吸収の余裕などなくすべく、組みついたルシファーはその両の腕から体内で加速した荷電粒子砲かでんりゅうしほうを連射する。

 ゼロ距離から強引に体表を削り取り、逆に敵の細胞を粒子へと砕いてゆく。こちらの腕も反動によりダメージを負うが、修復速度の異常さもまた、ルシファーの強みであった。

 体内に満ちる材料および燃料の、決して尽きることなし。


「……よし、破損したルシファーの破片に混入したエーテルが、吸収を免れた」

「乱暴すぎる解決法ねぇ……」

「さすがにルシファーの装甲板を取り込むのは、骨が折れるようですねー?」

「あとは、内部にアクセスするだけなのです! チェックメイト、でしょうか!?」

「チェックメイトはまだ気が早いかな、アイリ。まだ『通信ケーブル』を繋いだだけだ」

「大丈夫ですよー。いくら未知のネットワークとはいえ、私とハルさん、二人の管理者が揃ってるんですー。敵じゃありませんー」

「おお! もう解析できたんだ、カナリーちゃん!」

「いえー。見当もつきませんがー」

「おいおーいっ!」

「そう急かさないでくださいよー、ヨイヤミちゃんー。いいですかー? まずは相手の細胞形状から、回路構造を推測してですねー」

「あっ、必要ないよそういうの。ほら、もう侵入できちゃった」

「はいー?」


 思わずコックピット内の全員が振り返るほどの、ヨイヤミの異常な発言。

 しかしそれは冗談でも子供の虚言きょげんでもなく、彼女から渡されたデータは、それが紛れもない真実であることを示しているのだった。





「ほい。アクセス完了」

「……まじか。……相手が初見しょけんの独自構造だろうが、お構いなしとは」

「どういうこと? この子の超能力が、神にも通用したというのかしら?」

「らしいですー」

「すごいですー! ヨイヤミちゃん!」

「えっへん。アメジストちゃんにも、褒めてもらったもんねー」


 流石は、アメジストが目を付け彼女の計画に利用した逸材いつざい、といったところだろうか。


 しかし、ヨイヤミの超能力に感心してばかりもいられない。彼女は、あくまで接続を完了させてくれただけだ。

 敵の自由を奪うような働きは一切なく、そこから先は、ハルたちの仕事であった。


「あっ。気付かれた。逃げる気だよ」

「分かるのかしら?」

「うん。なんとなく」

「大変です! ワープされちゃうのです!」

「そうはさせませんよー」

「《うん! させないよ! 私に任せて!》」


 機体の外から、元気にソフィーのかけ声が響く。侵入を察知し、この場からの離脱を図ろうとするドラゴンの体、ではなく、何故かあらぬ方向へと、ソフィーは<次元斬撃>のやいばを振り回した。


「《とうっ! こうやって周りの空間を刻んで乱してやれば、こいつはワープに失敗する! さっき見つけた!》」

「でかしましたよー」

「……さらっと異常なことをやっているのではなくて? 彼女も?」

「うん。実にヤバイ。けど二人へのツッコミは後だ。カナリー、今は僕らの仕事を果たそう」

「はいー」


 ハルとカナリーは、開いた経路から敵の全身そのものを使って構築されたネットワーク、その内部へと侵入を果たす。

 そこまで出来てしまえば、あとはやることは普段と同じ。


 いかに独自のプログラムにより構築された存在とはいえ、それを生み出したのはカナリーたちと同様の神だ。

 基盤となる技術は同じであり、その『翻訳』に大した手間などかからなかった。


 そうして、大した間も置かぬ間に巨竜の体はその動きを停止させて行き、そしてすぐに完全停止。

 その身はドラゴンとしての形を保てなくなり、残ったのは、宇宙に浮かぶ丸い灰色のかたまりだけだった。


 ここに、この大規模すぎる戦闘はハルたちの勝利により終結したのである。

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― 新着の感想 ―
外から鈍器で叩き壊すなんて、そんな野蛮なことハル様がやるはずありませんねー。ハル様ならもっと優雅で知能的に鷲掴みしてから握力錬金ですよー。え? それだとゴリーーーー。 はい。そんな、握力に物を言わせる…
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