第1594話 敵の中に味方は居るのか
少々展開に難儀しております。なかなか進まずに申し訳ないです。
ついに姿を表したアレキ、いや元より、王様NPCとしてはずっとこの地に居たのは分かっていた。
ただハルからあの初期配置の街に関わることはなかったので、これがこの地での初邂逅といっていいだろう。
アレキはハルたちから少し距離を取った状態で待機すると、そこから先には近づこうとしない。
ハルの方もまた、ヨイヤミを背後に庇うように下がらせると、一応の警戒の姿勢を見せていくのであった。
「おっ? おお~~? よくみえないよーハルお兄さんー」
「こーら。危ないかも知れないから、大人しくしておきなさい」
「あっ。安心していいぜ、ハルさん! 今日は話し合いに来ただけで、バトルしようとかそういうのはないからな!」
「だったら、もっとこっち来たらどーですー? 平和にお話に来た奴の距離感とは思えませんねー?」
「……うっ。だ、だってさぁ。ハルさんってあれだろ、ちょっと指先ひとつ相手に触れただけで、強制勝利コマンドが使えるんだろ? ズルじゃん。チートじゃん」
「まあズルいのは否定しないけど。でも、その体は人形なんだろう? それに、今のところ問答無用で強制支配を行おうとは思ってないさ」
「本当かなぁ」
「どうでしょうねぇー。ハルさんは、嘘つきですからねー」
「カナリー? 話をややこしくしないのよ?」
「むぐー」
アレキをとことんからかおうとするカナリーの口を、ルナが優しく塞いで下がらせる。
それでもなおアレキは警戒を解かなかったが、やがておっかなびっくりではあるが、無理なく会話の届く距離まで近寄って来てくれた。
まあ、警戒するなという方が無理な話なのだろう。
ハルの気分ひとつで、計画全てが台無しだ。まさに事故としかいえず、仲間の手前、なるべくそんな危険地帯には近づかないのも当然。
「うわぁ。緊張するなぁ」
「重力異常地帯以来だね。あの時もなかなか緊張していたみたいだけど」
「それはそうだろハルさん、当たり前だって。あの時は本体だったんだぜ? なにかの拍子にオレが支配されちゃったら、全部台無しじゃん!」
「僕は別に思いついたように人を支配したりしないんだけど……」
異常な権限を有するスキルを身に着けてしまうというのも考え物だ。フラットな立場で接するのがどうしても難しくなる。
人間だって、もし隣に『触れるだけで相手を法的にも完全に奴隷に出来る力』の持ち主が隣にいると知れば、その人物にその気が無くとも平常心ではいられないだろう。
ハルがスキルシステムによってここまで異常な特権に目覚めたのも、やはりエリクシルネットが何らかの関わりを持っているのだろうか?
「つまり、君はあんときから、既にこっちで悪だくみを?」
「まーな。昨日今日でこんな事できないって、デカいねーちゃん。あとオレんな悪いことしてないってのー」
「だったらもっと堂々とせんかチビのガキよ」
まあ、デカいねーちゃんことユキの言うことも尤もだが、それを判断するのはハルなので無理もないか。ハルが『悪い』と判断すれば、それは悪なのだから。
とそのように考えてしまう事が、相変わらず神に対してのハルの甘い部分だろうか。
「そういえば、もう一人のデカいねーちゃんはどうしたのかしら? 翡翠といったわね?」
「そう、それなんだよ今回来たのは! アイツをどうにかしてくんない? ハルさんたちも、困るよなコレ?」
そうアレキが上に指を指し示すのは、もちろん風船のように浮かび宙を埋め尽くす翡翠の魔力。
アレキが今回たまらずハルと接触を決めたのは、やはりこの翡翠の介入があったからこそであるようだ。
「なぁ頼むよー。これ外してくれたらさ、望み通りにこの辺も一緒に抑えておくからさ」
「そんなこと言って、実際に抜いてやったらその体積ぶんは無視する気だろ君」
「……なーんのことやら。でもそれが嫌なら、抜いた翡翠の魔力をオレにくれよハルさん。どーせ損してないんだから、問題ないだろ?」
「いいや。本来得られるはずだったぶんの魔力が君に流れて得られなくなるから、その分は損失でマイナスだね」
「んなカスの商人みたいなこと言うなよなぁ……」
まあ、損失どうこうについてはハルも本気で言っている訳ではないが、アレキの話に乗ってやる気がないのも確かだ。
宙に浮かぶ翡翠の魔力は確かに不気味だが、現状そのおかげで、アレキをやり込められたのもまた確か。
今の状態のままでアレキはハルの目的のままに動かざるを得ないなら、わざわざリスクをとってまで、彼の魔力を翡翠から開放してやる必要もない。
「そんなに邪魔なら、自分で侵食戦を仕掛ければいいじゃないか。容量は君が上だ」
「出来ないんだよ互いに、味方だからな。それをあいつ、『緊急事態における支援行動ですからっ!』って! くっそっー……!」
「政治家じみているのです!」
「やり手だね。のんきな顔して」
「おっきなおっぱいもしてー」
「胸は関係ないでしょカナリーちゃん……」
「なんだよカナリー。乳がそのサイズで固定されたからって僻んでんのか? 前と違って、もう自由に弄れねーもんな」
「はぁー? ぶっとばしますよー? ハルさんー。やっぱりこいつやっちゃいましょー」
「そうだね。どうしようかね」
「えっ!? なんでそうなるんだよ! くっそー、地雷がどこにあるのか分からねー……」
まあ、さすがにこれで敵対を決めたりするハルではないが、かといってアレキの味方もまたすることはない。
今のところ楽しんではいるが、今すぐにこのゲームを終わらせてしまう選択肢も、一応ハルには用意されている。
さて、そんな運営陣の一人との、初の交渉。将来的な部分まで見据えると、ここではどう行動するのが最善になるのだろうか?
◇
「ねーねー。それよりまずさー。アレキくんはなんでこんな事やってんの? まずそっからなんじゃない?」
「えっ、オレのこと? そりゃまあ、秘密?」
「ハルお兄さん、こいつ死刑で」
「落ち着こうねヨイヤミちゃん。確かにナマイキだけど」
「言わなきゃダメかなぁー」
「別に、言わなくても構わないけど。協力するなら教えてくれたほうがやりやすいかな」
現状、彼らの目指す場所がなんなのか、そこが見えてこない。そのため警戒しつつの参加で、半ば敵対の構えをとっているハルたちだが、そこがはっきりすれば警戒を解くことも考えられる。
まあ、こうコソコソとしている時点で後ろめたい部分があり、公表できない内容なのはほぼ疑いようがないのだが。
しかしもしかしたら、万一何の問題もない願いであり、ここで詳らかにしてくれるのなら。協力も考えなくはないハルなのだった。
「いや、オレの目的はそう変なことじゃないってば。この星の環境の正常化。前も言ったろー?」
「そうだね。だからこそ、僕の計画にも協力してくれている」
「そーそー」
あの重力異常地帯に作られた一面の花畑。アレキと翡翠は、あの場では真摯にハルに協力してくれている。
二人の協力により作り上げられた世界はそれは見事な物で、その過程において明らかとなった新事実もある。
ハルもその点は素直に二人に感謝しており、今後も彼らと協力を続け、更には他の参加者も交え、更なる発展と正常化に導きたいとも思っているのだ。
「神様らは嘘をつかないから、そこは疑ってはいない。ただ、それだけじゃないよね? この世界の秘密をばら撒いてまで、地球人を招いた理由は?」
「いやぁー、それはオレたちの力だけじゃ足りないから、彼らの力も活用してさぁ……」
「それだけ?」
「…………」
「無駄ですよーハルさんー。仲間内の契約がある場合、その連合の不利になる証言は出来ないようになってますー。私たちの時と同じですねー」
「勘弁してくれよなー……」
まあ、それも分かっている。特にアレキを責める気はない。
しかし、その状態ではやはり、『はいそうですか』と手を取ってやる訳にはいかないだろう。
今口に出せない彼の望みと、裏に居る仲間たち全員の計画。それに賛同できぬ限りは、協力した結果何が起きるか分かったものではないのだから。
「なーなーダメかぁ? なんだったら、ハルさんたちをゲームに正式に招待したっていいんだけど?」
「それは、特に交渉材料にはならないわよ? それを望むのならば、私たちはソラから招待を受ければ済む話ですもの」
「ちぇーっ」
「怪しいですねー。どさくさに紛れて正式参加させようなど、もしやあのツールには何か仕掛けがあるのではー?」
「そう何でもかんでも疑うなってば! ……仕掛けはまあ、あるけど」
その仕掛けとやらがハルたちにとって害がないとも、公表できぬ立場なのだろう。アレキの立ち位置も微妙なものだ。
しかし、ここでアレキの要求を飲む、イコール翡翠と敵対することを決めるのも早計なのではなかろうか。そうも思ってしまうハルだ。
一応、魔力侵食を仕掛けてきた以上、明確にアレキよりも敵対よりではあるのだが、それでもあの行動も苦肉の策だった可能性がまだ否定できない。
話せる範囲で、なにかもう一つ、決定打となる情報が欲しい。
しかし、それをどのような手段でアレキから聞き出せばいいのか。ハルが考え込んでいると、そんな決定打となる新たな情報は、この場に居ない第三の人物から前触れなくもたらされたのだった。
「《悩む事はないさハル! 手を取る必要はない、どうせ最初から、敵対スタートだったのだからね。どれ、私が得た新情報を、見に来るといいさ!》」
それは、何やら宇宙へと調査に行くと言ってしばらく留守にしていた、セレステからの通信なのだった。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。
また、文章がまるまる途切れてしまっていた部分を追加しました。大変申し訳ありません。報告ありがとうございました。




