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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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1593/1795

第1593話 宙を埋める無数の楔

 ハルの魔力送り付け詐欺によって、アレキの魔力圏の形状は無事『逆さにした雪だるまの形』に変更され、ハルたちの建設予定地も無事『ハンバーガーをかじった形』を卒業した。


 ここからは雪だるまの頭部分を徐々に埋めていけばいいことにはなるが、気になるのはこの『宙に浮いた小玉スイカ』だろうか。


「……いかん。妙な例えが多くて逆に混乱してくるが、ひとまずは一件落着で、いいのかな?」

「そう、なのではないでしょうか? さっきまで凄かった風が、今はもう大人しいのです!」

「台風の日にウキウキしてたらー、下校の時にはもう晴れちゃってた時のがっかりしたような気分ー? まあ私、ずっと学園に閉じ込められてたから下校なんてしたことないんだけどー」

「ツッコミづらい例えはおやめ、ヨイヤミちゃん」

「でも確かに、『終わってみればこんなものか』って感じはすんね」


 ヨイヤミやユキの言うことも分からないではない。

 あれだけ激しく吹き荒れていた嵐はすでにぴったりと止み、空にはもう太陽が顔を出している。

 嘘みたいな環境の激変だが、これがアレキの能力の真骨頂しんこっちょう、ということなのだろう。


「けれど、なんとなくまだ風を感じる気はするわね? これは、まだ安定化には時間が必要、ということなのかしら?」

「あるいはー。この宙に浮く異物のぶんだけ、アレキの発揮する力の割合が少なくなっている、ということですかねー?」


 そう言ってカナリーが、つられて皆が見上げる視線の先には球体状をした緑の魔力の群れ。

 実際に色がついている訳ではないが、翡翠ヒスイの支配する別種の魔力が、緩衝材かんしょうざいのように空間の容積を埋め、その分アレキの支配割合を下げていた。


 そのせいかどうかは現時点では判断できないが、この場は元の平和な箱庭と比べると少々、風の勢いは強く川の流れもまた、速く激しいように思えた。


「ナマイキなメロンですねー。吸い取ってやりましょーかー」

「けど、この翡翠の詰め物のおかげで消費魔力を抑えられたのも事実。どう判断すればいいやらだ」

「えっ! アレって詰め物だったの!?」

「いいえヨイヤミちゃん。アレは本物ね。天然物のメロンだと、私の勘がそう言っているわ?」

「さすがルナお姉さん!」

「……何の話?」


 まあ、胸の話だろうけれど。

 神が造形した自身の肉体だ、わざわざ偽物にする理由がない。ルナの勘を働かせるまでもなく、それは本物に決まっていた。

 いや、魔力で編んだ肉体を、果たして本物と言っていいのか。意外にも、哲学じみた問いかけなのかも知れなかった。


「……馬鹿なことを言っていないで、これが僕らにとって追い風なのか向かい風なのか、それを考えていこう」

「ほーい!」

「いちおう、現状はアレだわねハル君? 消費魔力が安く済んだから、ウチらにとってはお得。でも、結局カネで解決できる話と思うと、邪魔な感じのが際立つか」

「うん。魔力を共通通貨と置き換えると、ユキの言う通りでもある。今後、この空中のスイカが何をしてくるのか。その不安の方が多く見積もれるだろう」

「んじゃ吸い取っちゃう? やっぱ。口付けてちゅーちゅーと」

「口は付けんが……」


 大事をとって潰しておく方が、一時的な支出はかさむが無難ではある。

 その魔力消費についても、翡翠の魔力を侵食した分からそのまま回せば、ハルたちの支出は増えないと考えることだって可能。


「けど、現状のメリットはそれだけに限らない可能性もある」

「ほお?」

「翡翠様の魔力が、くさびとなっている可能性ですね!」

「正解だよアイリ。流石だね」

「えっへん! まあ、唯一のこちらの人間として、答えられて当然の事ではあるのですが……」

「つまりヒッすんが、レッキーの魔力を引っかけて逃がすのを防いでるってことか」

「……なるほど? となると、彼らここの運営も完全な協調関係ではないかも知れない、ということね?」

「かもですねー」


 どういうことかといえば、アレキはやろうと思えば、ハルの与えた魔力を引っ込めて、この場から引き上げる事だって出来るという訳だ。

 なにもハルの思惑に沿って、ハルの望む建設予定地を整備してやる必要はない。


 例えばこの『雪だるまの頭』を、ぐるりと別の方角へ移動させてしまうだとか、嫌がらせの方法はいくらでもあった。

 そんなに露骨ではなくとも、『雪だるまの体』に吸収する形で一つの大きな円にしてしまえば、それだけでハルの望みは一部しか叶わない。対応としても自然。


 そうなれば言外に、アレキはハルへと更に巨大な一つの円を構築する為の大量の魔力を要求できることとなる。


 しかし、翡翠の魔力が楔のようにこの場にアレキの魔力をい留め、それを許していない可能性があった。

 アレキが動けば、翡翠を自由にしてしまうことになるからだ。


「……もしそうならば、したたかだな、翡翠」

「そうね? ハルに明確な敵対行動を取りつつも、『これはハルの為なんです』と言い訳が出来るわ?」

「アレキに対してもですよー? 『これはハルさんを止める為なんです』と言ったら、本心バレバレだろうと一応嘘ではありませんからー」


 両者に対してギリギリ敵対しきらないラインを守りつつ、自分は目的のためにこまを一歩進められる。


「その翡翠の目的がどこにあるのか分かれば早いんだが、さて……、といったところか……」

「アレキ様とは、対立されているのかだけでも、分かるといいのですが……」

「どーせ対立してますよー。神の持つ願いなんて、独りよがりなものばっかですー。本質的に、自分以外は全員ライバルで出し抜こうとしててもおかしくありませんー」

「あなた方もまさにそうだったわね、カナリー?」

「ですよー」

「カナリーちゃん、悪い子だったんだ!」

「ずる賢い子と言ってくださいー」


 その言いかえは果たして意味があるのか、という疑問は飲み込みつつ、ハルは今後の対策に頭を悩ます。

 今回の行動が純粋にハルを利するものであっても、今カナリーが言ったように翡翠も純粋に味方とはなり得ない。タイミングが合えば、今度はハルの障害となるだろう。


 かといって当面の相手はアレキであることに変わりはなく、さてどうしたものか、といったところなのだった。





「まあ、嵐も収まったことだし、当面はこのまま、この場の開拓につとめるか」

「そうね? さっさと整備して街を築いてしまえば、アレキもなし崩し的にそれを保護しなくてはいけなくなるかもですし?」

「レッキーからすれば、寄ってたかって踏んだり蹴ったりだねぇ」

「二重の楔、なのです!」

「まー、もし保護されなかったら作った街は大崩壊だけどね。あははっ」

「うん。笑い事ではないかな」

「別にないとは言えないんですよねー」


 アレキにとっては、何処の環境を整備するかは自分で自由に決められる。もしかしたらゲームバランスの関係で、この場は荒らしておく方が都合が良いのかも知れないのだ。


 なので現状の膠着こうちゃく状態は、ハルにとっては都合がよかった。

 とりあえずはこのままバランスを崩さず、積み上げた積み木を刺激しないようにそっと手を離すのが賢明か。


「とはいえ、明らかな敵対行動をとった翡翠への対処は考えておくか。エメ、さっきの<転移>反応から逆探知して、彼女の居場所を探れるか?」

「《はいっす! お任せっす! ちょうど仕事が減ってきて、どうしようかと思ってたところだったっす!》」

「減ったら休め、普通に。というか、宇宙から来た謎のエネルギーの調査はどうした」

「《さすがにデータ不足で進めようがないっす!》」

「まあ、そうなるか」


 翡翠はあれだけ派手に魔力を送ってきたのだ、なにかしらの証拠を残していたとしてもおかしくない。

 それを探るためハルは未だ彼女に与えた権限を自らの支配魔力から取り消さず、あえて泳がせる対応をとっている。これが吉と出るか、凶と出るか。


「となると後はその結果待ちで、僕らがやることといえば街作り畑作りの再開くらいか……、と、んっ……?」

「どうかなさいましたか、ハルさん?」

「メタちゃんだ。大慌てでこっち来る」

「ほんとだ。メタ助にしては、すばしこく走ってんねー」

「ふなーっ! ふなーっ!」

「おーよしよし、どーしたメタ助。なんかあったんかー?」

「にゃうにゃう! ふみゃーご!」


 ユキに抱え上げられたメタは、興奮した様子でじたばたと身をよじる。腕の中で器用に反転し、その前足が指さす先を見てみれば、どうやらこちらへと近づく人影が一つ。

 北側、元々のゲームフィールドから飛来するということはプレイヤーか。いや、その姿は、どうやらこの地に最初からあった街で説明役をしていた、王様のNPCであるようだった。


「フライングキング! 『揚げた王』!」

「違うぜヨイヤミちゃん。フライングだから『揚げてる王』だ」

「おお!」

「……いえそれも違うけれど。まあ、飛んで火にるという意味では、間違いではないのかも知れないわね?」

「アレキ様、でしょうか!?」

「ですねー。なにしに来やがった、ですねー」


 豪華なマントをはためかせながら、お供も付けずに<飛行>してくる姿は実に奇妙だ。威厳とかそういうものを考えて欲しい。

 しかし、恐らくほぼ確実に中身がアレキであることを考えると、そうギャグ描写に脱力してばかりもいられない。


 このタイミング、間違いなく今回の件に抗議しに来たのであろう。そのまま戦闘に突入する、ということだって無いとは言えなかった。


 猛スピードでこちらに接近する王様は、しかし空中で窮屈そうに翡翠の魔力を避けて飛び、やはりその力関係の微妙さをその態度で表している。

 仲間とはいえ、他神たにんの魔力内では自由に行動できないようになっているのだろうか?


 そんな、なんともいえぬ締まりのない挙動を繰り返し、王様はついにハルたち一行の目の前へと着地した。


「……アレキかい?」

「ああ、オレだよハルさん! ちょっと待ってくれよな! よし、変身!」


 王の姿を割ってその中から飛び出すように、赤髪の快活そうな少年が姿を見せる。

 こうして対立してからは、初の接触となるアレキ少年神との再会だ。


「変身解除じゃなくて? 実は王様の姿が、君の真の……?」

「んなわけないだろぉー!?」


 そんな感じで、やはりなんとも締まらぬスタートを切ったアレキとの接敵。まあ、本体ではなく人形であろうが。

 さて、彼の要求は、いったいどんなものとなるのだろうか。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
所詮は神様のやることですからねー。小テスト実施しますとか言って天変地異を起こすような存在に協調性を求める方が間違ってますねー。それは神様違い? ここにも解釈の不一致がー。 はい。翡翠側のメリットがどこ…
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