第1584話 似ているようで違う力
ルナたちが集合したタイミングで、アメジストは彼女らのキャラクターボディに仕込んでおいた『新装備』のチェックを提案する。
これはアメジストが今回のゲームにおける謎の部分、未知のエネルギーを計測するために付けたセンサーであり、また装着した彼女らに新たなスキルを覚醒させる追加装備だ。
腕輪の形をしたそれはキャラクターと一体化し、常に彼女たちの行動を読み取って、新スキルを生み出さんと待ち構えていた。しかしだ。
「どう? 確か、たしかここまで、スキルは出ていないって話だったけど、あれから進展はあった?」
「うんにゃ。特にないねぇ。作戦は失敗に終わりました隊長!」
「ん-みゃ」
「そうだなぁメタ助。んにゃんにゃだ。うりうりうりー」
「うにゃっ! うみゃふふふっ」
小さなその身をユキに抱えあげられて、メタはうりうりとされるがままだ。楽しそうである。
だが、彼女の語ったように『修行』の成果はこれまで出ておらず、それはハルも事前に経過報告で聞いていたとおり。
そのことは、アメジストもまた分かっていたはずだ。
「ちなみにみなさまは、どんな修行をなさっていたのでしょうか!」
「えっとね! 私とユキちゃんは、二人で模擬戦やってた! 凄いんだよ、ユキちゃん。戦いの中で、また新しいスキルを閃いちゃうんだから」
「普通のやつだけどなー」
「あら? おかしいですわね? 今は通常のスキル習得は抑えて、処理は腕輪側に回すようにしているのですが」
「聞いとらんぞ!」
「言っておりませんので。まあ、ユキさんの才能の高さという訳ですね」
「ルナは?」
「私は二人の激しい戦闘になんて混ざれないから、個人でちまちまと魔法を練習していたわ。……な、なによっ?」
「いや。元気にかけっこするお友達に混ざれずに、一人で黙々と砂場遊びをするルナを想像して」
「人の幼女時代を勝手に決めつけないの。というか、そもそも公園遊びなんてしたことないわよ、私」
「わたくしもです! そうだ! 今度、いっしょにやりましょう! 思い出を取り戻すのです!」
「アイリちゃんはともかく、私は絵面が厳しいわねぇ……」
さすがに、ソフィーとユキによる頂上決戦にも等しい戦闘に割って入るのはルナでなくとも無理だろう。
その代わりというのもおかしいが、彼女には何度か地震でお世話になった。
アメジストはそんな彼女らの特訓の成果を、直接腕輪のデータを確認しながら分析していく。
「ふんふん。なるほどなるほど」
「ねーねーアメジストちゃん! 結局これって、何をやってるの?」
「それはですねソフィーさん。この地にあると思われる計測不能のエネルギーを頑張って探し当てるセンサーであり、そして、その力をなんとかしてスキルシステムと結びつける連結器としての役割になっているんですよ」
「ふーん? よくわからないけど、アメジストちゃんも苦労してるんだね」
「まあ、それはもう、実は毎回」
「態度は毎回ものすごく余裕たっぷりなのだけれどね」
「お仲間ですわねルナさん。いい女は、裏での苦労を見せないものですからね。でも最近わたくしは、少しだけ弱さを見せられるように成長しましたの」
「いやお前は捕まって暗躍できなくなっただけだろ」
「あ~んっ」
良い話風に言っても駄目である。台無しである。
まあ、その執念と根性だけは本物なのは間違いない。優雅に見えて、泥臭い努力家のアメジスト。
そういうところは、見習いたいと素直に思うハルだった。口には出さないが。態度は素直ではないハルだった。
「ちなみにその際の処理は、エリクシルネットに丸投げしています。その辺はここのゲームと同じですね。なので、皆様の負担になることはございませんので、ご安心を」
「丸投げって、どーやん? どゆこと?」
「イメージ的にはエーテルネットに計算をさせる時と同様であると考えていただいて構いません。人々の意識が渦巻くあの場に、必要な計算を投げる。するとそれらが分散処理を代行し、結果となってこちらへと返ってくるのです」
「なるほど……?」
「わかった! つまりネット上のいっぱいの人に、宿題を代わりにやってもらうのと同じだね!」
「宿題は自分でやろうねソフィーちゃん」
まあ例えはともかく、確かに処理はエーテルネットワークの通常処理にかなり近いようにハルも思う。流石はエーテルネットのオリジナルだ。
人脳を連結し一つの巨大な計算機として成立させたエーテルネットに対し、エリクシルネットはその処理を集合した意識が行う。
脳と意識はどう違うのか、と聞かれるとハルにも答えられないが、まあ要するにどちらも、並列型のスーパーコンピュータのようなもの。ということ。
ちなみに、『フラワリングドリーム』の際にコスモスが視聴者の意識を集めてイベント展開の自動決定を任せていたあの方法が、性質的にはより近いだろう。
「なるほど、だいたい分かりましたわ。どうやらルナさんが、この中では最も覚醒度合いが高いようですわね」
◇
「……私が、かしら? お砂場遊びをしていただけなのだけれど」
「『修行』の激しさは、そこまで重要ではありません。とはいえわたくしも、最初はソフィーさんかと予想しておりましたが」
「私? なんで!」
「ソフィーさんの<次元斬撃>。あれは最も超能力に近い魔法です。そしてどのゲームにおいても、貴女は必ず空間系のスキルを閃いてみせた。それだけ、スキルシステムとは親和性の高い才能をお持ちという事でしょう」
「うーん。わかんない!」
「そういうものですわ」
確かにハルも、真っ先に何かを閃くといえばソフィーのイメージがある。
いわゆる天才。そしてその内容も空間切断やその亜種で安定しており、今回もそれに類する何かを難なく習得してくる、そんな気がしていた。
しかし、アメジストの見立てによれば彼女はまだ新スキルが明確な形を成さない状態。
エリクシルネットの集合知でさえ、『宿題の答え』が導き出せない状態だ。どれだけ難しい宿題なのだろうか。ネットに頼るのもやむなし。
「それこそ、私に才能なんて言われてもねぇ?」
「えっ、あんじゃんルナちー。なんだっけ、千里眼的な超能力が」
「ああ、魔力視ね? お母さまの<透視>の影響かなにかで、なぜか生まれつき持っているみたいね?」
「ええ。非常に稀有な才能です。誇ってよろしいかと」
「……誇るといっても、こちらの世界に来ることがなければ、一生花開くことの無かった才能よ。御兜や匣船はもちろん、お母さまのポンコツな<透視>にすら実用度は劣るわ」
「そう卑下なさらず」
まあ、ルナに『生まれつきの才能』と言っても、その出自ゆえなかなか素直に喜べはしないだろう。
そんな事は気にせずなおも褒めようとする空気の読めないアメジストを制し、ハルは具体的な結論を彼女に急がせた。
「……それで、アメジスト? 結局ルナは、何が出来そうなの?」
「そだぜージスちゃん。ルナちーの新技、とっとと公開するのじゃ」
「気になるのです! わたくしも!」
「皆様せっかちですわねぇ。まあわたくしも? 早く見てみたいですので、早めに形にしてみせましょう」
「頼むわね?」
アメジストが腕輪をなにやら操作していくと、それを通して再びエリクシルネットに接続している気配がする。
今まさに、その奥に渦巻く無数の野次馬たちが、渡された『宿題』を一斉に解いてくれている所ということか。
大したコストもなく、無料で代行を頼めるのは良いことだが、厄介なのは望みの答えが返って来るとは限らないというあたりか。
確定した答えは修正の余地がなく、例え1+1を『3』と返されてもこちらは従うより他にない。
これが、スキルシステムにより決定されたユニークスキルが融通の利かない物になりがちな理由らしかった。最近アメジストが教えてくれた。
「ある程度は、わたくしどもの方で方向性は調整できます。『宿題の頼み方』の工夫ですわね。そのあたり、コスモスちゃんなどは上手にやっておりました」
「あれは『大多数が無意識に望んだイベント展開』という強力な方向付けがまずあったから、それが大きそうだね」
「はいハル様。その通りですわね。……と、そろそろ完成しそうですわ? ルナさん、メニューを開いてご確認を」
「ええ。分かったわ?」
ルナがメニューを開きスキル欄をチェックしてみると、そこには確かに新たなスキルが登録されていたようだ。
そのスキルはどうやら土地の構成を操作し変形をさせるという、この惑星開拓ゲームには確かにぴったりなスキルであった。今のハルたちにも役立ちそうだ。
「む? 千里眼関係ないじゃーん。ジスちゃん、才能はどーした才能は。ルナちーの才能関係なかったじゃん」
「落ち着いてくださいましユキさん。わたくしだって、この地の謎エネルギーをルナさんに可視化していただいた方がよかったです……!」
「これが、融通の利かなさ、なのですね……!」
「私が地震ばっかり起こしていたからかしら? はたから見て、『地震女』だと判断されたと? 誰が地震女よ」
「落ち着いてルナ」
「まあー、街作りゲームでプレイヤーが土地を自在に操作出来るのはありがちですからー。ついでに地震も竜巻も、隕石もありがちですー」
「そう。じゃあ次は、隕石スキルでも目指してみるわ。匣船の連中にも、メテオバーストの乗り心地を体験させてあげましょうよ。それこそ匣に押し込んでね?」
「落ち着きましょうルナさん!」
そんな感じで、ルナには少々不服であったようだが、無事にこのゲームに適合したスキルを習得できたハルたち。
使って見たら案外楽しかったようで、ルナもすぐに機嫌をなおしてくれた。
しかしそのスキル、やはり魔力を消費しない構造となったようで、相変わらず何のエネルギーを使っているのか謎のままである。
自分たちの身で解析できるようになり、この先研究が進むといいのだが。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。




