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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1583話 主食と酒との効率化

「俺に聞いたところで解決すると思うのか、お前は。そもそも俺の会社は、そんな原始的な方法で農業をやっている訳ではないんだぞ」

「そうだよね。ソウシ君に聞いたのが間違いだったよね。おぼっちゃまには難しい話題だったか」

「ええいくそっ! 舐めるなよ!? 食品メーカー跡継ぎとして、当然知識はある! というよりお前こそ学園で何を学んでいた!」

「いやあ」

「ハルさんの特待生クラスというのは、カリキュラムが通常と違うのですか?」


 ハルは手土産代わりに持参した採れたてのキャベツと、天空城から持参した肉を合わせて、この場で即席の炒め物など振る舞いながら再びソラたちの元にいた。

 せっかくのお隣さんなのだ。意見が聞きたいと思ったら、こうして気軽に訪ねていいだろう。


 まあ、ハルが気軽に訪ねてソウシが歓迎してくれるかどうかはまた別だが。


「お肉もらいー」

「それは! お前、よくも俺の肉を!」

「ミレ、お行儀が悪いですよ」

「新入りにはこうして立場を分からせてあげないと」

「おのれっ……! 家柄を鼻にかけるかっ、いけすかんっ……!」

「君が言うのかいソウシ君それ?」


 肉野菜炒めをつつきながら、時に奪い合いながら、おおよそお金持ちとは思えぬ様子でハルたちは食事をしつつ談笑する。実に和やかな光景だ。そういうことにしておく。


 ただ、こんな素朴な料理など拒否されるかと思ったハルだったのだが、案外ソウシは気にしなかった。

 むしろソラの方が不慣れであり困惑していたようだが、こちらはこちらで、出された食事を断る無礼を働くタイプではないようだ。


「……それで、酒だったか。迷ったらビールか日本酒にしておくんだな」

「ビール、ですか? 意外ですね」

「お貴族さまには馴染なじみがないか? ふんっ。やはりお高くとまっているな!」

「えっ。逆にソウシ君は馴染みが深いの? 嫌だなあ僕。ジョッキ片手に豪快にビール流し込むソウシ君は」

「でも今の彼を見ていると似合ってるんじゃなーいの。キャベツ炒め王子に、ビールを追加~~」

「ふ、ふふっ。確かに……っ」

「炒めているのはコイツだろうが! そもそも豪快に飲んで何が悪い! 食事にはそれぞれ、見合った食べ方があるというもの!」

「なるほど。ではここに用意があるから、ぜひソウシ君にはお手本を見せてもらおうか」

「どうしてあるんだよ! いつの間にだ!?」


 ハルが手品のように差し出したビールのグラスを、ソウシは驚愕きょうがくの表情を張り付けたまま、つい受け取ってしまう。

 どうしてか、と聞かれれば、ソウシのこの反応が見たかったからに他ならない。性格の悪いハルである。


「やはりソウシ君はツッコミの才能がある。僕の目に狂いはなかった」

「ハルさん、また性格の悪い……」

「おっかない人だね。それはそれとして、あたしにもちょーだい」

「こら、ミレ」

「もちろんさ。構わないよ」


 ハルはミレたちにも<転移>で持ってきたビールを手渡し乾杯すると、皆でグラスに口をつける。

 色々言ったがハル自身もあまり馴染みはなく、そこそこ新鮮な経験だ。


 なお、ああは言ったもののソウシの飲み方は豪快というよりも上品さが勝り、やはり生来の気品のようなものが感じられた。


「……悪くはない。だが、雑味、えぐみが抜け切れていないのが気にかかる。それとも、こちらではこれが良いとされているのか? それならば、特に口出しはせんが」

「さすがに私には、よくわかりませんね……」

「うぇー。あたしは苦手かなぁ?」


 異世界の醸造じょうぞう技術は、魔法もあるためそう低くはないのだが、それでも最先端のエーテル技術による食品加工に精通したソウシが、太鼓判たいこばんを押すには至らなかったようだ。少々残念。

 とはいえ頭ごなしに否定するほどでもないようで、なんとか異世界ブランドの面目も保たれたといったところか。


 まあ、別にこの味がこの地でも再現される訳でもないので、これは何の基準にもならないのだが。


「私は別のがいいなぁ」

「お前の意見など聞いてはいない。だが、それならば日本酒を選び稲作をするんだな」

「……先ほども『ビールか日本酒か』で二択でしたが、それは、穀物原料だからでしょうか?」

「そうだ。麦か米。主食の生産と共用できる。限られた土地、限られた労働力、それらを効率的に使える上に、保存もきく。効率の観点からいって、他を選ぶ理由がない」

「なるほど。つまりあのゲームなどしないと言っていたソウシ君もすっかり、ゲーマーとしての効率プレイに目覚めたっていう訳だ」

「商売こそ生産効率が命だろうが! ゲームでしか考えていないのはお前の方だ!」


 まったくもってその通りである。響き渡るソウシのツッコミに、ハルも深く頷いた。


「……はぁ。もうビールでいいんじゃないか? こうしてキャベツもあるようだしな」

「んな適当な……」

「俺にとっては結局他国の事情だろうが! いや待てよ? やはり稲作にしろ。そして余った分はこちらに売れ」

「確かに。貿易のことまで考えればさらに要素は増えますね。これは私たちも、よく考えなければならないでしょうか」

「あたしたちはまず、もっと発展させないとそれ以前だよ」


 皆でキャベツ炒めをつつきながら、この地域に将来に思いせるハルたちだ。

 一応、首脳会談になるのだろうが、そのせいでどうにも締まらない。まあ、そうはいってもゲームの中の事なので、こんなものではあるのだろう。


「しかし、このキャベツ美味いは美味いが、大きさの割に味が未熟な気がするな? そういう品種か? なんだか、無重力下ででも育てたようなアンバランスさだ」


 そんなキャベツに対しソウシが何気なくつぶやいた一言に、彼の流石の才能を感じざるを得ないハル。

 そんな彼の意見も参考に、ハルたちの大農園計画も次の段階へと進んでいくのであった。





「と、いうことのようだよ」

「ビールか、清酒か、ですか! 確かに効率的で、理に適っているのです」

「酒は敵じゃ。奴は判断力を鈍らせるぜハル君! わが国では、全面禁止とする!」

「国民を全員ゲーマーにでもしたいのかしらユキは……? 皆が皆、あなたみたいにストイックにはなれないわよ?」

「そうですねー。人類の歴史はお酒の歴史。地球では最古の記録と同時にもう存在していましたしー、こちらでもそれは同じですよー? まあー、“私たち以前”の歴史は詳しくないんですけどねー」


 詳細な方針を決めるため、女の子たちにも一度招集をかけたハル。彼女らも交えて、現状の確認と今後のためのすり合わせを行っていく。


 そんな中でカナリーから出た言葉は、なかなか興味深いものだった。

 神々が導いてきたこの異世界の歴史でも、やはり最初期の頃からお酒と共に歩んできたらしい。


 それ以前、大災害以前からきっちりお酒は存在していたようで、人類というものは世界を隔ててもお酒の魔力からは逃れられないようだった。


「この星の、過去のお酒がどんなものだったにも興味はあるけどね。残念ながら、このゲームのNPCが再現できるとも思えない。やはりここは、地球流でいくとしよう」

「それでビールか、日本酒かだね! うんうん! 確かにお爺ちゃんも、どっちも大好きだったなー」

「ソフィーちゃんのおじいちゃん、剣士だよね。剣振るのに邪魔にならん?」

「なってた! 酔っぱらった次の日は、私がぼこぼこのバラバラにしちゃったんだから!」

「ば、バラバラ……!」


 恐らくは比喩でもなんでもなく、実際に分解されてしまったのだろう。恐るべきはサイボーグ剣術。


「でも本人は、『機械の体には酒はきかねー』とか言って、止める気はなかった!」

「脳は生身でしょうに……」

「ちなみに今の私は、アルコールを体内エーテルで分解できるようになったから、もうお爺ちゃんの完全上位互換だよ!」

「それは、お酒を飲んでいる意味、というか、酔う意味が果たしてあるのかしら……?」


 ルナの問いは半ば哲学じみているのでこの場で考えるのはよしておくとして、この場では、メインとなるお酒の種類を決めてしまおう。


 別に、多種多様に様々な醸造所じょうぞうしょを建ててもいいのだが、やはりソウシの言うように、一種に絞って原料を栽培した方が効率は良い。

 そして主食と併用するのがさらに効率的という彼の意見も、非常にもっともなものだった。


「私は、なんでもいいわ? ユキはそもそもお酒アンチとして、アイリちゃんはどう? どんなお酒が好きかしら?」

「むむむむ……! わたくしは、実はあまーいお酒が好みでして……」

「ビールも日本酒も、甘くはないですねー」

「で、ですが! どちらかといえば、お米を作ってみたいです、わたくし!」

「ふむ。なるほど」

「わたくしたちの世界、お米もありますが本流ではなく、あくまで嗜好品の位置づけ。お米をメインとした文化、見てみたく思います! ハルさんたちの、世界のものですし、えへへ」

「そうだね。異論が無いなら、そうしてみようか。ああ、別に甘いお酒も、それはそれで作ったって構わないさ」

「私は大丈夫! うちの周りド田舎だったから、お米も作ってたよ! だから手伝える、かも!」

「別にソフィーさんに田植えのお仕事をお願いすることはないですけどねー?」

「私もそれでいいわよ?」

「よいぞよいぞ。そしてお酒にする前に、全部食っちゃる」

「ユキは国民皆ゲーマー化は早く諦めよう」


 そもそも全部食べてしまっては、NPCの食生活が維持できないので止めていただきたい。


「……となると、大規模な土地の改造が必要になるか」

「ま、まずかったでしょうか……!」

「いいやアイリ。構わないさ。そもそもビールでも、麦畑は大量のスペースを使うし、大麦小麦で分けるとなると共用のメリットも薄れるとも言えるし」


 となると、まずは治水工事か。そうハルが頭の中で図面を引き始めたその時、またどこからともなくアメジストが姿を見せて、進行に待ったをかけてきたのだった。


「その前に、お待ちをハル様。まず先に、皆さまに施したキャラクター改造の結果チェックを、わたくしにさせてくださいまし」

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― 新着の感想 ―
ドヤ顔ダブルジョッキのソウシですかー。それはもはやソウシではなくウシ? いえいえー、まだソウの可能性もー。何か違いはあるのか? 大判焼きと今川焼ぐらいには違うかもしれませんねー。 食品業界の跡取りなだ…
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