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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第5章 オーキッド編

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第158話 魔王との謁見

 試合が開始されると、早くも複数の影が魔王城へと続く橋に映った。

 この試合の攻略法とでも言うべき、『いかに自分だけが何度も死ぬか』、に気付いたトッププレイヤー達だろう。


「玉座の間までノーガードも芸がない。アトラクションでも配置するか」

「モンスターでも召喚して襲わせるん?」

「いや、魔法のトラップかな? 決まったパターンで動作するやつ」

「そのパターンを読んで回避するやつですね! わたくし、分かっててもよく当たっちゃいます……!」


 モンスター召喚も魔王城らしくて面白いと思うのだが、そういう事をすると、レアアイテム採り放題なのがすぐバレてしまう。自重しよう。


「じゃあ私がモンスターやる!」

「徘徊する騎士か。おっかないね」

「適当に間引いてくる!」

「どうせ最初は大して来ないよ。しばらくここに居な」

「わかった!」


 アトラクションは、一回では突破出来ないようにそれなりの鬼畜難度にしようと思う。

 そうすれば、慣れによる突破の達成感と、一回ごとのキャラクターの成長を実感できるだろう。


 橋の上には一定周期で往復する光の玉や、一定感覚で魔法を吐き出す魔方陣、床から飛び出す棘、交差するギロチン状の刃などのトラップを、ところ狭しと配置した。

 これを突破出来るのは、相当にフルダイブゲーム慣れした一部の人間だけだろう。しばらくの間は城に到達出来る者すら稀のはずだ。


「早くも大半がチリになったわね?」

「でも、すぐ戻ってくるのですよね」

「リスタート何処なんだろうね? 本拠地からだと面倒なんじゃない?」

「僕もそう思うけど、その場で復活だったら今度は僕がキツすぎる」


 何度も死んで覚えて攻略する事が前提の『死にゲー』では、復活地点が死んだポイント、つまりは反復して練習したいポイントから遠いとストレスになる。そこまでの道中は、特に練習が必要ないか、既に覚えてしまったポイントだからだ。

 だが、だからといって、この試合でも死んだその場で復活されてしまっては大変だ。いずれは皆、ハルの所まで到達する。そしてハルに倒されたその場で復活する。


「玉座の間がプレイヤーの方々で埋まりますね……」

「常時リスキルしよう。大魔法バラ撒いて」

「クソゲー待ったなし」

「楽勝そうで良いじゃない?」


 復活狩り(リスポーンキル)は確かに楽になるだろうが、不満がすごい事になりそうだ。死亡と復活の無限ループ。そこには何の楽しさも存在しない。


「っと、橋の中腹まで来てた人も逝ったね」

「めっちゃ突っ込んで来てたね。ご愁傷様。<加速魔法>使ったのかな?」

「いや、素のスペックを向上させたんだろう。後は本人の資質」

「この序盤でどうやって? ……ああ、復活可能回数を消費したのね? 今回の試合では不要なものだから」

「だろうね。思い切りが良い」


 対抗戦では、本来は九回まで復活出来るシステムになっている。そこは今回も変わらない。その回数を消費する事で、多量のポイントが手に入る。

 どうせ今回は無制限に復活出来るのだから、と最初に全てポイントに代えてしまったのだろう。


「でも、どうして復活回数が別途で設定されているのでしょう? わたくし達に倒されても平気ならば、不要なのでは?」

「それはねアイリちゃん。死因は私達だけじゃないからさ!」

「緊急ログアウトによる回避行為も、死亡扱いになるしね」


 不死身扱いなのは、『黄色チームに倒された時のみ』。つまり他チーム同士の争いが起きた等で死亡すれば、そこでカウントが消費される。

 そして、フルダイブゲームでは、いかなる状況でも任意でログアウト可能である事が義務付けられている。このゲームもそれは変わらない。

 だが、『死にそうになったらログアウト』、で常に逃げられていては、試合が成立しない。そのため緊急ログアウトも、試合においては死亡扱いだった。復活回数を消費しないログアウトは、ランダムに数分間を必要とする、事前予約制だ。


「あの子、セリスかしら?」

「見た感じそうだったね。宣言通り、決着をつけに来たらしい」

「おっ、見物だね。結構やるようだったから、私もってみたいな!」

「日本で武術やってるみたいだね」

「あの綺麗な型ですね。負けはしましたが、あれは評判のようでした。勿論、それを捌ききったハルさんもです!」

「ありがとうアイリ」


 一種の演舞として、良い見せ物になったのだろう。この世界には魔法があるためか、格闘技や剣術などは、あまり発達していないようだった。


「そんな噂になっていたのね? あの後はほとんど誰も席に来ないから、知らなかったわ?」

「あはは。ウィスの人が居座ってたからねー。王様と王子様以外は、恐縮して近づけなかったもん」

「そんな中で一人だけ来た手の平返しおじさんは、賞賛に値するね」

「とても良い笑顔でしたけど、内心は、冷や汗が止まらなかったでしょうね」


 プレイヤー達には<簒奪>によって非難の的となってしまったセリスだが、意外にも貴族達からのウケは悪くなかったようだ。

 使徒のやることだから、と大半の事は流されてしまう土壌が上手く働いたのかも知れない。

 そのセリスが、どうやら此処へやってくるようだ。とはいえゲーム慣れはあまりしていないようで、その高い身体能力を生かせないでいる。キャラクターの体、というものを動かすには実際の肉体とは違う慣れが必要だ。


 ハルの居る玉座の間に到達するのは何時になるかは定かではないが、楽しみにして待つとしよう。





「一番乗りです!」


 そうして魔王の玉座、その最初の到達者が現れた。


「いらっしゃいソフィーさん。流石だね」

「はい! 私とこの子に、敵はいません!」

「ふむ、そうかね?」

「……ハルさん達以外に、敵無しです!」


 自らの刀を誇るソフィーに向け、意地悪そうに『神剣』をチラつかせると、ソフィーの笑顔が固まる。ルナに頭をはたかれてしまった。


「まずはゆっくりして行きたまえ、と言いたいが、君の後にも来客の予定が詰まっている。手早くご退場願おうか」

「わ! 魔王様っぽいですね! 直々のご出陣ですか!?」

「誰か戦いたい人はいるかい?」

「ハルさんです! この刀のご恩、私の成長をもってお返しします!」

「よかろう。では死ぬがよい」

「行きます!」


 玉座から立ち上がり、一歩踏み出すその間に、一瞬でソフィーが間合いまで詰めて来る。この成長、確かに驚異的だ。

 以前戦った際にハルが見せた、<加速魔法>と<飛行>の組み合わせによる超高速、それを体得したようだ。ついに<飛行>も取得したらしい。


 その圧倒的な速度で敵の間合いを侵略し、魔法を使わせる隙を与えない。そして愛用の剣、ハルの作った極限薄の刀でもって一刀の元に葬り去る。彼女の必勝パターンとして、長く君臨するであろう必殺剣だ。

 だが、届かない。


「そんな……!」

「まずは魔王の洗礼だ、絶望を送ろう。その刀、『何でも切れる』訳じゃあない。切れやすいだけだ」


 刀はハルのスーツ、その表面の繊維一本を切り取った所で止まっていた。ハルはセリスの時同様、防御の構えすら見せていない。

 正確には、繊維ですらない。繊維の形を取り、流動する半液状の物質が、白刃取しらはどりの如く刀身を挟み込んでいた。切っ先に当たる繊維は、切り取られたその瞬間に補充され、どれだけ切っても先には進まない。永遠にかすり傷で止まっていた。


「な、謎の防御力! この子でも切れないなんて!」

「防御力、と言っていいのかな? まあ、物理攻撃で抜けるとは思わないで貰おう」

「確かに! そんなに硬いならこの子も折れちゃいそうですからね!」

「少し、ヒントを与えすぎたか?」


 いや、そもそもそんなに硬いなら、服として着られやしないだろう。見れば分かる事だった。


「ならばこれで! 防御力無視です、<次元斬撃>!」

「うわ、こわっ! ……残念ながらそれも無効だ」

「地が出ているじゃないのハル……」


 つい少し焦ってしまった。至近距離からソフィーのスキル、<次元斬撃>が放たれる。これは剣の軌道の延長線上を空間ごと切り裂く彼女のユニークスキルだ。物理的な防御力は一切通じない。

 ハルのスーツでも同様だ。これの強みは、ほぼ科学的な理論に基づくもの。空間ごと切られては、対処のしようがなかった。


 そこは、魔法で防ぐ。空間に干渉する魔法は、アイリの得意属性だ。ハルも彼女と共に、空間魔法を習得している。無敵とも思われる<次元斬撃>であっても、防御可能。


「こっちも効かない!?」

「ソフィーさんは強いけどね。一撃必殺のその二つが効かない相手には、決め手に欠ける。魔法が無いからね」

「ハルさんくらいしか居ませんよぅ、そんな人ぉ!」

「それは光栄だ」


 圧倒的な実力差を見せつけ、初の邂逅は勝負ありだろう。ここらで、ご退場いただく。次のソフィーは、今より一段階強化されているのだろう。今後が楽しみな半面、恐ろしくもある。

 今でさえこれほどまでに強い彼女、更に強化されて行ったら、どうなってしまう事やら。


「次は、負けませんから!」

「期待して待っている。空間断裂バロール……!」


 彼女の強さに敬意を示すように、対神用の魔法で一撃の下に葬り去る。意趣返しが如く、空間ごと体を真っ二つにされてソフィーは消えて行った。

 最初の挑戦者を、危なげなく撃退に成功した形で初戦は終わった。


「ハル君ノリノリだったじゃん。魔王は嫌じゃなかったん?」

「嫌ではないよ、少し困ってるけどね。それに戦闘の様子は放送してるし、盛り上げは必要だ」

「魔王役のあなたも、なかなか素敵ね?」

「ルナちーは、ああいうハル君が好きなんだ」

「ゲームには、魔王様がたくさん出てきますもんね! わたくしも魔王様やってみたいです!」


 アイリの言うように、ゲーマーとしては魔王には思い入れが大きくなる。それに任命されたというのはある種、名誉なことだ。

 だがこの世界では、ゲームとして派手に戦うよりも、アイリの夫として静かに生活したい。そういった点では魔王扱いは少し困る。ハルの気持ちとしてはそんな所だった。


「あ、空間の断裂、閉じるんだね」

「ちょっと大変なのでー、あんまりバロールは使わない方がいいかもですねー」

「ごめんねカナリーちゃん。手間をかける」


 ソフィーのスキルと違い、『空間断裂バロール』の魔法で割り開いた空間は自動で戻らない。ハルも戻せない。それ故に禁術指定している魔法であった。

 だがここは神界、神様達がそこは直してくれるようだった。彼女に苦労をかけないよう、あまりこの魔法は使わないでおこう。


 そうしてハル達は、次の挑戦者を待つのだった。





「よぉ。久しぶりだなハル」

「あ、飛燕じゃん、久しぶり。こっちで会うのは初めて?」

「ハル、魔王様は?」

「だめさルナちー、あいつノリ悪し」

「うっせーぞ取り巻き」

「なにおぅ? 私がボコってやろうか」


 到達二人目は掲示板でよく見る顔、飛燕だった。一度、不意打ちのトラップに引っかかって退場したようだが、逆に言えば一度の復活のみでここまでたどり着いた。

 ハルと、そして今言い合いをしているユキとも、他のゲームで何度か面識がある。つまりは、それなりに実力のあるゲームプレイヤーだ。


 和風、恐らくはファンタジーテイストにアレンジされた忍者風の装束で、口元はマスクで覆っている。覆面は付けておらず、短髪の下に鋭い目が光っていた。

 そういえば彼は、ニンスパの熱心なプレイヤーだったか。


「お前、あんま他とツルまなかったのにな、特に女とは。それが今はそんな女をはべらせて。……ハーレムか!」

「いや、別に僕、硬派気取ってた訳じゃないんだけど?」

「はいはい! 私ツルんでた! ずっと!」

「うっせーぞ、趣味が男の癖に」

「ぐっ、言い返せん……」

「ここ、同窓会会場になりそうね?」

「ああ、そうかも、他にもあいつらも来るかもねー」


 飛燕の言葉を借りれば、ハルがツルんでいたプレイヤー達もこのゲームに誘っており、彼らも結構楽しんでいるようだ。

 いずれも実力のある者ばかり、すぐにここまでたどり着いて来るだろう。


「俺、何人目だ?」

「二人目。最初はソフィーさん」

「……解せないな。言いたくないけどカオスの奴なんか、俺よか強いだろ?」

「ああ、彼なら入り口のトラップに嬉々として突っ込んで死に続けてる」

「効率厨が……」


 死んで復活するほど強くなる、という仕様を最大限活用すべく、橋の入り口にある魔方陣に今も突っ込んで行くのが<神眼>で確認出来た。まだここに来る気は無いようだ。

 効率は良いが、飛燕のように、なるべく死なずに真面目に攻略しようというタイプには印象は悪いらしい。


「まあいい、相手はハルで良いのか? それとも取り巻き倒さないと駄目なタイプとか」

「いや、僕がやるよ」

「むしろ全員でボコろうぜハル君」


 いずれはそうする必要があるかも知れない。だが彼は、あまり強化の無い段階でハル相手に力試しがしたいようだ。それに答えよう。


「行くぜっ!」


 宣言と同時、彼は短剣を装備すると、それをハルに向かって投擲する。

 飛燕の顔には、額に第三の目が開いていた。幽体研究所で改造した物だ。どうやら距離感のとり方が、非常に向上したらしい、狙いも正確だった。


「残念だけど、僕に隠し刀は通じない。まあ、投擲自体が威力不足だと思うけど」

「ちぃっ、何だその防御力。並の武器じゃねーぞそれ、しかもエンチャントしてある」


 こちらに迫る二本の短剣を、ノーガードで弾きつつ、それに隠れて迫る見えない刃を指で挟んで、これ見よがしに止めてみせるハル。どうやら、こちらが本命のようだ。


「これが君のスキル?」

「ああ。知らなかったか? 全く、初見で止めてくれるなよ……」

「掲示板に出してないなら知らないね。あ、今放送してるや、ごめん」

「構わない」


 飛んでくる実際の刃に意識を集中させ、不可視の刃でもってそこに浮かんだ隙を穿うがつ。これが彼の必勝パターンのようだ。

 分かってしまえば簡単……、とはいかない。人間、どうしても目で見える物を追ってしまう。そこを注視しないように、と意識すると、今度は逆に力が入りすぎて体がこわばる。容易には突破できない、良いスキルだ。


 ただ、ハル自身も昔から、こうした相手の意識の隙間を通す体術を得意としている。ハルにこれらの戦法は通用しなかった。


「見えないってのは厄介だけどね。意識取られるから。誰かと組んで来ると良いんじゃない?」

「そうさせてもら……、てめぇ、何時の間に投げ返しやがった……」

「またの挑戦、待ってるよ」


 答えを聞くことは叶わず、飛燕も消えて行く。胸には彼の投げた短剣が突き刺さっていた。会話中、彼の意識の外からハルが投げ返した物だ。


「敵の得意技で返すのは楽しいね」

「やっぱハル君、魔王なんじゃね? 喋り方変えなくても」

「強者の余裕を感じますね!」

「趣味が悪いわ?」


 今のところは、こうして遊ぶ余裕すら持って現行の強者をもあしらえている。だが、これからはそうはいかないだろう。彼らはどんどん強化されてゆく。

 この試合の本番は、そこからだった。

※誤字修正を行いました。

 一文だけですが、セリフの変更を行いました。トラップに引っかかってやられた人、「一人目」となっていた部分の以前にも消滅描写があったため、意味が通らない文章になっていました。「橋の中腹まで来てた人」へ変更です。

 全体の流れに変更はありません。

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