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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1575話 力の無限増殖?

 ルナの放った、大地を揺り動かす魔法の力。それをソラの建てた施設は、実際にかき消し無効化してみせた。

 これは、正直なところハルも驚きの結果である。それは認めざるを得ない。


 ルナの魔法は決して弱いものではなく、距離を経て相当に減衰げんすいしたとはいえまだまだ強力なエネルギーを残していた。

 それをいとも容易たやすく、かどうかは分からないが、完全に相殺そうさいしてみせた。その事実は、しっかりと受け止める必要があるだろう。


「……しかも、魔力はやはりほとんど使っていなかった」

「はい、ハル様。しかしかといって、科学力でもありえません。いくら貴重な材料を消費したとて、あれだけで人工地震が起こせる訳がない」

「だよね」

「うにゃっ!」


 アルベルトも、メタもまたこの現象を間近に観察して訝しんでいる。

 一方のソラとミレは、いまいち実感が湧いていないようだ。まあ、『ゲームなんだから当たり前』という感覚が抜けないのは仕方がないことだろう。


「今のは、そんなに凄い事なんですか? いえ、実際に凄い力なのだとは思います。しかし、ハルさんたちのやっている事を見た後だと、どうしても……」

「ねー。出来て当然みたいに思っちゃう」

「いえ、私たちが同じことを出来るというのは、本来もの凄いことなのだと強く認識しなければいけませんか」

「真面目だね。ただ、僕らが驚いているのは別に君たちの急成長じゃないんだ。そこは何でもない事さ」

「そうなのぉ? こんな初心者に追いつかれて、嫌だとは思わない?」

「いや。別に。そもそもこの程度で追いついたとは思わないでもらいたい」

「気にしてんじゃーん」

「みゃふっふ」


 ……別に、本当に気にしてはいないのだ。ただハル生来の、負けず嫌いな部分が少し顔を出してしまっただけなのである。

 それを『気にしている』と言うのであろうか。いや、今はそんなことはどうでもいい。


「……僕らが気にしているのはそこではなくてだね。単に、出力で並ばれただけなら脅威ではあれ納得はする。このゲーム、そもそも僕らの方がチャレンジャーなんだからね」

「とてもそうは思えませんが……」

「いやそうなんだよ。招かれざる異物だ、正規のユーザーに及ばなくても文句は言えない。しかしだ」

「ええ。単にプレイヤーに高出力発生装置を積み込めばいいだけのこと。不可能ではありません。しかし……」

「ふなう~……」

「この力はまるで原理が分からない。地球人が、核爆弾を魔法で止められたところを見た時のような気分だよ」

「ハルさんも地球人でしょうに」

「まあ、宇宙人ぽくはあるー」


 誰が宇宙人か、などと反論していては話が進まないので、ハルはその言葉をぐっと飲み込む。


 要するに、原理が分からないのが気持ち悪いということ。

 魔法ですら、その名前のイメージに反してしっかりと系統立てられた理論体系が存在する。ハルたちの起こす奇跡は、その理屈の中から外れることはない。

 ……あまりない。はずだ。普段は。基本的に。


 だが今回の防災施設の起こした奇跡は、軽々とその理屈の範疇はんちゅうを飛び出していた。

 相変わらず魔力は大して消費せず、平気な顔で物理法則にも魔法法則にも反してくる。つまりは、これもソラたちを触媒とした、超能力の一種なのだろうか?


「ソラ、ミレ。今の防災フィールドの展開時、例の謎の頭痛や吐き気はあった?」

「いいえ。特には。というかダサいですね『防災フィールド』って……」

「ハル、ネーミングセンス……」

「いいんだよ名前なんて……、伝われば……」

「確かに伝わりやすいですね。それで、不調ですが、特に私は感じませんでした。ミレは大丈夫ですか?」

「平気。でも一瞬のことだから、気が付かなかっただけかもしれない」

「ふむ?」

「皆様は、日本での超能力の発動の際には、同様の不調を感じたりはするのでしょうか?」

「えっとねぇ。それは確かに、ちょっと疲れるかなぁって、」

「ミレ! いくら同盟関係とはいえ、安易に家の秘密を明かさないように」

「えー。いいじゃん、どうせバレバレなんだし。それに、ハルたちだって惜しみなしにあたしたちに秘密を教えてくれてるでしょ」

「いやけっこう惜しんではいるけどね」


 きちんと、秘すべき部分は秘している。こう見えて。

 魔法の理屈だったり何だったりといった部分は、既にその気になればあちらのゲームでも簡単に調べられる事。ハルもそうして今に至っている。


 いわば、公開情報を初心者プレイヤーに解説してあげているに過ぎない。

 まあ問題は、ほぼ全ての日本人は初心者という辺りだろうか。


「……そもそも私たちは、普段、軽々しく『力』を使うことを固く禁じられています。特に、我々のような末端の者は」

「掟だよ、おきて。今どき。やんなっちゃうよね?」

「ミレ、慎みなさい。という訳で、比較と言われましても正直、といった部分が大きいのは嘘ではありません」

「ありがとう。問題ないよ。じゃあそれなら、このゲーム内で<飛行>したり<念動>を行う際は、どう?」

「それならば、まあ。しかしそちらは、特別語ることがあるようには感じませんね。正直、ゲームのようにコマンドを選び、それが淡々と処理されて発動しているだけのような」

「普段ゲームなんてしないくせにぃ」

「うるさいですよミレ。少しはやります」


 なるほど。となると、これが彼らの超能力により発動した効果であったとしても、彼らの反応から読み取るのは難しいといったところか。


 今のところ、彼らが不調を訴えたのは二回だけ。どちらも、新たな建築を創造する際に発生した現象であり、単純な能力行使とは関係ない。

 つまりは一度作ってしまえば、あとはエリクシルネットへの接続なしに、使い放題ということなのだろうか。便利なものである。


「そうなると本当にコスト無しに? 念じるだけで使い放題? 便利すぎないか?」

「はい。ありえません」

「ふにゃんにゃ!」

「あの、コスト無しかといえば、そんな事はないようですが」

「ん? どういうこと?」

「フィールドの発動後、施設の従業員から一気に領主に向けて要求が寄せられてきています。これは、どうしたら……」

「どうしようもないよソラ。あたしたちじゃ。諦めたら?」

「そんな……」


 どうやら、ハルたちが能力のコストを追及している間に、別の致命的なコスト消費が発生していたようだ。


 施設内の、魔術的な怪しさを感じる謎の設備に使われていた、各種レアメタル、レアアース、宝石などを中心とした貴重品。それらの備蓄が尽きたと、住人から領主ソラに向けての要望がひっきりなしに寄せられているらしい。

 それが無ければもう先ほどのような防御フィールドは発動出来ないようで、それが目に見える形での、消費リソースということになりそうだ。


 もちろん生まれたてのソラの国は施設の立派さに見合わぬ田舎であるので、どこを探しても在庫は無い。

 近所にある初期配置デフォルトの都市ならしれっと売っているかも知れないが、それを買い求める資金はない。


 よって、なんとかするにはハルがまた用意するしかないのだが。


「悪いが少々時間が掛かる。またいちから、生み出さないといけないからね」

「……いえ。そもそもこの位置で維持していく施設ではないようです。ハルさんに今後も頼りきりになる訳にもいきませんし。残念ですが、維持は諦めるということで」

「無情だねー」


 そうして、収まらぬ警告文アラートログをソラが眺め続けることしばらく。せっかく新設された防災施設からは人が消え、ここにめでたく新品の廃墟が誕生してしまったのだった。





「ああ、すみません……」

「ソラ、気にしすぎ。ゲーム向いてないね」

「そんなことはないでしょう! 一回の失敗で判断しないでください!」

「まあ、完璧主義が行き過ぎると大変ではある」


 ソラは自分が原因で、生み出したNPCの住人が消えてしまった事を悔やんでいるようだ。あまりその辺を気にしすぎると、なかなかゲームが進まないので確かに向いていないという評価も間違いではない。


 まあその辺りハルも人のことは言えないが、ハルの場合は割り切るべきところはしっかり割り切ってプレイしている。

 そうでなければそもそも戦闘の生じるゲームなど出来ないし、非人道的な効率プレイなども出来はしない。

 ……いや、後者は別に必ず行わなくてはいけないものでもないのだが。


「まあともかく、これで完全にノーコストではないと分かった訳だ」

「ええ。しかし、これで謎が解明されたという訳でもありません。いかに希少性の高い物質を消費したとしても、それが希少性の高い結果を生み出す保証はないのですから」

「だね。普通はただ、貴重品を失って終わりだ」

「ふなうー」


 高いコストを投じれば、高いリターンが得られるはずだなどという考えは完全なる幻想である。すぐに捨て去った方がいい。

 他の数倍の高額ゲームの値札が、数倍の面白さを保証する、いやクソゲーではないということを保証することにはならないのだ。それは今は関係ないか。


「にゃうにゃう!」

「ん? どうしたのメタちゃん」

「うみゃみゃう!」

「どうやら、人類にとって『価値ある物』として認定された物質に、それに見合った何らかの力が付与されており、それを取り出す事が出来るのではないか、とメタは仮説を立てたようですね」

「その猫はいったいなんなんですか……」

「メタちゃんだよ」

「いや答えになってませんが……」

「かわいーねー」

「なうなう♪ ふなーご♪」


 まあ、納得できなくもない話だ。物質的価値を重んじるメタらしい発言といえよう。


 人々が無意識に『大切だ』と思うエネルギーが寄り集まり、物質を媒介ばいかいに発動される。

 まるでアイリスの得意とする『お金の魔力』の原理に近しい。そう思うと納得できそうだとハルにも思えた。


 しかし、問題があるとすれば、今回使われた物質は全て、ハルたちがついほんの少し前に生み出したばかりの物であるということ。

 人々が貴重品に対して感じる、そうした有難みもへったくれも、まるで存在しないだろう。


「……ん-。これがもし、ソラたちが苦労に苦労を重ねて集めた貴重品を消費することで得られる効果、というのなら、その説も納得いくんだけど」

「そんな区別が必要ですか? 苦労して稼ごうが、相続しようが天から降ってこようが、お金はお金ですし」

「うーんお金持ちの意見」

「あるいはただのバグなんじゃないかなぁ」


 その場合、この世界そのもののバグである。そうそう簡単にリソース要らずの増殖バグを許してくれる世界だろうか?

 どうにも、そうとは思えないハルなのだった。

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― 新着の感想 ―
そんな、ド素人がゲーム内のシステムを使って手品をしたところで、気にするようなハル様ではありませんねー。せいぜい、ちょっと手が滑って隕石が降り注ぎ、「今日の天気は石ころか」とさも何でも無さそうに振舞って…
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