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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1574話 始動する地鎮施設

 強引すぎる手法で全ての素材の調達を終えたハルたちは、それを戻ってきたソラへと渡してゆく。

 席を離れている間に何故か全ての素材が用意されていた。軽い恐怖体験に半身はんみを引きながらも、なんとかこらえてそれら建材を受け取ってくれたのだった。


「……もう本当、非常識ですよねハルさんは。ここまでゲームのように好き放題にされて、ここがもう一つの現実だなどと、信じろと言われても無理がありますよ」

「まあまあ。じきに慣れるさ。それに、僕としては君たちが、信じようが信じまいが、どちらだって構わないんだしね」

「相変わらず立ち位置の分からない人です。そして慣れる気がしません」


 それでも自らのプレイを先に進めるべく、ハルからしっかり素材は受け取るソラ。

 これは生来の真面目さゆえか、それとも例え理不尽な状況であろうと歩を進めることを止められない、彼の置かれた状況それ故なのだろうか?


「しかしずいぶんと、整った鋼材ですね?」

「……ああ。うん。頑張って作ったからね」

「にゃ、ふにゃにゃ……」


 嘘は言っていない。頑張って作ったのである、コピーを。作った物はこの場に無いが。


「何やら刻印だったり製造番号のような物が刻まれているようにも見えるのですが……」

「それだけ、作りがしっかりしているという自信の表れ、といったところだね」

「はあ……」

「気にしない事だ」

「なうなう」

「……まあ別に、今さら手段を問うような立場ではありませんしね、私も」


 どう見ても工場生産のそれを怪しまれてしまったが、意外と柔軟なソラであった。

 彼もまた裏社会の、匣船はこぶね家の一員として、綺麗ごとだけでは生きてはいないという事であろう。


「じゃあソラ、さっそく建てようよ」

「ええ、構いませんが。しかし建てるとしても、此処ここに建ててもしょうがなくありませんか? 重要施設のようですし、もっときちんと計画を練って。そう、都市の全体図がはっきりとした後に、」

「おばか! そんなこと言ってたら、いつまで経ってもテストできないでしょーに」

「しかしですね……」

「ゲームなんだから、場所が気に入らなかったら移設すればいいの。出来なかったとしても、取り壊して作り直せばいいの。完璧主義は機会損失するだけだよソラ」

「そういうものですかね」


 割とそういうものだ。確かにここで今回建てても、無駄になってしまう可能性は高いだろう。

 しかし、それを差し引いても今、この瞬間に施設の詳細が判明するメリットは大きい。


 それが明らかとなることで、今後の指針が一気に明瞭になる事だってある。それは、資材分のロスなど帳消しにして余りある成果なのだった。


「ソラがやらないなら、あたしがやっちゃうよー」

「ま、待ってください。やります、やりますから……」


 とはいえソラの意見も別に間違っている訳ではないのだが、ここはミレを含む周囲の雰囲気に押し切られる形で建設を強要されてしまった。

 仕方がない。ハルとしても、資材が正常に使えるか否かのテストをしてもらいたいのが本音ではあるのだ。


「……では、いきますね。これは少々、時間が掛かりそうですねやはり。一度帰っておいてよかったですか」

「あたしも手伝うよぉ。二人で同じ建物って、出来るのかな?」


 どうやら出来るらしい。二人の建築スキル、恐らくはゲームシステムにより補助された彼らの超能力により、用意された建材が次々と浮遊し、時に形を変え、建物の構造を形作っていく。

 それは、硬い鉄の部材でさえも、ぐにゃりと自在に変形させて見合った形状に変化させるほどに、自由度の高い力のようだった。


「ふむ。これは、思った以上に初期から高い出力を付与されておりますね。これほど自由な鉄材の変形、それどころか、添加物を付与しての鋼鉄化までもを同時に行っております」

「僕らが用意した鉄はそれぞれ微妙に中身が違う物ばかりだけど、ずいぶんと器用にやるもんだね」

「はい、ハル様」

「ふーにゃっ」


 ハルたちはその様子を、ハルたちなりの視点で観察してゆく。

 ソラたちの力で鋼鉄の柱は面白いほどに伸び縮みして、粘土でもねるように自在に建物を構成する。

 ゲームとしては何ら特別感はない演出だが、実物の鉄を相手にやっていると思うと一気に驚異的にも映るというもの。


 本来ならば高温にさらし、赤熱した状態で行うところを、常温で強引に行っているのは<神眼>をもって見ても正直目を疑う。


「……一応、温度が上がってはいるか。しかしこれは、どちらかといえば温度を上げて変形させているというより」

「はい。『変形させた結果、ついでのように温度が上がった』という関係が正しいかと」

「うみゃっ!」

「……そんなに、変なんですか、この作業は」

「うん。すごく変だね」

「あたしたちには、分かんない。フツーのゲームっぽいよ?」

「先ほども言われたように、これが現実だと思えば確かに変、ということなんですね。しかし、そうは言われても、こんな事よりずっと、ハルさんの行動の方が変なので」

「うっ……」

「そうそうー。なんか基準が、分からない」

「調子に乗って色々と見せすぎたか……」

「なんだか力を見せすぎた悪役みたいになっていますよ、ハル様」

「にゃうにゃう♪」


 まあ、これもそのうち慣れてくれるだろう。たぶん。きっと。

 いずれ彼らにも、何が自然で何が不自然か。自分たちのやっていることがいかに異常なことか、判断できる日が来るかもしれない。


 その時がきっと、彼らがこの世界を、真に現実の一部であると理解した時であるのだろう。





「うん。そろそろ完成系が見えてきたね。お疲れ様、二人とも」

「ほんとに疲れたよぉハルー。あたしなんだか、頭痛いしー」

「この程度で泣きごとを言わないでください。ただ確かに、以前と同様の不快感がある気はします」

「……おや? ……アメジスト、ちょっと」


《そうですわね。確かに、再びエリクシルネットに接続している気配がありますわ。その建築の際に生じている都合の良い力はあちらの世界で補強しているのか、それとも》


 それとも、この建築はただ単に建物の形を構築している訳ではなく、内部に何らかの力を織り込んでいるとでもいうのか。


 もしそうだとしたら、ハルたちにとっては少々厄介だ。これを形だけ真似しても、施設としての機能は再現できないという事になるのだから。


「まあ、とにかくちょっと待っててね。また、僕が割り込みをかけるから」


《甘やかしてしまうことで彼らの成長機会を奪うことになりませんでしょうか》

《そんな別に、苦労しただけ、苦しんだだけ偉いなんてことはないだろうに……》

《でも修行っぽくありません?》

《まあ確かに。って、ゲームじゃないんからさ……》

《ゲームですわ?》


 まあそうなのだが。そんな根性論で成り立っているのだろうか、超能力というものは。


 とはいえ、苦痛なんて無いなら無い方が良いに決まっている。ハルは以前と同様に、ソラたちの精神負荷を軽減すべく、エリクシルネットへの接続経路に割って入った。

 一瞬、生物にとってはある程度のストレスも必要、などという考えが頭をよぎったハルだが、それを振り払う。不調をきたすレベルは『ある程度』では済まないだろう。


「助かります。楽になりました」

「ありがとう、ハル」

「どういたしまして。このまま行けそう?」

「それは、ええ。正直、私としては完成の時間までぼーっと待っているだけに等しいので」

「ヒマだよね。別のことしてていいのかな?」

「まあ、いずれ放置してても自動で建設が進むようになれば、楽そうではあるね」


 その時は、まるでエーテルネットに必要なデータの処理を人々が全く意識しないように、ソラたちはまったくの無意識で超能力を発動できるようになるのだろうか?

 その状況こそが、アレキたちの目的だったりするのだろうか。力を持たぬハルには、正直実感が湧かない。


 そうしてその後も、ソラいわく『ぼーっと待つ』だけの時間を経て、ついに大規模な防災施設は完成に至る。


 その見た目は、清潔感のあるつるりと美しい白壁に覆われた、おしゃれな図書館、ないしは病院といったイメージを覚える見た目の施設。公共施設、といった印象を抱かせるからだろうか。

 全体的に丸みを帯びたその構造は、機能性よりもデザイン面を重視しているようであり、そのあたりもやはり、実際の防災施設とは結びつかない。


「お疲れ様。まあ材料から分かってはいたけど、やっぱり消防とか救急なんかとは関係なさそうだね」

「ふぅ。つーかれたぁ」

「そうですね。実際これで作業は終わりと言われても、私としても、何を作ったのか理解していませんし」


 ひと時の達成感を噛みしめるソラたちだが、その表情はやはり何となくの消化不良を感じているようでもある。

 自分たちは何を作らされたのか。この施設は、何の役に立つというのか。正直なところ、疑問が尽きないといった気分だろう。ハルも同様だ。


「……どうやら施設職員も、同時に生成されたようですね。彼らNPCのメニュー上の要求も、今のところは特に無いようです。なので、この状態で正常に稼働しているのかと」

「まあ、『防災』だしねえ……」

「災害があるまで、仕事はないのかな?」

「ですが平和ならば、それに越したことはありません」

「ただそれじゃあ困る」

「……ですよね」


 まるで平和を乱す悪の組織のような発言だが、真実なので仕方ない。平和なままでは、この施設の力が分からずじまいだ。


「なのでルナ、また以前のように、地震をよろしく」

「《いいけれど……、あなたねえ、また近所の国に迷惑よ……?》」

「まあ、文句を言ってきたら、僕が対応するさ。不安だったら、前回よりも出力落としちゃって?」

「《そうするわ?》」


 ハルは、ルナに再び、大規模な大地の魔法により人工地震を発生させるようお願いする。

 それにより南方から、再び強力な振動が地面を伝わりハルたちの居るこの場にまで到達してきた。


 振動は前回同様にハルたちの国の家々を揺らし、その堅牢けんろうさを証明していく。

 しかしこのままだと、ソラたちの国はせっかく再建した直後にも関わらずまた倒壊のき目を見てしまうことになる。


 ハルはその悲劇に備え、こちらも魔法により防御する構えを見せていたのだが、しかし、その備えが現実に発揮される事はなかった。


「ハルさん。施設効果が発動しているようです。どうやらあの女の攻撃が、『災害』判定されたようで」

「ソラ。今は仲間なんだから、『あの女』なんて言っちゃダメだ」

「失礼」

「《別にどうとでも呼べばいいわ?》」


 呼び方はさておき、やはり、この施設は何らかの力により魔法のように、災害を検知しそれに対応する能力を備えているようだった。


 その力により施設周囲には、視認可能なほどのレベルの力場が発生。そのフィールドに触れた振動のエネルギーは、どういった原理か、何ごとも無かったかのようにすっかりと消失してしまったのであった。

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― 新着の感想 ―
いえいえー、きっと慣れますねー。何か超常現象が起きたら「またハルさんか……」とポテチを食べて緑茶を啜る程度には日常化しますよー。慣れたのではなく諦めただけ? 諦慣という言葉があるぐらいですし慣れには違…
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