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第1570話 災害の発生を防ぐから防災

「そもそもの話、なぜNPCが必要なのか、ここがまだ分からないんだよね」

「ゲームとして体裁ていさいを保つため、じゃあないんすかねえ」

「勿論それはあるだろうね」

「とはいえ、それだけでこんな大それた仕掛けを施すとは思えませんわね。これではどうにも、NPCこそが主役なのではないかと思えてなりませんわ、わたくし」

「そだねぇ。コスモスも、そう思う」

「もしやコスモスちゃんのお仲間、というより意思を継ぐものなのでは?」

「ん~~……、私以外に、興味はなさそうだったしなぁ……」


 コスモスは、NPCの人形に意思を持たせ、新たな生命体として成立させることを目的としていた。

 ……いや、実際にその先に真の目的として、更に危険な計画を企てていたのだが、そこについては今はいいだろう。


 今回の手法もそれを目指し、その再現として似たような手順を踏んでいる、と見れなくもないが、残念ながらコスモスにも容疑者に心当たりは無いようだった。


「ミントかとも思ったけどね」

「ミントは、そこには明らかに興味ないよ。あれは、ハル様たちの『同類』を生み出すのが目的だから。NPCにはなーんの興味もない」

「とはいえ、コスモスちゃんの技術を流出させたのはミントちゃんの可能性が今いちばん高いんすよね? 無関係と断じるのは身贔屓みびいきが過ぎるんじゃないっすかね? かばってないすか?」

「んー。かばってないんだけどなぁ」

「まあ、わたくしたちは、誰かの目的を代行することなどありませんから。そこは安心してよろしいかと」

「とはいえ、僕らの同類を増やすというなら、カナリーの真似はすればいいのに」

「あれはあれで、再現性が皆無かいむですわハル様」


 そういうものなのか。まあ、カナリーの手法ではハルの同類は増やせても、セフィのそれは手つかずのままだ。

 なので今ミントとしては、セフィの事情に注力している所なのかも知れなかった。


「じゃあやっぱり、なんでなのでしょうね?」

「彼らの目的に、人間の居住区は不要なはずですしねえ。別に人間が居なくても、惑星環境は正常化できますし。翡翠ヒスイの目的からしても、野生の原野が広がってた方が都合が良いんじゃないすか? あっ、人間に植物の世話させようってんすかね!」

「んーっ。匣船はこぶね家との約束を、踏み倒すための策、とか。支配した土地は確かにあげるけど、そこには既に居住権を持ってる人が住みついてるので無効。とか」

「詐欺ですわ」

「気に入らなければ強引に地上げしちゃえばいいだけじゃないかなあ……」


 まあ、NPCの行動計算をエリクシルネットに肩代わりさせる事が出来るなら、安価で都合の良い労働力としては期待できる。

 効率は悪く回り道だが、無くはない話なので、今はそういうことで納得しておくのがいいだろうか。


「あっ。奴ら異世界人が嫌いなんすよね? 自分の手は汚さずに、NPCに戦争を起こさせることによって間接的にこちらの住人を根絶やしにすることが目的なんじゃないっすか? ほら、実行犯というか指導者も日本の方なので、協定にも違反しないっすし」

「それは僕も考えたよ」

「だからこそ、彼らが南進しないよう、ハル様は南部一帯を占拠している訳ですわ」

「そでしたね」

「エメ。考え方が性格悪い。エメもこっちの人が、きらいなんだね」

「最悪のケースを想定しただけじゃないっすかあ! コスモスちゃんだって、大して興味はないくせにい!」

「ひとぎきがわるい」


 まあ、性格の悪い考え方をするのは対人戦の基本だ。『相手の嫌がる事をすすんでやりましょう』である。なお本来の意味ではない。


「……とはいえ、良い方に考えられなくもない」

「どんなすか?」

「この星に再び人類の文明を発展させる、その基盤にするってことさ」

「え~~っ」


 ハルたちも、何度か考えたことがある。この地に根付いた七つの国の他に、新天地にさらに別の国家を築き上げる事は可能か否か。


 異世界の人々の人口がさらに増え、国土を包む魔力も今以上に潤沢じゅんたくとなった未来、今の土地を離れて手つかずの大地に入植することは果たして出来るのか。


 もちろん、隣接する土地へ地道に広がって行ってもいいが、そうすると近いぶん衝突が起こりがちだ。

 それに、ハルたちの居る梔子くちなしの国のように、四方を他国に囲まれた国はこれ以上拡張のしようがない。

 場合によっては新天地を目指した方が、スムーズに事が運ぶ可能性もあると思われた。


 しかし、ここで問題になるのが、その際周囲には一切なんの文明も存在しない事。


 もちろん、開拓とはそういうものであると言われればそれまで。だが、文明そのものはそれなりに成熟しているこの異世界、その際どうしても元の国家との齟齬そごは出やすいだろう。


「そこで、活躍するのがこのNPC都市って訳さ。どうかな」

「なるほど。見せかけの幻ではあるものの、既に成熟した都市が付近にある、あるいはその国家そのものに潜り込むことで、最初から安定した生活を享受きょうじゅできる。悪くはない手だと思いますわ」

「そう上手くいくっすかねえ……」

「ん。それに、神がそんなこと考えないかなぁ~~」

「やっぱりそう?」


 やはり人としての、ハルであるがゆえの発想なのだろうか?


 ともあれ、結局は進めてみねば分からぬこと。この先どうなるのかその目で確かめる為、ハルは再び意識を、遠く離れたあの土地へと集中させるのだった。





「……どうかな、二人とも」

「ええ。だいぶ楽になりました。お手数おかけしまし、たと言うのも変ですね。不正に、私たちの通信に割り込んで来たのですし……」

「細かいこと気にしないの。ありがとハル。ほら、ソラもお礼言って」

「いや、実際違法なお節介だしね。言われてしまうのも仕方ないさ」


 まだログアウト可能にはならないようだが、ハルの介入によりソラとミレの精神的負荷は大きく軽減されたようだ。

 二人とも、謎の体調不良を訴える様子はなくなった。現実リアルの肉体も落ち着いているし、今はひとまず問題はないだろう。


「それで、何か変化はありましたでしょうか!」

「ですねー。そこが気になりますねー? お礼代わりに、そこを教えるんですよー?」

「ええ、まあ、構いませんけど……、少々お待ちくださいね……」

「ソラ、遅い。もっとテキパキ調べる」

「うるさいですよ。仕方がないじゃないですか、慣れていないんですから……!」

「ごめんねハル。真面目君だから、ソラ」

「はは。別にいいよゆっくりで」

「あまりゲームは、されてこなかったんですね!」


 むしろ異世界人のアイリはなぜそんなに慣れているのか、と言われそうだが、そこはどうやら突っ込まないでくれたようだ。

 それとも、夢世界で言われていたように、アイリはNPCの王女様ではなく、王女キャラを操作しているだけの運営の人間と思われているのだろうか?


 こちらの裏事情を調べていた彼らだ、その噂に行きついていても不思議ではない。あるいは夢世界参加の影響か。


「ああ、これ、なんですかね? 変化は」


 ハルがそんな想像をしているうちに、どうやらソラが、選択前との差異を発見してくれたらしかった。


「建築可能メニューが増えています。今まで簡単な家などしかなかったところに、話に出ていた防災施設でしょうか。何だか大きな建築物が追加されたようですね」

「おおー。すごいですー」

「そうだね。やるじゃあないか」

「……別に凄くはないですよ。気付いたら追加されてたってだけで」

「あたしたちの、苦しみの産物? よかったねソラ」

「別に何もよくありませんが」

「あっ、ソラは女の子だけが産みの苦しみを味わえばいいと思ってるんだ!」

「誰も、そんなこと言っていませんよ……」

「まあまあ」


 詳しく語ってやることは出来ないが、これは間違いなくソラたちの行動の成果だ。あの空間に接続し、この成果を引き出した栄誉あるキーマンである。


「しかし、こうきたか。NPCが直接変化するんじゃなくて、対応した建築をすることで、結果的にNPCの行動も変わる、ということ?」

「あたしたちに新能力が追加されるのかと思ったのにー。そうじゃないんだ」

「見かたによっては、私たちの新たな力ではないですか。我々が作るんですよ、この建物は」

「うーん。災害を吹き飛ばす魔法、みたいのがいい」

「……それは災害そのものなのでは?」


 実に力技の発想である。嫌いではないハルだ。

 しかし、敵はこの惑星全体だ。人間の出力する魔法では、いくら撃っても追いつかないだろう。


 とはいえそれは、施設にしても同じこと。防災設備を置いたとて、それで災害が収まる訳ではない。ゲームではないのだから。いやゲームだが。

 ……ともかく、あくまで対症療法なのだ。


 しかし、だとすると気になるのはソラたちに襲い掛かった謎の負荷。そんな防災設備を一つ作るのに、あそこまでの負荷が必要か、という疑問が残る。

 神様が苦手とする、デザイン面の処理でも肩代わりしてもらっているのだろうか。いや、それにしても負荷が重すぎである。


「……その施設って、どんな内容なの? ああ、建てなくてもいいから、分かる範囲で教えてくれないかな」

「そうですね、私に見て、理解が出来るかどうか……」

「思ったままで構わないさ」

「分かりました。……なにやら思ったよりも複雑な、なんでしょう、工場? のような中身です。いえ、工場といっても機械ではなく、魔術的な構造のようですが」

「魔術的?」

「と、言うしか。奇妙な薬液であったり、複雑な魔法陣が並んでいる部屋がいくつもあります」

「んー、僕としても予想外だ。防災施設っていうから、てっきり安直に、前時代の消防署のような物を想像してしまっていたけど」

「まるで違いそうですよ」

「これは、もしや本当に、『災害の発生を』、『防ぐ』施設……、なのでしょうか……!?」

「そうだねアイリ。その可能性が出てきたよ」

「まさか。そんな」


 そんな馬鹿な話があるかと、ソラは否定的だ。気持ちは分かる。

 しかしそうではないなら、なんだというのか。ソラからの情報だけでは、正直実態が見えてこない。


「作ってみる?」

「無理ですよミレ。材料が足りません。足らないというか、見た事もありません。これは、やはり今解禁すべき施設ではなかったのでは?」

「ハルの地震で、運営の予定が狂っちゃったかぁ」


 いや、材料が無いなら、ハルが用意してしまえばいい。作る事ならば、きっとできる。

 さて、とはいえ作ってしまっていい内容の物か? その判断基準は、どこにも存在しないのだった。

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