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第1566話 実証に勝る証明無し?

 さて、ユキたちが新スキルの習得に励んでいる間、ハルの方もサボっている訳にはいかない。

 今よりもっと街を広げて、国の運営を軌道に乗せなければならない。

 そのために、ハルはこの場に下りてきたアメジストも巻き込んで、建築物の生成を加速していくことにしたのであった。


「アメジスト、君、エーテル操作も出来るだろう? 日本での活動を主体としてたんだし」

「はい。もちろん。わたくし、こう見えてあちらに戸籍をもって活動していますのよ。まあ、ペーパーで幽霊なのですが。アルベルトのように、実体をもっての活動はさすがに」

「スキルシステムの利用料として、私たちから大金をせしめてますからねー」

「その資金、全てそのペーパーカンパニーを通して裏工作に使っているという訳ですか。呆れたものです。まあ、我々も人のことは言えませんか」

「そうですわよ。実店舗を持っているアルベルトには負けます」

「まあー。ともかくエーテル操作には慣れている訳ですー。手伝っていきなさいー」

「ふにゃーにゃ」


 カナリー、アルベルト、メタ、そしてアメジスト。日本における活動に慣れた者、すなわちエーテルネットを利用した物質操作技術に長けた神様がこの場に集い、その力を振るってくれる。

 実に心強い布陣ではあるが、この場は日本ではなく異世界であるという事実が少々不思議な感覚だ。


 彼女らの処理能力が合わさり、家を建てるという一大事業も次々と、まさに瞬く間に進行していくのであった。


「アメジストー、ストップ、いったんストップですー。あんまり作りすぎるとバランスが崩壊しますー」

「そうですよアメジスト。あと、さすがに家のデザインがコピペに過ぎます」

「デザインに関しては、仕方ないでしょう。わたくしたち。それに、どうせ住むのは人間ですらないNPC。そこを気にすることなどないのでは?」

「運営側の私たちが気にするんですー」

「んなごなご……」


 そうやって次々と建ててくれるのはいいのだが、アメジストの建築は細部まで完全に同一のコピー&ペースト。

 量産型の建売たてうり住宅などこんなもの、と言ってしまえばそれまでだが、さすがにここまで同一の家が並んでいると少々不気味だ。ディストピア感すら感じてくる。


「し、仕方ないですね。少しお待ちくださいな、参考資料を、集めてきますので……」

「デザイン面はハルさんに任せますかねー」

「まいったな。僕も、別にそっちは特別得意な訳じゃないんだけど」

「みゃうみゃう♪」

「うん。まあ頑張るよメタちゃん」


 神様たちには、総じてオリジナルデザインが苦手という弱点がある。


 アメジストはその中でもおしゃれな部類ではあるが、自分の趣味の外となると途端に弱体化、カナリーたちと同様になってしまうようだ。

 仕方がない。ここはハルがなんとか頑張るしかないだろう。アメジストに任せて、女の子趣味全開の家が立ち並んでもコトである。


「それに確かに、アルベルトの言う通り住民の要求も多様化してきている。このまま無視して住宅を連打しても、思うように増えないかもね」

「ワガママな連中ですわね」

「本当にね」

「ふにゃーにゃ……」

「何を欲しがってるんですー?」

「『教育施設』、『防災施設』、あとは複合的な『大規模商業施設』やそこに並べる商品を生産する『各種生産施設』、それに大規模な農場あたりですね」

「はあ。まずは軍隊ではないのでしょうか?」

「戦争大好きさんですかー、アメジストはー」

「なーご……」

「でも陣取りゲームなのですから、戦争して当然ではありませんこと?」

「確かに君のゲームでも、まずは兵士が生まれたっけね」


 ただ、このゲームで職業軍人という存在が果たしてどの程度役に立つのだろうか?

 まあ、自動で他国を攻撃し利益を得てくれたり、逆に自動で侵略を防御してくれたりといった部分が楽になるメリットはある。


 しかし、先日のサコンとの戦闘を思い返すと、どうもこのゲームでの戦いはプレイヤー同士のそれが中心となるように思えてならない。

 あの開始直後とは思えぬ圧倒的火力と、そして防御力。それらが更に進化していくと考えたら、NPC兵の存在意義など、どれ程のものか? そう思えてしまうのだ。


「まあ、職業軍人も、完全に不要ではないだろう。戦争用というより、騎士のようなというか、警察的な役目として」

「それこそ不要ではありませんこと? 犯罪を犯した者は削除して、新しい住人を出し直せばいいのですし」

「ですねー。生きてないから、楽ですねー」

「“あちら”で罪人をそのつど消去していたら、すぐさま人口が維持できなくなりますからね。特に建国当初は、苦労させられました」

「今明かされる、驚愕の事実なのです!」

「君たち、現地民のアイリに信仰が揺らぐショックを与えるのはやめなさい」

「いえ! わたくしも為政者のはしくれ。よく分かるのです!」

「わかっちゃうかー」

「にゃにゃー」


 まあ、罪人を消去するか否かは置いておくとして、まだ今の規模では専業の警察組織は必要ないだろう。維持に苦労するだけだ。


 同様に防災用の施設も不要、とハルが流れで要望を処理しようとしたが、そこで思わぬ反発が起きた。

 どうやら、防災の要求はもの凄く高い値で設定されているようなのだ。


「……なんだ? 消防署かなにか、そんなに欲しい?」

「まあー、あれば安心するんじゃないですかねー? 建ててやりますー?」

「いや、しかしねカナリーちゃん。建てたところで、そこの連中仕事なんかないよ」

「我々の行っているのは、れっきとした現代建築。火災も起こりませんし、崩れることもありません。解体も我々にしか行えず、出来ることなど何もないでしょう」

「ですが、作らないとどうやら納得しないらしいですわよ、こいつら。お守り代わりに建てて、安心させてやればいのではなくて?」

「意外と柔軟なんだねアメジスト」

「みゃっ!」

「民衆の心理的安定を、軽んじてはいけませんわハル様。いずれ上に立つ者として」

「立たない立たない」


 しかし、だとしても現状まったく意味のない施設を建てて、役に立たない仕事に労働力を持っていかれるのもしゃくである。

 どうにか、防災は不要であることをNPCに理解させる事は出来ないだろうか?


「んー。彼らの目には、この僕らの作った家は『土壁の粗末な家』って判定なんだよね」

「それなら確かに、不安がこれだけ数値に出てくるでしょうか……!」

「システム的には、『エーテル建築である』ことなど見てはいないでしょうからね……」


 実際は未来技術で作られた、ミサイルの直撃すら防ぐ意味不明な強度なのだが、彼らにそれを理解するすべはない。


 ……いや、いち家庭だけ、理解している者がいた。それは、まさにあのミサイルじみた威力の念動波サイコキネシスを外壁に叩き込まれた住宅の家族。

 ハルが領民のデータを細かく見ていくと、その家庭のみが防災面に抱く不安のパラメータが低くなっている。


「……なるほど。要するにだ。『この家は問題ない』と、彼らのその身に理解させてやればいい」

「安心を、叩き込むのです……! どうやって……!?」

「簡単ですわアイリちゃん。ハル様が高笑いをしながら、この世の終わりのような爆撃を天から降らせればいいんですの」

「術者がハル様では、さすがに貫通し崩壊させてしまうのではないでしょうか?」

「アルベルト。問題点はそこじゃない。領主が住民を襲ってどうする」

「……みゃーっ、はぁー」


 とはいえ、方向性そのものは合っていそうなのが悔しい。似たようなことを、ハルも実行に移そうとしていた。

 ハルは遠征中のルナに通信を入れ、その計画についてを伝えていくことにした。


「ルナ、聞いてた?」

「《ええ。相変わらず馬鹿なことを言っているわねぇ、と思っていたところよ》」

「……うん、まあ。それで、すまないけど頼まれてくれる? そこから、この周囲一帯に魔法で大きな地震でも起こして欲しい」

「《……出来なくはないと思うけれど、細かい加減なんてきかないわよ? 攻撃用だもの、これ》」

「ああ、大丈夫。むしろ強い方が、強度を理解させてやれるから」

「なるほど! これが、わからせ、なのですね!」

「ルナ……、またアイリに変なこと教えてない……?」

「《さて? なんのことかしら? それじゃあ私は、準備に入るわね?》」

「頑張ってください!」


 結局自作自演には違いはないが、住人から直接見えていないならば多少はマシだろう。


 といった感じで、これよりルナによる、『住宅強度わからせ作戦』が、実行される事になったのだった。





「わわっ! これはもの凄く、揺れているのです!」

「ルナさん、なかなかやりますのね?」

「最近使う機会がなかったですがー、ルナさんは魔法攻撃特化の強力なスキル持ちですからねー」

「神界のリソースにアクセスし、強引に自己を拡張。出力の底上げを行う、と。なるほど? ハル様らしさを感じるスキルですわ」


 そんなルナの、一軍を壊滅させ得るレベルの強力な魔法。それにより、この一帯は疑似的な大地震に見舞われた。


 そんな中においても、エーテル工法の建築物にはひび割れ一つ入らない。

 それどころか、家その物が巨大な免振装置と化し、内部に居れば揺れの影響をかなり軽減でき、直接恐怖を感じる事もない。


 現代技術の集大成ともいえる構築技術に、最初は恐怖し恐慌状態に入りそうだったNPCたちも、徐々に落ち着きを取り戻して行くのであった。


「よし。これでいい。これで、この家は災害時も安心だとその身に刻み込まれただろう」

「まさにステータスに、刻まれたのです! ご覧ください、防災施設への要望が、がくりと減っているのです!」

「うん。上手くいったようだね。これで、無視して次に進めそうだ」

「なんだか、後々影響が出そうですけどねー」


 ……言わないで欲しい。ハルも、なんとなくそう感じてしまってはいるところだ。

 ともあれ、こうした裏技じみた処置で、ハルたちは必須施設の建築をキャンセル。効率よく街の拡大に努めていくのであった。

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― 新着の感想 ―
自らハル様に洗脳されることを願うとは殊勝な、と思わせて次に防ハル様施設を希望してくるとは、なかなか面の皮が厚いようですねー。大型のベルトコンベアに載っている間はハル様が直接干渉しないことを保証した上で…
近所の国は大変なことになってそうな…?
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