第1565話 幽体拡張新機能
プレイヤー達がこの地へとゲートを開くきっかけとなった、宇宙から来たと思われる謎のエネルギー。
アメジストはそれを、ハルたちの手によって解明させようとしているらしい。
「とはいえ、僕らが何をするっていうんだいアメジスト。解析不能の、謎のエネルギーなんだろう?」
「あっ、ハル様は何もする事はございませんので。大人しくしておいてくださいまし。スキルシステムを使用する関係上、これは人類専用のお仕事となります」
「また仲間はずれか……」
「あーん拗ねないでくださいハル様ぁ~。わたくしも、いっしょにお留守番しますからぁ~」
拗ねてはいないが、『またか』とは思わずにいられないハルだった。相変わらず、スキルシステムには人間扱いされないハルである。
「……それで? 私たちに何をやらせようというのかしら? 正直なにも分からないわよ、私たち」
「そーそ。そういう解析とか難しそうなことは、ハル君の専門っしょ」
「そんなことありませんわ、ルナさん、ユキちゃん。才能あふれるお二人に、うってつけの役目でしょう」
「わたくしにも、出来るでしょうか!?」
「うーん……、アイリちゃんはこっちの人ですし、わたくしたちとお留守番ですかねぇ……」
「がーんっ! せっかくの、『修行パート』の機会が!」
要するに、もともと超能力の素養のある日本人にその仕事とやらを任せるということなのだろう。
「それで、私たちはなにするのかな、アメジストちゃん!」
「こちらの器具を装着して、あとは普通に活動を、いえ、出来ればスキルを使いまくっていただければと」
「ふーん。あっ、腕輪だ。器具っていうから、もっとえっちな何かかと思った!」
「ソフィーちゃん、発想がルナちーみたいだぜ」
「失礼ねユキ。私は仕事に支障をきたすような提案はしないわよ」
「んー? ルナちーは何処に何を付けることを想定してたのかなぁ~~?」
「……そう、教えて欲しいのね? じゃあユキは特別に、“その状態”でやるといいわ?」
「ハル様。どうやら色々と特殊な器具を使ったプレイを期待されているようですわ」
「ご用意いたしましょうか」
「僕に振るなアメジスト……、アルベルトも真顔でボケるな……」
特殊な器具はさておき、アメジストから渡された腕輪を装着したソフィーたちは、各々その装着具合を確かめている。
どうやら、装備と同時にこれはキャラクターボディの一部となり、プレイヤーの機能を拡張、アップグレードするアイテムのようであった。
「外せない! 呪いの装備だこれ!」
「私らをハメたなジスちゃん!」
「気になるようでしたら、体内に吸収するように埋め込んで、見た目も元通りに出来ますよ?」
「埋め込み型! 知ってる! 電流とか走るタイプだね! 言うこと聞かないと、ビリビリー、って!」
「取って欲しかったら、言う通りにしないといけないんだねぇ」
「ハル様? 助けてくださいまし」
「知らん。これも君に対する罰かなにかだよ。うん。だから僕に振らないで?」
きゃーきゃーと楽しそうな女の子たちだが、もちろんこれは電流を流す装置などではない。
ハルが<神眼>にて見てみるとどうやら、これはソフィーたちの操作しているプレイヤーボディをこちらのゲームの仕様に近づけるための、拡張装置。
ソラたちの変質したキャラクター構造を解析し、それに合わせてスキルシステムが同様の挙動を取るようにアメジストが調整した物だ。
それによりこのゲームの正式な参加者に起きている挙動の再現、そして流れ込むエネルギーの解析を行おうというのが、今回のアメジストの作戦である。
「元のゲームに戻る際は腕輪の機能は自動的にオフになります。その場合、もしこちらで新たにスキルに目覚めていましたら、そのスキルも同時に使用不能となります。ご注意くださいませ?」
「あっ、それいいね! 私は『エー夢』はフツーに遊んでるから、ズルして強くなっちゃうとこだった!」
「普通……?」
「普通だぞルナちー。ソフィーちゃん基準の、フツーじゃ」
「そ、そうね……」
果たして普通とは何なのか、ルナが真剣に悩みそうになるが、ともかく今はこの腕輪を発動させるべく三人の奮闘に期待しよう。
地道に家を増やすハルたちを置いて、彼女らはまだまだ開拓の手が届かぬ、未開の奥地へと旅だって行ったのだった。
*
「……さてアメジスト。実際、何か分かったのか?」
「はい。多少は。ヴァーミリオンの大地に撃ち込まれた、一番最初の攻撃。あの時残されたデータを解析しましたが、あれはやはり、少なくともこの世界には、地球を含めた一般的な物理法則では存在しえぬエネルギーでした」
「ふむ……」
この地へ繋がる転送ゲートを作り出すために、集まったプレイヤーへと天より撃ち込まれた謎の力。
それはやはり、物理法則の外にある、さりとて魔法ともまた違う、解析不能のエネルギーだった。
未知であるが故にシャルトたち自慢のシールドも貫通し、初動で後手に回ることを余儀なくされた。
その敵の切り札は、恐らくは遠く宇宙の果てから降ってきた、そうセレステたちは推測している。
「……エーテルエネルギーではないのか?」
「少なくとも違います。また何処か、第三の次元から齎された、次元を超えた力でしょう」
「第三の次元が多すぎて、もう実際は第いくつなのか分からないね……」
「エリクシルちゃんの言う通りになってきましたかねー?」
「かもね」
彼女に大義名分を与えるのも、それはそれで嫌な感じだ。いやむしろ現状、エリクシルもまた容疑者の候補として大きく浮上している。
「ただ、このフィールド内でスキル発動に使われている力は地球のエーテルエネルギーかも知れません。それを確かめるため、わたくしはあの腕輪を開発しましたの」
「まあー、超能力ですもんねー」
「地球のみなさまが使っている力と、相性が良いはず、ですものね!」
「そういうことですわ」
ただ、それはそれで疑問が残る。『どうやって?』という部分もそうだが、エーテル技術に使われる力は破壊に不向きだ。強力な出力を誇る彼らのスキルとは、結びつかない。
まあ、その部分もこれから腕輪の解析で明らかとなるのだろう。あとは、ユキたちの才能に期待するとしようか。ハルにはない才能に。
「しかし、アレキ様たちは、そんなに超能力がお好きなのでしょうか? アメジストさ、さんのように、ずっと研究を?」
「どうぞもっと気軽に、アメジストちゃん、と呼んでくださいましアイリちゃん」
「あ、アメジストちゃん……!!」
「はい。よくできました。それで、アレキ達でしたわね。いいえ、特にそんな気配は今まで無かったですわね。きっと、外部の力ならば何だっていいのだと思いますわ? 魔法以外の力なら」
「……それは魔法が、お嫌いなのでしょうか?」
「さあ? そうかも知れませんわね。大災害の元凶ですし。しかし、実情はもっと単純だと思いますから、アイリちゃんは気にしない方がいいですわよ?」
「ええ。単純に、魔力ではリソース不足、というだけでしょう」
アメジストが半ば呆れたように吐き捨てるセリフを、アルベルトが補足する。
そう、惑星開拓という大事中の大事に、魔力リソースはまだまだ足りない。これでは、いくら経っても星の正常化はままならないだろう。
そんな状況下で、魔力そのものを増加させようとしているのがカナリーたちの派閥。
一方でもう魔力には頼らず、外部から別のリソースを引っ張ってきてそちらを当てにしようとしているのがアレキたちの派閥だ、と推測されている。
「そんな中で何を使うか、と考えた場合、まあ地球からエネルギーを流用するというのは悪くない考えなのでしょう。あちらは平和で、エーテルネットにはリソースが余り放題ですからね?」
「とはいえ、それはあまりに不義理なのではありませんかアメジスト? 我々の存在意義から考えても、一方的に日本の方々の不利益となる事を、行う神が居るかと思うと……」
「さあ? そこは、わたくしの知ったことではありませんので」
「まあ確かに、アメジストみたいのは例外だよね」
元々がエーテルネットの支援AIであり、日本人の生命と利益を守るための存在であった神様たち。
そんな彼らは、意識の根源的な部分でそこに縛られている者が多い。
アメジストも口ではこう言っているが、本気で日本人をないがしろにする行動は控えている節があった。
もしかするとその心理的ロックを解消するために、この星の土地を統治する権利、などと言い出したのだろうか。
そうすれば、きちんと彼らの利益になる。無くもない話であった。
「ハルさんならば、どうしますか? 魔法以外で、この星をどうにかするとしたら」
「僕かい? うーん、そうだねえ。とりあえず今進行している計画も、大枠としては同じ発想になるのかな? エーテルをこの星中にばらまいて、エーテル技術で環境改善をしようというのは」
「ですがハル様のそれは、やはり長期的な視点ですわよね? もっと今回のように、短期で決着をつけようとするなら、どうです?」
「んー。そうだなあ……、やはりここは、エメに頼るか……」
「《わたしっすか! なんでっすか!? そんな大それたこと出来ないっすよお!》」
「いや出来るだろ? ほら、『わたしの宇宙』で別の宇宙と接続して、また超新星爆発の余波でも引っ張って来ればいい。エネルギー問題、解決!」
「《あれはそんな簡単に制御できるもんじゃないっす! あぶないっす! きょかできないっすからね!》」
「じゃあそんな物を僕に向けて撃つなよな……」
「まあ酷い。これはまたおしおきですわね、エメ」
「なーに“こっち側”の顔してんですかーアメジストー。あなたはどちらかと言えば、エメと同類ですよー?」
そんな風に、真面目に考察しているんだかいないのだか、分からぬ雑談をしながらハルたちは結果を待つ。
全ては、ユキたちがこのフィールド内での新たな法則のスキルを、閃くか否かにかかっていた。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。




