第1561話 住人厳選をして遊ぼう!
本日少々短めです。申し訳ありませんがご容赦ください。
いずれ来る外界への進出はさておき、今は内部の開拓を進めねばならない。
アルベルトやメタの協力と、エーテル技術の活用により、弧を描く形で一直線に続く村を完成させるに至ったハルたち。
これが、今後の都市計画を進めるうえでの基準、真の国境線となるだろう。
「ただ、ここからは少々考えて進めていかないと、ただ『めちゃくちゃ広い村』が出来上がるだけになる」
「んー、まあそれでもある程度勝手にやってくれるとは思うけどね。こういうゲームなら。規模が大きくなれば、勝手に成長するんちゃうんハル君?」
「分からない。そうかも知れないし、違うかも。ただ、これは僕の領地だけが他と明らかに異なる事だが……」
「なんぞ?」
「この国の建物は、解体が僕しかできない」
「あー……」
一般的な、言い方は悪いが原始的な工法で建てられた建築であれば、NPCの住人たちが自分で取り壊して改築工事することも出来るだろう。
しかし、専用のペースト工材を結晶化して作られたエーテル工法の建築は、設計思想が一から異なる物。改装など不可能だ。
しかも、完全に取り壊そうにもその頑丈さから、やろうと思ってすぐ出来るものでもない。爆破解体すら不可能だろう。
「自動化、業務委託によって、最終的には自分で動く範囲を削っていくのが成功のコツだ。その大原則に真っ向から刃向かっている」
「でも、昔からハル君そんな感じだよね。自動化するとこを全手動でやっちゃうことで、本来出せないはずの出力にもっていくの」
「これも、管理ユニットとしての消せない気質みたいなものなんだろうねえ……」
ユキの指摘も尤もである。ハルは以前から、そうした『人に任せる』行為が苦手だ。
自分で全て出来てしまい、自分でやった方が効率もスピードも上であるがゆえ。
これは、エーテルネット管理者として運用されるために施された教育の名残りだろう。
見逃しなく、細かな事象までをも手動で解決する眠らぬ管理ユニット。面倒な管理を続けることを、苦にも不便にも思わないのだ。
「ただ、僕だって楽する時は楽するさ」
「しかも徹底的にね」
「うん。そして今回もそうしたい」
そもそもがこのゲーム、アレキたちが自分達の目的を遂行する為の外部委託なのだ。そこに、ハルがせっせと労力を割いてやるのも癪である。
「しかしハル? つまり最終的には、街全体をダウングレードしてしまう事にならないかしら?」
「まあ、プレイヤー目線、というか現代人目線ではね。ただ、それも問題ないさ。システム的な目線では、使われている建材さえ高級になれば、それはアップグレードになるはずだから」
「そういうところは『ゲーム』よねぇ……」
そう、いずれは話に入ってきたルナの指摘の通り、街全体を解体し、NPCでも再建築可能な構造で建て直す。いや建て直させる。
それまでは、仮組みとしてまず、全体の都市計画を超高速建築が可能なエーテル工法で形にしてしまおうという訳だ。
「ではその為に、大工さんも作りませんとね!」
「そうだねアイリ。いや、専門で作らなくても、必要になったらその辺の家の誰かが勝手に大工に変化したりするのか……?」
「そうでなければ、都市全体の建て替えにかなりの数の専門建築家が必要になるわよ?」
「そして再開発が終わったら、そいつら一気に無職に」
「頭の痛くなりそうなこと言わないでユキ」
まあ、そうした様々な需給の調整に頭を悩ますのも街作りゲームの醍醐味なのだろう。
そして、そんな想定など現段階ではまだまだ皮算用。そんな悩みを抱くにはまず、都市の全体像を完成に導いてやらねば話にならない。
「アルベルト」
「はっ!」
「都市計画の青写真は出来てる?」
「はっ! 当然にございます! しかし、まずは小さな村のようなブロック単位で分けながら、徐々に様子を見ていくのがいいかと」
「二度手間だが、まあ仕方ないか……」
「NPCの要求ですが、どうやらまずある程度発展しないと、施設の要求そのものが出現しないようですから」
「それは、どういうことですかアルベルト? つまり、今は大工さんを任命しようとしても、システム上できない、のでしょうか?」
「その通りでございますアイリ様。いずれ必要になるだろうと、先に専門の施設を建てても、NPCの要求が出る前に建てては活用されず放置されるか、ただの『大きな家』として使われるのみでして……」
「もう既に失敗したのね……」
「はっ……、試しに庁舎のような物を作ってみたところ、『豪邸』として住みつかれたりと……」
あるいは、誰も住人が生まれてこなかったり、散々だったそうだ。
なお、意に添わぬ住人はアルベルトの怒りにふれ即刻解体からの立ち退きの刑に処せられた。諸行無常である。
「崩した家の住人はどうなったのかしら?」
「はいルナ様。家を消去した段階で、そこから生まれたNPCもセットになって消えるようです。ただ、望むならば残しておくことも出来るようで」
「……? 妙な仕様ね?」
「これはだなルナちー。好みの住人が生まれた場合、そいつをとっておけるってーコトだ!」
「……なるほどね? 『住人ガチャ』で好みの美少女が生まれるまで建築を繰り返して、ロックしたその子の人生を好きにコントロールする遊びが出来るのね?」
「流石だルナちー。飲み込みが早いぜ」
「“初期もぶ”さんを大事に育てて、いずれは国の頂点へとなり上がらせるのです!」
「定番のやり込みだなアイリちゃん。それもな」
「……実際、例の森のエルフさんはそうしてロックされたようで、そうして育てていくつもりみたいだね」
「おー。やっぱあの男の人も好きなんだねー。ゲーマーだと思った」
これは、個人の趣味やお遊び要素として以外にも、活用可能な仕様かも知れない。
住人達にはそれぞれ適性があるらしく、それは発生ごとにランダムだ。そうした中から、将来的に必要となるであろう者をロックし、確保しておく。
例えば、『国王』となるのに適した人材などを、建国前から用意しておくなど。使い道は様々だ。
「おっ、いーこと思いついた。めっちゃ豪華な家をぶっ建ててさ、即解体しちゃうの。そして生まれたお金持ちをロックして、ちっちゃい家にぶち込む」
「……なるほど? いい趣味をしているわねユキ? なに不自由ない生活を送っていたお嬢様が、ボロ小屋に放り込まれてみじめな生活を送ることを想像すると、そそるわ?」
「そそるなそそるな……」
「そそルナちー」
「でもそのお嬢様は、逆境にも負けずに頑張って、いつか素敵な男性に見初められ、ハッピーエンドを迎えるのです!」
「アイリちゃんの想像はとっても素敵ね?」
だがそんな仕様も、この女の子たちにかかればこの通りだった。良い趣味をしているものである。色々な意味で。
「実行可能であると存じますが、ご用意いたしましょうか」
「ご用意するなアルベルト。いや本当に、用意しなくていいからね?」
「それは残念。ただ、今のようなストーリー性のある人材を、用意しておくことはシステム的にも、後々有利となるかも知れませんよ、ハル様」
「……ふむ?」
このゲームには驚くべきことに、住人一人一人に個別の背景が設定されている。
どこで生まれ、どんな人生を歩み、何の仕事に従事しているのか。まあ、周囲の状況によってコロコロ変わってしまうものだが。
それらは今は何の意味も持たないフレーバーでしかないものだが、後々、大きな意味を持ってくる可能性もある。
さきほど彼女らが出した例のように、元お金持ちが小さな家に押し込まれていたら不満を噴出させたり。逆にただの農民が指導者になったら、余程の理由がなければ他の住人から納得されなかったりと、複雑そうである。
そうした仕様もあるため、ハルたちもひたすら画一的な家を作って街を広げていく事が更にし難くなっているのだ。
このシステムは、何の為に設定されているのか。よもや、ハルたちの快進撃を抑制するためではあるまいが。
「とはいえまあ、今は住人の背景なんか気にするよりも家をどんどん作らないとね」
「ええ。そこを気にするのは、もっと後でも構いません」
「それじゃあ、一気に広げちゃおうか。まずは、予定地の地面を一気にペースト化しちゃってと……」
「お手伝いいたします」
そうしてハルが、大地を分解再構築しそのまま材料にしてしまおうとしたその時、背後から轟音が響き渡った。
それは、他プレイヤーと自陣を隔てる壁として建てた長城が爆裂し崩れ去る音。
どうやら、壁をものともしない好戦的な襲撃者が、とうとう現れたようだった。




