第1557話 友達の友達はどう誘う?
その後もソラとミレによる自動建築は進行してゆき、立派な一軒家が出来上がった。
中から住人が出てくると、近くにいたハルたちの村のNPCが『近くに家を建てた者がいます!』とにわかに騒がしくなったが、友好的な関係であると説得したら大人しくなった。
どうやら無事にソラたちと同盟国として設定されたらしく、NPC同士が勝手に抗争を始めることはなくなった。
しかし、だからといって仲良く、とはいかないようで、他国の人間が目と鼻の先に居るということはストレスとして多少のマイナス要素にはなっているようだった。
これは、どうしようもないだろう。今後互いに街を発展させることで、それ以上のメリットを発生させて打ち消すしか手はなさそうだ。
その後も彼らは数軒の家を作ると、その時点で本日のプレイはそこまでとして、ログアウトし姿を消したのであった。
「ふむ。経緯はさておき、初日からいい収穫ではあった」
「そうね? 私は、嫌われてしまったけれど」
「気にすんなルナちー。そのうち仲良くなれるさ」
「別にいつもの事だから気にしてはいないし、仲良くなる必要なんてないわ?」
「あらら」
「彼らの中に同盟国が出来たのは、実際とても幸先が良いですよね。あの方々は、無意識にハルさんのことが好きだったのですね! すごいですー!」
「夢世界における彼らのハルさんに対する感情の振れ幅はー、えーっとー、まあそこまで大きくないですねー。ただー、感情の継承をしている時点で、自動的に一定以上ハルさんを認めていますしー」
そういうことになる。ハルのことが嫌いで、ハルが信用できないという相手は、そもそもハルの企てる怪しい計画に賛同しないだろうからだ。
そんな夢世界経験者のソラたちは記憶は無くなれども無意識にハルへと好印象を抱いている。
それが今回のスムーズな同盟に結び付いたのであれば、あの苦労もした甲斐があったと、誇っていいのかも知れなかった。
「ですがー、それだけで全部が上手くいく訳ではないですからねー?」
「もちろんだよカナリーちゃん。彼らはどうやら、勢力的には弱めの派閥のようだしね」
「つってもさ? アレに参加できてる時点で上澄みなんしょ?」
「それはそうだけど、上には上が居るってことだ」
確かにユキの言うように、日本全体で考えれば彼らも羨まれてしかるべきお金持ちで権力者なのだろう。
ただその割には、あまり精神的に満ち足りているようには見えない。むしろ、何かに追い詰められているようにハルは感じたのだった。
有力者には有力者の、何か苦労があるのだろう。結局いくらお金を持っていても
、人間が人間であることからは逃れられない。
「……確かに、森でエルフを育てて喜んでいるあの男の方が、人生楽しそうだったわね?」
「あいつもー、序列的にはそう高い訳ではないですがー。まあ、あれは性格でしょうねー」
「貴族社会においてあの余裕は、少々尊敬に値する部分があるのです!」
「ダメよアイリちゃん? あんなのを参考にしちゃ」
「わたくし、“ふりょう”になってしまうのです……! でもご安心を。わたくしもう、貴族社会とは縁遠いですから!」
「……いまいち安心できないわ。……ただそうね? 確かにくだらないしがらみなんて全て捨てて、馬鹿のように振る舞いたい気持ちは私にも分かるわ?」
「なるほど。だからルナちーは、いつもえっちな事ばっか言って馬鹿のフリしてんだ」
「……そういうことを言うユキには、そのバカみたいにえっちな身体で私の馬鹿さ加減をとくと味わってもらうとしようかしら?」
「ひぃっ。にげろーっ」
「待ちなさい」
「楽しそうですねー?」
じゃれ合うルナとユキを放置し、ハルは参加者の勢力図について思いを巡らしてゆく。
彼らの家庭を調査し知っているハルは、その大まかな力関係にも察しがつく。しかし、家の力がそのままゲーム内の力に結び付くわけではない。
これは課金要素なく平等なスタートであるという以外にも、『どの派閥に属しているか』が重要となるからだ。
真っ先に森の中でスタートダッシュを決めたガラの悪い男と、ソラたち。それらは除き今後、プレイヤーの入植地は派閥ごとにある程度まとまりを見せることだろう。
結局はその大きさこそが勝敗を分ける鍵となる大前提は動かない。数は正義なのだから。
「協力者のスカウトにおいても、数は有利だ。家の数は、コネの数だからね」
「それぞれ声を掛けられる相手のパターンを補い合い、一気に社交界を形作るのですね!」
「そうだねアイリ。本当に貴族のようだ」
「ですがー、そこで変なのを招き入れると責任問題になってボッコボコにされるのでー、そう爆発的には増えないでしょうけどねー」
「貴族は、陰湿なのです……!」
「ネズミ算式にはならないか」
まさに貴族の社交界。ハルの勝手な印象だが、変な仮面でも付けていそうだ。それはまた違うか。
仮面はともかく、招待制のサロンそのままの構図であることには違いなく、今後形成される組織図もきっと似たようなものになっていくだろう。
「そのコネのないソラたちは、厳しい戦いになるってことだね」
「ハルさんが居れば、楽勝なのです!」
「ですよー?」
「そこまで自惚れてやしないさ。それに、申し訳ないが彼らに無条件で味方する訳でもない。今の所ね」
「まだまだ仮想敵の一人ですよー?」
「そこは、忘れないようにしないとですね……!」
「でもー、とか言いつつ協力してあげる気ではあるんでしょー? ハルさんはー」
「協力してあげるというよりも、そんな彼らの弱みにつけ込んで協力させるって感じだよカナリーちゃん」
「素直じゃないですねー」
孤立していることを、逆に利用させてもらう。ハルは彼らの今の立ち位置から、そうした計画を立てていた。
もしこれがソラとミレ二人でなく、大勢の集団で隣接してきたなら、面倒なのでその場で滅ぼしていたかも知れない。いや滅びはしないだろうが。
もし仮に今は同盟を組んだとしても、いずれは彼らの広げる社交界に押しつぶされ、ハル側が一方的に飲み込まれる危険性があるからだ。
反面ソラたちならば、起点の貧弱さからその危険を抑制できる。
だが派閥を通して戦力を広げられない弱みはどうするかといえば、ハルが補強してやればいいだけのことだった。
「彼らの代わりに、僕が協力者を見繕う。その相手に彼らは、ログイン権を与え正式に参加させる」
「その部分は、ハルさんでは出来ませんものね……!」
「一人与えたらもう用済みですよー? 始末しちゃいましょー」
「しないしない……、最低だろうそれは……」
とはいえまあ、それが一番後々の憂いがなくて済むのも確かだ。ハルの息がかかった一人に権利を委譲させれば、あとはその者にやらせればいいのだから。
「……しかし、ソラたちも当然それは警戒するか」
「ですね! なのであまりに彼らと無関係の方は、招けないと思った方がいいかと!」
「うーむ。となると、どうしたらいいんだろうか。普段僕と交流のある人は、上流階級と接点ないし」
「ゲーマーですからねー」
「ソフィーさんの力が、欲しいのです……!」
「んー、ソフィーちゃんは僕らと同じに、転送ゲートを通じて来てもらうか。あの子はこっちでかなり鍛えてるし、僕ら同様に即戦力になる」
「逆に、私たちの『エーテルの夢』をやってない人は、厳しいですねー」
もともと異世界と関わりのある者は、ゲートから直接招くとして。未プレイの者で、かつソラたちが招くに遜色なく、かつ能力的にも優秀であることが期待される者。
ついでにいうならば、その『能力』は基礎的な判断力等はもちろん、超能力の面でも優れていることが望ましい。
今後はこの世界で、そちらの才能が重要視される事になっていくのだろうから。
「……ソウシ君とか?」
「確かにー。学園生である以上家柄はいいですし、能力的にも期待がもてますねー」
「ちなみにこの春卒業したからもう学園生じゃないよ」
「なおさら良いじゃないですかー、暇そうでー」
「……本人に言ったら怒られそうだ」
「新生活で、お忙しいのですきっと!」
学園で行われたアメジストの秘密の儀式。そこで優秀な立ち回りを見せ、最後までハルと刃を交えた男子生徒、ソウシ。
最後には限定的ではあるが神と異世界についての秘密も垣間見た彼は、条件として適切だ。
能力的にも、優秀な頭脳を持ち、そして超能力の才能も保証されている。空間系という、実に得難い才能を開花させていた。
「……ただなあ。野心が強すぎるかも」
「……ですね!」
「またこっちに牙むいてきますよー?」
「それに家柄は良いとはいえ、どちらかといえば彼は実業家の家系だ。ソラとは微妙に、接点がないかも?」
「そうなのですね?」
「貴族系と、商人系の差ってとこですねーアイリちゃん」
「なるほど!」
先祖代々続くお金持ちとは、同じそれでも相性が悪く距離を置いている者も多かった。
まあそれでも有力候補であることには違いない。最初の一人には向かないかも知れないが、ソラに存在を伝えておいてもいいだろう。
「あと、事情に明るい者といえば、夢世界で知りあって記憶を継承した人たちか。イシスさんは除く」
「絵に描いたような一般人ですからねー」
「イヤッホゥの情報屋さんなのです!」
「奴も一般人。あとうるさいので却下。地位の面でも、帝国の宰相なんかやってた万丈カオルが有力候補かな」
「あの人は貴族っぽいし良さそうですか!」
「これで候補二人ですかねー。他にはー?」
「……お金持ちに知り合いは少ないんだよなあ。敵ならいっぱいいるんだけど」
月乃の下で財界に工作を行いまくっていた、という事情から基本的にお金持ちには嫌われているハルだ。
最近は、様々な業界の縄張りに踏み込み事業を広げているということもある。
「そんな中で交流があるといえば、天智さんくらいか……」
「さすがに、それはないですねー、逆にー」
「大ボスすぎるのです! ソラさんにとっては、他国の王に誘いを掛けるようなものです!」
「まあー、あいつに頼んで御兜家の適当な人材を紹介してもらうとかは、アリかもですけどねー」
システム上簡単に広げられるから簡単かと思いきや、意外と障壁は多いようだった。
まあ、今はそう焦る必要もない。ソラの意見を聞きつつ、じっくり広げていけばいいだろう。
それよりも、アレキたち相手の神々の動きが気にかかる。
早いうちに、あの場で使われている技術の片鱗だけでも掴みたいハルたちであった。




