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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1556話 無警戒の理由

「という訳で、僕らとしてもこのゲームは想定外の展開でね。こうして実際に、調査に来ているっていう訳さ」

「私がそれを信じる根拠は?」

「さて。信じるも信じないも、好きに判断すればいい」

「またそれですか。ずいぶんと、投げやりなんですね」

「まあ、別に君たちに信じてもらう必要はないからね?」

「ソラは下位存在。眼中になし」

「うるさいですよ。私だけではなく、君だって立場は同じでしょうに」


 ハルはソラとミレに対して、大まかに自らの立場を説明していった。

 自分は主催者ではなく、ゲームを踏み台にされた被害者である事。その調査のために、同様に自らのゲームを通じこの場にやって来た事。好き放題に勢力を拡大されることを防ぐために、壁を築いた事などを解説する。


 その際に、ソラたち匣船はこぶね家の使いが自分の世界で余計な事をしたのが原因であると、わざとらしく恨みがましい感情を込めるのも忘れなかった。


「まあ、ある意味僕らはここに居るのも当然の存在と理解してもらえばいい。プレイヤーとしては、『お客様』になっちゃってるんだけどね」

「ではあの国王は、知り合いなのですか?」

「あれはただの人形だよ。もっとも、中身はきっと知り合いだろうけどね」

「もしかしてそっちも、お家騒動?」

「まあ、派閥争いのような部分はある。お互い大変だね」

「……一応言ってはおきますが、私たちは別にお家騒動を起こしたい訳ではありません。誤解なきよう」


 というよりも、本家との力量差が大きすぎてその牙城がじょうを揺るがすことはほぼ不可能だろう。

 彼らはあくまで、下部組織の中での序列じょれつ争いに躍起やっきになっているだけだ。


 そんな中でもソラたちは特に余裕がなく、利用できそうならば例え仮想敵であるハルが相手であっても構わない。そんなわらにでもすがりたい状況だろうと思われた。

 それにしても妙に信用が早い気もするが、まあ状況的に不審な点はない。『思いきりが良いんだな』で済まされる範囲ではある。


「じゃあこの壁の中に、あたしたちも街づくりしていーい?」

「こらミレ。まだ決まった訳では……」

「まあ、僕らも君たちに与えられた正式なスキルに興味があるから、構わないけどね」

「いえーい。ウィン・ウィンだね」

「ただ、一つ忠告がある。僕らは、君らとそしてこの世界その物の、いたずらな拡張を防ぐためにこの場に陣取っている。だから、君らが野心をむき出しにして南進をはじめたら、容赦なく攻撃させてもらうよ」

「すすめなかったら?」

「……まあ、攻撃はしない。たぶん」

「じゃあ平気だね。“後ろが壁”ってだけで、圧倒的有利だ」

「慣れてるね、君」


 大陸の中央からスタートするより、端の海岸線沿いに陣取った方が陣取りゲームでは優位を取りやすい。

 これは高所に陣取る事と同様に『位置エネルギーの高い土地』などと言ったりする。ハルだけだろうか?


「けど、メリットばかりじゃないよ。僕と戦わないならば、君たちはすぐに北に進路を向けなければならない。場合によっては、他の家との衝突までの期間が非常に短くなる」

「……そうですね。ただ、それは平場ひらばに展開した場合でも変わりません。私たちの様な者は、そうなれば四方から袋叩きにあいかねない」

「あたしたちみたいな雑魚から叩かれる」

「苦労してるね……」


 だからこそリスクを積極的に取る必要がある。動機に対しての理解は出来た。

 ハルたち側としても、防壁の威圧だけではなく、ソラたちが作る街を緩衝材かんしょうざいとして間に挟むことは利点が大きいので歓迎できる。


 協力、とまではいかないが、互いに不干渉でいることを暗黙の了解として、ハルはソラたちのこの地への入植を許可することにしたのであった。


「それじゃあ、お隣さんとして、こちらの仲間を紹介するよ」

「うわっ。ハーレム!」

「ミレ、失礼ですよ」

「まー実際ハーレムだしねぇ。いつまで味方かわからんが、よろー」

「不穏な動きを少しでも見せたら、容赦はしないわ?」

「……貴女は、確か」


 こちらに歩み寄ってきた仲間たちから、ルナの姿を認めたソラの顔が険しく歪む。それは、ハルに警戒を向けていた時の比ではなかった。

 まあ当然、ルナの事も知っているだろう。もしかすると彼らの間では、ハルよりも有名人かも知れない。


「あら? どうしたのかしら。味方に向ける顔ではないのでなくて?」

「……味方ではありません。不戦の協定を結んだ、隣人です」

「そう。ハルには早いうちに『味方になってください』と頭を下げておいた方が得よ?」

「このっ……!」

「ソラ抑えて。相手が悪い」


 ルナ、というよりも『月乃の娘』を前に、どうやら冷静さを欠いているらしい。相変わらず敵の多い人である、月乃は。

 特に彼らのような、昔ながらのお金持ちの家系は、新興勢力として躍進やくしんを続ける月乃に煮え湯を飲まされた者も多いだろう。


 そんな、幸先のいい協力者の確保と、同時に爆弾を抱えることになったかも知れないハルたち。

 この仮初かりそめの同盟は、今後の勢力図をどう動かして行くのだろうか。





「ふんじゃさ、キミらの街作り方法を見してよ」

「わたくしも、とっても興味があります!」

「そう言われたって私たちも始めたばかりですよ。それに、貴女がたと同じではないのですか?」

「僕ら、ハッカーとしてここに居るようなものだからね。正式なシステムは使えない」

「わいるど」

「よくそれで家が建っていますね……」


 呆れつつもソラはメニューを操作し説明書きを確認し、開拓の方法をチェックしていく。

 どうやら、建築はシステムによる補助付きで半自動で行ってくれる設定のようで、彼らが大工のまねごとをしていちから作り出す必要はないらしかった。


「ご覧ください。このように私のメニューにはプリセットで、様々な種類の家が登録されているようです」

「あたしのも見せたげる」

「ほうほう! 以前やったゲームの、<建築>スキルみたいなのです!」

「ねー」

「それって、MP消費だけじゃ、やっぱ無理なんだよね」

「ええ。選択した家の種類ごとに、必要数の素材を消費するようですね。これは自分で、手作業で採取するしかないということですか」

「<飛行>でぱぱっと行って、<念動>でよいしょと持ってきちゃおう?」

「ああ、それには及ばないよ」

「私たちの資材をあげちゃいますよー。さっさと作るとこ見たいですからねー」


 ハルたちは村人たちが自動収集してきた資材を、魔法でこの場へと運んで来る。

 この周囲は平地が広がっているので木材は無く、石を主な建材として使用してもらうことにした。

 彼らのメニューの中には、木造だけではなく石造の家もきちんと存在している。


「すごいじゃん。これが<念動>」

「いや、今のは魔法だね。もと居たゲームのスキルを、そのまま使ってるんだよ」

「意味が分からないのですが……」

「まあ、そういう混線したゲームだと思ってくれ。ここは、異世界だって言われたんだろ? あの変な王様にさ」


 ハル自ら異世界の実在性を補強してしまったようなものだが、まあ今さらだ。隠したままで彼らの侵攻を抑えられるはずもない。


「それより資材を提供するのだから、早くやってみせてちょうだいな」

「……不本意極まりないですが、仕方ありません」

「嫌われたものねぇ」

「お姉さん、粘土もくーださい」

「ええ。素直な子は好きよ?」


 ソラたちは石と粘土で、ちょうど異世界にこのままありそうな石壁の家を建築していく。


 用意した資材が勝手に宙に浮き上がり、ひとりでに家が建っていっているように見えるが、<神眼>にて力の流れを観察してみると、これも彼らの超能力による物のようだった。

 システムが外部から補助を入れることで、半強制的に彼らのスキルが発動させられている。

 それにより<念動>などの力が非常に精密に動作し、まるでボタンを押すだけで自動的に家が組み上がっていくように見えるのだ。


「なるほど。カナリーちゃん、これは」

「ええー。法律、ガン無視ですよー。招待性の非公開ゲームだからって、やりたい放題ですねー。羨ましいですー」

「羨むな羨むな……」

「法律って、どういうこと?」

「ああ、それはねミレ。説明が、難しい」

「まーこの場は法の目が届かないから注意した方がいいですよー、ってことですよー?」

「うん。気を付ける。周りはヤバいやつばっかりだし」

「一番ヤバいのは、たぶんその隣に居る人だぜミレちゃん」


 失礼なユキである。まあハルも否定は出来そうにないのが悲しいところだが。


 なお、法律がどうこうという話はつまりは、このスキルの自動発動という行為が法的な視点では非常に怪しい、というより普通は規制されているたぐいの行動だということ。


 電脳世界を舞台としたゲームでは、その特性上さまざまな禁止事項が法により定められている。

 中でも、プレイヤーの心身の自由を奪う行為については非常に規制が厳しい。

 肉体の自由を奪うような演出は発覚すればすぐにお咎めを受け、たびたび電脳ゲームの発展を阻害していると不満が噴出するほどだった。


 その法律があるので、例えば肉体の自走操作による型の決まったムービーシーンだったり、ボタン一つで必殺技の発動なども不可能だ。

 カッコイイ必殺技の動きを再現する事と、催眠で他人の身体を自由にしてしまう事はシステム上区別が出来ないのだから。


 それを認めてしまえばいわゆる『電脳誘拐』に直結する危険があり、行政も不満は承知で禁止するしかないのであった。


《夢世界に続き、ここもまた無法地帯か……》

《まー、招いたのは後ろ暗いトコのある連中ばっかですしー。通報される危険なんてないですからねー》

《今後の展開が心配になるばかりだよ》

《まー、ハルさんもやりたい放題できると思えばー》

《それはまあ、確かに》

《そういえばー、夢世界といえばですねー》

《エリクシルのゲームがどうかしたかいカナリーちゃん?》


 ハルが彼らに聞こえないようカナリーと脳内で会話をしていると、彼女はなにやら気付いた点があるようだった。

 それは、先日終了した夢世界のゲームの事ではなく、目の前の二人の人間に関する事のようである。


《あの二人、参加者ですよー。あまり積極的には、こちらに関わっていなかったみたいですがー》

《……ふむ? となると、この警戒心の薄さはもしや》

《ですよー? ハルさんへの感情値を、無意識に引き継いでいるからかも知れませんー》


 ……これは、ハルもまた都合の良いように人心を操ってしまったという結果を突きつけられているのだろうか?

 まあ、今回は協力者が居ることが頼もしいので、善行が巡り巡って利益となった、と言い訳させてもらいたいハルなのだった。

※誤字修正を行いました。「方」→「法」。法にケンカを売ってしまいました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ハル様としては、敵対するならポ○チ感覚でいただくだけなので労力を割く理由はありませんねー? むしろ休暇中の緊急メンテでせっかくの視さtーー豪遊が水泡に帰してしまったので、特別労働手当を要求するレベルで…
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