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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1542話 天より来たれ神の威光

 そして、ついにその決行日がやってくる。推定アレキにより匣船はこぶね家に通達されたその日時、今はその数十分前。

 運営の権限により確認できるプレイヤー情報をハルも覗いてみると、例の謎のポイントでログアウトしたきり戻って来ないプレイヤー達が、既に複数ログインを果たしていた。


「……来ているね。まあログインといっても、正確にはその前段階、ログイン待機状態といった感じだが」

「ですねー。いち時間前行動でしょうかー。律儀ですねー」

「結局のところ、何が起こるか分かりまして? ハル様、カナリー?」

「まあなんとなくはー。重要なのは場所ではなく、プレイヤーの方なのではないかと思われますー」

「場所それ自体にも、多少の意味はあるんだろうけどね。ただどう考えても、あの場所その物が自然要因でそこまで大規模な変異を起こすとは考えられない」

「惑星の重力、磁場、気候変動もその時間は落ち着いていますー。もっともー、仮に重力変異が起こったとしても、『セーブデータ』に影響を及ぼすようなことはないでしょうけどー」

「セーブ地点の読み込みバグ、という線は消えましたのね」


 惑星の重力を基準にして『ロード』位置を参照している、異世界を舞台としたこのゲーム。

 決行時間に、なんらかの要因でその位置が『バグり』、別のポイントへとプレイヤーを飛ばしてしまう。そうした有りがちな位置バグの線は、神々による入念な検証から否定された。


 仮に再び地軸が大幅にズレたところで、ロード自体は正常に、何も問題なく処理されるとのことだった。


「よって、消去法でプレイヤー側が何かを起こす、ということになるのですわね? ならば、運営権限で彼らのログインを封じてしまえば解決なのでは?」

「理由もなくそんな横暴は出来ませんよー。それをいいことに、なーに言われることやらー」

「それはそうなのですが、彼らに何か起こったら起こったで、結局何か言われるのでないでしょうか? 例えば、ログインしたまま意識不明になって帰って来ない、とか」

「まあ、そこは彼らも家の事情を大事おおごとにしたくはないはずだ。表立って大々的に、とはしないはずさ。……別に、彼らが意識不明になっても良いって訳じゃないけどね」


 本当に大事だいじをとるならば、臨時メンテなりなんなりとやりようはある。

 ただそれでは、結局ハルたちもアレキ、匣船家どちらの尻尾も掴めずじまいだ。正直、何が起こるか見てみたい気持ちがあった。


 匣船家の人達に危険が生じる可能性は確かに残ってしまうのだが、そこは、彼らの仕掛けた事だ。突き放すようで悪いが覚悟の上だろう。


「それで結局、何が起こるとお考えなので? 初心者プレイヤー連中が集まったところで、何が出来ましょうか」

「初心者とはいいますがー、キャラクターの構成としてはほぼフルスペックと同等のものが使われていますー。それにー、プレイヤーならば誰もが等しく積んでいるシステムがあるじゃないですかー」

「あらあら。それは何なのでしょうね?」

「すっとぼけやがりますねー。あなたの作った、『スキルシステム』でしょーがー」


 そう。このゲームでもアメジストが丹精込めて作ったスキルシステムが全プレイヤーに搭載されている。というより、システムを世に出したのはこのゲームが初。

 まだ手探りの時期だった都合もあり、それはほぼフルスペックで搭載されていて、後続のゲームでかけられた制限のような物もない。


 そして何より、今回それを扱う者達。超能力者を排出する匣船家という家系に、アレキが目を付けた何かがある。そうハルたちは考えているのだった。


「スキルシステムは、扱うプレイヤーの才能によって、習得するスキルが露骨に変わってくるというなかなか不公平なものだ」

「ハルさんなんて、ぜんぜんスキル覚えられませんでしたものねー?」

ひがまないでくださいましハル様。それはあなた様が、特別であるという証ですわ?」

「ひがんでない。そしてそんな特別さいらない……」


 どうせなら、ユキのように次々スキルが覚えられる方の特別さが欲しかったものだ。


「僕の事はいい。それよりも、問題は今回の対象者の方だ。彼らの家の記録を見たけど、なかなか才能豊かな家系であるようだね。そしてそれは、何も本家に限った話じゃないんだろ?」

「さてどうでしょう。超能力というものは、別に確実に遺伝するといったたぐいの才能ではございませんので、なんとも。そもそもわたくしに言わせれば、別に名家でなくとも、どんな人間であろうと確実に才能を開花させて見せますわ?」

「なんか露骨に誤魔化しましたねー」

「まあ今回の彼らの人選には、少なからず才能のある者が混じっているという前提でいくよ」


 そんな彼らが、その『才能』を増幅させ開花させるスキルシステムの搭載されたキャラクターボディに入る。

 そうした者達を複数集合させ、同時に何らかの刺激を与える。

 それこそが、今回の彼らの計画に必要な要素ファクターであると、ハルは考えているのであった。


 その予想を開発者であり超能力研究の第一人者であるアメジストにハルが語ると、彼女も概ね同意を示してくれた。


「理屈は正しいと思いますわ。確かに特定の環境下にて特定の刺激を与えることで、狙ったスキルの発現を促す事は可能です。しかし、その『刺激』はどうやって? この大陸は、あなた方のシールドによって完全に隔離されているのですわよね?」

「《それに関しては自分が話しますよアメジスト。まあ聞いてください。予想できる方法があるからね。きっと合ってるよ》」


 通信越しに会話に割り込んできたのはシャルト。カナリーの『黄色』を引き継いだ、節制をつかさどる少年神だ。三つ編みと、敬語の続かなさが特徴。

 ……いや、節制を司るというよりも、他の神がさんざん魔力を無駄遣いするので、そのしわ寄せを一手に引き受けることになった不憫ふびんな神様といった方がいいかも知れない。


 そんな彼は代替わりする前は大陸を覆うシールドの担当をしており、外部からの干渉に対する知識は神の中でも人一倍優れていた。


「《まずそもそもの話として、シールド内部に直接影響を与える程の高出力の『干渉』なんて不可能です。ぶっちゃけそれって『攻撃』だからね。さすがに通さないよ》」

「一定以上の力は自動で遮断しちゃいますよー?」

「《その通りですね。ですが、既にそんな守りを突破して、ゲーム内に重大な影響を及ぼした例があります。露草つゆくさの冬攻撃だね。あの寒波は、止めきれなかった》」

「このゲームフィールドも、結局この惑星の一部だからですわね?」


 その通りだ。星の大気、水、ほか様々な物を共有し成り立っている以上、環境そのものに多大な影響を及ぼす攻撃は遮断しきれない。


「そして、今回の容疑者の能力は気候操作」

「《ええ。そうですよハルさん。だからきっとまた、そんなバリアの弱点を突いた攻撃をしてくると自分は予想しています。具体的には、特定のパターンをもった光信号による脳干渉じゃないかな?》」

「簡単なのは僕もやったことがあるね」

「即効でルールに禁止行為を追加することになりましたー」


 懐かしい話だ。人間の脳というのは実に繊細で、やり方によってはただ光を当てるだけで行動不能におちいらせる事が可能。

 ハルはそれを<光魔法>を応用する形で再現し、カナリーにより即、禁止された。やり方によっては生身のプレイヤーにまで影響が出るので、致し方なし。


「《ただシールドの外の神には、そんなルールは適用されません。ぶっちゃけ更に危険な干渉パターンだって、作り放題だよね》」

「ですねー。アメジストも、似たような事やってるんじゃないですかー?」

「確かに、特定の色彩パターンの発光を行うことで催眠状態にして深層心理へのアクセスも可能になるでしょうけど、わたくしの好みの方法ではありませんわ?」

「アメジストは催眠より拘束される方が好みですもんねー?」

「あの謎の鎖は勘弁していただけません?」

「《しょーもないこと言ってないで下さいよね。というか黙れ》」


 まあ拘束はともかく、アレキの能力ならば光を操りそうしたパターンを自在に作り出す事も可能だろう。

 既にシャルトによりその対策は万全になされており、その方法で介入を行う事は不可能になっている。


「《だから、何が起こるか見たいハルさんには悪いですけど、今回は自分がブロックしての完全勝利で終わりですね。まあ、これを材料にしてアレキを糾弾きゅうだんすればいいよ》」

「フラグですわね?」

「フラグにしか聞こえませんねー」

「《まあ仮に突破されたとしても、そこからは自分の責任じゃないんで》」

「ああ。僕としても、さすがにそこまでは求めないさ」

「《……いやだなぁ。そう言われちゃうと、自分が手を抜いて適当に仕事してるみたいに見えるじゃないですか》」

「いや、シャルトの真面目さはよく分かっているさ」


 だが、あらゆる不測の事態に備えることなど出来はしない。

 シャルトが節制の神であることを除いても、リソースとシールドの出力は無限ではない。

 今回の騒動にのみ100%注力することは出来ず、シールドの安定には異世界人全ての生活と安寧あんねいがかかっているのだから。


 さて、敵は果たして、そんなハルたちの備えを突破してくることが可能だろうか。お手並み、拝見といったところであった。





「時間ですよ~~」


 とうとうその時が訪れ、待機していたプレイヤー達がヴァーミリオンの最果てへと一斉にログインし始める。

 やはり、この時点では何も起こらず、ロードは正常に行われた。セーブ位置のバグといった事象じしょうは発生していない。


「シャルト。攻撃は?」

「《既に来ていますよハルさん。といっても、事前準備といった感じでしょうけどね。海風に乗って、異様な熱風が西から吹き付けて来てる》」

「これをバリアで緩和させることで、こちらの意識とリソースを奪おうって魂胆こんたんですねー?」


 そうした対処が積み重なれば、このゲームフィールドを包むバリアは案外簡単に薄れてしまう。

 やり方によっては、物理的に『穴』を開ける事さえ可能であった。


 だが今回は準備万端。こうした事前の揺さぶりも来るだろうと分かっていれば、その為のリソース確保も訳はない。

 そもそも最近は、シャルトも節約を意識しなくてもいいほどに、ハルたちの所持する魔力は潤沢じゅんたくなのだ。


「《おっと来ましたね。上空からの光による攻撃。確かに無対策だったら、そこは薄くなってたかも知れないけどね?》」


 だが現実は万全の揺るがぬバリアが待ち構えていた。対処は完璧。

 このバリアは内部の異世界人に『外』の景色を見せぬためのフィルターの役割も果たしており、そもそもそうした光学干渉を通しにくく出来ている。

 謎のパターンを放つ光は一切通り抜けることはなく、地上からは変わらぬ空の青さが広がるばかりだ。


「よし。このパターンを記録して解析に回し、」

「《待ちたまえハル、シャルト。地上に高エネルギー反応だ。シールドを突破されているぞ?》」

「《馬鹿な。シールドに不具合はありませんよ。セレステ、通過した力の種類は?》」

「《『不明』だ。まるきり未知のエネルギー反応。だが出どころは分かる》」

「《……どこから? 上空にはそれらしい反応はないですよ》」

「《恐らくは、更に上。宇宙からだね》」


 そうしてハルたちが呆気に取られている間に、地上のプレイヤー達は一斉に、消失したのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
未帰還者になったら、ログから不審行動を理由に現実の関係各所に通達、その後堂々と聞き取りを行って匣船家に乗り込み、現代に現れたドワーフを展示する博物館を建て、見せ締めにするだけですねー。途中から目的が変…
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