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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1534話 未知の星より着信あり?

 面白いものが見つかったと、ハルが報告を受け取ったのは装置類の調査をさせていたアメジストから。

 まあ、装置の出どころから考えて、出てくる情報は面白いもの以外になりようがないのだが。それでもあのアメジストが『面白い』と評するものには興味がある。

 ハルはすぐさま彼女の元に向かうと、アメジストは例のブラックカード関連の機械を前にして、その解析を行っているところのようだった。


「アメジスト。何か見つけたって?」

「ええ。もちろんですわハル様。わたくし、とっても可愛くて優秀ですので」

「よし。どうでもいい情報だったら承知しないことにした。今」

「あーん。とはいえ、重要情報以外は出ようがないお宝ですもの。期待してよろしいですわハル様」

「それは確かにね」

「よくぞこれらを掘り起こして来てくださいました。わたくしも、ずっと興味があったのですが、あそこまでは手が届かず……」

「学園の中にまで介入できた時点で十分にヤバいけどね」


 アメジストはその能力の発揮にどうしても人、それも複数の人間を媒介せねばならず、滅多に人の立ち入りがないあの場とは致命的に相性が悪いようだった。

 それでも、あと一歩のところまで踏み込めていた時点で、十分に異常な実績といえるだろう。


「なのでこうして好き放題に調べられる今、正に感無量と言って過言でないでしょう。まあ欲を言えば? 発電機の方を集中的に調べたいところなのですが、そちらはコスモスちゃんに取られてしまいまして……」

「まあ、『モノリス発電』なんて呼んだ僕が悪いか……」


 モノリスの技術を解析できるチャンスとあれば、『打倒モノリス』に闘志を燃やすコスモスに火がつくのも当然か。

 アメジストも自身の能力と近しい、されど別系統の技術に興味は尽きなかったようだが、ここはコスモスに譲ったようだ。


「さて、前置きはこの辺にしよう。僕としては、むしろこのブラックカード関連に興味津々なんだ」

「そうですわね。ただ結論から申しますと、詳細な開発データのような物は含まれておりませんでした。そこは、がっかりさせてしまいますわね」

「……ふむ。仕方がないか。相手も自分の『家』の生命線だ、三家合同のプロジェクトの中に放置はしていないだろう」

「恐らくは、それこそブラックカードのような形にしてどこぞに隠しているのかと」

「財産隠しが得意な連中みたいだからね」


 それこそ、異世界の現地通貨を隠しおおせたように、心理的盲点(もうてん)を突いた隠し場所があるに違いなかった。


「それじゃあ、何を見つけたのアメジスト?」

「はい。開発データは無くとも、秘密の通信記録はそこそこ残されておりました。その中に、興味深いものが」

「ほう」


 どうやら、あの地下施設の中からもそこそこやり取りをしていたようで、仕様上決して外部にはれぬ極秘のやり取りがいくつも残されていたようだ。

 いやむしろ、ブラックカードとしての機能はその副産物。地下の装置にこそ、彼らが実現したかった目的の大元が詰まっていると考えた方が良いだろう。


「大半は、本家への報告や逆に指示を仰ぐもののようでした。ただ時おり、妙な所からデータを拾っていたようですわ」

「妙な所?」

「はい。この世界です」

「……なんだって?」

「日本から見ての異世界から、ここ最近彼らはデータを受信していたようですね。恐らくはきっと、送信も」

「…………まじか」

「まじです」


 彼らの探知はここ異世界までは届かない。偶然ではあるがそう証明されていたので、半ば安心していたハル。しかし、ここで不意打ちの衝撃を受けることとなった。

 ブラックカードの通信は異世界にも届き、彼らはその技術を持っている。そして既に、誰かと連絡を取り合っている。


「……よくよく考えれば既知の事実ではある。既に奥様が、ゼニスブルーとやり取りして悪だくみをしていたんだから」

「お待ちくださいハル様。その例は少しばかり事情が異なりますわ。お母様はあくまでハル様の回線を使って、最終的には情報のやり取りを行っていたのですから」

「とはいえ、ブラックカードのポテンシャルを少々安く見積もりすぎていたのは確かだ」


 あの例は確かに月乃だからこその部分は大きかっただろうが、理論上そういう事は可能である、ともう少し真剣に考えても良かったかも知れない。

 まあ、あるかもしれない可能性の話を警戒しすぎても、今度は一歩も動けなくなってしまうだけではあるのだが。


「しかし厄介だよ。やりにくいったらない。この世界、エーテルネットに感知されない力が多すぎだろ!」

「ハル様がそれおっしゃいます?」

「まあそれはそうなんだが……」


 とはいえ、元管理者としての性により、エーテルネットによりこの世のあらゆる物事をつまびらかにしたい、そうした欲求が首をもたげて来てしまうハルである。

 彼らもそれはよく分かっており、こうして決してネットに引っかからぬ技術の開発に腐心ふしんしてきたという訳だ。


「ともあれ、こうしてわたくしが華麗に調査に乗り出した以上、もう隠し通せはいたしませんわ? 内容は削除されてしまっておりましたが、その痕跡から、『誰と』連絡を取っていたか、その察しはもうついておりますの」

「おお。流石だアメジスト」

「ふ、ふふん! 当然ですの。も、もーっと褒めてくださってもいいのですよ、ハル様?」

「褒められ慣れてないな、お前。さすがは筋金入りのお一人様」

「それは褒めてくださっていませんわよね……?」


 敵に回した時の厄介さは今も健在。隠れ潜み暗躍することに関してはプロである彼女は、逆に相手の暗躍を決して見逃さない。


 既に目星がついているというならば、そこはあまり気を揉みすぎなくてもいいのかも知れなかった。


「それで、相手は誰だと思っているの、アメジストは」

「アレキだろう、と断定しております。わたくし、きっと間違えてはおりませんわ?」

「それはまた……」


 最近、協力者としてハルと顔合わせをした少年神、アレキ。

 そんな新たな仲間としての彼が、裏で匣船家と手を組んでいた。その事実は、少々気を揉まざるを得ない不都合な真実かも知れないのだった。





「動機は?」

「さあ? わたくし、他の連中に大して興味はございませんので」

「……そこは、別に強要するつもりないけど、出来ればもうちょっと気にしよう?」

「まあ、それは冗談です。推測くらいはつきますわ?」


 ……いったいどの辺りが冗談だったのだろうか。仲間たちに興味がないという部分が冗談であることを、ハルは願うばかりである。


「アレキはこの異世界の人々を、あまり良くは思っておりませんの。ですのできっと、彼らよりも現行の日本人に利をもたらし、彼らと協調し何かをしたいのでしょう」

「……それは、僕を通じてじゃ駄目ってことだね」

「そうですわね。ハル様はこの星の住人との融和を目指しておりますので」

「それなら『フラワリングドリーム』のように、完全に地球人限定のやり方もあるんだけどね」

「ハル様と提携すること自体が嫌なのでしょう。……もう滅ぼしません?」

「急に諦めて物騒なこと言うな。というか、お前が言うな」

「あーん。もっとぶってくださいー」

「無敵か?」


 自分のことを完全に棚に上げてアレキを批判するアメジストをハルは軽く叩く。

 だが、完全にハルに協力する気がないかといえば、あの重力異常地帯における協調もあるため、そうでもなさそうである。


「……ふむ? となるとどうするか。軽くとはいえ交流はあるし、あの子に直接聞いてみるか?」

「どうでしょうね、それは。まあハル様に直接聞かれれば、なんだかんだ皆答えるとは思いますけれど」

「アメジストも答えたしね」

「それは勿論。わたくし、ハル様の大ファンですので」

「その割には秘密が多かったね?」

「乙女には秘密が多い方が魅力が増しますので」

「こいつはなあ……」


 まあアメジストはともかく、馬鹿正直に直接聞けばそれでいいかといえば、そこは少々ハルであっても考える所。

 アレキを信用していないということではない。ただ完全な味方ではない以上、もっと有利に立ち回れる方法はあるかも知れない。そういうことだ。


「そ知らぬふりをして、泳がせておくか? しばらく」

「お得意の手ですわね」

「僕が性格悪いみたいに言わないで? ただ、正面から行って逃げられてしまっても、ねえ? アメジストのように」

「わたくしがハル様を怖がって逃げたように言われるのは心外ですの」


 何にせよ、もう少々動機について知っておきたい所ではある。これはアレキだけではなく、匣船家の方に関してもだ。

 そのためには今焦って要らぬ警戒心を与えるよりも、少々様子を見守っているのも良いかも知れない。


 幸いなことに、その疑惑の通信そのものは過去の物ではなく、恐らくだが今も継続しているようである。それも理由として大きかった。


「うん。やはり、少し様子を見よう。この通信が、またこの装置に向けて行われると仮定する。その内容を僕らが、消される前に彼らよりも先に察知し読み取る」

「あの地下施設には、常時人が詰めている訳ではなさそうですしね。二十五、いえ二十四時間監視可能なわたくしたちの方が、先んじられる確率は高いかと」

「うん。運が良ければそこで、彼らの目的が判明する。少なくとも次の動きは読めるようになる」

「そこで先回りし、一網打尽いちもうだじんですわ?」

「一網打尽にはしない……」


 だが、今はハルの裏をかき有利を取っていると考えている彼らに、逆に不意打ちの衝撃を与えてやることくらいはしてもいい。既にこちらが優位であると。

 ……別に、ハルが負けず嫌いで悔しいからそうしたい訳ではない。これ以上好きに動かれないように、釘を刺すだけである。


「じゃあ、当面はあの施設の張り込みかな」

「といってもこのおうちでですけどね」

「……僕もアメジストと同列の引きこもりみたいに思われても嫌だな。僕は、開発データの隠し場所でも探してこようかなあ」

「そんなぁ。のんびりしていましょうよハル様ぁ」


 ……確かに、既に休暇の話はどこかに飛んで行ってしまった。

 ここは、アメジストを見習って魚が針にかかるまで裏でのんびりじっくりと待つべきか、それとも相手が動く前に出来る準備は全てやっておくべきか。

 まあハルだけでなく、ここは皆の意見も聞きつつ決めるのがいいだろう。

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― 新着の感想 ―
なるほろー、匣船埋蔵金があるかもしれないわけですねー? これは是非とも掘り当てて豪遊資金に割り当てましょうかー。仮に掘り当てても当局から連絡が来て脱税の証拠として押収されてしまう? 面倒なことに巻き込…
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