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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1531話 地下探検隊のふたり

「薄暗くてぶっきみー。ハルお兄さん、こんなところに年端としはもいかない、か弱い女の子を連れ込むものじゃないと思うんだー。デートならもっと楽しいとこがいい!」

「ヨイヤミちゃんみたいな小さい子を連れてくるのはどうなのか、というのはその通りではあるんだけど、そろそろか弱くはなくなってるよね君」

「むぅー。まだまだリハビリ中で貧弱だもん!」

「そうなのかも知れないけど、最近は庭でアイリたちと駆け回れるほどになってきてるよね」

「天空城のお庭、とっても広くて最高! 秘密基地みたいのもいっぱいあるし!」

「……あんまり他の神様の家に勝手に入っちゃだめだよ?」


 ほとんど自由に体の動かせなかったヨイヤミも、今では普通の子供のように、いやむしろ一般的な子供よりも元気いっぱいに天空城の広い庭を走り回れるレベルまで回復した。

 言葉もスピーカー越しの発声に頼ることはなくなり、このように自分の口で自在に会話が可能になっている。


 実は、本来の身体機能はまだまだ戻ってはいないのだが、ハルの教えた身体操作技能の習得が彼女は恐ろしく早く、運動機能それ自体は同年代の女子よりも何段階も高くなってしまったほどだ。


 言ってしまえば、第二のソフィーが誕生してしまったようなものである。

 ハルはもしかすると、恐ろしい才能をこの世に目覚めさせてしまったのかも知れなかった。


「んー。でもやっぱり、この中は動きづらい~~。狭いからだけじゃないよね?」

「そうだね。学園の中はエーテルが無いから、大気中のエーテルに計算能力を肩代わりさせる事が出来ない。ヨイヤミちゃんは特に不自由を感じると思うよ」

「ぶー。じゃあ、私ここじゃ能力的に不利じゃーん」

「それでも、他の人よりずっと本来の性能を発揮できる方ではある」

「魔力もエーテルもないもんね! しょーがないなぁ~~。ちょっとお姉さんになった私の力、見せちゃおっかなぁ~~」


 ヨイヤミは首に巻いたチョーカーを通じて、この環境下でもエーテルネットに接続できている。

 加えて、彼女の超能力はそもそも発動にエーテル環境を必要としない無法ぶりだ。


 魔法、もしくはエーテルを能力行使に必要とする者が大半のハルたちの中で、彼女が最も学園内で戦闘能力を発揮できる人選といっても過言ではなかった。


 ……まあ、それを踏まえても幼い彼女をこんな所に連れてくるのは、ハルの倫理観の欠如を責められても当然の事案ではあるのだが。


「それよりお兄さん。この先どーするの? 私、機械についてはてんでダメだよ?」

「うん。僕も機械操作で乗り切ろうとは思わないよ。さすがに、ここの装置類は専門的すぎるしね」


 狭く薄暗い通路は、前時代を思わせる完全な機械仕掛け。なんとなく、モノの戦艦内の通路を彷彿ほうふつとさせる。

 それらはエーテル無しの環境における動作継続という要件に加え、御兜みかぶと家が操作しやすいようにという意味も含んで作られていた。


 ヨイヤミの能力の機械版ともいえる御兜天智みかぶとてんじの力。それは機械を遠隔で自在に操作する。


「とりあえず、モノリスを拝んでいくとしようか」

「へいへーい。ツラみせなーモノリスちゃん。ひっぱたいてやんよー」

「触るのはよしておこうね?」

「ぶー」


 その狭い通路を抜け、多少明るくライトアップされた空洞にハルたちは出る。

 その中央の台座のようになった場所に、モノリスは前回と同じように安置あんちされていた。天智が装置を起動させていないので、平らに横たわったままだ。


 それはハルたちが近づいても何の反応も示さず沈黙を守ったまま。これではエリクシルの言うように、ハルがこの物体の管理者だなどという話も眉唾まゆつばだ。


「……こんなに寄っちゃって平気なの?」

「ああ。僕らはバリア張ってるから平気だよ。目の前に見えるけど、事実上何キロも離れているようなものだ」


 今日は念を入れて、環境固定装置で体を覆い保護しているハルたちだ。

 これは防御面だけでなく、ハルたちの体内に保持したナノマシン(エーテル)などをこの場に落としていかないためでもある。


「ばーりや。ばりや解除。ばりや解除無効ばーりや。全てを貫く無効無効ばりや解除ー」

「男の子たちの真似かい?」

「そー。小学生ごっこー。まったくみんなガキなんだもん!」


 その『ガキ』をやる機会を、ヨイヤミはすっかり失ってしまっていた。

 大人びた雰囲気の彼女も、本当はそうして何も難しい事を考えずに遊びたかったのではないか? そんな風に、この姿を見て思ってしまうハルだった。

 もしかすると、自分と少し重ねている部分もあるのかも知れない。これは同情か、自己憐憫じこれんびんか。


「おーいお兄さんー。いつまでそーしてるのさぁ。……やっぱコイツ調べる?」

「……いや、今日はやめておこうね。先に進もうか」

「うんっ!」


 そうして黄昏たそがれるハルを、ヨイヤミが飽きたとばかりに呼び戻す。そう、結局考えたって仕方のないことだ。

 ハルたちはモノリスの安置空間を後にして、本来の目的を求める探索へと戻って行くのであった。





「それで、どうやって調べるの?」

「魔法で調べます」

「おおっ。チート」

「たぶんまたこの壁に、何か仕掛けがあるんだろうからね。壁沿いに調べて行こう」


 ハルは薄っすらと明かりを放つランプや、何の用途か分からぬパイプなどがごちゃごちゃとった壁に手を添えるように歩いて行く。

 まるで迷路を強引に攻略してでもいるようだが、生憎あいにくここまでは一本道。このまま進めば、単に乗ってきたエレベーターへと戻るだけだ。


「……なーにしてるのー?」

「うん。魔力を出してる。壁を通り抜けてね。以前は出来なかったが、もう遠慮する必要はない」

「ぜんぜん見えないよぉー」

「まあ、今はヨイヤミちゃんは肉体のままだからね。ゲームキャラで来てたら、見えたかもだけど」

「むぅー。なんとか見えんかなぁー?」


 顔を思い切りしかめて目を凝らすヨイヤミだが、残念ながら魔力を見ることは叶わなかったようだ。

 ……もしかするとヨイヤミならばそうするだけですぐに魔力だって見てしまいそうに思うのは、ハルの考えすぎだろうか?


「っと、やっぱりあったか」

「えっ。なにがなにが!?」


 そんなヨイヤミが魔力視を成功させてしまう前に、ハルは目的の物を見つけ出した。

 壁の奥に流した魔力に<神眼>を通し、その向こうの景色を透視する。そこに、隠された空洞を発見したのだ。


「この奥にまた別の通路がある。どうやら何かしらのギミック操作をすることで、その通路に続く道が開けるようだね」

「わお。ゲームみたい。うっけるのぉー。何考えてそんな仕掛け作ったんだろ?」

「分からん。でも嫌だなぁ……、研究所の母体にもなった家の人たちが、ゲーム感覚でノリノリに隠し通路作ってたら……」

「あっはは! いくつになっても子供っぽいんだねぇー」

「それに関しては僕としても反論できない……」

「まーまー。それよかどーするのー? これって本来、天智さんって人が操作する想定で作られてるんじゃなーい? お兄さんにギミック解けるのかな?」

「分からない。なのでこうする」


 ハルは壁の奥にある通路へと流した魔力を対象に、自身とヨイヤミを<転移>させた。

 これなら一切のギミックを解くことなしに、完全無視して移動が出来る。まるでチートを使い壁との当たり判定を無くしたかのようである。


「わお」

「じゃあ、進もうか。慎重にね? ここから先は、僕にとっても未知のエリアだ」

「ずっるいのー」


 壁の先の通路はやはり狭く、その中をハルとヨイヤミは寄り添うように進んでいく。

 その道の距離はずいぶんと長く続いているようで、地上の地図で見れば学園を横断し敷地の外にまで出そうなほどだった。


 研究棟エリアを抜け、学生たちの学び舎となる本棟を通り越し、今居るここは病棟の下に差し掛かろうといったところか。


「ねーねー何処まで行くのー? お兄さん、私疲れたー。おんぶー」

「まだまだ体力はないねえ」

「えへへー。ハルお兄さん私に甘ーい」


 ヨイヤミを背負い、慎重に歩く。しかし、どこまで通路は続くのか。このまま学園の敷地を出て、街の地下にでも合流するのか。

 いや、それはないはずだとハルは思い直す。地下鉄などのある地下街と接続すれば、そこからエーテルが流れ込んでしまう。そんなことになれば、この封印施設の意味がなくなる。

 ならばやはり、学園の敷地の範囲内に、何かしらの施設が存在するはずなのだった。


「通路の途中で、また隠し扉でもあるのを見逃したか?」

「魔力流しっぱで歩いて来ればよかったねー」

「それよりも、常時<透視>でもして……、むっ……?」

「どしたのー? 私のおぱんつでも透視しちゃった? ふがっ!」


 背後のヨイヤミの軽口は、頭を後ろに打ち付けるように頭突きで黙らせる。背負っているので、ちょうどいい位置だ。


 言葉を止めたのは彼女の下着とは特に関係なく、なにげなく発動した<透視>がどうやら壁の向こうに目的地を発見したからである。

 ハルはヨイヤミを担いだまま、再び<転移>でその室内へ飛ぶ。そこは、モノリスの安置所ほどではないが、そこそこ快適そうな広々とした部屋だった。


「おお。人間らしい空間。さっきまでは、狭すぎて肩がこっちゃいそうだったよ」

「そうだね。居住、とまではいかないが、ある程度滞在できるようにと考えて作られているようだ」

「……んー。ここ、なーんか見たことあるんだよなぁ。なんでだろ?」

「ああ、それは恐らくだけどね、ここが位置的には、病棟の真下に近い場所にあるからだと思うよ」

「おお! 私の能力の射程内!」


 ヨイヤミの力は、学園の敷地の大半をカバーしてはいるが、その距離は無限ではなく制限がある。

 だからだろうか、彼女はモノリスについてはあまり詳しい情報を持ってはいなかった。恐らく研究棟にまでは射程が届いていないのだろう。


 だが、ここは違う。この場所はヨイヤミの居た病棟の下。彼女の能力の射程内だ。

 恐らくは、以前彼女が言っていた怪しい人物の秘密の会話は、この部屋で行われたものだろうとハルは推測した。


「つまりは、今回の目的である匣船はこぶね家の人間が、かなりの確率でこの場所を使っていたという訳だ」

「おー。調べる価値ありだねそれは」

「そうなるね」


 この場に残された資料や、機器に記録されたデータ。そこには地上に出せないようなモノリスに関する機密であったり、もしかしたら彼らの家や超能力に関わる物もあるかも知れない。

 彼らの家を調べても目ぼしい情報があまり出てこなかったのは、機密をここに集約していたからだと考えれば納得もいく。


 そんな宝の山が眠る室内を、ハルとヨイヤミは早速調べて行こうとしたのだが、その本格的な調査の前に、二人はなんとも気になる物を発見し、そちらに目と興味とを奪われてしまったのだった。


「……ねーねーハルお兄さん。これってさぁ、入り口、だよねぇ? 更に地下へのさ?」

「そう見えるねえ……」

「もしかして、はこぶねさんはこの下で生活してるの? 地底人の人達だったり?」

「いや、そんなことはないはずだけど……」


 どうやらこの部屋は終点ではなく、さらに『先』があるようだ。

 二人はその先への興味を抑えきれず、そちらの探検を、先に行うことにしたのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
冷静沈着に最適解を叩き出し続けるハル様と直感で独自解を出し続けるソフィーちゃんを参考にして動くわけですかー。妖怪首差し出せあたり爆誕する可能性がありますねー。 はい。幼女を人気のない場所へ連れ込む事案…
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