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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1529話 妄想のようなこの世の真実

「それで、結局ぽてとちゃんの言っていたスパイとやらについては分かったのかしら?」

「うん。それはまあ。分かったというか、正直僕らにとってはそんなに気合を入れて調べるまでもないことだ」

「全てのユーザーの行動履歴は筒抜けですからねー」


 食事の後、ハルたちはぽてとと共にしばらく空港の街を見物して楽しみ、その後はぽてとのログアウトの時間となりその場で解散となった。

 ハルたちもまた、街を離れてここ天空城のお屋敷へと戻っており、ゆっくりとお茶を楽しみながら今日の観光を振り返っている。


 建設現場では少々派手に立ち回ってしまったため、ぽてとのガードが外れた後は、あの街にだらだらと残るのは得策ではないこともある。

 ただ一番の理由は、アイリやルナが人混みに疲れてきたこと、そしてカナリーが物理的におなかが減ったと言い出したことであった。まあカナリーはともかく、休暇で疲れてしまっても仕方ない。カナリーはともかく。


 そうしてのんびりとくつろぎながらの話題はといえば、どうしても今日ぽてとから聞いた、スパイとやらについての話題なのだった。


「んじゃあ、もう分かってるん? はっや。またエメっちょが頑張ったんかね?」

「いえ、そーでもないっす! もちろん、全ユーザーの全期間の全行動履歴を全漁りしろと言われれば、わたしは喜んでやるっすけど、今回は既にハル様がある程度目星をつけていたみたいっす。そいつらを調べるだけで、あとはズルズル芋づるでした」

「いもづるずるずる、ぽてとさんなのです! ……ぽてとさんは、なんで『ぽてとさん』なのでしょうか?」

「それはアレか、アイリちゃん。『おおぽてと、あなたはどうしてぽてとなの?』、ってか?」

「それは確か、地球のろまんすでしたね! バッドエンドは、よくないと思うのです……!」

oh(オゥ)ぽてとぉー。美味しそうですねー」

「それは何だか商品名みたいね……」


 メイドさんの作ってくれたスイートポテトをついばむ、マイペースなカナリーだった。


「『芋』ってのは時おり、『野暮やぼったい』とか『田舎っぽい』って意味で揶揄やゆする使われ方をしていてね。ぽてとちゃんは、自分が地味で目立たないタイプであることを気にしているみたいだね」

「そうだったのですか……、あんなに元気で可愛らしい方ですのに……」

「んー、まー。ネット上だからこそ、って部分はあるんじゃないかな。そゆタイプ、けっこーいる」

「……ユキのようにかしら?」

「私はまた、ちょっと特殊かな……、自分で言うのもアレだけど……」

「まー、そんなぽてとさんが、今後ものびのびと自分を表現できる場所にしたいですねー」


 カナリーが綺麗にまとめてフォローしてくれたが、それはハルも確かにそう思う。

 現実リアルに代わる居場所としてこの世界を選んでくれたぽてとに、報いられる良い環境を作っていきたい。

 今のこの世界を運営する立場として、そう感じるハルだった。


「んじゃ、やっぱスパイはまっさつせねばな」

「柔らかく言っても物騒だよユキ……」

「違法行為をしている訳ではないのよねぇ?」

「うん。ゲームのルールから外れてはいないようだ。所々、ちょっと怪しいけどね」

「そんな問題のないプレイヤーを、ハル君はどーやって目星つけたん?」

「単純に、挙動不審な者をピックアップしただけさ。あの街でも、結構な数のプレイヤーとすれ違ったしね」

「ハルさんたち、目立っちゃってましたしねー」

「まさか、あの派手なアクションはそのためにわざとだったのかしら?」

「いや、あれは単に、楽しくなっちゃって……」

「すまぬ、ルナちー」

「もう……」


 とはいえ、有名人であるぽてとが共に居たことで、特別に問題は起こらなかった。副次効果として、遠巻きにこちらを観察する不審人物が釣れたので良しとしよう。


 凄まじい速度で発展を遂げ、人や物が賑わう空港の街。そこにはプレイヤーも、多くが降り立ち楽しんでいる。

 そして人の多い場所ほど、そうした秘密の計画を企てる者も潜んでいるもの。

 観光中に気になった対象をエメに投げておくだけで、簡単にあぶり出しが成功したのであった。


「あの街でハル様が対象と遭遇したのは、何も幸運や偶然じゃなさそうっすね。あっ、いや、もしかしたら幸運はあるかも知れないっすが、ハル様のことですし」

「……今はエリクシルには余計なことはさせてないはずだけど」

「私も関係ありませんよー?」

「じゃあ、元から対象のことを知ってたセレステの誘導っすかね。ともかく、奴らは今は王都ではなくあの街を拠点に動いているみたいっすよ!」

「ふーん? それは、今あの街がホットだから?」

「いや、どうやらね、それが直接の要因ではなくて、理由はモノちゃんの戦艦にあるみたいなんだ」

「おんなじことでは? でわでわ?」

「それがそうでもないんだ」


 いまいち良く分からない、といった顔のユキと皆に、ハルは経緯を説明していく。


 その産業スパイと見なされている集団は、どうやら最初はモノの戦艦を中心として活動していた面子めんつを元としていると判明した。

 元は彼らは、船の内部に収められていたこの星の過去の記録、それを調べていたいわゆる『設定好き』のプレイヤー集団のようだった。


 モノの戦艦は、かつてこの星全体を巻き込んだ魔力争奪戦争の当時、その時点で既に活躍していた。

 内部には当時の記録映像を含む、貴重な資料が保管されている。それを熱心に調べているプレイヤー集団が存在したのだ。


 その者らがやがて活動方針に差が生じることにより複数の派閥に分かれ、たもとを分かった集団が各地の『空港の街』に潜伏せんぷくしている、というあらましのようだった。


「ほえー。そいえばなんかあったね、歴史研究系のギルドが」

「なかなか大手だったね。検証好きを多く抱えていたことからスキル方面でも強かったけど、分裂しちゃったみたいだね」

「魔法の仕様解析とかもやってたね」

「……そんな人達に、何があったの?」

「うん、どうやらね、そうして歴史やシステムを紐解ひもといていくうちに、『ここは実在する異世界なのではないか?』、という『妄想』にりつかれる人達が出て来ちゃったみたいでねえ」

「まあー、事実なんですけどー」


 彼らと、あくまでゲームとして楽しんでいる者らは意見が合わず、結果として船を降りて秘密裏ひみつりに活動する集団が生まれる。

 そんな彼らの怪しい行動が、結果『スパイなのではないか?』と事情を知らぬプレイヤーを不安視させる事態に至ってしまったということらしかった。


「……ではつまり、秘密に近づきつつある方々はいたけれど、スパイ問題などなかった、ということで、大丈夫なのでしょうか!?」

「それが、そうでもないんだアイリ。スパイはスパイで、きちんといる……」

「なんと!」

「まあ、そうよね? このゲームの独特な技術を探りたいという人は以前から居たし……」

「そいつらが検証系ギルドに属してたとしても、不思議じゃないかんなぁー」


 ルナとユキの言うことはまさにであり、その離脱したグループには実利を求めるタイプの人種が多く混じっていた。

 そんな彼らは、ここが本当に異世界であるというならばその新たな利権は喉から手が出るほど欲しいに決まっている。結果、本気で暗躍している。


 その事が、あの非常に回りくどい活動資金の共有行為に繋がっているようなのだった。


「ですが、そもそも何故、その方々は新しいプレイヤーとして参加されているのでしょうか……? 普通に、悪だくみすればいのでは……? いえ、良くはないですけれど……」

「それはですねーアイリちゃんー。さすがに本気の悪だくみすると、システム的に規制される可能性が大きいからですよー」

「えっ? そーなん?」

「ですよー?」

「ユキは関係ないかもね。興味がゲーム部分に偏っているから」

「ってーと、やっぱ現地の人らとの交流部分が問題って訳だ」

「そうね。確か、彼らの生活を極端に脅かすような商売や行いは、やりにくくなっているのよね?」


 ただし神の許可がある場合は除く。ここが、ややこしい部分である。

 まあ、今は全ての神がハルのもとに統一されたので、実質許可が出る可能性はゼロとなっているのだが。


 ただし、そうした規制が及ぶのはあくまでプレイヤー個人に限る。

 それを経験則から察してか、彼らは手を変え品を変え、人すら変えて、実に地道な調査と暗躍を行っていたようなのだ。涙ぐましい努力であった。


 ただ実際なんのルールにも反していないがゆえに、運営を行うセレステたち神様も手出しは出来ない。

 それに加え、ここ最近はハルが日本の方で非常に慌ただしく動いていたため、配慮して言い出さなかったのであろう。


 まあ裏を返せば、まだそこまでの緊急事態には至っていないということでもあるのだが。

 そこで今回のように遠回しにそれとなく伝え、最終的な対応はハルの判断を仰いでから、という対応をとったのではないだろうか。


「なるほどなー。でもま、言っちゃあ悪いけど結局個人の陰謀論者いんぼうろんじゃが頑張ってるだけっしょ?」

「そうね? それに、ある程度はこうして、疑問を持つ者が出るのも想定済みだったのよね?」

「そうですねー。私たちとしては、『別にバレたっていい』くらいの感覚でやってたのは事実ですがー」

「それはそれで、もう少し日本のこと考えて?」

「……では、放置なさるのですか? ハルさんは」

「いや……、実は放置するに放置できない事情が含まれていてね……」

「ほいきたー」

「まあ、そんなことだろうと思ったわ?」


 結論として放置を決めたのならば、こんな深刻な調子で話はすまい。ハルの様子から、それを察していたらしいユキたちだった。


 では、いったい何を問題視しているのか、ハルはそのことを、彼女たちへと伝えるべく口を開く。

 その内容は、正直ハルも、無視できるものならば無視したままでいたかった。


「……その秘密の調査隊に最近ね、リアル側で大きなバック、スポンサーがついたらしいんだ。その正体というのがどうも、例のモノリス三家のひとつらしくて」


 モノリスを巡りうごめく様々な人間の欲望、陰謀。その流れがまた一つ、ハルの物語に早くも交差してきたようなのだった。

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― 新着の感想 ―
歴史オタ……というより、検証班? の中にゲームと現実の区別がつかず胡乱なことを言い出して、エンジョイ勢からキックされて戦艦からログアウト、結果として空港の街で闇のゲームを始めた勢力がいるわけですかー。…
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