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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1527話 産海直送便

 作業を終え、十分な収入を得ることができたハルたち。もう少しやっても良かったが、本日準備済みの建材をどうやら全て使い切ってしまったようだ。

 協力者たちと分けたのでそこまで莫大な収入にはならなかったが、適度に観光するなら十分だろう。少し足が出て自前の資金を足したとしても、バレることはあるまい。


「ぽてとは、悪い子だ……、結局“げんば”で、遊んじゃった……」

「いや、それは、完全にうちらが悪いね?」

「そうだね。ごめんねぽてとちゃん。ただまあ言い訳かも知れないが、君たちにとっては結局これは『ゲーム』なんだ。あまり、硬く考えすぎない方がいいよ」

「そ、そうかなぁ」

「そーそっ。ぽてちゃんが楽しめなかったら、なーんの意味もないからね」


 ただしハルたちは反省すべきかも知れない。ここが実際の異世界だと知っており、そこに生きる人々の為の仕事であると理解している。

 ……まあ、今回は完全にプレイヤー専用の仕事であるということで、大目に見てもらいたい。


「そんなことよりも、このお給料でいい感じに楽しめる観光スポットを教えてよぽてちゃん」

「そうね? 私たち全員ぶんを合わせれば、そこそこの額にはなったのではなくて?」

「……うん! ぽてと、しっかり案内のお役目を果たすんだ!」


 合流したルナたちと共に、ハルたちの奇行は特に気にせず満足げな現地の案内人に別れを告げる。

 既にプレイヤー、使徒たちの行動にはちょとやそっとでは動じなくなっているらしい。苦労をかけている。


 まあ今はそんなことよりも、最近進みの遅れていた工事が大幅に進行したことに彼は安堵あんどをしているようだった。


「じゃあお金も貰えたからね。ぽてとオススメのスポットに、ご案内~~」

「れっつごー! です!」


 ぽてとに先導され一行が向かった先は、この街の端に位置しつつも、本質的には此処こそが真の中心である『飛行場』。

 工事中だった先ほどの建物は、既に飛行場の付近に存在していたため移動にはさほどかからない。


 塔の上から眺めるぶんには大したことのない単なる平地に見えたものだが、こうして目線を合わせて眺めてみると、なるほどそれなりに広大だ。

 モノの戦艦は確かに大きいが、飛行場の面積はその戦艦をすっぽりと収納して余りある更に広い面積。


 そんな円形の広々としたフィールドの中を、中心点から放射状に、何本かの小さな川が伸びてアクセントになっている。まるで美しく整備された公園だ。


 今はその広大なフィールドを吹き抜けてゆく気の早い春の風が、背の低い草を揺らしながら優しくハルたちの頬も撫でて通り過ぎてゆくのであった。


「ここにはね、ここにはね。面白いお店が、たっくさん並んでいるんだよ?」

「各国から積んできた特産品とかを、降ろしてすぐに売りさばいているんですねー」

「なるほどね? その為の、船の直径よりもずっと広い飛行場ということなのね?」

「そうなんだぁ。お船が来るときは、ここに『わっ』って商人さんたちがやってきて、忙しく荷物を積んだり降ろしたりするんだよ!」


 そうしてこのフィールドを使いその商品たちを仕分けして、更にそれらは外周に並ぶ倉庫や店の数々へと運び込まれる。

 ぽてとは何度もその様子を目にしているらしく、その小さな体をめいっぱいに使って、周囲を走り回りながらその様子を全身で説明してくれていた。


 そうした作業の必要性もあって、垂直離着陸すいちょくりちゃくりくできる戦艦用の飛行場に、これほどの広さが用意されているのであった。


「それでね? それでね? 商人さんだけじゃなくって、この辺に、よくすっごく豪華な馬車なんかも来るんだよ?」

「貴族達だね」

「うん。そっちはいつも『たちいりきんし』で、ぽてとたちは近寄っちゃいけないんだぁ」

「神の御前においても自分達を特別視するとは、嘆かわしいのです……」

「まあまあアイリ。さすがに警備の問題もあるからね。他国の要人も迎えることもある訳だし……」


 さすがにそうした要人を、人ごみの中に平等に突っ込む訳にはいかない。仕方がないことだろう。

 少々広すぎるスペースの設計事情は、そうした理由もあってのことらしかった。貴族の見栄えには余裕も大事。


 そんな空港も、今は人もまばらでほぼただの空き地だ。今日は戦艦の発着予定は無し。

 ハルたちはその中を大胆に突っ切って、公園ではしゃぐ子供のようなぽてとを微笑ましく見守りながら追いかけてゆく。


「出店の屋台なんかも、けっこー出とるな」

「うん! まんなか以外は、いっつも人がいるよ! ここのお店は、楽しいもんね!」


 戦艦に乗って集まった各地の品をその場ですぐに取引できる直販所。

 各国の珍しい食材を新鮮なうちにこの場で調理して頂けるレストランの数々。

 それはまあ、人気が出るだろうとハルでも理解できるラインナップ。これまでのこの異世界は、他国へ行く事は別に不可能ではないが、そこそこハードルは高かったのは否めない。


「この梔子くちなしの国は比較的、各国の特産品に触れるのが容易な環境ではありました。しかしながら、生鮮食品となると、どうしても、でしたからね」

「そんで食べ物屋さんが多いんだねぇ。てっきり、私はカナちゃんが食いしん坊さんだからかと思ったよ」

「ちーがーいますぅー。よしんば神のせいだとしても、今の主神はシャルトなのであいつのせいですー」

「だ、大丈夫だよかみさま。ぽてともね? 美味しいもの食べるの、大好きなんだぁ」

「ですかー。ぽてとさんは分かっていますねー」

「うん。みんなを案内するのもね、美味しい物が食べられるお店なんだよ!」

「たのしみですねー」


 ぽてとの目的地も、どうやら食事処のようである。

 彼女は人工の小川をぴょんぴょんと左右に飛び越えて行ったり来たりしつつ、それに沿うように飛行場の反対側を目指している。そちら側に、目的の店があるのだろう。


 小川の突き当りには、巨大な魚のマークの看板が大迫力の一際目を引く施設。どうやらそこが、ぽてとお勧めのお店であるようだった。


「ついた! ここがね、ここがね? ぽてとの大好きなお魚のお店なんだよ!」


 なんと小川はそのまま店の内部に、地下へと入るように潜り込んで行っている。

 どうやら、この川は空港を美しく飾るアクセントではなく、海産物を直送するための『水路』であったのだった。





「こんにちは! 『見学コース』を、くださいな!」

「これはぽてと様。ようこそいらっしゃいました。ただちにご案内させていただきますので、こちらで少々お待ちください」

「はい! 待ってます!」


 ぽてとが姿を見せると、子供にしか見えない彼女に向けて店員が実にうやうやしい態度で出迎えていた。

 これは、店の教育が行き届いている高級店、ということもあるだろうが、察するに恐らくぽてとが中でも特別な扱いなのだろう。


「ぽてとちゃん、この店のVIPなの?」

「ふっふー。ぽてと、びっぷ! 常連さんなんだぁー」

「すごいですー! ぽてとさん、お魚が大好きですもんね!」

「うん! それにね? ぽてと、何度かお店に、ぽてとが釣ったお魚を持ってきたんだよ。みんな、とっても喜んでくれるんだぁ」


 ぽてとは個人的な趣味として、世界中の様々な地で釣りに勤しんでいる。ハルたちもたまにそんな彼女と一緒に釣りをして遊んだりもした。

 その釣りスポットの中には現地の人々では寄り付けぬほぼダンジョンのような秘境の地や、『境界』ギリギリの外洋などもあったりする。

 活動範囲は、こう見えてプレイヤー内でも最上位に広いのだ。


 そんなぽてとが持ち込む魚、それは当然、極上の一級品であったり滅多に取れぬ珍しい種類の魚であったり。

 使徒である、常連客であるという以前に、店の者にとっては足を向けて寝られぬ存在であった。

 なおぽてとは世界中を飛び回っているので、その日どちらを向いて寝れば正解なのかは誰にも分からない。


「ここのお魚屋さんはねぇ。すごいんだぁ……」


 だがそんなぽてとは、自らの実績を鼻にかけずひたすらこの施設の素晴らしさをハルたちに説いている。

 こうした彼女の人徳も、当然、店の者から敬われる理由の一つに間違いない。

 ……まあ、ほぼ国家プロジェクトであるこの施設を『お魚屋さん』と称するのもまた彼女くらいであろうけれど。


「神様のお船がここに着くとね? その中から直接、さっきの川を通ってお魚たちがこのお魚屋さんに流れ込むんだよ! すごいよねぇ~~」

「神籍に入られた王女アイリ様が、モノ様にかけあってそうした構造を設計してくださったのです」

「ほえー。王女さん、すごいなぁー」

「はい。我が国の誇り、いえ新たな守護神なのですよ、ぽてと様」

「じゃあぽてとも、お祈りしよう!」


《わたくし、ただ提案書をモノ様にお見せしただけなのですが……》

《まあ、アイリが褒められてるのは僕としても悪い気持じゃない。ここは祈られておこう》

《これは逆に不敬、なのです! あとで注意しておきませんとぉ……!》


 目の前で自分に捧げられる祈りに、どう反応していいやら困りきっているアイリがなんだか可愛かった。


 それはさておき、モノの戦艦は内部に水槽を備えている。もちろん、モノの本体を収めた魔法の魚が泳ぐ液体コンピュータの水槽とはまた別の物。

 その水槽から鮮魚、というより生きたままの魚を小川に見立てた水路に流し、この海鮮レストラン兼、巨大な『生け』へと直送するのだ。


 その生け簀の中に悠々と泳ぐ魚の群れを、巨大な一枚張りのガラス越しにハルたちは見学する。まるで、水族館にでも来た気分である。


 流石は魔法文化の発展した異世界。こうした規格外の建築技術においては、現代日本と比べても遜色そんしょくがない。


「これはあれか、地上から見たら、ちょっと湖みたいになってたトコか!」

「ええ。魚の種類に合わせて、深度によって水質を分けて管理しています。湖部分は、淡水ですね」

「それもなかなかに、意味不明な技術ね……」


 どうやら水中でも、専用に魔法が使われているようだ。

 そんな特大のプールの中から店の者が今ここで一匹を選び取ると、どうやらそれを、この場でハルたちに振る舞ってくれるようだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
建築現場倒壊の危機より作業進捗の方が優先されるわけですかー。エメが関心を持ちそうな物件ですねー? 開発局の技術力を信頼して倒壊の危機はないと思い込み、ハル様襲来の危機に気付いていないだけ? 今更伝えて…
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