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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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1523/1795

第1523話 空港の街

 投稿遅くなり申し訳ありません!

 ぽてとに連れられて、ハルたちが訪れたのは王都から少し離れた中規模の都市。

 現実リアル風に言えば、『数駅離れた』といった距離感か。寂れてはいないが、中心街ほどの賑わいはない。そんな立ち位置。

 特にここ異世界ではどうしても中心地である王都に人口は集中する傾向にあるので、こうしたエリアは思ったよりも賑わいは少なかった。


 ただし、それはこれまでの話。


「いまはね? いっちばんホットな場所はここなんだー」

「ああ、なるほど。確かにここは、最近では一番変化の大きな地域だね」

「はい! 国を挙げての、一大事業ですから!」


 王女であるアイリも当然、この街のことは知っている。国のまつりごとから退いた彼女ではあるが、今でもよく国政についての報告や相談は飛んできている。

 いやそれがなくとも、天空城から全てを見下ろす形のハルたちは、『下界』の様子は大まかにではあるが常時きちんと把握を行っていた。


「そうだった、知ってたよね。ごめんね、ごめんね?」

「いいや、実は実際になにをやっているのか詳しくは知らないんだ。良ければ説明してくれるかい、ぽてとちゃん?」

「!! うん、まかせてねハルさん。ぽてと、がんばるよ!」


 案内役を張り切るぽてとに、ハルは説明役を振ってあげることにした。とても嬉しそうだ。

 実際ハルも、書面上のデータ以外の生の声を知っている訳ではない。改めてぽてとを通して聞くことで、データだけでは見えない部分までを知ることもまた出来るだろう。


「ここはね、ここはね? うちゅうせんの空港なんだぁ。あっ、宇宙には、行かないか。えっとー、飛行船?」

「モノちゃんの戦艦だね」

「うん。ていきびん? を迎えるための街に、ここは選ばれたんだよ? それでね、今もみんなで開発をがんばってるんだ」

「ぽてとちゃんもお手伝いしてるの?」

「ぽてとはね? えっと、たまにだね。あっ、あんまり手伝えてないかも……、ごめんなさい……」

「いいんだよぽてとちゃん。君は自分の自由に、プレイしていいんだ」

「そうです! そもそもこれは、国が行うべき事業なのですから!」

「えへへ。ハルさんも王女様も、優しいなあ」


 海中より現代に目覚めた、モノの操る飛行戦艦。空飛ぶ円盤のような、宇宙船じみた見た目のそれは、今では各国を繋ぐ定期便として、七つの国を順に巡っている。


 当然、それぞれの国には戦艦の着陸を受け入れるための『発着場』が必要不可欠。当初は街と街の間に広がった平原などに停まってもらっていたが、いつまでもそのままではいられない。

 神の船を迎えるのに不敬だという意識と、毎回何もない土地に人員物資を輸送するのは非効率という実用上の問題があるのだ。


 そこで、各国は『空港』を専用に隣接させた都市をそれぞれ準備すべく着工にかかる。その一つが、ハルたちの今居るこの街なのだった。


「おおー。賑わってるねぇ。ぽてちゃん、ここが現環境トップのタウンかな? 王都、オワコン?」

「んーん。たしかに人はいまこっちに一杯いるけどね? 王都はいつだって、すてきな街だよ。やっぱりね、洗練されたおみせがあるのと、大事な商談をするのは、必ず王都なんだぁ」

「んじゃこっちの利点はなんぞ」

「こっちはね、こっちはね? 新しいものがたっくさんあるの! いのべーしょん?」

「戦艦が各国の物資と情報を積んでくることで、文化交流が一気に加速したということね?」


 この世界は、今まで空路を使っての輸送というものはほぼ存在しなかった。

 飛行用の魔法自体は存在するが、利用者は限られており大量の物資人員の運搬は非現実的。


 そこに登場したあの空飛ぶ円盤は、ある意味この世界にプレイヤーの存在以上の革命的発展をもたらしたのだ。


 ワープゲート代わりの神殿を出たハルたちを出迎えたのは、圧倒的な熱気を伴った賑わい。

 のんびりと落ち着いた王都の神殿前とは、一線を画す状況の差。ただこれは、どちらが良いというものでもないだろう。


「んー。いちプレイヤーとしてはこのデカい流れに乗れてなかったのは少々痛いかもねぇ。しかしぽてちゃん? なんで飛行場は王都じゃないん?」

「さあ~~? ぽてと、政治はよく分からないんだぁ」

「王都の文化を壊されたくなかった? あっ! わかったぜ。空港は騒音が出るってんで反対運動があったんだ!」

「……いつの時代の話だよユキ。モノちゃんの戦艦は無音飛行だし、そもそも神の乗り物に表立って文句を言う人なんてこの世界には居ないよ」

「単純に土地が無かったのでなくて?」

「それもありますね。しかし一番の理由は、国防上の理由となります。他国でも同様に、首都に“くうこう”を併設した国はありません」

「そうなんだぁ」

「ですよー? 他国から、ばしばし人や物を乗せてくる関係上、何が出てくるか分かりませんからねー」


 極論、強力な爆弾が乗って来る。手練てだれの暗殺者が乗って来る。そういった危険性も無くはない訳だ。

 まあ、実際は神が、運営が運行に携わっているあの戦艦。そんな露骨なゲームバランス崩壊イベントを許す彼女らではないのだが、現地住民にはそんなことは分からないだろう。警戒は仕方ないといえた。


「お兄さまは最後まで、悩んでいたようですけどね。物流の中心地としての機能は、出来れば全て王都に集約したい思惑があったようで」

「確かに、この国の強みはこれで少し薄れてしまったのかしらね?」


 今まで、この梔子くちなしの国は東西の国々を繋ぐ中継地、オアシスとしての役目を果たしていた。

 各国を回る商隊は必ずこの国を通り、それら全ての国々の商品が集うこの国は文化の中心地となる。神により長らく不可侵で国土を守られた恩恵も大きかった。


 しかし、今は逆にその神々よって、物流の優位性を剥奪はくだつされかかっているといってもいい。

 時代の転換期。ここを上手く乗り切れるかが、この国の未来を左右するのは間違いない。


「まっ、でもプレイヤーにはんなこと関係ないよね。特定の国に帰属意識がある人も居るかもだけどさ」

「そうね? 結局、主義主張などよりも、いかに煽って彼らを乗せられた国の勝利よね?」

「言い方よルナちー……」

「そうだね? ぽてと、むつかしい事はよく分からないけど、この街はとっても楽しいよ。おすすめ。観光するにも、いいと思うんだぁ」

「そっか。連れてきてくれてありがとう、ぽてとちゃん」

「うんっ」


 機嫌よくその場で、ぴょいぴょい、と小さくジャンプし喜びを表現するぽてと。

 その姿に癒されつつ、ハルたちはこの文化的経済的にも発展を続ける新興都市を、改めて見て回ることにするのであった。





 多くの人が行き交う首都以上の賑わいの通りの中を、ハルたちもまたその一部として更に人口密度を増加させつつ進んでいく。

 その顔ぶれはプレイヤーも異世界人も入り混じっており、皆が何かの目的に向けて忙しく歩き回っているようだった。


 そんな中に観光目的の初心者集団が混じったところで、特に気に留める者はいない。

 ハルたちにとっては、確かにこの街は気兼ねなく遊びに来るにはうってつけであるのかも知れない。


「あれ? ぽてとちゃんじゃないか。その人達は?」


 そんな中においても目ざとくハルたちを、いや正確にはぽてとを見つけて声をかけてくるプレイヤーが一人。

 普段から交流しているプレイヤーだろう。その青年も、ぽてと同様に熟練の高レベルプレイヤーであるようだ。


 ハルはこちらを振り返り申し訳なさそうな顔をするぽてとをすぐになだめて、彼と会話しても構わぬ旨を手早く伝える。

 ぽてと以外には、正体を知られない方が面倒はなくていいだろう。


「ゴンゾさんこんにちは! このひとたちはね、観光に来たの。ぽてと、案内するんだぁ」

「そうなんだ。えっと、その、大丈夫なの、彼女らは……?」

「ぶっぶー! ぽてとのお客さんを、そんな風に疑っちゃ、だめだよ?」

「……おっと、こりゃ失礼。でも確かに、この街は観光プレイの最初にはもってこいだよな。資金稼ぎにも最適だ」

「そうなんですか?」


 どうやら彼も、ハルたちがスパイ目的のプレイヤーではないかと警戒心を抱いているようだ。

 なにやら、この問題はこのゲーム全体においてプレイヤーたちが危惧きぐする普遍的ふへんてきな問題意識として浸透してしまっているらしかった。


 そんな事情など何も知らぬ風を装いすっとぼけて、ハルはゴンゾと呼ばれた青年にも探りを入れていく。


「ああ、今はどこもかしこも新しい建物を作ってるからね。バイト先には困らないよ。適当にNPCに話しかければ、だいたい仕事の紹介はしてくれるはずさ」

「なるほど、どうも」

「コミュ力に自信がなければ、仕事を斡旋あっせんしてくれる仲介プレイヤーも居るよ。そいつを頼ればいいさ」

「……結局、その人とのコミュニケーションが必要になるのでは」

「あはは、違いない。でも運営側であまりシステムは用意されてないんだ。仕方ない」


 なるほど。観光するための最初の資金を調達するにも、この街は最適ということらしい。ハルたちには必要はないが、ぽてともそういった面での親切心込みで、この街を選んだのかも知れなかった。


 そんなハルたちの様子を、ゴンゾはなおも警戒しているかのように注意深く観察している。正直、本当の初心者ならあまりいい気分はしないだろう。


「……あの、なにか? やっぱり私たち、何か疑われてるんです?」

「ごめんね? ごめんね? 今はちょっと、悪い人が増えてるんだ」

「そっ、そうなんだ。ゴメンなー。スマン! そいつらはなんていうか、そう、働かないで観光しようって考えなんだよ! 資金を裏ルートで調達してさ」

「へえ。RMTなんですかね? 別にいいのでは?」

「んー、説明が難しい。例えばさ、既存プレイヤーが秘密の場所に金だけ“捨てて”、それを新垢しんあかがこっそり拾いに行くとか、そういう訳わからん事をしているのよ、奴らは」

「確かに分からないですね……」


 確かにそれなら、他者にバレることなく通貨の受け渡しも可能にはなるはずだ。

 ただ、そこまで手の込んだことをして、何か見合ったメリットはあるのだろうか? 今のところ、そこはハルにもよく分からない部分なのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
プレイヤーが起こすならともかく、現地人がテロを起こすかというと微妙な気もしますけどねー。わざわざ作った安定環境をかき乱す危険因子なんて、テロを起こした時点で神々が追放するでしょうし、オーガニックされる…
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