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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1521話 真実を求める者と隠す者

「まあ、確かに休むと言った手前、少しのんびりする努力はしてみるか……」

「ん。そだよー。私と一緒に、ごろごろしよー?」

「いやコスモスはエメたちと一緒に研究の方をお願いね」

「おおぅ……」


 今回の件についても気になりはするが、とはいえそちらは『外』注も含め多少は神様任せにしても構わないだろう。

 今後、『外』の神様も更に招くとなると状況はまた変化するだろうし、なにより最初から長期戦になるのが目に見えている。

 今、ハルが多少休んだ程度で、すぐに趨勢すうせいに変化があるとは考えづらかった。


「それならば、いっそ観光にでも出てはどうかな? この世界でも、地球でもどちらでも構わないから」

「セレステ。何かおすすめが?」

「いやなに。君はこの世界の全てを知ることになったと言って構わないだろうが、それでも案外、この地に住む人間たちの国を生で見た経験は薄いんじゃないかと思ってね」

「まあ、確かにね」

「実は他のプレイヤーの方がー、経験豊富そうですねー」


 ハルはこの世界の七つの国に対し、最も大きな影響を与えた使徒プレイヤーと断じて構わないだろうが、それでも実際に触れあった異世界人の人数においてはさほど多くない。

 足を運んだ国も意外に限定されており、交流に関しても多くが為政者いせいしゃや貴族などに留まっていた。


「それに関しては、初手からお姫様の元に誘導したカナリーにも責任はあるだろうさね」

「なにおー。あれがベストな選択でしたよねー? アイリちゃんー?」

「わ、わたくしからは……、なんとも発言しかねるのです……!」


 他のプレイヤーが一斉に街へと出て行く中、ハルたちは基本的に街から遠く離れた神域、という名の僻地へきちに建つ一軒家で、外界と関わらずにスタートした。

 その影響か、はたまたハルの持ち前の性質なのか。その後もいわば引きこもり気味なプレイスタイルとなっていたのは確かだろう。


「仕方がありませんわ。ハル様が街になど出れば、女どもは皆揃って前かがみになり、ヒザをすり合わせて嬌声きょうせいをあげ、うごうふっ!」

「品がないよアメジスト?」

「わだぐじに品のない声を上げさせているのはセレステですわ……」

「そんなヤバいフェロモンは出していないが、神気を垂れ流していたせいで外出できない時期もあったね」


 アメジストに装着された鉄の首輪を引っ張って遊ぶセレステを、止める者は残念ながらいなかった。なかなか凄いアイテムだ。


「……ふうっ。とはいえ今は、そんなハル様も多少姿を変えさえすれば、誰にさとられることもないでしょう。もちろん、新しいペットのお披露目をすごうふっ!」

「安心したまえよハル。ペットの世話も、警備員の仕事だからね。ちゃんとしつけておくともさ」

「頼もしいねセレステ。なんだか初めて、しっかりとした仕事をしている気がするよ」

「はっはっは。ひどいなハル。私はいつだって、真面目に働いているじゃあないか」


 ……どちらかといえば、普段のセレステはそれこそ引きこもってダラダラしているようにしか見えない。

 それでいて裏では色々と重要な仕事をこなしているので、性質としては実はアメジストに近かったりする。


 そんなセレステの勧める今回の観光。これも恐らくだが、何かしらの意味を持つものなのだろう。

 いや、もちろんハルを気遣っての提案であること自体も本心なのだろうが、そのついでに何らかの副次効果も持たせるはずなのが彼女だ。


「今はこちらの世界の情勢は安定しているのかい?」

「うむっ。国家間の緊張状態もある程度落ち着いたし、観光して回るにはいい頃合いさ。もっとも? 君なら例え戦火の真っただ中であったとしても観光気分で散歩できるだろうけれどね」

「それはただの武力介入ですよー」

「さすがに僕もそんな趣味はないさ」


 ハルたちがこの世界に来た最初の頃は、領土的野心を隠さない国も多かった。

 しかし今は神々と、その使徒たるプレイヤーと協力し未開の大地に目を向けた方が実入りが大きそうだと彼らは理解し、戦争の機運は下火となっている。


「ここ梔子くちなしの国では、お兄さま、シンシュ王子が新国王として代替わりをするという話も持ち上がってきているようです。新時代到来の象徴、ということでしょう」

「うむっ。私の担当地の方でも、例の王子が勢力を強め、次期国王の候補としては筆頭らしいじゃないか。これも君の影響だねハル」

「僕が内政干渉したみたいに言わないで欲しい……」


 プレイヤー、神の使徒がもたらす時代の変化に、いち早く対応した者が勢力を伸ばしていく。そうした構図の変化は神々の狙い通りではあるのだろう。

 ハルとしても、目指すべき二つの世界の融和にとって、その流れは歓迎すべきものではあった。


「ただ、その流れが行き過ぎるのもどうなのかなあ……」

「注文が多いよハル?」

「まあ分かってるけど。ただ、この言わば『ボーナスタイム』も永遠じゃない。この先急激に、また環境の変化が生じることだって考えられる」

「ゲームですものね。唐突に明日サ終することだってあり得ますわ?」

「……さすがに即日に終了することはないけどさ」


 だがアメジストの言うように、使徒プレイヤーたちはいつまでもこの世界に居るとは限らない。

 サービスが継続していたとしても、単純に彼らが飽きて去ってしまうことだって考えられた。


 その時にどうするかを、ハルも神様も、そして国を動かす者達も、考えておかねばならないだろう。


 その先へと繋がる現状を肌で感じるためにも、一度視察に出るというのも悪くはないだろう。

 ……なんだか、自然と仕事感覚になってしまっている自分に、軽く絶望を覚えるハルなのだった。





「まあ、いいのでなくって? 仕事気分が混じるのはもうしょうがないとして、その中でも比較的気楽な方でしょう」

「んー。私はまだ上手くセレちんに乗せられすぎてると思うけどなー。やっぱゲームっしょ。ゲーム。仕事気分から離れたいならまたみんなでなんかゲームしない?」

「それもいいですね!」

「……あなたたちはゲームとなると、仕事以上に打ち込んでしまうからダメよ」


 言われてしまった。確かに、楽しいのは間違いないだろうが『休養』にはならない気はする。ハルたちの場合。


「しかし、確かにセレステの思惑も気がかりといえば気がかりね? 実際に気にするしないはともかくとして、彼女は何をハルに見せたいのかしら?」

「ルナちーもたいがい真面目さんだねぇ」

「悪かったわね。私の家にはそもそも、『休日』という概念がいねんはないわ?」

「奥様はああ見えて休みなんて一切とらないからね」

「なのにいつだって余裕たっぷりなのです! わたくしも、見習わないといけません!」

「……あんまりお母さまを見習っちゃダメよ、アイリちゃん?」


 難しい問題である。ハルも月乃のことは尊敬、敬愛しているといっていいが、だからといって月乃のように成りたいか、月乃の思うがままに動きたいかと言われれば明らかに『いいえ』だ。

 そもそも今もこうしてワーカーホリックを指摘されるようなこの精神状態が、彼女の教育の賜物たまものなのではなかろうか? そう考えると、少々反逆したくもなってくる。


「よし。やはり休もう。そして休むために、今ルナの言ったように事前に問題点は洗い出しておこう」

「その考えは、果たして大丈夫なのでしょうか……!?」

「……わからない」

「まー、現地で気になっちゃって休めないよりマシ。かな?」


 いきなり全ては変えられないのである。仕方ないのである。


 なのでその議論はさておき、ルナの懸念けねんは解消しておこう。幸いこの点については、ハルにも既に察しはついていた。


「たぶんだけど、一部のプレイヤーに関する問題だろう。いや問題といっても、別に彼らが何か問題行動を起こしている訳じゃないんだけど」

「ハルやユキのように、ルール上問題ない範囲でゲームを壊しているということね? 厄介な手合いだわ?」

「……おぅ、ルナちー。我々への評価が手厳しいぃ」

「た、確かにユキさんたちが敵に回ると、恐ろしい、ですね……?」

「深く心に刻んでおきます。まあそれより、何が起こっているかだけど」

「あっ、これ刻んだだけだな?」


 ユキのツッコミは無視スルーさせてもらうハルだ。

 それよりも、認識している課題についてをハルは皆と共有していく。この話は、なにも今始まったものではない。

 実のところゲーム開始当初から、常に存在している潜在的せんざいてきなものだった。


「まあ一言で言ってしまえば、スパイ目的のプレイヤーに関する問題だね」

「あー」

「確かに、聞いたこともあったわね?」

「“さんぎょうすぱい”! なのです!」

「うん。僕らの、いや当初はカナリーたちのゲームは、異常な先進性を含んでいると一部では話題になっていた。最近は、あまりその話題は聞かなくなったけどね」

「『フラワリングドリーム』の盛り上がりであったり、『味覚データベース』のより大きな話題性にかき消される形になったのね?」

「結局ハル君だけどねー」

「まあそうだけど、これは奥様の思惑と言った方が良いだろう」


 ただ、話題には上がらなくなれど、疑惑を感じた人間の脳内からすっかり消えた訳ではない。夢世界ではないのだ。

 依然いぜんとして今でも、『このゲームには何かある』と感じプレイヤーという形で潜入し調査している者は居る。


 その性質に、恐らくは最近少し、変化が生じているとセレステは暗に語っているのだろう。


「たぶんだけど、同業他社、つまりゲーム会社の人間は減ったはず。そっちはきっと味覚データベースに流れた」

「同業って食品メーカーでは?」

「ユキ。イシスジョークは今は置いておこう」

「ほーい」

「なら今は、どんな人が来ているのでしょうか……!?」

「……きっと、より本質的に疑惑を強めている連中。そういうことね?」

「うん。夢世界で様々な立場の人々の意見を目にして、案外そうした疑惑が僕に、僕らにかかっているのが分かった。もちろん、あの世界で真相に至った者らの記憶は消えている訳だけど」


 一部を除いて、ではあるが。だが情報屋を中心に、その一部もまたハルの監視下にある。彼らが直接的な行動を起こす可能性は、今のところ低いだろう。


「それはつまり、わたくしたちの世界、あちらから見れば『異世界』の存在に、気付きつつある人が居る、ということでしょうか?」

「そうだねアイリ。まあ、悪いことじゃないよ。いずれ知らせる予定ではあるんだしね」

「ただ、それは今じゃあない、ってーことだねハル君」

「うん」


 そのコントロールを誤れば、大きな混乱の元となってしまうだろう。

 さて、そうした二つの世界の真実を取り巻く『環境』は、今はどのようになっているのだろうか?

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
つまり、セレステは将来アメジストになるということですかー。早急に手を打たねば手遅れになるやもしれませんねー……。エメに預けて素直な労働表現(?)をできるよう教育しないといけないでしょうかー。 はい。素…
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