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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1520話 解くほどに増える宿題

 その後しばらく、ハルたちは花畑の上に設置されたガラスの舞台で、談笑しつつ昼食を楽しんだ。

 今日は顔合わせかつ、能力紹介のみといったところで、新顔の二人とはその後少し言葉を交わして解散となった。気にしないとはいえ、あまりこの場に長く拘束するのも悪いだろう。


 ハルたちもまた、とりあえずの視察は済んだということで、自分たちもまた天空城にあるお屋敷へと帰還したのであった。

 そうして落ち着いた自宅にて改めて、重力異常地帯の現状であったり、先ほど翡翠ヒスイの語っていた内容について精査をしていくことにした。


「でだ、マリーちゃん。綺麗な花畑が出来てはいたが、あそこはこのまま再生することは出来そう?」

「駄目ね。それは不可能よハル様」

「だめか」

「ええ、そうなの。駄目なのよ? 私たちが手を加えなければ、あの環境は維持を続けることが出来ないわ?」

「それは、春夏秋冬のエリア分けが自然に成立しない、という意味ではなくだね?」

「その通りよ?」


 今は、人の手によって植えられているから植物はあの場に根付いているが、自然任せではやはり厳しいらしい。

 まだ完全に放置したことはないので結果的にどう変わっていくかは完全には読めないが、少なくとも今の花畑はほぼ全滅するだろう、というのがマリーゴールドの見解だった。


「虫が居ないわ、あそこには。動物もね? 元が過酷な環境だった、というのもあるけれど、過ごしやすく改善された今でもまだ、それらはあの地に定着しない」

「まあ確かに。都合が良かったから気にしてなかったけど」

「わたくしとしては虫がいない方が嬉しいですけど、お花はそうもいきませんよね……」

「そうよアイリちゃん。受粉を虫に頼る種は多いわ? 今は、私たちが全部やっているけれどね」

「ゲームでは当然だから気にせんかった」

「……実家の庭は、きっとエーテルで虫よけしているのでしょうね。私もそっちが普通だったわ?」

「みんな現代っこねぇ」


 ハルもどちらかといえばユキと同様の感覚を持っているだろう。ゲームではたびたび壮大な花畑フィールドも出てくるが、そこに多種多様な虫まで描写されていることはほぼないだろう。

 まず処理がかさむし、そうして苦労してまで設置しても喜ばれる割合は低いからだ。


 ちなみにルナの実家すなわち月乃の家の庭は、あの地と同様に気候制御によって多様な季節の植物に合わせた周囲環境を構築している。お金がかかっているのである。非常に。

 まあ、さすがに規模は比べるべくもないのだが。


「要するに、自力で移動できる生物はあの土地を嫌って留まろうとしない……?」

「かも知れないの。植物は移動できないから、“仕方なく留まってくれている”のかもね?」

「それはなんとまあ……」

「プラント監獄かんごく拷問官ごうもんかん、マリりんだ!」

「びしばし叩いちゃうわ! えい! えいっ!」


 なんともまた不思議な話である。いや、どこからかムチを取り出してぴしぴししているマリーゴールドの事ではない。

 そんな、動物も虫も寄り付かないなどというオカルトめいた話、本当にあるのだろうか?


 まあ、あの場はそもそも重力が狂った土地であるので、本能に忠実な動物ほど何か嫌な感じを受けているのかも知れないが。


「結局、重力異常を解消することは出来ないのかしら? そこが通常に戻れば、特に頭を悩ます必要はないのでなくって?」

「んー。難しいですねー。昔の話ですが、皆であそこを調べた時ー、けっきょく根本的な原因は分からずじまいでしたからねー」

「そうね、悔しいわ。とっても悔しいの。そのあと私たちはこの地域にお引越ししちゃったから、その後の調査はどうなっているか詳しくないのだけれどね?」

「アンタッチャブルになってたらしいですからー、大して進展なかったはずですよー?」


 禁忌きんきの地として、重力異常地帯はその後神々が近寄ることなく、皆それぞれ己の目的に向け力を注ぎ始めた。

 惑星の運行は異常なままでも、その異常の中彼らは問題なく活動できる。放置は特に、致命的にはなりえなかった。


「ハル君ならなんとかなる?」

「まあ、現状の重力異常をどうにかすることは、強引にだが出来るといえば出来る。ただ、やっぱり根本的な原因解決にはなりはしない」

「確か、ちょうどいいサイズのおっきな石を<物質化>して“うちゅう”に浮かべるのでしたっけ?」

「よく憶えていたねアイリ。そうだね。ただそれは、正直計算が非常に面倒だし、どうやっても実際には多少のズレが生じるだろうから、実際には地上で魔法を使うことになる」

「おお!」

「現地で重力異常と相殺そうさいする重力魔法を常にぶっつけるんですねー?」

「うん。そういうこと。今ならそれをやっても、魔力はプラス収支で収まるはずだ」

「力技ではあるけれど、悪くはないと思うわ? でも、その様子だとやらないのよね?」

「収支プラスとはいえ、コストに見合わないからね……」


 何も成果がない、とは言わない。この星にとって、元々あった姿に戻ることはきっと意味のあることだろう。


 だが、それは今のある意味安定している環境を壊してしまうことにもなる。


 ハルたちと関わりの深い人間たちに限った話でもそうだ。

 今の世代の異世界人は、もう全ての人が生まれた時から一日の長さが二十五時間。それが、明日から急に地球と同じ二十四時間になりますよと言われて、混乱が無いわけがない。


 そうした急激な変化を強いておきながら、カウンター魔法維持のための魔力が切れるような事件が起これば、また元の環境へと逆戻り。そんな負荷ストレスに何度もさらしたくはなかった。


「やっぱり、地道に原因を解明して、地道に少しずつ正常へ戻すしかないんじゃないかな」

「まー気長にいきましょー」


 のんきな話だが、そのくらい緩やかな変化の方が、この世界の人々にとっても良いのかも知れない。

 結局、結論は『まだ何も分からない。調査の続行』で今回も変わらない。

 だが今後は『外』の神々とも協力して、進展していくのではないか。そう希望を胸にするハルなのだった。





「……さて続いては、翡翠ヒスイの語っていた仮説に関してだね」

「わたくしの出番ですわね?」

「いーやわたしっす! わたしが活躍するっす!」

「二人とも、引っ込んでいるべき。ここはこのコスモスが、指揮をとるー!」

「……指揮はとっちゃダメだよコスモス? 君も興味あるんだね」

「んー。どうせこれも、最後はモノリスが悪いで落ち着く」

「否定できないのが悲しい」


 遺伝子に魔法の式を刻み込んだ植物。それが地球から来る魔力の誘引作用を持っているという翡翠の仮説。

 今のところは、彼女の勘違いと一蹴いっしゅうできてしまうレベルのデータしかないようだが、そんな些細なデータであってもほんの少しの可能性があるなら、頭ごなしに否定せず検証するのが神様たちだった。


 普段はいがみ合っているというのに、そうした時には非常に協力的、というより真摯しんしな彼女らである。


 まあ元々本気で敵対している訳ではないし、ことが魔力に関する話題というのも大きいだろう。そこだけは、全ての神に共通する命題であった。


「三大囚人、勢ぞろいだ」

「ユキ、違う。私は囚人じゃないー。この家の居候いそうろう

「服役中っす! 今日も罪を償うっすよ!」

「うーん。不服寄りではありますが、ハル様に囚われた愛の囚人というのは、それはそれで」

「ジスちゃんノリノリじゃん。おっしゃれー」


 アメジストは自ら、そのゴスロリ衣装に合わせた首輪に腕輪、足にまでフリルをあしらったいかつくも可愛らしい装飾を追加していた。

 拘束具というよりアクセサリー。くさりも細いシルバーで、凶悪犯を捕まえる役にはまるで立ちそうにない。


「いいや、君はこっちの方が似合うよアメジスト。どれ、私が付け替えてやろうじゃあないか」

「あーん。セレステったら意地悪。……ってこの鎖、なにか力を吸っているんですが!? マジモノの実用品じゃないですか!」

「そりゃあね。神を縛る鎖なんだから、このくらい機能がなければね」

「魔法が一切使えないですわコレ……」


 仲間になってもやりたい放題のアメジストに、セレステが何か恐ろしい威力の封印装置を取り付けていた。

 いつの間にあんなものを開発していたのか気になるところだが、お転婆てんば娘が大人しくなったので何でもいいということにするハルだった。


「で、茶番はいいとして。実際にどうなんだいハル?」

「僕としてはまだ何とも。ただアメジストたちは、否定よりの意見みたいだよ」

「とはいえ、まずこれ以前の前提として、魔力が魔法を使う者、すなわち人間に引き寄せられているという仮説に関しては、わたくしほぼ間違いないと思っております」

「ここで言う『人間』は異世界人っすね。そっすね、そこは疑いようがないと言っていいと思うっす。その前提が正しいからこそ、異世界人を抱え込んだカナリー派閥は全体から見ても随一ずいいちの魔力量を、ゲーム開始前から維持拡大できていた訳っすからね」


 魔力は日本人がこの地で活動すると生まれやすいが、それがなくとも自然に少しずつ異世界に流れて行く。

 その自然発生魔力を人間が引き寄せていたからこそ、カナリーたちは大陸の一地域を覆うほどの魔力を手にできた。


 これはもう誤差ではなく疑いようのない結果として、動かぬ証拠となっていると語って構わないレベルとなっている。ハルたちが訪れる前から、それは変わらない。


「ただ逆にいえば、我々も百年以上かけて証拠らしい証拠を出せていないと言える。対象がヒトであってもそうなのだよ? ましてや花を対象に、一体全体どうやって証明するというんだい?」

「確かに、セレステの言う通りではある」


 人間の大きさと、この長い年月をかけても証明には至らなかったこの仮説。確かにそれ以下の規模で成功するとはまるで思えないのも事実。

 まあ、これまではエリクシルネットや次元の狭間の存在も知られておらず、対象が人間なので無茶な実験も出来なかったという事情はあるが。


「……さて、この難題、いったいどうして処理したものか。重力異常もそうだけどさ」

「……その前にハル様? わたくしを捕まえて、その後はしばらくのんびりするのではなかったので?」

「確かに……」

「ハル様もたいがいワーカーホリックっすよねえ」


 エメにまで言われては終わりである。まあ、これらの難題は追い追い解決するとして、今は彼女らと意見を出し合うに留めよう。

 ……そんな風に思う一方で、結局そうはならないだろう自分を客観視もしてしまうハルなのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
いっそのことトレントみたく自力で動き回ってもらわないと繁殖できなくて環境を維持できないわけですかー。好き勝手動けるようになると逃げ出すから環境を維持できない? ならやっぱり動けないように縫い付けておき…
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