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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1518話 豊穣の、神様?

「お初にお目にかかりますっ。翡翠ヒスイですっ」


 薄緑色の髪の毛をなびかせて、弾むように、歌うように挨拶するおしとやかそうな美人。それがもう一人の協力者、翡翠という名の神様だった。

 雰囲気は確かにマリーゴールドと似たお嬢様タイプ。清楚せいそなワンピーススタイルがよく似合っている。


「ね? とっても清楚で、可愛らしい子でしょう?」

「んー。そだねぇ。一部を除いては」

「……そのおっぱいで清楚はどうなのかしら?」

「まあ。ルナちゃん? ひとの身体的特徴を性格と結びつけるのは、よくないわ? よくないと思うの!」

「いいえ。言わせてもらうわよ? だってあなたたち、自分の体なんて好き勝手に弄れるでしょう? そのおっぱいにしたのには、必ず理由があるわ!」

「!! これは、一本取られてしまったわ翡翠ちゃん!」

「おっきい方が、お得だと思いましたっ!」

「正直でとっても良い神様ねハル?」

「それでいいのか……」


 まあ、そうした女の勘的なものも侮れないのも確かだろう。

 おのれの姿というものは、それを自由に決められる神様にとって目指す方向性がダイレクトに出てもおかしくない。

 キャラ造形が自由にできて当然の昨今、ハルもそうした見た目の部分から敵の心理を読み取ることも稀にある。


 ……いややはり神様の場合人間とはまた事情が違う気もするが、コトが胸の、女の人の体つきの話なので、これ以上ヘタに突っ込みたくはないハルだ。


 翡翠はその服をはちきらんばかりの巨乳以外にも、全体的にむっちりと女性らしい体つきを備えており目のやり場に困るのだった。


「まるで豊穣神ほうじょうしん様のようですね!」

「そんなことを言われたのは、初めてですっ」

「だってあなたー、まったく他人と関わらないじゃないですかー。そりゃ言われる訳ありませんよー。そのおっぱいは誰かに見せつけるためじゃないんですかー」

「いえっ、そのっ、誰にも見せないおっぱいがあっても、いいと思うのですっ」


 照れ照れ、と変な所で恥ずかしがる翡翠であった。

 ……打ち解けたところで、そろそろ話題を変えたいハルである。アレキを逃がしてしまったのが痛い。こうなるならば無理にでも引き止めておけばよかった。


 まあ、そんなことを思っていても仕方がないし、どのみちこの話はしなくてはならない。ハルは半ば無理矢理に、彼女の仕事について切り込むことにしたのであった。


「……ところで翡翠? さっき少しだけ君の力について聞いたんだけど、君の口からそこを、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」

「あっ、はいっ、任せてくださいっ」


 キラキラと輝く瞳が、無邪気にハルを捉える。同時に気合を込めた腕により圧縮され持ち上げられたその巨乳が、意味もなくこちらの瞳に対して主張をしていた。


「ユキ、出来るかしら? アレ?」

「んっ。出来なくもない。ほれ。ルナちーだって、きっと出来ようぞ」

「私は、ダメよ。『無理しちゃってる』感が思い切り出てしまうわ?」

「わたくしには、夢のまた夢なのです……」

「いいえ? アイリちゃんこそ、彼女に対抗できる唯一の希望なのよ? その破壊力は、きっとアレをもしのぐわ?」

「な、なんと……!!」

「みなさんお静かにー、ですよー」


 かしましく騒ぎ立てる女性陣。男のハルよりも夢中になっているようだ。


 そんな少女たちから向けられる胸への視線に、あせあせ、といった感じで困惑しつつも、翡翠は彼女が行うこの地での仕事と、自分の能力について語ってくれるのだった。


「私はですねっ。主にここのお花のお世話と、品種改良。品種の安定化に努めております。はいっ」

「なるほど。とっても綺麗な花畑に仕上がっていると思う。ありがとう翡翠」

「そんなっ、キレイだなんて……」

「あなたの事じゃないですよー。なーに照れてんですかー。殴りますよー?」

「しかしカナリー様! 叩いたとしても……、ぽよぽよに反射されてしまうのでは……!?」

「むー。厄介ですねー」


 なんと答えていいか分からず、顔を赤らめるのみの翡翠であった。

 ……こんなに弄られるのに弱いのなら、なぜその体型にしたのだろうか? まあ、単なる対人経験の不足という線もある。藪蛇やぶへびにならぬようハルはあまり触れないでおくことにする。


「それでー、あなたの研究についてもここで実験してんですかー? この土地に愛着はありませんけどー、一応ハルさんの土地なんでおイタしちゃいけないんですよー?」

「いえっ。それは大丈夫ですっ。実験生物は、こっちには持ってきていませんからっ」

「そうなの?」

「はいっ、ハルさんっ! 許可なく勝手はいたしませんっ」

「それはありがたいけど、それで君の目的にはメリットがあるのかな?」

「ええっ。もちろん。私は『この本来生物が寄り付かぬはずの土地にて強引に育成を進めたら、そこにどんな異常が発現するのか?』をまず観察したいのでっ」

「異常が出る前提なのね……」


 花愛はなめでる清楚なお嬢様かと思いきや、とんだマッドサイエンティストであった。まあ、さもありなんといったところ。なにせ彼女も神様なので。


「もし遺伝子的に何か異常が確認できたら、そこからこの土地の異常についてもっ、何か分かるかも知れませんからっ……!」

「なるほどね」


 博愛ではないとしても、生物を愛する者として、この星の環境をどうにかしたいという気持ちは偽りなく存在するようだ。

 だからこそ直接研究が進まずとも、長い目で見て利益になると、協力を買って出てくれたのだろう。


 そうして他の神様たちも、ハルが中心となることで少しずつでも力を貸してくれるのならば。意外とこの役目も、やりがいのある仕事になるのかも知れない。そうハルは思うのであった。





「ところでむっちりおっぱいさん」

「はいっ、ユキさんっ」

「認めてんじゃーないですよー」

「でもでもっ……、無視しちゃうのも、違うようなっ……」

「結局その実験はさ? どのくらい進んでるの?」

「それは私も知りたいわね。知らなかったわよ? そんなヤバいことをしている神様が居るのは」

「無駄ですよールナさんー。倫理を振りかざして、止まる連中じゃあありませんー。まあー私もですけどー」

「そうですねっ。むしろ人間を相手にしているぶん、カナリーちゃんの方が倫理的にアウトじゃ、あいたぁっ!」

「口答えする悪いおっぱいですねー?」

「おっぱいは口答えしないのです! カナリー様!」


 カナリーにはたかれた巨乳が大きく揺れ動く。凄い迫力である。


 まあそんなことよりも、ハルも彼女の研究については気になった。ここで倫理よりも成果についてを優先してしまうあたり、ハルもまた彼女ら寄りの倫理観をしているのであろう。


「ええとっ。結論からいいますと、人間以外の生物が自然に魔法を使うのは、普通は不可能と思ってもらっていいですっ」

「だろうね」

「でしょうねー」

「そーなんハル君? 知ってたん?」

「いや、だってさ。もしその辺の動物も魔法を使えるのなら、アイリたちの国に生息している生き物もバンバン魔法使って来るはずだろう?」

「言われてみればそうよね?」

「はい。なのでわたくしたち人間の間でも、『魔法を使えるのは人類のみ』と結論づけられております。ただこれは、『人間だけが神に祝福されているから』と、そう続いてしまうのですが……」

「これは私たちが悪い所もありますねー」

「やっぱり宗教はダメよっ」


 まあ、かつてギリギリの所まで追い込まれた異世界の人々を導くには、そうした宗教的な心のり所が必要だった。

 カナリーびいきのハルとしては、そう擁護ようごしたいところだ。


「話を戻そう。その『使えない』理由についても、明らかにはなっているのかな?」

「はいっ。もちろんですっ!」


 相変わらずキラキラと美しい瞳を輝かせて、翡翠は熱く語り出す。物理的な輝き以外にも、熱のこもった輝きを発しているかのようだった。やはり研究者か。


「ハルさんも既に高度な魔法を操る魔法使いであられるからお分かりかとは思いますが、魔法を発動するにはある種の言語能力が必要です。人間以外の生物には、その為の言語機能が欠けており、ゆえにどう頑張っても魔法の習得は不可能と言っていいでしょう」

「ハキハキ喋れるんですねー」

「ふうっ。失礼しました。ついっ」

「プログラムっぽいもんね。魔法の中身ってさ」


 ある程度の知識を有するユキも翡翠の説明に納得する。アイリも感覚で、何となく言いたいことは分かるようだ。


「ならばそこを単純化してやることでどうにかならないかと、私は考え動物でも何とかなりそうな簡単な魔法の開発から実験を繰り返した訳ですが、結果は惨敗。どうやら思った以上に、魔法は『人間専用』に作られてしまっているようなのです。根の深い問題です」

「なるほど?」


《アメジスト。聞いているか?》

《はいもちろん。ハル様の求めとあらばわたくし、25時間350日、いかなるときも、》

《お前まで長い語りはよせ。それよりこの話についてだ》

《あーんっ。扱いが雑……》

《魔法は人間しか使えないっていうこの話、やっぱり原因はあれか?》

《でしょうね。魔力の出どころが人間の意識である以上、そうなっているのも当然かと。それはわたくしのスキルシステムを使ったところで、同じことですわ?》

《ふむ……》


 あのエリクシルネットに関わった者と、アメジストであれば何となく察する部分がある話だ。

 根底から人間専用に組まれた、人間の為だけのツール。それが魔法であり、またエーテルネットでもある。


 ならば翡翠には悪いが、彼女の実験が成功する道はないということか。

 ほっとしたような、残念なような気持ちをハルが抱えていると、そんなものを吹き飛ばす爆弾発言を、彼女はしれっと言い放ったのだった。


「なので私は、もう遺伝子に直接魔法の式を書き込んでやることにしました。そうすれば単一魔法に限った話ではありますが、動植物でも魔法が発動できることを確認したのです! すごいでしょう!」

「ぶっ……」


 ……またずいぶんと、思い切ったことをしたものである。倫理観とか、無いのだろうか?


 彼女はそんな研究の成果物をうきうきと、このガラスのテーブルの上に次々<転移>させ取り出してきたのであった。

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― 新着の感想 ―
逃したアレキは大きかったですかー。とはいえ、神様が身体的特徴をそこまで気にするのかという話もありますし、いたところで神様特有の煽り合いが加速するだけの可能性もあるのでむつかしーところですねー。煽り合い…
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