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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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第1517話 外には外の事情あり

 赤髪の少年神アレキは遠慮なしにガラスの円卓の空席に着くと、並んでいる料理に手を付ける。

 特にとがめる気もないので好きにさせていたハルたちだが、カナリーだけはそそくさと自分の分をしっかり確保していた。食欲というより、いつもの対抗意識だろうか。


「うおおっ、ウマい! 流石はハル兄ちゃんたちだなぁ。こんな人間らしい食事は、久々だよ」

「……何時もは、いったいどんな物を」

「えーっと、なんかこう、オーガニックな?」

「そ、そうか……」

「ふにゃー……」

「塩くらいは振るんですよー?」

「そもそもオレ達あんま食事なんてしないから」


 忘れがちだが、神様は物を食べる必要がない。人間並みに、いや人間以上に食事をとっているハルの周囲の神様たちを見ていると感覚が狂ってきそうだが、考えてみれば当たり前のこと。


 特に、人類の生活圏の外で過ごす彼らにとっては不要、というより縁のないものだろう。


 そう、これも忘れがちだが、彼らはカナリーたちのように、人類、特に異世界人に友好的とは限らない。

 カナリーたちのゲームに参加していない『外の』神様には、異世界人を敵視する勢力もいるのだ、ということはここでは常に意識をしておいた方が良い事だろう。


「それでー? なーんで急に協力する気になったんですかー? 私が誘った時は、やる気なかったじゃないですかー」

「へーんだ。オレが協力してるのはハル兄ちゃんであって、お前じゃないよカナリー。というかオレが、異世界人の為に働く訳なんかないっての」

「うっ……!」

「あーっ! 泣かしましたー! アイリちゃん泣かしましたねー! いけないんですよー? ハルさんの大事なアイリちゃん泣かしちゃー」

「あっ、ごっ、ごめんよ? 別に君たちのことが嫌いとかそういうんじゃなくてだね。そう! 悪いのはかつてのこの地の住人だけさ!」

「こんどはそうやって目の前でヒトのご先祖様の悪口を言うんですねー!」

「……カナリー。その辺にしときなさい」

「はーい」

「くっそー……、やりづらいなぁー……」

「……わたくし、泣いていないのですが!」


 口喧嘩くちげんか百戦錬磨ひゃくせんれんまのカナリー相手ではが悪かったか。それとも外に居て会話慣れしていないのか。

 ともかく、カナリーの誘導にてそこまで敵対している相手ではないことはハルにも分かった。


 まあ、とはいえまだ油断は出来ないが。アイリだけならともかく、この先異世界の人々がもっと大量に関わるとなれば、彼の許容度を超えてしまう可能性だって十分にある。


「……オレだってそろそろ、この呪われた土地をなんとかしないとって思ってたんだよ。そんな時に人手が要るってんで、じゃあちょうどいいかなーってさ。メタと同じさ」

「ふなんな……」

「えっ、違うのかメタ?」

「ふにゃっふっふ……」

「メタは兄ちゃんの味方だから協力した? くっそー、群れない猫を気取ってたくせにー」

「メタちゃんとは一緒に何かしてたの?」

「ふみゃみゃ。うみゃーごっ」

「そうそう。主にこの星の環境改善。メタが地表だとすると、オレは空中担当ってとこかな」

「なるほど。それで気候変動の能力を」

「そうそ」


 なるほど、狂ってしまったこの星の環境が、なんとか正常に保てているのは彼の努力のおかげでもあるという訳か。

 それは間接的に、アイリたちのためにもなっているはずだ。彼には不本意かも知れないが、ハルはそのことについて感謝の念を送ろうと思う。


 彼の言う『メタが地表担当』というのは、あの工場プラントにて汚れた星の土壌を改善し、豊かな土を作り出して排出していることを指すのだろう。


「その力をゲーム内で生かさないかって誘ったんですけどねー」

「オレは、あんな狭いいち地域で終わる男じゃないのさ」

「こんなちっこいのに、何言ってますかねー」

「背丈は関係カンケーねーだろ!」


 まあ確かに、この気候を操る能力があれば人間の暮らしやすい自然な四季の表現も、もっと楽に出来ていただろう。

 惜しいは惜しいが、それでも不和の種を招き入れるよりはマシともいえた。仕方がないことだ。


「ココがどーにかなるなら、オレも今みてーにチマチマやる必要もなくなる。だからまあ、頼まれたんなら参加してやってもいいかな、って感じ。感謝してくれよな!」

「んー。でもさアレッキー。そんなら最初からさっさと、全力でこのクレーターやっつけちゃえば良かったんじゃないん?」

「うっ……」

「確か、土地の利権がどうこうだったわね? この誰にとっても重要な地を占拠してしまうと、他の神から目をつけられることになる。だから牽制けんせいしあって、誰も手を出さない。人間みたいねぇ」

「ううっ……!」


 ユキもルナも容赦がない。とはいえその通りではある。

 全員で協力し元凶である重力異常に対処していれば、もしかすると今ごろこの星はかつての正常な姿を取り戻していたのかも知れない。

 まあ、そんな仮定の話をしたって仕方のないことなのだが。


 そんな中、ハルが勝手に領有権を主張することである意味この問題は丸く収まったという訳だ。『ハルなら適任か』といった感じに、神々は皆納得してくれた。

 そしてそのハルに協力するという名目で、今まで手出し出来なかったこの地に少しずつ協力者が集まって来ているという事なのだろう。


「……まあ、そうした派閥争いとはまた別で、君たちには何か感じるものがあったんだろう? この地に不吉なものをさ」

「うん。オレらがそんなコト言い出すのは、兄ちゃんたちには馬鹿みてーだと思われるかも知れないけどさ。なんかビンビン来るんだよね。『ここはヤバい』ってさ」

「でしたねー」

「今でも感じるわ! 感じるの! だから申し訳ないけれど、このお庭のお手入れは、常に付きっ切りという訳にはいっていないの」

「最大限には、努力させていただいております」

「無理するなよアルベルトも。君たちが理屈抜きで『不吉』と感じるからこそむしろ、その直感は大事にした方が良い」


 論理と効率を重んじる元AIの神様たちが、そんなものを放り出してまで『ヤバい』と断じるならばそれは必ず何かある。

 最近はかなり魔法に精通してきたと自負するハルではあるが、この魔法の世界は、どうやらまだまだ知らないことで一杯らしい。


「んじゃっ。挨拶も済んだし、オレはちょっくら辺りの様子よーす見てくる! 言った通り、あーんま長居したくねーしなぁ」

「ああ、悪いね。頼んだよアレキ」

「あいよっ! なんか話があったら別んトコでしよーぜハル兄ちゃん! じゃなっ!」


 話もそこそこに、アレキはこの地での実験の様子を観察するために飛んで行ってしまった。実際、長居はしたくないのだろう。

 ハルには何がそこまで不吉に感じるのか、未だによく分かってはいない。


 恐らくだが、この花を育てる仕事は彼の趣味ではあるまい。アレキは、自分の能力行使がこの地でどう影響しているか、そのデータを取っているものと見た。


 これが花畑ではなく、もっと多岐たきに富んだ内容の仕事であれば他の神様の興味もひけるのだろうか? そんなことを考えるハルなのだった。





 アレキが席を立ち、ハルたちはまたのんびりとした昼食会を再開する。

 とはいえさっきの話を聞いた後だ。人間以外のメンバーには、この場にのんびりと留まるのは危険なのかも知れない。


「君たち、平気なのかな?」

「はっ! 問題ありません! 私は『分割数』が多いからか、他の者より影響度は低いものと思われます。メタもそうですね?」

「くし♪ くし♪」

「まあ、リラックスして毛づくろいしてるし、大丈夫ってことだろう……」

「私も別に、一日二日程度でどうこう言ったりはしないわ! 平気なの! あの子は、そうねぇ。どちらかというと、ハル様の前で緊張したんじゃないかしら?」

「へえ。見かけによらずシャイなのね?」

「あんな怖いもの知らずみたいな態度してねぇ」

「別に威圧はしていないんだが……」

「ハルさんは神々にとって特別なので、仕方ないのです! お気を落とさず!」


 まあ、神様たちも色々あるだろう。それに、完全にハルの味方になった訳でもない。

 ハルが彼らを警戒するように、彼らもまたハルを警戒して当然。むしろ、そちらの警戒度合の方が強いかも知れない。


 何しろハルは、今は触れただけで彼らを強制的に支配下に置ける。アメジストのような特殊事例でもなければ、その力は絶対だ。


「もう一人のひとも、僕を警戒して?」

「いいえ、違うわ? きっと違うの。あの子はただ、のんびり屋さんなだけよきっと。彼女は私の、大のお友達なのよ」

「ああ、そりゃ確かに納得」

「もう! ユキちゃん! なんでそこで納得するのよぉ」

「その人は、なにを担当しているのかしらマリーゴールド?」

「ええ、ええ、それはね? この星の動植物の、品種改良よ? この異常な環境下でも絶滅しない、強いいきものを作り出すって、そう言っていたわ?」

「なるほど。重要で難しそうな仕事だね。そして不安でもある……」

「それは、マゼンタ様の“いでんし”の研究所と、関係があるのでしょうか!」

「そうね。賢いわアイリちゃん! あの『生態研究所』が『外』にあるのは、彼女のような神とも連携するためでもあるわ!」


 この星で絶滅した動植物の再生、また、地球のそれを間接的に『輸入』するために稼働しているマゼンタの『生体研究所』。

 も一人の女性は、そこの協力者でもあるらしい。関係性の高さゆえ、今回の連携も取りやすかったということか。


 ハルがそうして安心していると、次の瞬間にはマリーゴールドは全く安心できない一言を言い放った。


「彼女は新種の、特に魔法を使えるような生物の開発に熱心なの!」

「ぶっ……! おいおい……、大丈夫か、それは……」


 今のところ、ゲーム内の『魔物』を除いて魔法を使う動植物は存在しない。しかもあれは、ただのプログラムされた魔力体のモンスターなので完全に安心だ。


 しかしその神様は、人間と同様に魔法を操る人間以外の生物を研究中らしい。

 さて、果たしてその不安しかない研究に打ち込む神様とは、どんな人物なのであろうか?

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
普段はオーガ肉なるものを食べているとは……さすがは異世界、食料すらおっかねーですねー。誰もそんなものは食べていない? はてー? はい。たぶん天然記念物でも食べているだけで、よもや決してが捕食された結果…
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