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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部1章 アレキ編

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1507/1798

第1507話 恋と料理は先手必勝

 多忙につき本日少々短めです。ご容赦くださいー。

 イベントが正式にスタートし、プレイヤーたちはまずはそれぞれ、自分が望む食材を求めて走り出した。


 調理スペースが併設された中央の島にはチョコレートをはじめ基本的なお菓子作りの素材が並び、仕様的には女性陣、いや『すいーと勢力』が若干じゃっかん有利といった状況にはなっているようだった。


《くそっ、こんなの出来レースじゃねーか》

《珍味ほど遠いよぉ》

《落ち着け》

《購買部の品は大勢に影響しないよー》

《結局はみんな高級品集めに走ることになる》

《別に嫉妬部もそっち使って構わないんだぞ》

《普通に甘い菓子作ってもポイントにはなる》

《そうなの!?》

《ただ審査台に上ることはないけどな》


 そう、別に、『しっと勢力』だからと不味い物、変な物を作らなければいけない決まりはない。

 作ったお菓子は選択した勢力に対応したポイントとして加算され、基本的に何を作ろうともポイントレースを争うための基本的な素点そてんとなるのだ。


 ただし、普通の美味しいお菓子を作っていては、ハルたちの居る審査員席にそれが届けられることは決してない。

 そちらは相手を喜ばせたいと願う、『すいーと』に所属していなければ基本的に却下され、その際にのみ得られる特別ポイントにも繋がらない。


 なので一応そういう意味では、『しっと』側が不利といえば不利かも知れなかった。


《なーんだ。変わり種作らないでいいのか》

《じゃあ普通に料理するかなぁ》

《それならレシピもアシストもあるしな》


 そういった事情もあって、とりあえず刃向かってはみた男性プレイヤーも多くは近場で手に入る食材だけ抱えて、とりあえずの料理に移る。

 食材の奪い合いに参加せずともイベントを楽しむことは出来るように、中央の会場周辺にはお店の形をした採取ポイントがいくつも設けられていた。

 そこで一般的な小麦粉や砂糖、チョコやバターを大量に抱え込んで、料理人たちはさっそく調理へと取り掛かることも出来るのだ。


《……何やってんだ俺ら》

《どうして普通のお菓子作りを……》

《クックック。おいしくなーれ、おいしくなーれ》

《これじゃあ俺、光堕ちしちゃうよ!》

《ああー、心が乙女になるぅー》

《これが完成したら、ハルさんにプレゼントするんだ》

《俺はソロモンちゃん!》


「えっ、嫌だ……」

「死ね」

「《勢力の変更はいつでも受け付けておりますぅ》」

「その場合って報酬はどうなるの?」

「《多く稼いだ方のもので判定されます。最終的な所属は関係ございませんのでご注意をば》」

「なるほど」

「コウモリ野郎は許さないということだな」

「じゃあソロモン君不利だね」

「…………」


 かつては裏切りを繰り返し、所属を次々と変えていたソロモンだった。


 そんな、乙女の心に目覚めた嫉妬しっとの民をいくばくか排出しつつも、今のところは平和に調理はスタートする。

 審査員席から見渡しても、妙な物が生み出されている気配はなし。

 当然か。周囲の購買部では、お菓子作りの基本的な材料しか採取できない。あまり変な物が生み出される余地はなかった。このまま平和にことが進めばいいのだが。


「しかし、腕の良さそうな奴もずいぶんと基本素材だけでスタートダッシュを決めているように見える」

「ちょっと見ただけで分かるのかい?」

「手さばきが違うだろ」

「《そうですなぁ。いかにこのゲーム、調理の際にアシストがきくとはいえ、それらを総合して扱う本人の総合力、普通のゲームでいえば技と技の間の『体捌たいさばき』のようなものまではアシストされませんー》」

「その料理人として経験値が分かりやすく出るってことか」

「《そんな熟練の彼らが安い食材で調理を始めるのは、単純に、その他のゲーム部分が苦手な方も居ますからなぁ》」


《いやその通りで、お恥ずかしい》

《普段あまりこういったゲームなどやりませんから》

《もっとゲーム要素なしでもよかった》

《シミュレーターみたいな? 売れんだろそんなんじゃ》

《この味覚データベースさえあれば何だって売れた》


「《はいはい。言いたいことは多いとは思いますが、ウチのゲームの方針は変わることはございません。ただ、そんなアクションが苦手なみなさまでも、やりようはある、そうした調整にもなっておりますぅ》」


 彼らはただおのが腕のみを信じて、『弘法こうぼう筆を選ばず』とばかりに安物で至上の一品を作ろうとしている訳ではない。

 あくまで高級食材を狙う上での、これは下準備という訳だ。彼らは食材を諦めてはいない。


「《このゲームは、食材のトレード機能も存在していますぅ。それは別に、加工品であっても、あるいは完成品であっても変わりません~~》」

「だからこうして加工に手間のかかる材料をあらかじめ仕立てておいたり、いっそ完成品のお菓子を仕上げてしまったりする訳だ」


 それらアイテムと、帰ってきたプレイヤーが仕入れた高級食材を交換する。または加工の代行を行うことで、分け前をもらう。

 そうして自身の料理の腕を、苦手な冒険の力に間接的に変換しているのであった。


「《わらしべ長者のようなもんですなぁ》」

「ソロモン君の苦手そうなスキルだね」

「チッ、黙れ」


 彼はソロ専門プレイヤーであった。協力機能の活用に、多少難あり。


 そんな料理専門プレイヤーたちが様々な下ごしらえを進める間に、各地へ冒険にくり出すプレイヤーも順調に採取を進めている。

 ハルたちの視点もまた、そちらの方へと集中フォーカスされて行くのであった。





「《ったあ! たあ! てーいっ!》」


 ミルクの川を飛び越え、滑るバターの足場を器用にび、洞窟の天井から垂れ下がる溶けたチーズのロープを掴んで大ジャンプするのは、ハルもよく知る姿。

 アイリの遊ぶこのゲーム用のアカウント。そのキャラクターが、元気に軽快に『チーズ島』を駆け回っているようだった。


「《この方が一番乗りのようですなぁ。彼女は冒険の実力も、おりょーりの腕も一流の方なんですわぁ》」

「へぇ。そうなんだ」


 素知そしらぬ顔で、ハルもカゲツもアイリを見守る。

 どうやらアイリは普段からそこそこログインしこのゲームにも参加しているようで、プレイヤーレベルもきちんと上がっている。

 その有利と、持ち前のゲーマーとしての腕前もあって、現在チーズ島ではトップの位置で採取レースの先頭を走っているようだ。


 目指すは島にそびえる火山の頂上。そこにあるという幻のチーズを求め、彼女はライバルたちと争いつつトラップだらけの道をひた走る。


「《ちっちゃな子が頑張る姿はいいものですなぁ。……おや? どーされましたん?》」

「ああ、いや、うん。ちょっとこの島、もう少しどうにかならなかったのかなあ、って。ねえソロモン君?」

「……オレに振らないでくれ」


《その、まあね?》

《山の形がね?》

《火山ってのもね?》

《私はミルクまみれになるのもえっちだと思う》

《ちょっと女子ぃ~~》

《露骨ですわぞ!》


「《ミルク火山がどーかしましたぁ? 動物のおちちの形状をイメージしたのですがぁ》」

「それが悪いんだよ! ……はあ。次回は変更ね。僕の権限で」

「《そんなぁー》」


 ハルの主催者権限による強行に、安堵あんどの声と一部ブーイングが混ざる。意外と、女性の中に気に入っていた者が多かったらしいのはハルには意外だった。

 ハルだけが気にしすぎなのだろうか? 実は、ハルに対するセクハラでデザインされたトラップではなかろうか? いや、考えすぎというものだろうそれは。


 そんな火山の頂上へとアイリはついに辿り着き、火口から最高級チーズアイテムを拾い上げる。

 どうやら、チーズを使ったお菓子をアイリは作ってくれるつもりのようだ。


 彼女は山を滑り降りるようにして一気に下山すると、高級チーズを抱えて一目散に中央会場に戻る。

 そこで先ほど話に出た交換機能も活用し、彼女は手早く必要素材を集めはじめた。


「《おやおやおやおやぁ。せっかく最高級のチーズを手に入れられたのに、他はそこまでこだわらないようですなぁ》」

「材料から見ると、チーズケーキにしてくれるのかな?」

「《少々、もったいないですなぁ。もう少し時間をかければ、果物島から帰ってきた方と、最高級の果実のトレードも出来たでしょうに》」


 アイリはアクションが苦手な料理人たちが用意してくれていた材料と、自身の採ってきた素材たちを次々と交換していく。

 しかしそれは熟練の手で生み出されたとはいえ、安物を使ったいわば下級素材。

 最高級チーズと比べれば、どうしても見劣りしてしまう。普通は、他の素材もそれなりにこだわるのが基本戦略となっていた。


「《恋もおりょーりも、先手必勝……、なのです……! わたくしが真っ先に、ハルさんにお菓子をお届けです! それに、会場のみなさまも、わたくしたちのお菓子をお腹を空かせて待ち望んでいるのです!》」

「なるほど。ファーストアタックボーナス狙いという訳か」

「あるのか……? そんなもの……」

「《システム的にはないですなぁ》」


 しかし、結局は食べるのは人。そうした最初の印象に、どうしても左右されるのも間違いない。


 さて、アイリのそんな健気な想いは、ハルや観客たちに果たしてきちんと届くのだろうか?

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ゲーム機本体を買っても、一緒に遊べる友達は別売りという奴ですねー。支はrーーー慣れ合いを拒否し、接待モードのCPUに満足できなくなると、いよいよ死に覚えゲーに手を出し始め、行き着く先はドゥエリストです…
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