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第15話 即決する人々

──思い返してみれば、スキルレベルの上がり方は一定じゃなかった。スキルの種類による差かと思ったが、さっきの事を踏んで考えると当てはまる事がある。

 魔力を引き寄せるイメージをした時の<MP回復>、新しい事を試した時の<透視>や<幸運>。最初だから上がりやすいのだろう、と流していた事にも思い当たるものがある。

──でも<幸運>は違うかな? あれは数による力技だったかも。

 だが、ルナの実験に付き合った<火魔法>は上がらなかった。実験結果の確認だけでは理解に含まれないのだろうか。

 そんな事を考えていると原因となったユキから声がかかった。


「ハル君も話に入りなよ」

「今ちょっと考え事をしてて」

「ハルは考えながらでもお話できるでしょう?」


 おっしゃるとおりだった。

 女の子三人の話にはなんとなく入りづらいのだが、そうも言っていられないのだろう。これから一緒に活動するパーティメンバーだ。


「何の話だったっけ」

「ハル。あなたが聞こえていない訳ないでしょう」

「ハル君、地獄耳だもんね」


 当然聞こえてはいた。聖徳太子の、十人の話を一気に聞いた逸話の再現も可能なハルだ。

 ただ、今はルナの見てきた首都の話をしており、それに絡めた華やかなお店の話題なども織り込まれて来るので、少し入りにくい。


「首都で流行している服の話よ」

「あ、僕、隅の方でウィンドウ見てるんで」

「首都の流通の話なのです!」


 とぼけているとルナから精神魔法、『男子のすごく入り難い話』が飛んでくる。流石、ハルの扱い方をよく分かっていた。

 これは別に嫌がらせという訳ではなく、これによって逆にハルがすんなり話に入っていける土壌が出来たといえる。

 ルナ流の気遣いであった。もちろん、彼女の趣味も含んでいるのだが。

 それを察したアイリからもフォローが入る。すごく癒された。





 今はもう夕方を過ぎ、ルナもメイドさんと共に帰宅してきていた。

 どうやら乗り捨てられていた船を発見し、カナリーの話の裏が取れたようだ。

 そのまま足取りを追う事も出来たが、それは危険だということで、ルナがメイドさんに首都を案内してもらっていたようだ。

 賢明な判断だとハルも思う。相手の出方を待てばいい。

 どうやらそれとなく、メイドさんが相手の潜伏していそうな場所の目星はつけてきたようだ。王子であれば変な場所には居られないので場所は絞られる、ということだろう。


 ハルはあまりリスクを取らない。

 勝てる試合しかしていないのではないか、と言われると返す言葉が無いが、“負けない事の積み重ね”は重要だ。

──これでもし行ったのがユキだったら、メイドさんを残して一人で調査したのかもね。

 ユキは逆に“勝てる時にリードの積み重ね”で一気に勝負を付ける事を得意としている。


「アイリちゃんは街にはよく行ったりするのかな?」


 そのユキが気軽な雰囲気でアイリに聞く。

 三人は打ち解けるのは早かった。まあ、そのせいでハルの出番が無かったとも言えるのであるが。

 ルナとユキは以前も何度か顔を合わす事はあった。こうしてゆっくり話す事は無かったかも知れないが、多少なりとも地盤が出来ているとやりやすかろう。

 アイリに関しては言わずもがな。その人懐っこさですぐ懐に入り込める。


「わたくしは最近、こちらにこもりきりなので。でも生まれた街ですからそれなりに詳しいのですよ!」

「いつかアイリと一緒に行ってみたいね」

「楽しそうね」

「はい!」


 王女様である以上、気軽に出歩くのは難しいのかも知れない。

 だが今はそんな幸せな未来予想図に思いをはせた。悲観していても仕方ない。


「ハル君、街に興味とかあるの? システムしか興味ないと思ってた」

「失礼なこと言う子だな君は。戦闘にしか興味なさそうな顔して」

「あはは、ひどーい。でも間違ってない」


 ユキの方も、的を射ているので困る。

 別に興味が無いこともないのだが、ハルの好んでやるゲームの性質上どうしてもシステムの理解が優先で、街や世界観の作り込みを見ることは二の次になる傾向はあった。


「ハルは街に行きたいんじゃなくて、アイリちゃんとお出かけしたいのよね?」

「……その通りだね。流石ルナ」

「嬉しいです!」

「ハル君、ルナちーの時だけ素直すぎない?」

「ルナの攻撃には、逃げ場が無いんだ」


 挟撃を受けた弱小ユニットの末路など、ひとつなのだ。


「そういえば経済について何か気になる事はあった?」

「そうね、商品の産地には自国含めた四国の他にも種類があるようだったわ。六国か、七国くらいかしら」

「はい。直接接してはいないのですが、主に東を経由して入って来ているのです」

「なになに? 硬い話?」

「未開放マップがまだあるって話」


 公式紹介には、現在はスタート地点のこの国を含めた四つの国しか紹介されていなかった。

 ルナの話によればその外にも国があり、流通はそこまで伸びているようである。


「東は確か商業が盛んなんだったね。その他の国との取引はそっちが中心になってるって事か」

「ええ、我が国はあまり外に出るのが得意ではありませんので、どうしても」


 他の国と貿易するためには、どうしても強国のどれかの領土を通らなければならないのだ。

 それに神によって封じ込められていたとも言える。仕方ない部分もあるだろう。


「そういえば今はこの国の中しか飛べないんだよね。他の三つの国には行けないのかな。ハル君、何か知ってる?」

「他の国にも神殿はあるみたいで、攻略の進行に合わせて解禁されていくんだって」

「ふーん。なんだか神が使徒ユニット送り込んで地図を塗り広げて行ってるみたいだね」

「それは僕も少し思ったよ」


 だとすればそれは、神を主人公に据えた戦略シミュレーションという事になるのだろうか?





 しばらく話して、ルナがログアウトしていった。アイリは寂しそうにしていたが仕方ない。

 少しずつリアルとずれていく時間差があり、こちらの時間よりも更にリアルは夜がけている。ずれのサイクルが半周ほど回れば、アイリとルナはほとんど会えなくなるのかも知れない。


「でもハルさんはずっと一緒に居てくれるのに、贅沢を言ってはいけませんね」

「えっ、ハル君ずっと寝ないの? バケモンでは」

「同じポッドユーザーがなに言ってんのさ」

「私も流石にずっとは無理かなぁ」


 とは言いつつ、ユキにログアウトする様子は無い。

 そもそもユキは、ハルと一緒に『30時間耐久素振り』をこなした仲だ。取り繕っても今更であった。

 “色々試した所、素振りをし続けるのが最高効率”という馬鹿みたいな設定になっていたゲームがあり。悪乗りした二人は実際に素振りだけでレベルを上限まで上げてしまったのだった。

 無事、そのゲームはサービス終了した。

──あれに関しては最初から終わりしか見えてなかったから仕方ない。


「せっかくベッド三つあるのに誰も使わないの申し訳ないね」

「これ、実はユキが来るまで二つだったんだよ」

「馬鹿な……」


 メイドさんには頭が下がる思いだ。


「私も手伝えばよかった。というか自分の分は自分で運べばよかった」

「大切なお客様のためです、メイド達は苦にしません。そのお気持ちだけで十分ですよ」

「いやいや、後でお礼言わなきゃねー」

「運ぶってどうやってさ。肩に担いで持ってくるの?」

「うん」

「うん、ではない」


 なんとも豪快な事だ。

 他のゲームなら、ベッドを倉庫インベントリに収納して部屋で出す、ということも出来るかもしれないがここでは容量が足りなさそうだ。


「ユキさんとハルさんはとっても仲良しなんですね!」

「ハル君とはそれなりに長いしねー。それを言うならアイリちゃんだって仲良しさんじゃん、会ったばかりでしょ?」

「わ、わたくし、仲良しさんなのでしょうか……!?」

「仲良しだよ」

「嬉しいでしゅうぅ……」

「落ちてる……。ハル君なにしたの?」


 アイリであるが、当然のように今日も客室に居た。

 もう目的は済んだのだから、今日は単に一緒に居たいだけだろう。今日はユキも居るし、もはや何も言うまい。

 アイリの言うとおり、ユキに対する対応は、ハルにしては珍しくかなり気安いものだと言える。

 しかし何か特別な事があったという訳でもなく、何十時間も作業の傍ら雑談に興じていれば嫌でも気安くなるというだけだった。

──ユキがいたからあの苦行にも耐えられたと言うべきか、ユキが居たからあの苦行をやるハメになったと言うべきなのか。


「さて、どうしよっかな。ハル君は夜中なにして過ごしてんの?」

「スキル上げ」

「えっ、……もしかして全く戦闘しないで今のレベルまで上げたの?」

「そうだよ。そして君もこれからそれをやるのだ」

「嫌だよっ! ……じゃ、私は敵を殴りに旅に出るから」

「逃がさん」


 どうやら今回は付き合ってはくれないようだった。彼女もあの苦行を思い出したのだろうか。

 体を動かしている方が性にあっている彼女の事だ、仕方ないとも言える。戦闘出来るなら戦闘してレベルを上げたほうがいいだろう。

 そうして別の視点で動いてくれる事で、見えてくる物もありそうだ。


「逃げるってば。じゃ、アイリちゃんまたね、おやすみー」

「おやすみなさいませ!」


 そうして足早にログアウトしていった。いや、神殿に戻ってそこで依頼を受けるのだろうか。

 ルナとは違い、ころころと表情の変わるユキではあるが、決断の早さは似通っているように思える。優柔不断なところのあるハルにはそれが少し眩しい。


「あわただしい奴め……」

「とても活発な方ですね!」

「そうだね、僕もその勢いによく引っ張っていってもらってるよ」

「羨ましいですー」

「そうだね。僕も、たまに羨ましく思うことがあるかな」


 少しだけズレた会話。

 だがお互いに、お互いの言いたい事は察しているので訂正はしない。ただ笑い合った。


 しかしそうして会話が止まり、心地よい沈黙が訪れると、今度は何をしていいか分からなくなってくる。また二人きりになってしまった。


「さて、どうしよう」

「……?」


 きょとん、とされてしまった。かわいい。

 かわいい、が、何でもかんでも言葉無しに通じ合えるという訳にはいかないようだ。少しがっくりするハル。


「みなさん行ってしまいましたね」

「そうだね。明日、何か動きがあるかも知れない。今日はもう寝ようか」

「はい! そうですね!」


 灯りを消すと、アイリはもそもそとベッドに入って行った。

 これから寝るとは思えない元気の良さだが大丈夫なのだろうか。


「おやすみなさい、ハルさん」

「おやすみアイリ」


 そうしてすぐに寝息が聞こえてくる。

 大丈夫なようだった。





 そして翌朝。ついに、いや早くも、と言うべきか。相手に動きがあったようだ。

 メイドさん達の動きが今までで一番慌しくなった。

 厳戒態勢げんかいたいせい、と言っていい。今まで余裕を絶やさずにお世話をしてくれた彼女達から、ピリピリした気配が伝わって来るようだった。

 だというのに、ハル達と出会うと余裕を持った態度を取り戻し、柔らかな微笑みを向けてくれる。プロフェッショナル、であった。


 結界に侵入者の反応があったようだ。今回は神殿からではない、外部からの進入。

 開かれた土地であるとはいえ、神域であり、王女の領地。不可侵であるということは、子供でも知っているとの事だ。


 結界は交代制ローテーションで数人のメイドさんが受け持っている。

 大本の装置のような魔法があり、それにアクセスして情報を得るらしい。アイリも接続は出来るようだが、消耗を避けるため普段は繋がない、とのこと。


「侵入者は少数ではありますが、隊列を組んでいるようです。王子本人が居るかも知れませんね」

「だとすれば随分アグレッシブな王子だね。ユキを呼び戻すか」

「もう居るよ」

「……いつの間に」

「ハル君のパーティに入ってると、ここに直接転移できるみたい」


 時刻は朝食を終え、十時くらいになるだろうか。皆のんびりとし始めた頃に、結界センサーが反応を捕らえた。

 ルナが呼び出してくれたのか、ユキも揃い警戒にあたる。


「ハルは昨夜なにか準備はしていて?」

「万全だ。クライアントに刀の納品をしていた」

「そして売れなかったのね」

「ご明察。流石はルナだ」


 やはり、極限まで薄くした刀は高くなりすぎて売れなかった。

 しばらく売れない、というレベルではない。今のペースでは何ヶ月、いや一年はかかろうかという金額になってしまった。

 それでも諦めきれない様子の彼女が、無茶をして体を壊さないといいのだが。


「ハル君それ私が使える?」

「え、使えるけど。相手の体が砕け散る感覚を直接味わえなくていいの?」

「ハル君は私を何だと思っているのか」


 ちなみにユキが以前、実際に口に出して言ったセリフである。物騒である。

 もちろん冗談なのだろうが。


「さんきゅ。あ、<魔剣>ツリー開いた」

「もはや何も言うまい」


 軽く素振りしただけでこれである。何が違うのか。

 ハルも夜中に色々と試してはみたが新しいスキルが開眼かいげんする事はなかった。代わりに<MP回復>を中心とした既存のスキルはまた伸びたが。


「しかし王子まで即断即決して来なくてもいいのに」


 自分の周りには決断が早い人が多い、と思っていた矢先にこれだった。

 味方ならまだいいが、敵では困る。準備期間を与えて欲しい。


「ハル君を相手取るならいい判断だね」

「そうなのですか?」

「うん。ハル君は準備が出来ないとイライラする」

「そこの戦闘狂、アイリに変な事教えないように」


 事実なので訂正は出来ない。


「名付けて即決王子ね」

「あはは、コスト低いけど微妙に使い道が無さそう」

「国の重要な決定でミスしそうですね!」

「……会った事も無いのにディスられる王子に合掌」


 女の子達の容赦の無さに、少し王子に同情するハルだった。

 使い道が無いと見せかけて、きっと制限プレイなどで活躍してくれるはずだ。





「向かう先はどうやら、カナリー様の神殿のようです」

「まあそう来るよね。鍵を手に入れたんだ、使いたくなる」


 このまま手をこまねいて見ている訳にはいかない。誰かが神殿に向かうべきだ。問題は誰が行くかということになる。


「ハル、何か考えがあるなら伝えておきなさい」

「僕が行って、二人にはここを守ってもらう」

「まあそうなるよね。私は殴って解決出来ない事は苦手だし」


 ……実は、殴って解決する方法はあるかも知れないとハルは考えているが、ユキにそれを伝えるのは避けた。

 問答無用で殴って解決してしまいそうである。


「とりあえず確認しようか。<神託>」

「はいはーい、ハルさんこんにちはー」

「カナリーちゃんこんにちは。用件は分かる?」

「鍵の事ですね。私の神殿の近くにありますよー」


 話が早くて結構な事だ。神殿の中に入ろうとしてるのは確実だろう。

 もう少しこの屋敷で平和に過ごしていたかったハルだが、こうなったら腹を決めねばなるまい。


「ここから直接神殿に飛べる?」

「本来はログインスペースを経由するんですが、変わらないのでこちらで飛ばしますよー。すぐやりますかー?」

「ちょっと待ってね」


 融通の利くことだ。結果が同じだから手順を省略すると言う。運営の言うこととは思えない。

 このあたりでも、面倒くさがりな神の性質が出ているのだろうか。


「じゃあ、急でなんだけどちょっと行ってくるね」

「ハルさん! どうかお気をつけて!」

「アイリもね。何かあったらすぐ知らせて」

「はい!」

「そろそろ転送しますよー」


 そうしてカナリーに焦らされるままに、ハルは神殿へと転送されていった。

 ついに初顔合わせだ。

──ここまで意気込んで王子居なかったらどんな顔すればいいんだろう。


 その時はその時である。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2022/6/24)


 追加で修正を行いました。報告ありがとうございます。(2023/3/10)

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