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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部終章 信仰から生まれるもの

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1495/1795

第1495話 運営からのお詫びの品です

 どうしても上手く進められず、今日は短めです。展開も佳境の中、申し訳ありません!

 ルナのアイテム欄が唐突に輝きだし、まるでチュートリアルの押下タップ誘導のように視線を誘導する。

 ルナが吸い寄せられるようにメニュー操作を行うと、その中には、今あるはずのないアイテムが一つだけ、ぽつりと表示されていたのであった。


「……なにかしら、これ?」


 見覚えのないアイテムに、ルナはおっかなびっくりといった様子でメニューをハルへと見せてくる。

 普段はハルたちを引っ張っていく凛々(りり)しい彼女の可愛い一面に見惚みほれそうになるが、その誘惑を振り切ってハルもアイテム欄の中を覗き込んだ。


「これは、あれかな? メインのラストバトルで、『マップ外エリア』に落ちていた物をルナが回収したやつ」

「あー、あったねぇ。結局、使わずにクリアできちゃったから忘れてたやつ!」

「ばたばたしていて使う暇がなかったのです!」


 ハルの言葉で、ユキもアイリもその存在を思い出したようだ。

 そのアイテム名は『悠久ゆうきゅう夢幻回路むげんかいろ』。情報屋たち帝国プレイヤーの話によると、マップ外エリアの奥に進むと、たまにこうした特殊なアイテムが落ちているらしい。

 ハルたちを苦しめたスキル封印のアイテムもまた、そうしたマップ外からの採掘品という話であった。


「エリクシル! ここにきて、わたくしの邪魔をする気ですか……!」


 その特殊アイテムの存在に驚いたのは、ハルたちだけではなかった。

 余裕の笑みでハルたちの周囲に浮かんでいたアメジストも、その表情を険しくしてこの世界のあるじであるエリクシルへといきどおる。


 実際これを行った犯人はエリクシル以外にいないだろう。運営である彼女がその気になれば、クリアと共に消えたアイテムの再配置も可能なはずだ。


「まー、そりゃ邪魔もするでしょーねー」

「クシるんとしても、ジスちゃんの世界樹は邪魔ものだもんねぇ」

「ならば直接出て来なさい! わたくしとハル様の、神聖な戦いに割って入って来るんじゃありません!」

「そこなの? あと神聖でもなんでもないと思う。というか協力するならもっと全力でやってくれないかなあ」

「アイテム全復活や、マップの再生成もしてほしいわね?」


 そもそも世界樹の排除を依頼したのはエリクシルだ、ハルたちへの協力も自然なこと。いやもっと手厚くてもいいくらいである。最大限サポートするべきなのである。


「どんな能力なん?」

「私が見ます!」


 今も龍脈に直接身を浸して<天眼>を使用中のイシスが、それを<鑑定>するためにルナから受け取る。

 すると狙った訳ではないが、イシスの居る龍脈部分と接触したアイテムが、輝き起動をしはじめた。


「わわっ……!」

「イシすん平気ー!?」

「は、はいっ、ちょっとびっくりしただけで。どうやら、龍脈に接触することが発動条件だったみたいですね」

「つまりあのスキル封印機とおんなじか」


 龍脈にワイヤーを突き刺すようにして、周囲一帯のスキルを封じたあの装置。それと同様にこちらも、龍脈に触れることでアイテムの起動条件を満たすようだった。


「……これも封印でなくって良かったわね?」

「まあ、そうだね……」

「もし封印だったら今ごろ、お空の下まで真っ逆さまなのです……!」

「でもさ? スキル封印だったらジスちゃんの<世界呪歌>もスキルだから、封じて勝利にならん?」

「範囲内に入れる方法が無いからねえ」

「それに、もし封印できたとて、わたくしの世界樹を傷つける方法がない以上状況は好転しませんわ?」


 まあ、アメジストの言う通りではある。そう上手くはいかないものだ。


「しかし、封印されることは否定しないんだね」

「上位スキルではございませんし。そこまで過信はしていません」

「ふーん……?」


 どうやら、この謎のアイテム群はスキルシステム制作者であるアメジストですらあらがえぬ何かがあるらしい。

 その理由も気になるが、今は詳しい理屈よりもその優位性を使って彼女を打倒することだけを考えよう。


「イシスさん、大丈夫かしら? 代わりましょうか?」

「いえっ。社長の手をわずらわせる訳にはいきませんって」

「……こんな時に役職の話を持ち出さないの。あなたの負担が大きすぎるとハルの作戦に影響が出るわ?」

「す、すみません。でもっ! なんとなく、これも私の仕事な気がしてるんです。それに、さっきから何でか調子が良いんですよ!」

「それは、<世界呪歌>の影響でしょうね。貴女がたの特殊スキル習得を促す効果も、変わらず発動されていますので」

「それそのままなんだ……」

「その余裕を後悔させてさしあげます!」

「ご安心を、習得よりも、肉体の消滅する方が早いでしょうから」


 どうやら<世界■■>時代のメリット効果も、削除オミットされずに残ったようだ。まあ、恐らくハルには関係ないが。


 ハルはアイテムをイシスや手伝いで抱えたルナに任せ、自分も打倒世界樹の準備に入る。

 希望が出てきた。このアイテムが最後のピースとなってくれるのならば、光明が見えてくる可能性がある。

 わざわざこの場面でエリクシルのくれた支援、状況打破の効果が秘められていると思って良いだろう。つまらない効果だったら後で文句を言いに行くことをハルは心に誓った。


 さて、そんな打開策として考えられる方向性は大きく二つ。

 まずはすぐ傍にある虚無空間の活用パターン。超大質量を用意できるようになり、一気に世界樹まで飲み込んでしまう攻略ルート。


 そして逆に虚無空間は使わず、スキル改造で世界樹を破壊するという攻略ルートだ。


「準備するべきはやはりそっちか」

「そっちとはどちらでしょう?」

「あなたは分からなくっていいんですよーアメジストー。私たちには、言わなくても通じちゃうんですもんねー?」

「普通に悔しいですわそれ」


 大質量生成の方は、既に手法は確立されている。あとは必要なエネルギーが問題となるだけだ。

 一応、どちらのルートでもあって困ることがないので、再びアイリスに救援きゅうえん要請を送っておこう。


「届いているんだよなこれ? 思い切り連打でもしてみるか?」

「『うるせぇーっ!』って爆発しそう」

「アイリス様は、繊細なのです!」

「ですか~~? まー繊細かはさておき、ドアチャイム連打は止めた方がいいかもですねー。SOSと勘違いされて、強制起床でもさせられたら面倒ですからー」

「確かに」


 ここにきて自分の雑さが原因となって敗退となっては非常にやりきれない。ここはアイリスを信じ、行儀よくチャイムは一度にとどめておこう。


「しかしここに来てようやくというか、ほんの少しだけ光明こうみょうは見えてきた。<天衣>の中身を解析してね。これも、<世界呪歌>の効果かな?」

「特別、そうした頭脳明晰になる効果はございません。ハル様がとびぬけて優秀なだけですわ?」

「調子狂うね本当に君は……」


 これで嫌味でも皮肉でもなく、彼女は本気で賞賛しているのだろうから調子が狂う。


 まあ、そこは気にしすぎても仕方ない。それこそ彼女の思うつぼ。脱力感を振り払い、ハルは推測される世界樹の無敵性についてを整理する。


「この<天衣>の中身を見ていて分かったけど、やはりこのスキルは重力操作をベースに構築されたスキルのようだ。<星魔法>との類似点が多くみられる」

「ほうほう。まあ、<星魔法>だけ何故か効いてたから、そーだろうって話してたよねハル君さ」

「ああ。そしてその<天衣>だけは防げない世界樹もまた、そうした重力操作の力によって無敵性を維持していると僕は思うんだ」

「ん? 重力操作なら、逆に影響うけちゃうんじゃない?」

「使い方による。例えば重力の完全遮断によって外部からの干渉も遮断している、とかね」

「確かに! そういえば世界樹は、地面が無くても浮いているのです……!」

「堂々としすぎていて気にしてませんでしたねー」


 大地の無くなったこの世界でも重力は未だしっかりと存在している。普通に考えれば、世界樹だって空の果てまで真っ逆さまのはず。

 そうならないのは重力の干渉を受けない何らかの力によるものだと仮定すれば納得もいき、だからこそ<天衣>は世界樹にも通用するのではなかろうか?


「アメジストー、どーなんですー?」

「ジスちゃんが青ざめてたら、正解ってこったな?」

「あ~ん、ハル様に能力を丸裸にされちゃっています~」

「……これは、どっちよ!?」

「相変わらずふざけたやつですねー。というか今の世界樹の女神像は最初からはだかじゃないですかー」

「確かにそうですわね?」

「納得してしまったのです!」


 さすがは神様というべきか、表情からはまるで正誤が読み取れない。

 しかし、大枠では間違っていないだろうとハルも確信している。あとは、そこにどのようにして攻撃を通すスキルを生み出すか。そして何より、どうそのスキルを持って近づくか。それにかかっているのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
その運営であるクシるんに世界樹の撤去もお願いしたいところですが、これは不可能という……アメジストはエリクシルに世界樹で勝ち、エリクシルはハル様に依頼を出し、ハル様はアメジストに何だかんだで上手く行くと…
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