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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
3部終章 信仰から生まれるもの

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第1490話 世界樹と共に残ったもの

 横走りする雷の衝撃に乗って吹き飛んだハルたちは、戦闘範囲の外に残った世界樹の根へと姿を消したまま着地する。

 アメジストもこの位置までは根を引き切れておらず、それがハルたちの窮地きゅうちを救う事となった。


 そのままハルはアメジストや世界樹から距離を取るように根の上を伝って走り抜け、どんどんその場から離れて行った。


「撤退ですかー?」

「そんなことはない。戦略的転進だ」

「戦術的には退却ですねー」

「ナマイキなカナリーちゃんめ……」

「まあぶっちゃけ、あのまま戦ってても勝ち目は見えんしな」

「そうね? どう頑張っても近づけなさそうですし」

「そもそも近づいても、攻撃手段がないのです!」


 ここは一度体勢を立て直して、有効打を与える手段を一つでも得てから再度戦闘に臨むのが無難であろう。

 第一このログインでは、元々テストが目的であってアメジストとの直接対決を行う予定ではなかったのだから。まったく、思い通りにはいかないものだ。


「それで、どうするのハル? 確かこの隠密スキルには制限時間もなかったのよね? この状態のまま実験を続ける?」

「いや、ルナちー。少なくともここでは、それはくない」

「ですねー。何でかと言えばー。ほら、来ましたよー」


 この場で腰を落ち着けるかといったルナの提案。それが聞こえていたかのように、ハルたちの走る足場に変化が起こる。

 人間複数人がゆったりと過ごせるほどにしっかりとした、雄大な世界樹の根。その根が、急速にしぼんでゆく。


「わたくしたちに、足場にさせないつもりなのです!」

「ジスちゃんからも吹っ飛んだ方向は見えてたからね! どの辺に着地したかなんかは、お見通しだよね!」

「地面が無ければ<天衣>は維持できない。ここは、姿を出すしかないか?」

「いんや! ギリギリまで走り抜ける!」

「向こうだって正確な位置は分かってないはずですよー」


 凄いスピードで収縮してゆく足場の上を、ハルたち一行は全速力で駆け抜ける。

 この世界での身体能力は非常に高いが、それを操るバランス感覚は自前のもの。ハルとユキ以外は、次第に体幹たいかんがグラつきはじめてしまう。


「アイリちゃん! こっちゃ来い!」

「はい! じゃーんぷ!」

「ルナも、ちょっとごめんね?」

「って、ふぇっ!? なにす、」

「いやごめん。本当にごめん」


 ユキに飛びついたアイリがその小さな体を抱えられるように腕の中へとおさまり、移動をユキに全て任せる。

 残るルナはハルの担当だ。非常に申し訳ないが、必死に走る彼女の足を払って転ばせて、その下に潜り込むようにすくいあげてハルは彼女を背中へ背負う。

 一連の流れはノンストップで行われ、ハルは姿勢を変えることなく縮む足場の上を駆け抜けた。


「……私もあっちがよかったわ? そんなに背中に胸の感触が欲しかったのかしら?」

「ルナは大きいからこっちの方が安定するの。……いや身長がね? それより、足を思い切り巻きつけて」

「は、はしたないわ……」

「今さら何恥ずがってん? ルナちー? あっ、わかった最近でっかくなったお尻がボンって強調されるのがいやなんだ!」

「ハル。ユキと並走して。殴るわ?」

「いいから大人しくしてなさい……」

「私はー? 私の運搬はしてくれないんですかー?」

「カナちゃんは変態挙動で付いてこれるっしょ」

「しかたないですねー……」


 運動が苦手なカナリーも走るのをやめ、いつもの攻撃モーションキャンセルを連発することで走る以上の高速移動を実現する。申し訳ないが、見ようによっては実に不気味。


「やばいぜハル君? このスピードでも足りんて」

「確かに、元が広すぎて遠すぎる。なら、スキルを追加するまでだ」

「おっ、便利なスキルが見つかったか」

「初級の基本スキルばかりだけどね」


 ハルは自身とユキに、<疾走>、<跳躍ちょうやく>、<怪力>などのスキルを付与していく。

 それらが有効化された途端、二人の移動速度は飛躍的に上昇した。


「おー、やりますねー。私もギアを上げますよー?」

「カナリー……? もはや、なにがどうなっているのか分からないわそれ……」


 二人に追いつくためにカナリーも、攻撃系スキルの連打とキャンセルを更に加速する。

 もはや『攻撃している』でも『走っている』でもなく、変なポーズでスライドしているようにしか見えないカナリーだった。


「ねぇハル君! <拡声>は? <拡声>! 高速ダッシュするなら、『イヤッホゥ!』するのが礼儀でしょやっぱ」

「そんなテンプレを定着させるのはやめなさい……」

「じゃあどうしろというのか!」

「自前で腹の底から叫べばいいんじゃない? いや、走りに影響出そうだからやっぱりやめて……?」


 まあ大した労力はかからぬだろうが、それでもこのギリギリの状況下で余計なリソースを割く訳にはいかない。ネタに走るのは我慢してもらおう。


「あっ! ユキさん! 道が途切れていっています!」

「よっしゃ! ジャンプするぞアイリちゃん! しっかり掴まってなよ!」

「はい! じゃーんぷ、です!」


 ついには道自体を切り離し消失させようとするアメジスト。しかし、一本の根で繋がってしまっている以上自由な切り離しが出来ないようだ。そこに、ハルたちは助けられている。

 必ずどこかで繋がっていなければならない関係上、既に根に乗っている状態のハルたちを振り落とすのは至難のわざ


 収縮させようにも、方向によっては逆にハルたちを高速で運んでしまうことになる。

 だが、それでもアメジストは焦ることなく、確実にハルたちの進路を封じるであろう最善手を打ち続けた。その結果。


「行き止まりなのです!」

「ついに食らっちゃったか。この距離はジャンプしても届かんね。どーするハル君。戻るか?」

「いや、別ルートは遠くなりすぎてる。一度姿を出して、魔法で飛ぶしかない」

「その時は私を<投擲とうてき>で投げてくださいー」

「君はそれでいいのかカナリーちゃん……」


 魔法の発動前にジャンプして、少しでも飛距離を稼ごうという算段だ。

 それに加え、ハルたちは姿を消した状態で魔法の事前チャージを始めておく。効果は適用されずとも、スキルの発動自体は可能。


 そうして最大限距離を稼ぎつつ姿を現したハルたちを、アメジストはすぐに発見してきたのだった。


「見つけましたわ。やはり、その辺りに潜んでいると思っておりました」

「やあアメジスト。そろそろ、世界樹からの雷撃も届かなくなっているんじゃないの?」

「ご心配なくハル様。ここはまだまだ、射程の内ですので」

「その割にはすぐに撃って来ないね。緩急かんきゅうをつけている気かな?」

らして防御タイミングをずらすのも、まあアリではありますが、もっと確実な手でいきます。ご覧くださいな」


 ハルたちを追って現れたアメジストの姿が指すのは後方の世界樹。それを見れば、先ほどよりもいっそう激しい放電現象が、生い茂る葉の先から次々と立ち上っていた。

 そこから放たれるいかずちの威力は、きっと前までとは比べ物にならない。


「どんだけ強くしても避けちゃえば終わりですよー」

けるならばそれは、それで構いません。わたくしがけたいのは、さっきのように雷撃の威力を利用されること。ならば今度は利用する間もなく、一瞬で蒸発させてみせますわ」

「物騒な奴ですねー」


 そう、ハルたちはまた雷を逆利用して飛ぼうと、バリアの準備を万端にしている。

 だからそのバリアを貫通する程の高威力で、消える間もなく逆に消し飛ばしてしまおうという算段だ。力技が過ぎるが、それだけに実に効果的。


「では、こんどこそごきげんよう、ハル様」

「ああ、ごきげんよう。そもそも僕らは、君の雷撃を待つまでもないからね」

「……? いえ、惑わされません! 発っ射!」


 そう、疑問を抱いたところで、アメジストには撃つ以外に選択肢はない。ハルもそれを、受けるか避ける以外に選択肢がない。

 そして当然、今回は避ける。どう考えても受け止めきれない。


「消えましたか。ですが今度は、もう逃がしません。一手一手慎重に、詰めて差し上げます」

「いやこちらも、今度は逃げ続けるつもりはない。かといって、雷乗りするつもりもない」


 ハルは雷鳴の一撃を<天衣>で回避したその直後、すぐにまた姿を現した。

 これは緩急をつけた訳ではない。今回はここ以外に姿を現すタイミングがないからだ。


「っ! その魔法は!」

「そう。<星魔法>の隕石攻撃。この簡易メテオバースト航法で、この場から高速離脱させてもらう」

「ゲームが終わっても、こうなる運命なのね……」

「ファイトだルナちー! 慣れれば楽しい!」


 隕石の直撃する威力を受けて吹っ飛ぶ小型快速艇『メテオバーストシリーズ』。それと同じことを、今度は自分の身で実行する。


 アメジストが次の雷を発射する隙も与えずハルは、隕石衝突の勢いを維持したまま再びその姿を完全に消し去りこの場を離脱したのであった。





「よし、到着」

「本当にここなんハル君?」

「ああ。間違いない。何一つ目印はなくても、龍脈マップが場所を示してくれている」

「うかつに近づかないよう注意ですよーユキさんー。何もないからこそ、今は境界面が分かりませんー」

「透明の中に透明は、おっかないのです!」


 そうしてハルたちはついに、“目的地”へと到着した。一見そこには、何も存在しない。世界樹の根も、周囲からは既に引いている。

 しかし間違いなく、そこにはとある物が存在している。

 ……いや、正しく言うならば、『何も無いが在る』場所がここなのだった。


「それー」

「……消えたわね。魔法が突然。なんの前触れもなく」

「そこが境界ですよー」


 そう、ハルたちのたどり着いたのは、かつて大地ごと全てを飲み込んだ虚無きょむの大穴。

 やはりこの存在も、世界樹同様にクリア後の世界にも残ったようだ。


 その裏に隠れたハルたちには、もうどんな攻撃でさえも届かない。まあ、迂回してくる誘導弾などあったら話は変わって来るのだが。


「さて、世界樹にとっても天敵のこいつの裏で、ゆっくりと準備を進めさせてもらうとしようかね?」

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。「初球」→「初級」。野球ゲームになってしまってましたー。

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― 新着の感想 ―
運がなかったとみるか、ハル様自動追尾型徘徊ボスの性能を見誤っていたとみるか、アメジストとのエンカウントは判断に困るところがありますねー。遭遇したくないところで現れるあたりは紛うことなき変tーーー悪質ス…
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